101 / 168
第99話・ふたりで迎える、やさしい年の瀬
しおりを挟む
12月30日。
朝食を済ませた後、澪と崇雅はそれぞれ分担を決め、大掃除に取りかかった。
澪は水回りや細かい棚の整理、崇雅は窓やベランダ、家電類など体力のいる作業を引き受ける。
「……崇雅さん。ほんとに手際いいですよね……」
「今さらだろ。やるべきことは最短で終わらせる」
苦笑まじりに言った澪の言葉に、崇雅はどこか楽しげに返す。
澪が思うよりずっと前から、“ふたりの家を整える”ことは、崇雅にとってさりげない愛情表現のひとつになっていた。
夕方になる頃には、家の中はすっかり整い、空気まで清々しく感じられた。
その日の夕食は、崇雅が用意してくれたささやかな「お疲れさま会」。
冬野菜のポトフと小さなキッシュ。温かい紅茶とともに、ふたりの体と心を優しく満たす夜となった。
12月31日。
朝から台所には、だしの香りと甘く炊かれた煮しめの匂いが立ちこめていた。
ふたりで相談しながら、“ふたり用おせち”を作る。
重箱には詰めず、ガラスの小鉢や白い器に少しずつ盛りつける予定だ。
「栗きんとん、手作りなんですね……」
「澪の好きだと言っていたからな」
目を丸くして崇雅を見た澪に、彼は手を止めることなく当然のように答える。
その何気ないやさしさに、澪の胸の奥がじんわりと温まっていく。
だが、昼を過ぎた頃――
午前中から台所に立ち続けていた澪は、ふとした拍子にソファへ腰を下ろした。
(……ちょっとだけ……座ろう)
ほんの少しつもりだった。
けれど、心地よい香りと静けさに包まれながら、まぶたがふわりと落ちていく。
やがて部屋に、小さな寝息が混じる。
それに気づいた崇雅が、キッチンからそっと顔をのぞかせる。
ソファの上で丸くなり、毛布もかけずに眠っている澪を見て、ふっと息を漏らした。
「……ったく」
呆れたように笑いながら、寝室へ向かい、柔らかな毛布を一枚。
そっと肩まで掛けると、しゃがみ込んで彼女の髪を指先で一度だけ撫でた。
「もっと、俺に甘えてもいい」
そんな声は、澪の耳には届かない。
けれど、彼女の頬はどこか安らかで、優しい寝顔だった。
その間に、崇雅は静かに年越しの準備を再開する。
煮しめの仕上げを確認しながら、栗きんとんを器に盛りつけ、重箱の代わりの器を並べていく。
全てが整った頃、ちょうど澪が目を覚ました。
「……あれ……私……」
「おはよう。よく寝てたな」
「ご、ごめんなさいっ……! 寝るつもりじゃ……!」
慌てて身を起こした澪に、崇雅は苦笑しながら紅茶を差し出す。
「寝てる間に、終わらせた。……ほら、温かいうちに飲め」
「……ありがとうございます。本当にごめんなさい…」
申し訳なさそうに呟く澪の頬を、崇雅の指先がそっと撫でた。
「俺は、澪が俺のそばでちゃんと休んでくれたら、それでいい。
いなくならなければ、何もしなくていい。
……俺が全部やるから」
その言葉に、胸がじんとした。
どれだけ愛されているのか、こうして言葉にされるたびに実感する。
「謝るより先に、ちゃんと“よく休めた”って言え。な?」
「……はい。よく休めました」
自然と笑みがこぼれた。
その笑顔が、ふたりの間に静かなぬくもりを灯していく。
夜。
ふたりでキッチンに立ち、簡単な具材で年越し蕎麦を用意する。
手際も会話も、いつものように穏やかで、心地よい。
「……ちょっと、味見してもらえませんか?」
「俺に先に食わせるなんて、澪にしては大胆だな」
「ち、違いますってば……!」
そんなやり取りに笑い合いながら、ふたりで並んで年越し蕎麦を食べる。
年末の特別感というよりは、日常の延長。
でも、だからこそ幸せだった。
夜が更け、ふたりはソファに並んで座る。
テレビから流れる除夜の鐘を聞きながら、新年の訪れを静かに待った。
やがて、カウントダウンが始まり、0時ぴったり。
「……あけまして、おめでとう」
「……あけまして、おめでとうございます」
微笑む澪の頬に手を添え、崇雅はゆっくりと唇を重ねた。
それは祝福のようでありながら、ふたりにとってはそれ以上の約束。
「今年も……俺の隣にいてくれ」
「……はい。今年もずっと一緒に……います」
その答えに満足したように、崇雅はもう一度、今度は少し深く唇を重ねた。
年の境目に交わした、ふたりだけの甘やかな契り。
静かに灯る明かりの下、世界はそっと、ふたりを包み込んでいた。
朝食を済ませた後、澪と崇雅はそれぞれ分担を決め、大掃除に取りかかった。
澪は水回りや細かい棚の整理、崇雅は窓やベランダ、家電類など体力のいる作業を引き受ける。
「……崇雅さん。ほんとに手際いいですよね……」
「今さらだろ。やるべきことは最短で終わらせる」
苦笑まじりに言った澪の言葉に、崇雅はどこか楽しげに返す。
澪が思うよりずっと前から、“ふたりの家を整える”ことは、崇雅にとってさりげない愛情表現のひとつになっていた。
夕方になる頃には、家の中はすっかり整い、空気まで清々しく感じられた。
その日の夕食は、崇雅が用意してくれたささやかな「お疲れさま会」。
冬野菜のポトフと小さなキッシュ。温かい紅茶とともに、ふたりの体と心を優しく満たす夜となった。
12月31日。
朝から台所には、だしの香りと甘く炊かれた煮しめの匂いが立ちこめていた。
ふたりで相談しながら、“ふたり用おせち”を作る。
重箱には詰めず、ガラスの小鉢や白い器に少しずつ盛りつける予定だ。
「栗きんとん、手作りなんですね……」
「澪の好きだと言っていたからな」
目を丸くして崇雅を見た澪に、彼は手を止めることなく当然のように答える。
その何気ないやさしさに、澪の胸の奥がじんわりと温まっていく。
だが、昼を過ぎた頃――
午前中から台所に立ち続けていた澪は、ふとした拍子にソファへ腰を下ろした。
(……ちょっとだけ……座ろう)
ほんの少しつもりだった。
けれど、心地よい香りと静けさに包まれながら、まぶたがふわりと落ちていく。
やがて部屋に、小さな寝息が混じる。
それに気づいた崇雅が、キッチンからそっと顔をのぞかせる。
ソファの上で丸くなり、毛布もかけずに眠っている澪を見て、ふっと息を漏らした。
「……ったく」
呆れたように笑いながら、寝室へ向かい、柔らかな毛布を一枚。
そっと肩まで掛けると、しゃがみ込んで彼女の髪を指先で一度だけ撫でた。
「もっと、俺に甘えてもいい」
そんな声は、澪の耳には届かない。
けれど、彼女の頬はどこか安らかで、優しい寝顔だった。
その間に、崇雅は静かに年越しの準備を再開する。
煮しめの仕上げを確認しながら、栗きんとんを器に盛りつけ、重箱の代わりの器を並べていく。
全てが整った頃、ちょうど澪が目を覚ました。
「……あれ……私……」
「おはよう。よく寝てたな」
「ご、ごめんなさいっ……! 寝るつもりじゃ……!」
慌てて身を起こした澪に、崇雅は苦笑しながら紅茶を差し出す。
「寝てる間に、終わらせた。……ほら、温かいうちに飲め」
「……ありがとうございます。本当にごめんなさい…」
申し訳なさそうに呟く澪の頬を、崇雅の指先がそっと撫でた。
「俺は、澪が俺のそばでちゃんと休んでくれたら、それでいい。
いなくならなければ、何もしなくていい。
……俺が全部やるから」
その言葉に、胸がじんとした。
どれだけ愛されているのか、こうして言葉にされるたびに実感する。
「謝るより先に、ちゃんと“よく休めた”って言え。な?」
「……はい。よく休めました」
自然と笑みがこぼれた。
その笑顔が、ふたりの間に静かなぬくもりを灯していく。
夜。
ふたりでキッチンに立ち、簡単な具材で年越し蕎麦を用意する。
手際も会話も、いつものように穏やかで、心地よい。
「……ちょっと、味見してもらえませんか?」
「俺に先に食わせるなんて、澪にしては大胆だな」
「ち、違いますってば……!」
そんなやり取りに笑い合いながら、ふたりで並んで年越し蕎麦を食べる。
年末の特別感というよりは、日常の延長。
でも、だからこそ幸せだった。
夜が更け、ふたりはソファに並んで座る。
テレビから流れる除夜の鐘を聞きながら、新年の訪れを静かに待った。
やがて、カウントダウンが始まり、0時ぴったり。
「……あけまして、おめでとう」
「……あけまして、おめでとうございます」
微笑む澪の頬に手を添え、崇雅はゆっくりと唇を重ねた。
それは祝福のようでありながら、ふたりにとってはそれ以上の約束。
「今年も……俺の隣にいてくれ」
「……はい。今年もずっと一緒に……います」
その答えに満足したように、崇雅はもう一度、今度は少し深く唇を重ねた。
年の境目に交わした、ふたりだけの甘やかな契り。
静かに灯る明かりの下、世界はそっと、ふたりを包み込んでいた。
131
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
冷徹社長の「契約」シンデレラ~一夜の過ちから始まる溺愛ルート!? 嘘つきな私と不器用な御曹司のオフィスラブ~
藤森瑠璃香
恋愛
派遣社員の桜井美月は、ある夜、会社の懇親会で泥酔し、翌朝目覚めると隣には「氷の彫刻」と恐れられる若き社長・一条蓮がいた。まさかの一夜の過ち(実際には何もなかったが、美月は勘違い)に青ざめる美月に、蓮は「責任は取る。だがこれは恋愛ではない、契約だ」と、彼の抱えるある事情のため、期間限定で恋人のフリをするよう持ちかける。破格の報酬と蓮の真剣な様子に、美月は契約を受け入れる。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる