【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな

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幕間・——余韻と祝福の嵐

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昼休み。
C社プロジェクトが一段落して、ようやくまともなランチに参加できた日。
社内の女性陣――特によく話す先輩や同期たちと食堂の片隅に集まった澪は、席に着いた瞬間、手元を凝視されて硬直した。

「……ねぇ結城ちゃん、それってさ」

「あっ、やっぱりそうだよね!?その薬指!」

「え、あ、あのっ……!」

焦って手を引っ込めたものの、もう遅かった。
左手に嵌められた婚約指輪は、控えめながらも確かな存在感を放っている。

「やっぱり婚約指輪だよね~!おめでとう!!」

「わ~~!めちゃくちゃ綺麗な指輪……!それにしてもすっご……なにこのダイヤのサイズ……!」

「真ん中のやつさ、1カラット…くらいありそうじゃない⁉︎」
「周りの小さい石も上品に散らしてあって、これ、めちゃくちゃ高そう…」

「デザインも澪ちゃんの手に似合ってる……って、これもしかしてオーダー品?」

「そこまでは……わたしは……ただ、もらっただけで……」

恥ずかしさに声が小さくなる澪。

「え~~~~~~っ!じゃあ選んだの部長!?」
「っひゃ~~~~~!えっぐい萌えた!!」

「で、入籍と挙式は!?もう決まってるの⁉︎」

「ま、まだそこまでは決まってなくて……!」

「そっか……!じゃあ今は、“正式にプロポーズを受けた”ってとこなんだね……!」

「でも、あの部長だよ?きっと段取りとかスケジュールとか、もう裏でしっかり組んでそうじゃない?」

「……かもしれません……」

ますます真っ赤になる澪の表情に、全員がまた盛り上がった。


「ねえねえ、澪。なんて言われたの⁉︎プロポーズ!
場所は!?どこでされたの!?やっぱホテル?レストラン?夜景!?バラの花束とかあった!?それとも落ち着いて家とか!?」

「やっぱりあった?箱パカってやつ……?」

「ちょ、ちょっと!一気に聞かないで……!」

顔を真っ赤にして両手を振る澪に、みんながさらに盛り上がる。


「でも、部長ってさ、普段すごいクールで近寄りがたいじゃん?言葉も少ないし、仕事厳しいし……」

「そうそう!話しかけるのに勇気いる!」

「それがさぁ、澪ちゃんにはめっちゃ優しいの!朝、一緒に出勤して、夜も一緒に帰ってて……。なんかさぁ、差がすごすぎて逆にキュンとする」

「いや、ほんとそれ。差分萌えってやつ。ずるい!」

「澪ってめっちゃ愛されてるよね~。私この前見たんだよ。
部長って、ほんと仕事以外で誰にも興味なさそうなのに……澪にはすごく優しい顔してたの……」

「えっ⁉︎ずるい!見たい、見たことないそんな顔……!!」

「改めて見てもこの指輪……絶対、自分で選んだよね、部長。どう見ても“俺が選んだ”って顔してるもん」

「つけっぱなしで仕事しても大丈夫なデザインになってるし、そういうとこまで考えてそう……」

「ていうかさ、澪ちゃんはどう思ったの!? あの部長がプロポーズしてきた時!」

「……っ」

澪は小さく口を結び、熱を帯びた頬に指先を添えた。

すっと胸の奥に浮かんだのは、あの夜の言葉と、薬指にはめられた温もり。
今はただ、その余韻に、静かに頷くことしかできなかった。

「……嬉しかった、です」

その一言に、またもや「きゃーー!」という歓声が食堂に響き渡ったのだった。
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