笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

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あれは愛だと思っていた

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【 アマリア・ビクセンの視点 】

愛を育もうとシャルル様に手紙と贈り物をした。
だけど受け取り拒否になってしまった。きっとまだ婚約者がいるから世間体を気にしているのかもしれないと思った。

長期休暇明け、ずっと妬んでいた相手の前に立った。クリスティーナ・セルヴィーは私を見上げた。
シャルル様との関係を告げて身を引くように言ったのに、彼女の返事は強気なものだった。
正妻はクリスティーナで変わらない!?愛人!?婚外子!?あなたが解消を申し込めばいいだけじゃない。私が彼と結婚して子を産めば婚外子にはならないじゃない!
教室を見ると冷たい視線が突き刺さった。どうして?クリスティーナに不満を持っていたんじゃないの?…嫉妬ね。私に嫉妬しているのね。

子爵邸に戻ってシャルル様のためにお菓子を作り手紙を書いた。

翌日、クラスの子達はみんな私を無視した。サラでさえ。

『サラ、また夜会に連れて行って』

『は?冗談でしょう?勘違いを認められないだけじゃなくて生徒があんなに残っている教室でクリスティーナ様にあんなことを言うなんてまともな令嬢のすることじゃないわ。しかも婚外子!?避妊薬をメイドが持って行ったでしょう』

『せっかくシャルル様がくださったのに避妊薬なんかで台無しにしたくなかったの。ねえ、お願い。夜会に連れて行って』

『ドレスを貸して化粧をしてあげてカツラも用意してあげて夜会に連れて行ってあげた。避妊薬もあげて屋敷にも泊まらせてあげた。なのにこの仕打ちはなんなの。しかも夜会に連れて行け?シャルル様と愛し合っているんでしょう?だったら何で夜会に行かなきゃ行けないのよ』

『シャルル様があの女を気にして普通には会えないの』

『はっ!頭おかしいんじゃないの?
私まで地獄に引き摺り込まないで。あなたとは赤の他人よ。もう話しかけないで』

自分が相手にされなかったからって…。

こうなったらシャルル様に手紙を出して素直になってもらうしかない。
突き返されること数回、土曜日にやっと呼び出しがかかった。ドレスもカツラもないけど化粧はして行った。

ヘインズ邸に到着して応接間に通されると思っていたら使用人が待機する部屋に案内された。どういうことなの?

すぐにシャルル様が現れた。

『シャルル様!会いたかったです!』

『座れ』

抱き付こうとしたら肩を押されて椅子に当たり倒れそうになりながら座った。

『どういうつもりだ』

『何がですか?』

『クリスティーナに何故ありもしないことを言った!』

『シャルル様?』

『クリスティーナが不快に思ったじゃないか!』

『もしかして慰謝料が発生するから怒っているのですか?あの女ははっきり言わないと理解しないんです。でもはっきり言っても駄目でしたけど。シャルル様から言ってあげてください。好きなのはアマリアでおまえじゃないって』

『……』

シャルル様の美しい顔が歪んだ。

『シャルル様?』

『僕は君なんか好きじゃない。手紙をもらうまで名前も知らなかったし、好みでもない』

『私は純潔を捧げましたし、シャルル様も夢中になっていたではありませんか!』

『純潔は勘違いして面倒なことを言い出す者がいるから避けていたが、あの日は酔っていたしすぐにやれたら誰でも良かった。憂さ晴らしに君の誘いに乗って酔いに任せて手荒に抱いただけだ』

『嘘…私に“好きだ”と仰ったではないですか』

『全く覚えていない…言ったとしたら君にじゃない』

『そんなこと…』

『何故避妊薬を飲まなかった』

『好きだと言われましたし、情熱的に抱いてくださったから、シャルル様のお気持ちを育もうとしただけです』

『僕はクリスティーナと結婚するし、君とどうこうなろうとなんて微塵も思っていない。当然子供なんか要らない』

『そんな!』

『例え妊娠したとしても僕の子だという保証はないし、責任を取るつもりもない』

『純潔だったじゃないですか!』

『その後に誰かと寝たかもしれないだろう。会話もしたこともなかった男と簡単に夜会で寝る女なのだから』

『私はずっとシャルル様を見つめてきました』

『知っているよ。ずっと避けていた。あの夜は本当に酔っていて判断が鈍った。
そもそもクリスティーナと別れて君を迎えるメリットは何だ?』

『私は伯爵家の娘ですし愛があれば、』

『愛などない!
政略結婚にもならず、惹かれる要素も全く無い。君を好きになることも妻にすることもありえない。
愛人にだってしない。いいか、貴族の…しかも跡継ぎの家に嫁ぐなら学園を卒業するのは当たり前だ。男爵家ならまだいいだろう。だがうちは伯爵家だ。こんな時期に妊娠したら卒業前に腹が膨らんで退学になる。黙っていれば誤魔化せたかもしれないが、馬鹿だからクラスメイトたちの前で自白してしまった。そのうち学園長の耳に届く。もし本当に妊娠していたら退学だ』

『っ!でもシャルル様の子なのですよ!?』

『はぁ…父が戻るまで待っていろ』


何時間待たされただろうか。
ドアが開いてシャルル様とヘインズ伯爵らしき男性が現れた。

『この娘か』

『はい、父上』

『ビクセン嬢、私は父親のヘインズだ。事情は聞いた。君は初めてのことに勘違いをしてしまったのだな』

『勘違いなどではありません!』

『いいか。夜会などではその夜のみの関係はよくあることで後腐れなく終わらせるのがマナーなんだ。自分が既婚だったり婚約している場合 相手が既婚者だったり婚約している場合は特に。間違って本気になったとしたらどうしたいか伝えるはずだ。君は手紙や菓子を送った。シャルルは無視した後 受取拒否をした。そして今はっきり迷惑だと伝えた。現実を受け入れなさい』

『でもっ!あの夜シャルル様は確かに“好きだ”と仰いました!』

『あの夜シャルルはかなり酔っていたようだ。知らない相手…特に君相手なら、その言葉は君宛の言葉ではない。他の好きな女のことを考えていたのだろう』

『そんなはずはありません!』

伯爵にシャルル様が私をどのように抱いたのか説明をした。恥ずかしいけど そうしないと伝わらないと思った。

『……ビクセン嬢、それは好みの女や愛している女に対する抱き方ではない。酔っていたとはいえシャルルは歩けたし終わって少し休んだ後普通に帰って来れた。多少記憶に曖昧な部分があったとしても酩酊はしていない。少し飲み過ぎた程度だ。その状態で君が涙を流して痛みを訴えれば純潔だということが分かる。なのにそれを無視して好意を寄せた女性を押さえ付けて乱暴に続けるはずがない。止めるかしっかりと準備をし直すはずだ。そして置き去りにして帰るなどあり得ない』

『だって…』

『そして避妊をするのは常識だ。そんな行為で孕んだらヘインズ家とセルヴィー家への宣戦布告だと受け止められる。家門同士の契約を計画的に邪魔するのだから』

『そんなっ』

『間違いなくビクセン家はあっという間に没落するか君がビクセン伯爵から切り捨てられるか。いずれにしても貴族ではなくなるだろう。平民になった者が一夜きりの関係で婚外子を産むことになる。悲惨な末路しかない。産まれた子はそんな状態で産み落とした君を恨むだろうな』

『私だって伯爵家の娘です、娶ってくだされば、』

『君やビクセン家にどんな価値があるのだ?次女の時は小遣い程度の持参金だけで縁談の申し入れをしてきたが、あれから天地を揺るがすような奇跡でもおきたのかな?ビクセン領でダイヤモンドやルビーやエメラルドが豊富に採れる鉱脈が見つかったとか、不治の病を治す奇跡の薬草がたくさん生えてきたとか?』

『……ありません』

『セルヴィー家との婚姻で得られる利益以上の提示がないと無理だ。
傾国の美女だったら仕方ないで済ますかもしれないが君の場合は身の程知らずと言われてしまうし、シャルルは失笑されるのだ。君はシャルルを慕っているといいながら、セルヴィー家との婚姻で得る利益を奪い多額の慰謝料を発生させ この世の人々が“あいつは馬鹿だ”と指差す状況に追い込もうとしている。はたしてそれは愛と呼べるのか?破滅をもたらす悪魔ではなくて?』

『っ!!…ううっ…』

『君は度々夜会に現れていたらしいね。これでは計画的に酔ったシャルルと既成事実を作った悪女として指をさされるだろう。親世代や君の世代の子が、我が子や孫にやってはならない事の教訓として教え聞かせるだろう』

『私…』

『もう登校しないでくれと言いたいところだが特待生か…学園長に話すしかないな』

『ま、待ってください!』

『仕方ないだろう。君がシャルルの婚約者であるクリスティーナとクラスメイトたちの前で暴露をした上で クリスティーナに婚約の解消を要求してしまったのだから。間違いなく学園長の耳に入るのは卒業後ではないぞ?』

『第二夫人でも構いません!どうか私を迎え入れてください!』

床に座り込み両手を付いて頭を下げた。

『正妻になる立場の令嬢に公の場で別れろと迫っておいて?自分は愛されていておまえは違うと侮辱しておいて?そんな女は災いしか呼ばない。現に火種をつけて回ったではないか。
クリスティーナやクラスメイトの前で暴露する前なら何処かに部屋を借りさせて最低限の援助をしたかもしれないが、もう無理だ。第二夫人?まだそんな夢を見ているのか。第二夫人どころか妾にさえ迎える貴族はいない』

『ううっ…』

『帰ってビクセン伯爵に手紙を書くんだな。
くれぐれもクリスティーナやセルヴィー家に接触はするな』

『どうか…どうか助けてください』

『助けが欲しいのはこちらの方だ。はぁ…3ヶ月後にもう一度来い。妊娠しているか主治医に診せる』

『…妊娠していたら』

『最低限の養育費を一括で払うだけだ。もちろん契約書に署名をしてもらうがな。あまりにもシャルルに似ていたら子供だけ引き取ろう』

『何か、何か方法はありませんか!ヘインズ領の別荘で私と子を面倒見てくださるとか』

『働きたまえ』

『っ!!』

『さあ、帰ってくれ。こちらからの呼び出し無しに訪ねてきても門前払いをすることになる。分かったな』

そのまま追い出されてしまった。
子爵邸に戻っても生きた心地がしなかった。その日から仮病を使ったけど、欠席3日目に夫人が私の部屋に来た。昨日までの見舞いの顔ではなかった。

『よくも裏切ってくれたわね』

『ふ、夫人!?』

『お友達になったご令嬢と夜会に通い、姦濫とは』

『か…?』

『貧しくて本来なら学園にも通えない娘に屋敷に迎え入れ部屋を貸してメイドをつけて私達と同じ食事を与えて靴や服や下着から身の回りの物まで買い揃えて、馬車で登下校させてあげていたというのに、私の顔に泥どころか血を塗ったようね』

『私はただ』

『お黙りなさい!!』

『っ!』

『しかもセルヴィー家のご令嬢に恥をかかせて喧嘩を売るだなんて!』

『……』

『世間知らずでは済まされないのよ!?』

『……』

『謹慎を命じます』

あの優しい夫人が烈火の如く怒りをぶつけてきた。
あんなことを言わないで黙っていればよかった。卒業してから言うべきだった…。


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