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夢の一夜
しおりを挟む【 アマリア・ビクセンの視点 】
入学の4日前に王都のアルゼン子爵邸に到着した。
整備されとても美しいお屋敷だった。使用人も多く夫人は優しく迎えてくれた。
『屋敷のルールを説明するわね』
過ごし方から登下校の仕方まで教えてもらった。
『家庭教師はどなた?』
『兄の家庭教師が行う授業を盗み聞きして、後は自分で勉強をしました。分からないところは姉に聞きました』
『まあ、それで特待生に?すごいわ』
『必死でした』
『偉いわ。だけど貴族達に囲まれるから作法の教育も必要ね』
『…申し訳ございません』
『あなたのせいじゃないのよ。
今日から挨拶や食事のマナーやティータイムのマナーを私が教えるわ。淑女教育の先生を雇ったらその方にお任せするわね』
『ありがとうございます』
母から教わった程度では駄目だということだった。挨拶を教わったあと、子供達に紹介された。13歳の長女エリザベスと8歳の双子ウィリアムとセドリックだった。3人との挨拶で 今の私では駄目だと思い知った。とにかく行儀も良く品も良い。カップの持ち方やケーキの食べ方も優雅だった。育ちが違うことを痛感した。歳下の子達にも敵わないのなら学園に通う貴族の子達にはもっと差が付いているだろうと血の気が引いてきた。
『部屋に案内するわね』
『お願いします』
夫人は部屋に行く間に声を掛けてくれた。
『今夜はあまりカトラリーの種類を必要としないメニューにするわね。食べやすいものにするから大丈夫よ。あなたは努力家だからすぐに今の不安はなくなるわ』
『お気遣いいただきありがとうございます』
『ここよ』
ドアが開いた先に見えたのは白と薄い桃色を基調にした部屋だった。お姫様の部屋は見たことはないけどこんな感じだろうと思うくらい素敵でいい匂いがして夢のような気分だった。
『荷解きは済んでいるわ。夕食になったら呼ぶから、そのときに主人に挨拶をしてね』
『はい。ありがとうございます』
机もドレッサーも素敵だった。様々な物が用意してあった。クローゼットを開けると持ってきたワンピースの他にも何着もしまってあった。帽子や靴も。ドレッサーの引き出しにはリボンや髪飾りが入っていた。化粧品もある。机の上のペーパーウエイトやペーパーナイフ、インクにペン。どれも高そうだった。ソファに座ると実家のようなギシギシとした音はせず座り心地が良かった。ベッドはお風呂に入ってからじゃないと怖くて座れず確かめられなかった。
勉強をして過ごし、夕方にメイドが迎えにきた。
食堂で子爵様に挨拶をした。
食事もデザートもお茶も美味しくて幸せだった。
『ふふっ 美味しそうに食べるのね』
『信じられないほど美味しいです』
『良かったわ。料理人達が喜ぶわね』
『本当に…感謝しています』
『健康に気を付けて頑張って勉強して卒業しなさい。私達が望むことはそれだけだ』
『そうよ』
『はい、頑張ります』
入学まで ひたすら勉強して夫人にマナーを教わった。
入学初日、劣等感に襲われた。
子爵家の子供達にも劣等感を感じたけど、学園は強烈だった。ほとんどの生徒が磨き上げられた貴族の子という感じで、持ち物も話の内容もまるで違った。自分は名ばかりの伯爵令嬢なのだと自覚した。それに容姿もスタイルも劣り過ぎていた。せめて母に似ていれば少しはましだったかもしれない。それに私には胸も無かった。
授業は問題なかったけど、クラスの子達と親しくなれなかった。会話に混ぜてもらって適当に相槌を打っても、意見や経験を求められると何も言えなくなってしまった。観劇なんかしたこともないし観光地とか避暑地とか行ったことがないし、人気のレストランとかティールームも行ったことがないし、話題のケーキ屋さんも知らない。ドレスのお店の名前も宝飾品店の名前も知らないし行ったことがない。
だから聞かれても答えられなくて愛想笑いをするしかなかった。それがいけなかったのか声はかからなくなった。
ある日、授業中に先生が“ビクセンさん、さすが特待生ですね、正解です”と言ったので周知された。
それで一部の令嬢が食事だけは誘ってくれるようになって、話を聞いているだけで済むようになった。
『クリスティーナ』
『シャルル様』
廊下からとんでもない美男子が教室を覗き込み、可愛い令嬢が駆け寄った。
“本当に婚約者なのね”“無理に婚約したって噂よ”
芸術品のような美男子はシャルル・ヘインズ伯爵令息で1つ歳上だった。婚約者は私と同じクラスのクリスティーナ・セルヴィー伯爵令嬢。
まるで夢物語を見せられているようだった。
爵位は同じなのに他の全てが違う。惨めだった。
セルヴィー嬢は同級生からも上級生からも嫌がらせを受けていた。だけどすぐに2人の盾が登場する。エルザ・ウィロウ侯爵令嬢とジネット・ゼオロエン侯爵令嬢だった。ウィロウ嬢は第二王子殿下の婚約者でゼオロエン嬢は次期モルゾン公爵の婚約者。彼女達が嫌がらせを防いでいた。
アルゼン子爵夫人はよくご存知だった。
『モルゾン公爵家はジオ公爵家と並んで貴族界のトップに君臨する家門よ。とても力があるの。ウィロウ家もゼオロエン家も名家ね』
『セルヴィー家とヘインズ家についてはご存知ですか』
『セルヴィー伯爵家は独自の超高級ブランドを持っているし各国との繋がりもあるわ。あまり社交には出てこないけどセルヴィー家の人脈や財力を侮ってはいけないわ。
対してヘインズ伯爵家は平凡ね。伯爵と夫人の良いとこ取りをして何倍も素晴らしくした容姿の長男がいるわ。彼はちょっと問題ね。女性関係が乱れているもの。そのうち痛い目に遭わなければいいけど。
あなたはヘインズ家の令息とは関わらず、敵を作らないようにしなさい。格上の方ばかりだから揉めれば必ずあなたが辛い目に遭うはずよ。
平穏に過ごしてしっかり勉強をして特待生を維持して卒業することだけを考えてちょうだい』
『分かりました』
だけどやっぱり妬ましくて仕方ない。
私だってセルヴィー家に生まれていたら…そう思うと不公平過ぎて嫌になった。
嫌がらせは少なくなったけど、婚約者との関係はいいものではなさそうだった。
上級生の令嬢達の話をたくさん耳にした。
セルヴィー嬢の我儘で婚約したこと。彼は迷惑していること。そのせいか彼は夜会などで令嬢との一夜を楽しんでいること。
『ねえ。アマリア様も夜会に行かない?』
『え?』
『シャルル様がよく出席するお屋敷の夜会よ。招待状があるの。ドレスを貸すわ』
声を掛けてくれたサラのお屋敷に泊まりに行くと言って子爵夫人から許可を得た。その子の屋敷でドレスを借りたけどブカブカだった。代わりに持ってきたのは彼女の2年前のドレスだった。胸に少し詰め物をしたらなんとかなった。
サラの家のメイドはお化粧が上手で別人のようになれた。
夜会に行くと 夜の煌びやかな世界に忍び込んだ野良猫のような気分になった。
だって会場にいる女性達は女性らしい曲線を持つ人達ばかりだし、あきらかにオーダーメイドドレスでサイズもあっている。私はまるで他人のドレスを着たカカシだ。覚えてもらえないほどの顔に凹凸のない板のような体の私とは違う。
サラは声を掛けられて令息とダンスを始めた。私には声はかからなかった。その代わり遅れて到着したシャルル様を見ることができた。ダンスが上手で素敵だった。彼はすぐに会場から消えた。
会場から消えるのは一夜の関係になっている証拠だとサラは言っていた。3時間後にサラと帰った。
月に一度、夜会に誘ってもらった。毎週行きたくても勉強があるし子爵夫人がお泊まりを許してくれなさそうだから。一度サラが夫人に挨拶をしてくれたから、月に一度の友人宅へのお泊まりを許してくれた。
だけど夜会に行っても一向に誘われない。明らかに酔った男が声を掛けてくるだけだった。私はシャルル様と踊りたくて来ているのに。
月日が流れシャルル様は卒業してしまった。
それでも夜会で会えることを祈って出席しているのに彼は姿を見せなくなってしまった。
だけど長期休みがもうすぐ終わるという頃にシャルル様が夜会に現れた。一度令嬢と消えたのに戻ってきた。珍しく酔っているようだった。チャンスだと思った。近寄って話しかけて誘ってみた。
『2人きりでお話がしたいです』
『いいよ』
彼の腕に手を添えて会場を出て廊下を進む。今夜は私が主役かお姫様にでもなれた気分だった。
部屋に入るとじっと私をみた。シャルル様は灯りを小さくすると上着を脱いだ。どんどん脱いでいく。私のドレスにも手を掛けた。そしてベッドに押し倒された。待ち望んでいたことだけど怖かった。知識として習ったけど前戯が不十分だと感じた。
『痛いっ』
『最初は誰でも痛い』
裂けるような痛みに涙が出てきた。
『痛い…もっとゆっくり、あっ』
うつ伏せにされ、のしかかられた。
『痛い!むぐっ』
頭を上から押されて枕に顔を埋めた。
『んん~!!んん~!!』
重みと力でどうすることもできず、手足をバタつかせながら抉られ裂けるような痛みに耐えさせられた。
『……ナ』
何か言ってる。だけどよく聞こえないしそれどころじゃない。
何度も激しく打ち付けられ、息を乱しながらシャルル様は間違いなく言った。
『好きだ』
動きが止まり圧迫を感じる。そして少し経つとシャルル様は私から退いた。
そのまま彼は眠ってしまった。ジンジンとした痛みと違和感を感じながら私も彼の側で目を閉じた。
『ご令嬢…ご令嬢』
目を開けるとメイドが私を揺すっていた。
『お連れのご令嬢がお帰りになるそうです』
サラのことだ。着替えを手伝ってもらってサラと馬車に乗った。
『ラッキーね』
『シャルル様は私に好きだと言ってくださったわ』
『…本当?』
『本当よ』
『ふ~ん』
サラと屋敷に戻ると避妊薬を渡された。飲んだふりをして吐き出した。
シャルル様の残したものが流れ落ちてくる。
『身体を拭いたから大丈夫よ。おやすみ』
『失礼します』
サラの屋敷のメイドが退室すると急いで横になった。枕をお尻の下に敷いてこれ以上の漏れを防いだ。妊娠の確率を上げたくて少しも垂らしたく無かった。
きっとシャルル様も喜んでくださるわ。
入学の4日前に王都のアルゼン子爵邸に到着した。
整備されとても美しいお屋敷だった。使用人も多く夫人は優しく迎えてくれた。
『屋敷のルールを説明するわね』
過ごし方から登下校の仕方まで教えてもらった。
『家庭教師はどなた?』
『兄の家庭教師が行う授業を盗み聞きして、後は自分で勉強をしました。分からないところは姉に聞きました』
『まあ、それで特待生に?すごいわ』
『必死でした』
『偉いわ。だけど貴族達に囲まれるから作法の教育も必要ね』
『…申し訳ございません』
『あなたのせいじゃないのよ。
今日から挨拶や食事のマナーやティータイムのマナーを私が教えるわ。淑女教育の先生を雇ったらその方にお任せするわね』
『ありがとうございます』
母から教わった程度では駄目だということだった。挨拶を教わったあと、子供達に紹介された。13歳の長女エリザベスと8歳の双子ウィリアムとセドリックだった。3人との挨拶で 今の私では駄目だと思い知った。とにかく行儀も良く品も良い。カップの持ち方やケーキの食べ方も優雅だった。育ちが違うことを痛感した。歳下の子達にも敵わないのなら学園に通う貴族の子達にはもっと差が付いているだろうと血の気が引いてきた。
『部屋に案内するわね』
『お願いします』
夫人は部屋に行く間に声を掛けてくれた。
『今夜はあまりカトラリーの種類を必要としないメニューにするわね。食べやすいものにするから大丈夫よ。あなたは努力家だからすぐに今の不安はなくなるわ』
『お気遣いいただきありがとうございます』
『ここよ』
ドアが開いた先に見えたのは白と薄い桃色を基調にした部屋だった。お姫様の部屋は見たことはないけどこんな感じだろうと思うくらい素敵でいい匂いがして夢のような気分だった。
『荷解きは済んでいるわ。夕食になったら呼ぶから、そのときに主人に挨拶をしてね』
『はい。ありがとうございます』
机もドレッサーも素敵だった。様々な物が用意してあった。クローゼットを開けると持ってきたワンピースの他にも何着もしまってあった。帽子や靴も。ドレッサーの引き出しにはリボンや髪飾りが入っていた。化粧品もある。机の上のペーパーウエイトやペーパーナイフ、インクにペン。どれも高そうだった。ソファに座ると実家のようなギシギシとした音はせず座り心地が良かった。ベッドはお風呂に入ってからじゃないと怖くて座れず確かめられなかった。
勉強をして過ごし、夕方にメイドが迎えにきた。
食堂で子爵様に挨拶をした。
食事もデザートもお茶も美味しくて幸せだった。
『ふふっ 美味しそうに食べるのね』
『信じられないほど美味しいです』
『良かったわ。料理人達が喜ぶわね』
『本当に…感謝しています』
『健康に気を付けて頑張って勉強して卒業しなさい。私達が望むことはそれだけだ』
『そうよ』
『はい、頑張ります』
入学まで ひたすら勉強して夫人にマナーを教わった。
入学初日、劣等感に襲われた。
子爵家の子供達にも劣等感を感じたけど、学園は強烈だった。ほとんどの生徒が磨き上げられた貴族の子という感じで、持ち物も話の内容もまるで違った。自分は名ばかりの伯爵令嬢なのだと自覚した。それに容姿もスタイルも劣り過ぎていた。せめて母に似ていれば少しはましだったかもしれない。それに私には胸も無かった。
授業は問題なかったけど、クラスの子達と親しくなれなかった。会話に混ぜてもらって適当に相槌を打っても、意見や経験を求められると何も言えなくなってしまった。観劇なんかしたこともないし観光地とか避暑地とか行ったことがないし、人気のレストランとかティールームも行ったことがないし、話題のケーキ屋さんも知らない。ドレスのお店の名前も宝飾品店の名前も知らないし行ったことがない。
だから聞かれても答えられなくて愛想笑いをするしかなかった。それがいけなかったのか声はかからなくなった。
ある日、授業中に先生が“ビクセンさん、さすが特待生ですね、正解です”と言ったので周知された。
それで一部の令嬢が食事だけは誘ってくれるようになって、話を聞いているだけで済むようになった。
『クリスティーナ』
『シャルル様』
廊下からとんでもない美男子が教室を覗き込み、可愛い令嬢が駆け寄った。
“本当に婚約者なのね”“無理に婚約したって噂よ”
芸術品のような美男子はシャルル・ヘインズ伯爵令息で1つ歳上だった。婚約者は私と同じクラスのクリスティーナ・セルヴィー伯爵令嬢。
まるで夢物語を見せられているようだった。
爵位は同じなのに他の全てが違う。惨めだった。
セルヴィー嬢は同級生からも上級生からも嫌がらせを受けていた。だけどすぐに2人の盾が登場する。エルザ・ウィロウ侯爵令嬢とジネット・ゼオロエン侯爵令嬢だった。ウィロウ嬢は第二王子殿下の婚約者でゼオロエン嬢は次期モルゾン公爵の婚約者。彼女達が嫌がらせを防いでいた。
アルゼン子爵夫人はよくご存知だった。
『モルゾン公爵家はジオ公爵家と並んで貴族界のトップに君臨する家門よ。とても力があるの。ウィロウ家もゼオロエン家も名家ね』
『セルヴィー家とヘインズ家についてはご存知ですか』
『セルヴィー伯爵家は独自の超高級ブランドを持っているし各国との繋がりもあるわ。あまり社交には出てこないけどセルヴィー家の人脈や財力を侮ってはいけないわ。
対してヘインズ伯爵家は平凡ね。伯爵と夫人の良いとこ取りをして何倍も素晴らしくした容姿の長男がいるわ。彼はちょっと問題ね。女性関係が乱れているもの。そのうち痛い目に遭わなければいいけど。
あなたはヘインズ家の令息とは関わらず、敵を作らないようにしなさい。格上の方ばかりだから揉めれば必ずあなたが辛い目に遭うはずよ。
平穏に過ごしてしっかり勉強をして特待生を維持して卒業することだけを考えてちょうだい』
『分かりました』
だけどやっぱり妬ましくて仕方ない。
私だってセルヴィー家に生まれていたら…そう思うと不公平過ぎて嫌になった。
嫌がらせは少なくなったけど、婚約者との関係はいいものではなさそうだった。
上級生の令嬢達の話をたくさん耳にした。
セルヴィー嬢の我儘で婚約したこと。彼は迷惑していること。そのせいか彼は夜会などで令嬢との一夜を楽しんでいること。
『ねえ。アマリア様も夜会に行かない?』
『え?』
『シャルル様がよく出席するお屋敷の夜会よ。招待状があるの。ドレスを貸すわ』
声を掛けてくれたサラのお屋敷に泊まりに行くと言って子爵夫人から許可を得た。その子の屋敷でドレスを借りたけどブカブカだった。代わりに持ってきたのは彼女の2年前のドレスだった。胸に少し詰め物をしたらなんとかなった。
サラの家のメイドはお化粧が上手で別人のようになれた。
夜会に行くと 夜の煌びやかな世界に忍び込んだ野良猫のような気分になった。
だって会場にいる女性達は女性らしい曲線を持つ人達ばかりだし、あきらかにオーダーメイドドレスでサイズもあっている。私はまるで他人のドレスを着たカカシだ。覚えてもらえないほどの顔に凹凸のない板のような体の私とは違う。
サラは声を掛けられて令息とダンスを始めた。私には声はかからなかった。その代わり遅れて到着したシャルル様を見ることができた。ダンスが上手で素敵だった。彼はすぐに会場から消えた。
会場から消えるのは一夜の関係になっている証拠だとサラは言っていた。3時間後にサラと帰った。
月に一度、夜会に誘ってもらった。毎週行きたくても勉強があるし子爵夫人がお泊まりを許してくれなさそうだから。一度サラが夫人に挨拶をしてくれたから、月に一度の友人宅へのお泊まりを許してくれた。
だけど夜会に行っても一向に誘われない。明らかに酔った男が声を掛けてくるだけだった。私はシャルル様と踊りたくて来ているのに。
月日が流れシャルル様は卒業してしまった。
それでも夜会で会えることを祈って出席しているのに彼は姿を見せなくなってしまった。
だけど長期休みがもうすぐ終わるという頃にシャルル様が夜会に現れた。一度令嬢と消えたのに戻ってきた。珍しく酔っているようだった。チャンスだと思った。近寄って話しかけて誘ってみた。
『2人きりでお話がしたいです』
『いいよ』
彼の腕に手を添えて会場を出て廊下を進む。今夜は私が主役かお姫様にでもなれた気分だった。
部屋に入るとじっと私をみた。シャルル様は灯りを小さくすると上着を脱いだ。どんどん脱いでいく。私のドレスにも手を掛けた。そしてベッドに押し倒された。待ち望んでいたことだけど怖かった。知識として習ったけど前戯が不十分だと感じた。
『痛いっ』
『最初は誰でも痛い』
裂けるような痛みに涙が出てきた。
『痛い…もっとゆっくり、あっ』
うつ伏せにされ、のしかかられた。
『痛い!むぐっ』
頭を上から押されて枕に顔を埋めた。
『んん~!!んん~!!』
重みと力でどうすることもできず、手足をバタつかせながら抉られ裂けるような痛みに耐えさせられた。
『……ナ』
何か言ってる。だけどよく聞こえないしそれどころじゃない。
何度も激しく打ち付けられ、息を乱しながらシャルル様は間違いなく言った。
『好きだ』
動きが止まり圧迫を感じる。そして少し経つとシャルル様は私から退いた。
そのまま彼は眠ってしまった。ジンジンとした痛みと違和感を感じながら私も彼の側で目を閉じた。
『ご令嬢…ご令嬢』
目を開けるとメイドが私を揺すっていた。
『お連れのご令嬢がお帰りになるそうです』
サラのことだ。着替えを手伝ってもらってサラと馬車に乗った。
『ラッキーね』
『シャルル様は私に好きだと言ってくださったわ』
『…本当?』
『本当よ』
『ふ~ん』
サラと屋敷に戻ると避妊薬を渡された。飲んだふりをして吐き出した。
シャルル様の残したものが流れ落ちてくる。
『身体を拭いたから大丈夫よ。おやすみ』
『失礼します』
サラの屋敷のメイドが退室すると急いで横になった。枕をお尻の下に敷いてこれ以上の漏れを防いだ。妊娠の確率を上げたくて少しも垂らしたく無かった。
きっとシャルル様も喜んでくださるわ。
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