148 / 215
胎
しおりを挟む
【 シャルルの視点 】
また今日もメイドが聞きに来る。
「アマリア様がティータイムをご一緒にと」
「はぁ」
アマリアは毎日、散歩や食事やティータイムを一緒にと誘ってくる。メイドに断るよう言ってあるのだが妊婦をあまりぞんざいに扱えないのだろう。5、6回に一度は聞きに来る。
マリアを閉じ込めている部屋へ向かった。あそこは北側の端の部屋で、冬の風をもろに受けて冷えやすく景色も悪い。冬じゃなければ問題ないが客人や貴族が使うには適さない。階段からも遠いし風呂もない。広さだけはある部屋を何のために作ったのか。備品庫か何かにすれば良かったのではと思うが今となってはこういう使い方があったのだと納得した。外鍵が2つもついたドアを開けると中にいたアマリアが僕を見るなり駆け寄ろうとしたので外に出てドアを閉めた。
メイドに座らせろと指示を出して入室しなおした。
「シャルル様っ、会いに」
「煩い。話しかけるな。聞かれたことにだけ答えてくれ。そして近寄ったりするな。僕に触れたら罰を受けさせるぞ」
「そんな!」
「ビクセン邸に送り届けようか?」
「っ!!」
「最初に行ったはずだが、君は客人でも恋人でも婚約者でもない。迷惑な居候に僕が時間を割くことはない。だから一々メイドを煩わせるな。食事も散歩もお茶も君とは一緒にすることはない。町に出掛けたい?観劇?馬鹿な妄想を押し付けないでくれ。
大人しくできないのならメイドを外して世話を止めさせるぞ」
「シャルル様のお子がいるのに」
泣き出したのでそのまま部屋を後にした。その後も何か要求を口にしているようだったがメイドが僕に伝えることはなくなった。
クリスティーナがモルゾン公爵領に行ってもうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。第二王子殿下の成婚式までに戻ってくるだろう。うちは式には招待されていない。他の伯爵家も招待は受けていない。だがセルヴィー家は式に参列するらしい。パーティだけは爵位持ちが招待された。
帰ってきたら連絡をくれるだろうと思っていたが連絡のないまま成婚式の当日になった。
パレードが盛大に行われている。ゼオロエン嬢は第二王子妃になった。
夜には帰っているかと思ったが王宮に泊まったらしい。
「これでクリスティーナは王子妃の親友ね」
父上はセルヴィーの絹が欲しくて、母上はセルヴィーの人脈が欲しかった。クリスティーナがゼオロエン嬢やウィロウ嬢と友人になったことを知った母上は狙いをクリスティーナに絞った。クリスティーナは次々と高位貴族と親しくなっていった。
母上は顔を合わせる度に、“紹介してもらいなさい”と僕に命じていた。
「そうですね」
「クリスティーナをうちに招待しなさい」
「あの女がいるのにですか?」
「外鍵をかけたらいいじゃない」
「聞いてみます」
だけど、クリスティーナは今度はゼオロエン領へ行ってしまった後だった。
僕に何も言わずに行くなんて。婚約者なのだからそのくらい手紙で連絡を入れてもいいはずだと思って腹立たしかった。
「もしかして、ジオ公子と破局したのかもね」
母上の言葉に気分が少し良くなった。
「本当ですか」
「ジオ公子もずっと王都を離れているらしいし、クリスティーナはモルゾン領の次はゼオロエン領でしょう?」
「モルゾン領で会っていたかもしれないがな。そんなことより明日診察をさせるぞ。もうそろそろじゃないのか?」
父上が言うそろそろとは出産時期のことだ。本当に妊娠しているなら出産予定の時期に入っているから。まあ早かったり少し遅かったり個人差はあるらしい。
翌日、主治医が来て腹に聴診器を当てた。
「やはり心音などは確認できません。この時期になって聞こえないのは発育が止まり死んでいる可能性が高いです」
「嘘よ!動いているもの!」
「腸だって胃だって同じですよ」
「母親の私には分かるの!」
「そうは言っても腹が2ヶ月前から膨らまないのが証拠です」
「少し成長が遅いだけ!だって部屋に閉じ込められて囚人みたいな生活を送っていたら赤ちゃんも悲しくなって成長できないわ!」
「囚人ねぇ。屋根も窓もあってベッドも整っている立派な部屋に住めて、風呂にも入れて洗濯をしてもらえて3食の食事にお茶と菓子まで出してもらえてメイド付きなのが囚人?それが囚人というのなら国民の多数が囚人になりたがるでしょうね」
「医者を変えてください!」
「先生、確かめる方法はありませんか」
「薬を使って陣痛を起こさせれば分かりますが。もしくは子宮口を広げて直接触診する方法もあります。いずれにしても立会いの医師を呼んだ方がいいでしょう。こちらの令嬢の場合は後々問題を悪化させかねません」
「分かった」
「王宮認定医に頼む方がいいでしょう」
「王宮認定医とは何ですか?」
「王宮は多くの者が働いています。流行病が始まれば感染が一気に広がります。王宮の専属医だけでは対処しきれません。それに王族の病傷やお産がかぶることも珍しくありません。そのときに急な呼び出しに応じる王宮外で活動している医者のことです。彼らには予め技量があることを確かめた後に認定証を出します。王家からの信頼の証ですから、金持ちや貴族相手に診療費を高めに設定していても不満が出ることはありません。
私の方で依頼をしましょう。出来るだけ親しくない認定医をあたります。日時が決まりましたらお産や治療の準備をさせてください。破水や出血などに備えてください」
「準備をさせます」
主治医が帰ると母上はメイドに治療や出産の準備をするよう指示を出した。
また今日もメイドが聞きに来る。
「アマリア様がティータイムをご一緒にと」
「はぁ」
アマリアは毎日、散歩や食事やティータイムを一緒にと誘ってくる。メイドに断るよう言ってあるのだが妊婦をあまりぞんざいに扱えないのだろう。5、6回に一度は聞きに来る。
マリアを閉じ込めている部屋へ向かった。あそこは北側の端の部屋で、冬の風をもろに受けて冷えやすく景色も悪い。冬じゃなければ問題ないが客人や貴族が使うには適さない。階段からも遠いし風呂もない。広さだけはある部屋を何のために作ったのか。備品庫か何かにすれば良かったのではと思うが今となってはこういう使い方があったのだと納得した。外鍵が2つもついたドアを開けると中にいたアマリアが僕を見るなり駆け寄ろうとしたので外に出てドアを閉めた。
メイドに座らせろと指示を出して入室しなおした。
「シャルル様っ、会いに」
「煩い。話しかけるな。聞かれたことにだけ答えてくれ。そして近寄ったりするな。僕に触れたら罰を受けさせるぞ」
「そんな!」
「ビクセン邸に送り届けようか?」
「っ!!」
「最初に行ったはずだが、君は客人でも恋人でも婚約者でもない。迷惑な居候に僕が時間を割くことはない。だから一々メイドを煩わせるな。食事も散歩もお茶も君とは一緒にすることはない。町に出掛けたい?観劇?馬鹿な妄想を押し付けないでくれ。
大人しくできないのならメイドを外して世話を止めさせるぞ」
「シャルル様のお子がいるのに」
泣き出したのでそのまま部屋を後にした。その後も何か要求を口にしているようだったがメイドが僕に伝えることはなくなった。
クリスティーナがモルゾン公爵領に行ってもうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。第二王子殿下の成婚式までに戻ってくるだろう。うちは式には招待されていない。他の伯爵家も招待は受けていない。だがセルヴィー家は式に参列するらしい。パーティだけは爵位持ちが招待された。
帰ってきたら連絡をくれるだろうと思っていたが連絡のないまま成婚式の当日になった。
パレードが盛大に行われている。ゼオロエン嬢は第二王子妃になった。
夜には帰っているかと思ったが王宮に泊まったらしい。
「これでクリスティーナは王子妃の親友ね」
父上はセルヴィーの絹が欲しくて、母上はセルヴィーの人脈が欲しかった。クリスティーナがゼオロエン嬢やウィロウ嬢と友人になったことを知った母上は狙いをクリスティーナに絞った。クリスティーナは次々と高位貴族と親しくなっていった。
母上は顔を合わせる度に、“紹介してもらいなさい”と僕に命じていた。
「そうですね」
「クリスティーナをうちに招待しなさい」
「あの女がいるのにですか?」
「外鍵をかけたらいいじゃない」
「聞いてみます」
だけど、クリスティーナは今度はゼオロエン領へ行ってしまった後だった。
僕に何も言わずに行くなんて。婚約者なのだからそのくらい手紙で連絡を入れてもいいはずだと思って腹立たしかった。
「もしかして、ジオ公子と破局したのかもね」
母上の言葉に気分が少し良くなった。
「本当ですか」
「ジオ公子もずっと王都を離れているらしいし、クリスティーナはモルゾン領の次はゼオロエン領でしょう?」
「モルゾン領で会っていたかもしれないがな。そんなことより明日診察をさせるぞ。もうそろそろじゃないのか?」
父上が言うそろそろとは出産時期のことだ。本当に妊娠しているなら出産予定の時期に入っているから。まあ早かったり少し遅かったり個人差はあるらしい。
翌日、主治医が来て腹に聴診器を当てた。
「やはり心音などは確認できません。この時期になって聞こえないのは発育が止まり死んでいる可能性が高いです」
「嘘よ!動いているもの!」
「腸だって胃だって同じですよ」
「母親の私には分かるの!」
「そうは言っても腹が2ヶ月前から膨らまないのが証拠です」
「少し成長が遅いだけ!だって部屋に閉じ込められて囚人みたいな生活を送っていたら赤ちゃんも悲しくなって成長できないわ!」
「囚人ねぇ。屋根も窓もあってベッドも整っている立派な部屋に住めて、風呂にも入れて洗濯をしてもらえて3食の食事にお茶と菓子まで出してもらえてメイド付きなのが囚人?それが囚人というのなら国民の多数が囚人になりたがるでしょうね」
「医者を変えてください!」
「先生、確かめる方法はありませんか」
「薬を使って陣痛を起こさせれば分かりますが。もしくは子宮口を広げて直接触診する方法もあります。いずれにしても立会いの医師を呼んだ方がいいでしょう。こちらの令嬢の場合は後々問題を悪化させかねません」
「分かった」
「王宮認定医に頼む方がいいでしょう」
「王宮認定医とは何ですか?」
「王宮は多くの者が働いています。流行病が始まれば感染が一気に広がります。王宮の専属医だけでは対処しきれません。それに王族の病傷やお産がかぶることも珍しくありません。そのときに急な呼び出しに応じる王宮外で活動している医者のことです。彼らには予め技量があることを確かめた後に認定証を出します。王家からの信頼の証ですから、金持ちや貴族相手に診療費を高めに設定していても不満が出ることはありません。
私の方で依頼をしましょう。出来るだけ親しくない認定医をあたります。日時が決まりましたらお産や治療の準備をさせてください。破水や出血などに備えてください」
「準備をさせます」
主治医が帰ると母上はメイドに治療や出産の準備をするよう指示を出した。
2,625
あなたにおすすめの小説
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜
水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」
効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。
彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。
だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。
彼に残した書き置きは一通のみ。
クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。
これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。
「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」
みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。
というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。
なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。
そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。
何か裏がある――
相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。
でも、非力なリコリスには何も手段がない。
しかし、そんな彼女にも救いの手が……?
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる