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診断
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【 シャルルの視点 】
4日後、主治医が助手と別の医者と一緒に屋敷を訪れた。
アマリアを閉じ込めている部屋にはシーツや布や綿、桶やバケツに水と湯の準備を済ませていた。
「し、自然に産まれるまで待ってください」
「母子共に死にますよ?」
アマリアは大人しく薬を飲んだ。効き目が出てくるまで、助手は使用する器具を並べ出した。アマリアが意識を失うと、脚を開かせて軟膏状のものを塗ると器具を差し込んだ。ゆっくり広がって行き、最終的に手が入る大きさまで広げられた。そして薬を注入していく。主治医が袖をまくり手を消毒して突っ込んだ。
「これは…」
主治医が認定医を見ると、認定医が交代して手を突っ込んだ。
「間違いありませんね。珍しい症例ですが昔から起こりうる症状ですね」
洗浄し器具を抜き去り今度は腹全体を押し始めた。
「比較的緩やかな効き目のものを使いましょう」
主治医は坐薬を肛門から押し入れた。
「ひとまず終わりです。細かな説明は令嬢が起きてからしましょう。坐薬が効き出す前に起こします。その間にカルテを書きましょう」
「あの、どうなったのですか」
「全て令嬢と一緒に聞いてください。皆様の反応も大事ですから」
アマリアが目覚める2時間後まで待たされた。
【 アマリアの視点 】
目が覚めると、主治医と助手と認定医、伯爵夫妻とシャルル様、そして兵士2人とメイド2人とメイド長が部屋の中にいた。
お腹を見ると膨らんだままだった。
「アマリア・ビクセン嬢、診断と治療について説明をします」
治療!?
「治療って?」
「結論からお伝えします。妊娠はしておりませんでした」
「何を言っているの!」
夫妻とシャルル様や使用人達が喜びの声を上げた。
「子宮内に指を入れましたが空でした。それは王宮認定医の先生も確かめています」
「だって…月のものか止まって、悪阻もあって、胎動もあったしお腹だって…」
「これは想像妊娠というものです。妊娠を強く望むあまりに、妊娠をしていなくとも妊娠したかのような症状をもたらします。腹の膨らみは重度の便秘とそれに伴うガス詰まりです。生きているということは詰まって閉塞しているのではなく、器用に溜め込みながら少しずつ排便をしていたのでしょう。排便の量が異常に少なかったはずですから分かっていたはずです。腹を押すと硬くなった便の存在が分かりましたから」
シャルル様の前でそんな話をしないで!!
少量しか出なかったのは、お腹の子が栄養を取っていたから少なくなったんだと思っていた。…違うの!?
「に、妊婦にはありがちな症状じゃない!」
「子宮が空なのですからこれ以上の証拠はありません。下剤を肛門から投与しました。便意を我慢せずトイレに行ってください。便秘でも死にますからね?目覚めたので排便を促す薬湯を薄めたものを多めにゆっくり飲んでもらいます」
「え!?」
「あと、ご自宅に戻りましたら主治医に診てもらって月経不順の薬を飲んでください。このままですと不妊になりますよ」
「嘘…」
「溜まったものを排泄し終えたら自宅への帰路についてもかまいません。すぐに移動させると馬車内で何度も漏らすことになりかねませんので、落ち着いてから出発してください」
「嘘!!」
「他の医者を呼んでもかまいませんが、費用はもうヘインズ家は出さないでしょう。さあ、飲みなさい」
「な、何よこれ」
「死なないための薬湯ですよ」
「私は妊娠してるの…」
「なら排便をすべきです」
もしかしたらお腹の中が狭くて発育が悪いのかもしれない。
少しお腹に違和感があったけど薬湯を飲んで10分も経たずに便意が襲ってきた。
「うっ…」
「ヘインズ伯爵。私達はこれで失礼します。診断書と報告書はこちらです」
「ありがとうございました」
医者達が退室するとヘインズ伯爵夫妻とシャルル様も退室した。私は慌ててトイレに駆け込んだ。
排便時にはキリキリとした痛みがあり、冷や汗をかいた。石のような便が次々と出て時々栓をするかのような大きさのものが私を苦しめた。ガスも大量出て落ち着くまで数日かかった。その間は薬湯とスープのみ。
解放されると体は軽かった。腹の張りも痛みも重みも胃のムカつきも全て消えていた。そして腹の膨らみはなくなり、その代わり鏡の向こうには少し太った私がいた。
本当に…本当にいないの!?
処置から9日後、お父様が迎えに来たと知らせを受けて1階へ降りた。妊娠は間違いだったかもしれないけど、シャルル様の側にいて夜のお相手をできればシャルル様も私への気持ちを再確認するだろうなんて思っていた。
エントランスで伯爵夫妻とシャルル様に謝罪をしていた。
「この度はご迷惑をお掛けしました」
「その場限りの関係に10ヶ月以上も付き纏って、ヘインズ家の名を貶めたのですよ」
「アマリアさんが純潔だったとしても、婚約もせず交際もせず、令嬢自ら部屋に着いて行き関係を持った時点で息子に責任はありません。個々の責任です。避妊薬を使うのも暗黙の了解なのです。二度とご息女に卑怯な真似をするなと教育してください」
「申し訳ございません」
「待ってください!妊娠していないのなら、またシャルル様に尽くせます」
「聞きましたか?ビクセン伯爵。アマリアさんは閨係にでもなったつもりですわよ」
「あいにく息子には素晴らしい婚約者がいるんだ。君とはもう一切関わりたくない」
「すぐに連れて帰ります」
「これ以上付き纏えば訴えでますから」
「分かりました」
メイド達が荷物を持って私達のそばを通り過ぎて玄関の外の馬車に乗せた。
「待って!シャルル様、お願いします!あの夜私を愛してくださったではありませんか!」
「勘違いだな。僕はクリスティーナにしか興味がない」
「い、今更…ずっと彼女を冷遇して他の令嬢達と寝ていたではありませんか!」
「君には関係のないことだ。嫁ぎ先があるといいな」
「シャルル様!!」
お父様に引き摺られて玄関を出た。馬車に乗せられるのを抵抗していると頬を打たれた。
パン!
「っ!!」
「途中の森に捨ててもいいんだぞ」
「ううっ…」
馬車は出発しヘインズ邸が遠ざかっていく。そのうち王都を出た。
確かに…確かにあの夜、シャルル様は…。
数日かけて屋敷に戻ると家族は冷ややかな目を向けた。
そして夜遅く、小腹が空いて下に降りると話し声が聞こえた。
「まともな嫁ぎ先は無いぞ。持参金もない、容姿は悪い、身持ちも悪いと証明してしまったしな。
家族の婚約を壊す危険のある女はメイドに雇ってもらえない。特待生だったのだから王宮の仕事を打診してみたが信用できないと断られてしまった」
「金にしなくては。せめて養育にかかった分でも取り返さないと。診断書には月のモノが止まってると書いてあったのですよね。だったらそれを売りにしたらどうですか?月の休暇も避妊も必要としない若い女を必要とする場所もあるでしょう」
「娼館は避けたいのだがな。それにあの容姿では売れまい。元貴族ということで最初だけ多少客が付いてもすぐに客が付かなくなるぞ」
「あちこちに聞いてみましょう」
「お父様達は一体何をしようというのです」
我慢できずに割って入った。
「大人しく学園生活を送って友人を作り王宮で雇ってもらえてたら、少しはマシな縁談が来たはずなんだ。なのにビクセン家の恥になるようなことばかりしやがって」
「そうだぞ、アマリア。学園に行くことを許してやったんだ。迷惑もかけたのだからもう十分だろう。
家長に従いなさい。部屋に戻れ」
「っ!」
不安で仕方なかった。部屋に戻りベッドに潜って何日も泣いた。
半月が経った頃、お父様やお兄様が私に告げた。
「領地の南方に牧畜をやっている家がある。そこで家畜の世話と主人の世話をしなさい。彼は50代でもう子は必要としていないからしっかり働くことだけ考えなさい」
「平民の後妻ということですか…世話って」
「朝から夜まで家事をして合間に牧者の仕事を手伝って、寝る前に妻の仕事をするだけでいい」
「そんな!」
「わずかだが金を受け取ったから入籍の手続きと一緒に貴族籍から完全に抜く。働かないと豚の餌にされるぞ」
「お父様!」
「これ以上お前を養う金はない。自業自得だろう。弟達のことは考えないのか?明日送り届けるからな」
「っ!」
その日の夜、自害しようと思ったけど勇気が出なかった。
翌朝に出発し古い馬車にひたすら揺られて広い農場へ到着した。もう日が暮れようとしていた。
出迎えた男は大柄で肌は日に焼け髭を生やしていた。中に入り挨拶をすると食事を出してくれた。通いのお手伝いさんが1人で世話をしているようだった。
「アマリアは料理はできるのか」
「多少は」
「アマリア。ロバートはお前の夫だ。言葉遣いに気をつけろ。もうおまえは平民なのだから」
「失礼しました」
「エルマに料理を教わっておくように」
「はい」
食事は美味しかったし実家より豪華だった。
送り届けた兄は翌朝帰った。
その後出勤してきた通いのエルマに家の中のことを教わった。食事も一緒に作った。動物のことは明日の朝から教えると言われた。
2日目の夜、妻の役目を果たすことになった。
濡れた髪を布で拭いているロバート様はお父様と同じくらいの歳なのに筋肉があって引き締まっていて、髪で隠れていた顔は端正だった。
「経験はあったのだな?」
「はい。一度だけあります」
「そうか」
翌朝、エルマさんに起こされた。
「朝食を運びましたのでどうぞ」
「あ、外の仕事が」
すっかり日が昇っていて寝過ごしたと分かった。
「旦那様が寝かせておいて欲しいとおっしゃっていました。ですがもう10時ですので起こしました。出来るだけ規則正しい生活をした方が体にいいですからね」
「ありがとう」
相変わらず食事も美味しいし、何よりロバート様がとても優しかった。乱暴にされるのかと思ったらとても丁寧に扱ってくれた。それに初めての時とは違って…喜びを感じた。
私の人生の中で今が一番優しくしてもらえている。
昼食に戻って来たロバート様に濡らして絞った布を渡した。
「お疲れ様です」
「体は…大丈夫か?」
「はい。ロバート様に長生きしてもらいたくなりました」
恥ずかしかったけど、遠回しに夜の生活が良かったと伝えたつもりだ。
ロバート様は驚いた後に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
4日後、主治医が助手と別の医者と一緒に屋敷を訪れた。
アマリアを閉じ込めている部屋にはシーツや布や綿、桶やバケツに水と湯の準備を済ませていた。
「し、自然に産まれるまで待ってください」
「母子共に死にますよ?」
アマリアは大人しく薬を飲んだ。効き目が出てくるまで、助手は使用する器具を並べ出した。アマリアが意識を失うと、脚を開かせて軟膏状のものを塗ると器具を差し込んだ。ゆっくり広がって行き、最終的に手が入る大きさまで広げられた。そして薬を注入していく。主治医が袖をまくり手を消毒して突っ込んだ。
「これは…」
主治医が認定医を見ると、認定医が交代して手を突っ込んだ。
「間違いありませんね。珍しい症例ですが昔から起こりうる症状ですね」
洗浄し器具を抜き去り今度は腹全体を押し始めた。
「比較的緩やかな効き目のものを使いましょう」
主治医は坐薬を肛門から押し入れた。
「ひとまず終わりです。細かな説明は令嬢が起きてからしましょう。坐薬が効き出す前に起こします。その間にカルテを書きましょう」
「あの、どうなったのですか」
「全て令嬢と一緒に聞いてください。皆様の反応も大事ですから」
アマリアが目覚める2時間後まで待たされた。
【 アマリアの視点 】
目が覚めると、主治医と助手と認定医、伯爵夫妻とシャルル様、そして兵士2人とメイド2人とメイド長が部屋の中にいた。
お腹を見ると膨らんだままだった。
「アマリア・ビクセン嬢、診断と治療について説明をします」
治療!?
「治療って?」
「結論からお伝えします。妊娠はしておりませんでした」
「何を言っているの!」
夫妻とシャルル様や使用人達が喜びの声を上げた。
「子宮内に指を入れましたが空でした。それは王宮認定医の先生も確かめています」
「だって…月のものか止まって、悪阻もあって、胎動もあったしお腹だって…」
「これは想像妊娠というものです。妊娠を強く望むあまりに、妊娠をしていなくとも妊娠したかのような症状をもたらします。腹の膨らみは重度の便秘とそれに伴うガス詰まりです。生きているということは詰まって閉塞しているのではなく、器用に溜め込みながら少しずつ排便をしていたのでしょう。排便の量が異常に少なかったはずですから分かっていたはずです。腹を押すと硬くなった便の存在が分かりましたから」
シャルル様の前でそんな話をしないで!!
少量しか出なかったのは、お腹の子が栄養を取っていたから少なくなったんだと思っていた。…違うの!?
「に、妊婦にはありがちな症状じゃない!」
「子宮が空なのですからこれ以上の証拠はありません。下剤を肛門から投与しました。便意を我慢せずトイレに行ってください。便秘でも死にますからね?目覚めたので排便を促す薬湯を薄めたものを多めにゆっくり飲んでもらいます」
「え!?」
「あと、ご自宅に戻りましたら主治医に診てもらって月経不順の薬を飲んでください。このままですと不妊になりますよ」
「嘘…」
「溜まったものを排泄し終えたら自宅への帰路についてもかまいません。すぐに移動させると馬車内で何度も漏らすことになりかねませんので、落ち着いてから出発してください」
「嘘!!」
「他の医者を呼んでもかまいませんが、費用はもうヘインズ家は出さないでしょう。さあ、飲みなさい」
「な、何よこれ」
「死なないための薬湯ですよ」
「私は妊娠してるの…」
「なら排便をすべきです」
もしかしたらお腹の中が狭くて発育が悪いのかもしれない。
少しお腹に違和感があったけど薬湯を飲んで10分も経たずに便意が襲ってきた。
「うっ…」
「ヘインズ伯爵。私達はこれで失礼します。診断書と報告書はこちらです」
「ありがとうございました」
医者達が退室するとヘインズ伯爵夫妻とシャルル様も退室した。私は慌ててトイレに駆け込んだ。
排便時にはキリキリとした痛みがあり、冷や汗をかいた。石のような便が次々と出て時々栓をするかのような大きさのものが私を苦しめた。ガスも大量出て落ち着くまで数日かかった。その間は薬湯とスープのみ。
解放されると体は軽かった。腹の張りも痛みも重みも胃のムカつきも全て消えていた。そして腹の膨らみはなくなり、その代わり鏡の向こうには少し太った私がいた。
本当に…本当にいないの!?
処置から9日後、お父様が迎えに来たと知らせを受けて1階へ降りた。妊娠は間違いだったかもしれないけど、シャルル様の側にいて夜のお相手をできればシャルル様も私への気持ちを再確認するだろうなんて思っていた。
エントランスで伯爵夫妻とシャルル様に謝罪をしていた。
「この度はご迷惑をお掛けしました」
「その場限りの関係に10ヶ月以上も付き纏って、ヘインズ家の名を貶めたのですよ」
「アマリアさんが純潔だったとしても、婚約もせず交際もせず、令嬢自ら部屋に着いて行き関係を持った時点で息子に責任はありません。個々の責任です。避妊薬を使うのも暗黙の了解なのです。二度とご息女に卑怯な真似をするなと教育してください」
「申し訳ございません」
「待ってください!妊娠していないのなら、またシャルル様に尽くせます」
「聞きましたか?ビクセン伯爵。アマリアさんは閨係にでもなったつもりですわよ」
「あいにく息子には素晴らしい婚約者がいるんだ。君とはもう一切関わりたくない」
「すぐに連れて帰ります」
「これ以上付き纏えば訴えでますから」
「分かりました」
メイド達が荷物を持って私達のそばを通り過ぎて玄関の外の馬車に乗せた。
「待って!シャルル様、お願いします!あの夜私を愛してくださったではありませんか!」
「勘違いだな。僕はクリスティーナにしか興味がない」
「い、今更…ずっと彼女を冷遇して他の令嬢達と寝ていたではありませんか!」
「君には関係のないことだ。嫁ぎ先があるといいな」
「シャルル様!!」
お父様に引き摺られて玄関を出た。馬車に乗せられるのを抵抗していると頬を打たれた。
パン!
「っ!!」
「途中の森に捨ててもいいんだぞ」
「ううっ…」
馬車は出発しヘインズ邸が遠ざかっていく。そのうち王都を出た。
確かに…確かにあの夜、シャルル様は…。
数日かけて屋敷に戻ると家族は冷ややかな目を向けた。
そして夜遅く、小腹が空いて下に降りると話し声が聞こえた。
「まともな嫁ぎ先は無いぞ。持参金もない、容姿は悪い、身持ちも悪いと証明してしまったしな。
家族の婚約を壊す危険のある女はメイドに雇ってもらえない。特待生だったのだから王宮の仕事を打診してみたが信用できないと断られてしまった」
「金にしなくては。せめて養育にかかった分でも取り返さないと。診断書には月のモノが止まってると書いてあったのですよね。だったらそれを売りにしたらどうですか?月の休暇も避妊も必要としない若い女を必要とする場所もあるでしょう」
「娼館は避けたいのだがな。それにあの容姿では売れまい。元貴族ということで最初だけ多少客が付いてもすぐに客が付かなくなるぞ」
「あちこちに聞いてみましょう」
「お父様達は一体何をしようというのです」
我慢できずに割って入った。
「大人しく学園生活を送って友人を作り王宮で雇ってもらえてたら、少しはマシな縁談が来たはずなんだ。なのにビクセン家の恥になるようなことばかりしやがって」
「そうだぞ、アマリア。学園に行くことを許してやったんだ。迷惑もかけたのだからもう十分だろう。
家長に従いなさい。部屋に戻れ」
「っ!」
不安で仕方なかった。部屋に戻りベッドに潜って何日も泣いた。
半月が経った頃、お父様やお兄様が私に告げた。
「領地の南方に牧畜をやっている家がある。そこで家畜の世話と主人の世話をしなさい。彼は50代でもう子は必要としていないからしっかり働くことだけ考えなさい」
「平民の後妻ということですか…世話って」
「朝から夜まで家事をして合間に牧者の仕事を手伝って、寝る前に妻の仕事をするだけでいい」
「そんな!」
「わずかだが金を受け取ったから入籍の手続きと一緒に貴族籍から完全に抜く。働かないと豚の餌にされるぞ」
「お父様!」
「これ以上お前を養う金はない。自業自得だろう。弟達のことは考えないのか?明日送り届けるからな」
「っ!」
その日の夜、自害しようと思ったけど勇気が出なかった。
翌朝に出発し古い馬車にひたすら揺られて広い農場へ到着した。もう日が暮れようとしていた。
出迎えた男は大柄で肌は日に焼け髭を生やしていた。中に入り挨拶をすると食事を出してくれた。通いのお手伝いさんが1人で世話をしているようだった。
「アマリアは料理はできるのか」
「多少は」
「アマリア。ロバートはお前の夫だ。言葉遣いに気をつけろ。もうおまえは平民なのだから」
「失礼しました」
「エルマに料理を教わっておくように」
「はい」
食事は美味しかったし実家より豪華だった。
送り届けた兄は翌朝帰った。
その後出勤してきた通いのエルマに家の中のことを教わった。食事も一緒に作った。動物のことは明日の朝から教えると言われた。
2日目の夜、妻の役目を果たすことになった。
濡れた髪を布で拭いているロバート様はお父様と同じくらいの歳なのに筋肉があって引き締まっていて、髪で隠れていた顔は端正だった。
「経験はあったのだな?」
「はい。一度だけあります」
「そうか」
翌朝、エルマさんに起こされた。
「朝食を運びましたのでどうぞ」
「あ、外の仕事が」
すっかり日が昇っていて寝過ごしたと分かった。
「旦那様が寝かせておいて欲しいとおっしゃっていました。ですがもう10時ですので起こしました。出来るだけ規則正しい生活をした方が体にいいですからね」
「ありがとう」
相変わらず食事も美味しいし、何よりロバート様がとても優しかった。乱暴にされるのかと思ったらとても丁寧に扱ってくれた。それに初めての時とは違って…喜びを感じた。
私の人生の中で今が一番優しくしてもらえている。
昼食に戻って来たロバート様に濡らして絞った布を渡した。
「お疲れ様です」
「体は…大丈夫か?」
「はい。ロバート様に長生きしてもらいたくなりました」
恥ずかしかったけど、遠回しに夜の生活が良かったと伝えたつもりだ。
ロバート様は驚いた後に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
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