母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第二章 大草原の旅路

2-3 スタンピード

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 隊商に近づいてくる魔物集団は、雑魚魔物を含めてその数約八千である。
 隊商を守るため、そうしてその先にあるアケロンを守るために、このまま放置はできない。

 マルコは離れた場所から山賊と魔物集団の監視を行っていたが、野営地に一旦戻り、カラガンダ老に魔物集団の進撃を止めるために広域殲滅魔法を使用することを断ってから出撃した。
 カラガンダ老は目の前から一瞬にして消え去ったマルコの残像を見ながらため息をつくしかなかった。

 いくら年功があるとはいっても、スタンピードに対応できる知恵も能力もカラガンダ老にはなかった。
 ことこの件に関しては、例え持ち金全部をつぎ込んだからとしても、おいそれと達成できるものではないのだ。

 幼いマルコの能力に全てがかかっている。
 そのような事態に何もできない自分をうれい、マルコの無事をひたすら祈るだけだった。

 魔物集団は長径30ケブーツ、短径20ケブーツほどの楕円状を呈し、進行方向に細くひしゃげたように広がって爆走している。
 そのスタンピードの前衛から野営地まではおよそ50ケブーツである。

 マルコは広域殲滅魔法「メテオ」を発動した。
 馬車ほどの大きさの岩を50個ほども地中から掘り出し、それを大気圏外に転移させそこから重力で落とすのだ。

 そのために転移を繰り返して50キロほど上空まで事前に確認しに行ったマルコである。
 これほど高い場所では空気がほとんどない。

 従って、マルコは自分の周囲に結界を張り、自らの呼吸する量の空気を確保していた。
 同時に結界は宇宙空間から降り注ぐ放射線や紫外線等からマルコを守ってくれた。
 このことは地球の科学知識を有していたからこそなしえる魔法でもある。

 マルコの使う空間座標はこの惑星の相対座標であり、惑星が公転しようが自転しようが座標に変化はない。
 そこで岩の配置を決めて、重力によって落ちるに任せたのである。

 重量100トンほどの岩石は、重力にひかれて加速し、100秒後には音速の2.5倍ほどの速度に達して大気との摩擦で激しく燃えつつ、ソニックウェーブを曳きながら地面に到達する。
 その際に解放される衝撃エネルギーは都市のワンブロックを簡単に崩壊させる10トン爆弾よりもすさまじい威力を発揮した。

 空気との摩擦熱で白熱した隕石群は、真昼のように赤々と地上を照らすことから、如何に興奮した魔物であってもその気配に気づかされてしまう。
 夜空に光の尾を引きながら一直線に降下してくる隕石群を見上げながら魔物たちは何もできなかった。

 次の瞬間、閃光とものすごい爆発音とともにバンナ平原に50個の巨大なきのこ雲が生じた。
 その凄まじい衝撃波と爆発で魔物集団は瞬時に殲滅されたが、50ケブーツ離れた野営地には地震と爆発音のみが届き、繋がれた馬たちが驚いていなないた程度で実害はなかった。

 但し、警戒を厳重にした見張り達は幾つもの流れ星が地上に降り注いでゆく壮大な場面に遭遇した。
 地響きにすこし遅れて続く爆発音も聞いて驚いたし、寝ていた者も何事かと起きてきて騒ぎにはなった。

 色々と騒ぎはあっても、翌日に予定通り出立しようとした隊商は、不審な最後尾の小隊商に居た12名ほどが一斉に姿を消したことに気づき、念のためその積み荷を改め、彼らが商人を偽装していたことに改めて気づいた。
 しかしながら、そんな彼らをわざわざ捜索してやる義理も暇もない。
 当初の出立時刻よりも少し遅くなったが、カラガンダ老の号令一過、西に向けて出発したのである。

 但し、その日野営しようとした場所付近に大きなクレーターが無数にあること、また、おびただしい魔物の遺骸があることを発見したのは、先遣隊で前方の偵察をしていた冒険者パーティだった。
 原型をとどめないほど破壊された遺骸は凄まじい力に翻弄されたことがよくわかる。

 同時に、このおびただしい数の魔物はスタンピードの前兆であったのではないかと推測された。
 その上で、昨夜の流れ星がスタンピードを殲滅してくれたのだとわかり、神を信ずる者はそれぞれの神に祈りをささげたのだった。

 事の真実を知っているのはマルコとカラガンダ老だけであり、カラガンダ老は無論一切口を挟まなかった。
 そうして幼いマルコに、このことで問いかけるような者もいなかった。

 古くからカラガンダ老に仕える隊商の小リーダーの極一部が、マルコが何か絡んでいるかもしれないと感じていたが、それを口にするほど愚かではなかった。
 何しろ彼らはパランティア山系のワダーツ峠で、ワイバーンが討伐されるところを目撃していた。

 そうして近場で目撃した者のうちほんの一握りの者が、マルコが手を向けた途端ワイバーンが燃え尽きたのを見ていた。
 さらにもう一人だけは、突然マルコの頭上に氷の槍が出現し、マルコが手を軽く振ることによって、その槍がはるか遠くのワイバーンを貫いたことを知っていた。

 未だに見ていた本人が信じられないのであるから、つい、うっかりと話したそのことを聞いた者が信じられるわけもない。
 まして、すぐに出されたカラガンダ老からの緘口令で噂は広がらなかったのである。

 アケロンで雇われた傭兵と冒険者はワダーツ峠のことは一切知らない。
 仮に知っていたならば或いは、マルコと結びつける者もいたかもしれなかった、

 何れにしろ、カラガンダ老の隊商は、毒霧を使う山賊の襲撃から知らず知らずのうちに逃れ、スタンピードの脅威から奇跡的に免れていたのである。
 詳細を知っているカラガンダ老はマルコを養子にした偶然に、そうして自らの信ずる神に、大いに感謝した。

 マルコが居なければカラガンダ老の命は間違いなくここで消えていただろう。
 マルコはその夜皆が寝静まってから山賊どもが根城にしていた丘の集落を訪れた。

 当然に人気はないし、魔物に襲われた建物らしきものも大部分が崩落している。
 しかしながら、隠された地下倉庫があってそこだけはほぼ無傷だった。

 そうしてその中には彼らがこれまで、隊商を襲って奪ってきたお宝が収納されていたのである。
 マルコもこの世界の法律や慣習をさほど詳しく知らないが、明らかに持ち主が居ない品物は無主物先占むしゅぶつせんせんといって見つけた者の所有になるのが普通である。

 マルコは空間魔法を使って価値あるものを全て収納したのである。
 収納した物の中に貨幣は大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨の六種類があった。

 正直なところ、その価値についてはよくわからないが、大金貨271枚は決して小さな金額ではないはずだ。
 アケロンでカラガンダ老が雇った傭兵団の対価はおよそ25名の規模で、バスラまで約4か月の護衛をするという条件で大金貨10枚だった。

 マルコが直ぐ側に居たので聞き取れたことなのだが、手付で大金貨三枚を渡し、残りは成功報酬として事後に渡されるようだ。
 食事は隊商が出すけれど、寝具や天幕などは自前で準備するようだ。

 彼らの持ち込む荷物のために荷馬車一台が用意されていたが、そうしたサービス分を無視したにしても、25名の隊員の4か月分の給与と言えばかなりの金額の筈だ。

 日本人の金谷として生きていた時代で言えば、大卒新人サラリーマンでも税込みならば初任給で二十万円弱程度、25人分であれば月に500万円、四か月では少なくとも2千万円になるだろう。
 無論傭兵団の給与は、仕事上の危険もあるので、日本の大卒サラリーマンの初任給よりはきっと高いのだろうけれど・・・。

 仮に大金貨十枚で二千万円以上の価値とするならば、大金貨一枚では200万円よりも高いということになる。
 地球の金貨でもモノによっては20万円ほどしていたし、思い起こしてみると幾多の世界でも金貨一枚があれば家族四人が一月生活して行くのに十分な金額だったように思う。

 恐らくこの世界でも同様なのだろう。
 この世界に来てからこれまでお金を持たされたこともないのだからお金の価値を知らなくても仕方がないが、これからは徐々にもその価値も知っておこうと思うマルコだった。
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