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第四章 東への旅
4ー12 リーベンへの船旅 ①
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僕はマルコです。
7ビセットの6日正午前にアルビラ港の北側にある砂浜の沖合から出港したマルコの船グリモルデ号(ニオルカン市内のモンテネグロ本家のある地区の名を取って付けました。)は、魔導推進装置を使うと他人目につく可能性もあるので、普通の帆船としての航法で、タッキングを繰り返しながら北東方向に向かっているところです。
取り敢えずの目的地であるリーベンは、どちらかというとアルビラ港から見て東北東の方向なのですけれど、風が略東方向から吹いているために、風上に対して左斜め方向に上り、タッキングして、次には右斜め方向に上るというジグザグ航行を繰り返すしかありません。
一枚帆の船や、キールやセンターボードの無い和船と異なり、この船は魔導具による力場でセンターボードを船底に生み出していることから、風にさほど落とされずに済むのですけれど、それでも向かい風方向への進み方はどうしても無駄が多く非常に遅いのです。
カラガンダ義父様に言わせると、このような向かい風で移動距離が思うように伸びない場合は、風待ちをするのだそうです。
それを日和というのだということを教えていただきました。
一旦、船が走り出してからは、大洋上で日和をしているわけにも行かないのですが、少なくとも陸岸近くで安全な停泊場所がある場合は、場合により避泊待機して海象模様を見ながら動くようにするのが普通なのだそうです。
そう言えば、マルコがカラガンダ義父様に連れられてバクホウ(リーベン)からアルビラ(マイジロン大陸)に来た際は、途中の島嶼に三度寄港し、概ね四か月ほどかかったのを覚えています。
マルコは、自分で作ったドローンを飛ばして、高空からの気象をある程度把握しており、波の進行方向や波高から風力も推測しつつ、概ね高気圧と低気圧の位置も把握しています。
特に低気圧については雲の動きから区別がつきますし、その移動による気象海象の変化も予測できるのです。
船の操船は、船員として製造したアンドロイド型ゴーレム二体でも十分なのですが、盗賊退治の際に思うところあって、実は船員用として三体に増やした経緯があります。
更に予備で、コック、執事、メイド、御者の四体が控えています。
目的地や航路などの大枠の指示はマルコが出しているのですが、船員型のアンドロイド型ゴーレムは、AIのような自律判断がある程度できるので、よほどのことが無い限りは任せられるのです。
因みにアンドロイド型ゴーレムを呼ぶのに困るというカラガンダ夫妻のご要望に応えて、アンドロイド型ロボットにはそれぞれ名前を付けています。
船員で表向き船長になっているゴーレムは「ビル」。
同じく同副長になっているゴーレムは「イキ」。
同じく掌帆長になっているゴーレムは「ユチ」。
コックになっているゴーレムは「アッシュ」。
この四体はいずれも金谷の記憶が覚えていたトルコ語からとったものなのです。
ビルは数字の「1」、イキは数字の「2」、ユチは数字の「3」の意味です。
アッシュは、そのままトルコ語で「コック」の意味合いなのです。
また他の三体の内二体は、その職でよく使われる名をつけました。
執事はセバス、メイドはエマですけれど、御者だけはインドの故事に倣ってクリシュナ神からとった「クリシュ」にしました。
今のところ洋上での風はさほど強くはなく、沿岸近くでも大きな波は立っていないのですが、船は元々揺れるものです。
魔導具によるスタビライザー(舷側方向の揺れ止め装置)が作動しているので、左右の舷側への揺れはほとんど無いのですが、波浪やうねりによる船自体の上下動はどうしても避けられませんし、ピッチングという船首尾線方向の揺れも防止するのは難しいのです。
グリモルデ号が航走を開始してから、キャビンで少し様子を見たのですけれど、カラガンダ義父様は大丈夫そうですけれど、ステラ義母様は少し具合が悪そうに見えました。
馬車の小刻みな揺れには慣れていても、船のゆっくりとした上下動に慣れない人も居るのです。
そのため、義父様と義母様には、早々に船内の寝室を通じて亜空間にある居間の方へ移動してもらいました。
亜空間に設置している寝室、居間、食堂などは特殊空間でつながってはいるものの、船の動揺というか重力変化は一切伝わらないのです。
従って、どんなに海が時化ようが義父様と義母様は快適な生活を送れるはずなのです。
但し、陸地ではないために、これまでの馬車の旅と違って、周辺を散歩するわけには行きません。
新たに作った画像処理魔導具により、亜空間の居間や船のキャビンに居ながらにして、外の景色が確認できる仕様にはしています。
船旅は船客にとっては時間がありすぎてとかく暇がちになります。
そのために大型客船では趣向を凝らして船客を楽しませる設備や機会を色々と設けていますけれど、マルコの造った船では芸人も居ませんのでショーなどは無理ですね。
義父様とステラ義母様には、これまで馬車の旅でしてこられた趣味の工芸や裁縫を継続していただくしかありません。
海を眺めるのも、海象模様が変わらない限り景色がほとんど変わらないですからすぐに飽きてしまいます。
ただ、晴れていれば夜空は綺麗なのですよ。
海の上では、視界の半球全てに遮るものがありませんし、この世界では光を発するモノが少ないですから星空がとてもきれいなのです。
天空には、金谷の記憶とは少し違う星空が広がっています。
金谷の記憶では渦状星雲の中の太陽系から見た景色で、天空の一部に天の川があるわけですけれど、この世界ではどうも球状星団の一部に属している様で見え方が違うのです。
星団中心部が見える際は非常に密に星があり、逆に星団外縁が見える際には星がまばらになるんです。
この星の密度が高い時の星空は、何物にも代えがたい光の海ですね。
街の中にいると生活する上で不可欠な炊事の煙等で意外と空が汚れていることが多いのですが、洋上に出ると、その障害になるものが無くなります。
勿論、自然の雲などで視界が遮られることはあるのですけれど、快晴の夜には陸では見られないきれいな星空が見えるのです。
そうして甲板のデッキに寝転ぶと、緩やかな船体の動揺によって、その天空が左右にゆっくりと揺れるんです。
これは経験した者にしかわからないでしょうね。
僕も知識としては知っていましたが経験するのは初めてでした。
でも、まぁ、天文学者ではないので毎日見ようという気は起きないですね。
偶に見るから良いのでしょう。
船での航海が始まると大枠の指示以外にはすることが無いので、僕は時間があれば亜空間の工房に籠って魔導具の開発などに勤しんでいます。
初日の日没以後は、魔導機関を始動して、魔導推進による試験航行を始めました。
これを夜明けまで連続して支障が無いかどうかを確認し、運動性能や最高速度なども計測します。
今夜はそれだけですが、明日は潜行して潜水時の能力試験を実施するつもりです。
海上が時化ると船自体の航行が大変になりますけれど、海の中に30mも潜れば、海上が少々時化ていても船は揺れないものなのです。
アルビラを発った日との齟齬が出ると拙いので、リーベン到着が余り早すぎないように全体の行程から速力調整を行っています。
概ね1日に400里(ケブーツ)から500里(ケブーツ)ほど進むように速度調整をする予定でします。
この船は、出そうと思えば一時間に110里(ケブーツ)(≒時速80キロ)以上の速度が出せますので、リーベンまでは半月もかからずに到達できますけれど、それは流石に速すぎて周囲に疑惑を持たれますので、僕の冒険者ギルドの有効期間(三か月)の範囲内でリーベンのバクホウに到着できるように調整しているのです。
僕のアルビラでの冒険者ギルドの記録は7ビセットの4日までクエスト完了が残っていますので、10ビセットの3日までにリーベンの冒険者ギルドでのクエストをこなせればよいのです。
普通の船では四か月ほどもかかる行程を三か月足らずに縮めるのですからそれだけでも色々と疑われそうですけれど、そこは無理を押し通すつもりでいます。
風の方向さえ良ければ、この世界の交易船でも1月に2万里(ケブーツ)ほどを走ることは可能なのです。
尤も、実際には凪ぎもあれば時化もあって、その倍ほども時間がかかるのが常なのです。
◇◇◇◇
翌日二日目の夜間、潜水試験も無事に済みました。
潜水深度は300ブーツ(約216m)まで確認しました。
設計時の仕様では15000ブーツの深度でも大丈夫なはずですけれど、必要性が無いので試験は省略しています。
潜行時の最大速力は、計画通り毎時200里(ケブーツ)に達しました。
もう少し出せるかもしれませんが、取り敢えずは必要が無いので、毎時120里に達した段階で試験を中断しています。
潜行時の操船性能についても問題個所はありませんでしたし、全ての装置が計画通りに動いてくれています。
残りは搭載武器の試験が残っていますけれど、こちらの方は見送りです。
搭載武器の威力が強すぎるために通常時では使えないと思うのです。
万が一の場合は、僕が魔法で船を守ることにしますが、どうしてもやむを得ない場合には設計時の性能と割り切って使います。
ですから非常時以外には使うつもりもありません。
海賊程度ならば、アンドロイド型ゴーレムだけで制圧できるはずです。
アルビラを出てから四日目、何事もなく推移していますが、どうやら翌日あたりから優勢な低気圧にぶつかりそうです。
当座、予想外の問題を避けるために潜水航行を余儀なくされるかもしれません。
7ビセットの6日正午前にアルビラ港の北側にある砂浜の沖合から出港したマルコの船グリモルデ号(ニオルカン市内のモンテネグロ本家のある地区の名を取って付けました。)は、魔導推進装置を使うと他人目につく可能性もあるので、普通の帆船としての航法で、タッキングを繰り返しながら北東方向に向かっているところです。
取り敢えずの目的地であるリーベンは、どちらかというとアルビラ港から見て東北東の方向なのですけれど、風が略東方向から吹いているために、風上に対して左斜め方向に上り、タッキングして、次には右斜め方向に上るというジグザグ航行を繰り返すしかありません。
一枚帆の船や、キールやセンターボードの無い和船と異なり、この船は魔導具による力場でセンターボードを船底に生み出していることから、風にさほど落とされずに済むのですけれど、それでも向かい風方向への進み方はどうしても無駄が多く非常に遅いのです。
カラガンダ義父様に言わせると、このような向かい風で移動距離が思うように伸びない場合は、風待ちをするのだそうです。
それを日和というのだということを教えていただきました。
一旦、船が走り出してからは、大洋上で日和をしているわけにも行かないのですが、少なくとも陸岸近くで安全な停泊場所がある場合は、場合により避泊待機して海象模様を見ながら動くようにするのが普通なのだそうです。
そう言えば、マルコがカラガンダ義父様に連れられてバクホウ(リーベン)からアルビラ(マイジロン大陸)に来た際は、途中の島嶼に三度寄港し、概ね四か月ほどかかったのを覚えています。
マルコは、自分で作ったドローンを飛ばして、高空からの気象をある程度把握しており、波の進行方向や波高から風力も推測しつつ、概ね高気圧と低気圧の位置も把握しています。
特に低気圧については雲の動きから区別がつきますし、その移動による気象海象の変化も予測できるのです。
船の操船は、船員として製造したアンドロイド型ゴーレム二体でも十分なのですが、盗賊退治の際に思うところあって、実は船員用として三体に増やした経緯があります。
更に予備で、コック、執事、メイド、御者の四体が控えています。
目的地や航路などの大枠の指示はマルコが出しているのですが、船員型のアンドロイド型ゴーレムは、AIのような自律判断がある程度できるので、よほどのことが無い限りは任せられるのです。
因みにアンドロイド型ゴーレムを呼ぶのに困るというカラガンダ夫妻のご要望に応えて、アンドロイド型ロボットにはそれぞれ名前を付けています。
船員で表向き船長になっているゴーレムは「ビル」。
同じく同副長になっているゴーレムは「イキ」。
同じく掌帆長になっているゴーレムは「ユチ」。
コックになっているゴーレムは「アッシュ」。
この四体はいずれも金谷の記憶が覚えていたトルコ語からとったものなのです。
ビルは数字の「1」、イキは数字の「2」、ユチは数字の「3」の意味です。
アッシュは、そのままトルコ語で「コック」の意味合いなのです。
また他の三体の内二体は、その職でよく使われる名をつけました。
執事はセバス、メイドはエマですけれど、御者だけはインドの故事に倣ってクリシュナ神からとった「クリシュ」にしました。
今のところ洋上での風はさほど強くはなく、沿岸近くでも大きな波は立っていないのですが、船は元々揺れるものです。
魔導具によるスタビライザー(舷側方向の揺れ止め装置)が作動しているので、左右の舷側への揺れはほとんど無いのですが、波浪やうねりによる船自体の上下動はどうしても避けられませんし、ピッチングという船首尾線方向の揺れも防止するのは難しいのです。
グリモルデ号が航走を開始してから、キャビンで少し様子を見たのですけれど、カラガンダ義父様は大丈夫そうですけれど、ステラ義母様は少し具合が悪そうに見えました。
馬車の小刻みな揺れには慣れていても、船のゆっくりとした上下動に慣れない人も居るのです。
そのため、義父様と義母様には、早々に船内の寝室を通じて亜空間にある居間の方へ移動してもらいました。
亜空間に設置している寝室、居間、食堂などは特殊空間でつながってはいるものの、船の動揺というか重力変化は一切伝わらないのです。
従って、どんなに海が時化ようが義父様と義母様は快適な生活を送れるはずなのです。
但し、陸地ではないために、これまでの馬車の旅と違って、周辺を散歩するわけには行きません。
新たに作った画像処理魔導具により、亜空間の居間や船のキャビンに居ながらにして、外の景色が確認できる仕様にはしています。
船旅は船客にとっては時間がありすぎてとかく暇がちになります。
そのために大型客船では趣向を凝らして船客を楽しませる設備や機会を色々と設けていますけれど、マルコの造った船では芸人も居ませんのでショーなどは無理ですね。
義父様とステラ義母様には、これまで馬車の旅でしてこられた趣味の工芸や裁縫を継続していただくしかありません。
海を眺めるのも、海象模様が変わらない限り景色がほとんど変わらないですからすぐに飽きてしまいます。
ただ、晴れていれば夜空は綺麗なのですよ。
海の上では、視界の半球全てに遮るものがありませんし、この世界では光を発するモノが少ないですから星空がとてもきれいなのです。
天空には、金谷の記憶とは少し違う星空が広がっています。
金谷の記憶では渦状星雲の中の太陽系から見た景色で、天空の一部に天の川があるわけですけれど、この世界ではどうも球状星団の一部に属している様で見え方が違うのです。
星団中心部が見える際は非常に密に星があり、逆に星団外縁が見える際には星がまばらになるんです。
この星の密度が高い時の星空は、何物にも代えがたい光の海ですね。
街の中にいると生活する上で不可欠な炊事の煙等で意外と空が汚れていることが多いのですが、洋上に出ると、その障害になるものが無くなります。
勿論、自然の雲などで視界が遮られることはあるのですけれど、快晴の夜には陸では見られないきれいな星空が見えるのです。
そうして甲板のデッキに寝転ぶと、緩やかな船体の動揺によって、その天空が左右にゆっくりと揺れるんです。
これは経験した者にしかわからないでしょうね。
僕も知識としては知っていましたが経験するのは初めてでした。
でも、まぁ、天文学者ではないので毎日見ようという気は起きないですね。
偶に見るから良いのでしょう。
船での航海が始まると大枠の指示以外にはすることが無いので、僕は時間があれば亜空間の工房に籠って魔導具の開発などに勤しんでいます。
初日の日没以後は、魔導機関を始動して、魔導推進による試験航行を始めました。
これを夜明けまで連続して支障が無いかどうかを確認し、運動性能や最高速度なども計測します。
今夜はそれだけですが、明日は潜行して潜水時の能力試験を実施するつもりです。
海上が時化ると船自体の航行が大変になりますけれど、海の中に30mも潜れば、海上が少々時化ていても船は揺れないものなのです。
アルビラを発った日との齟齬が出ると拙いので、リーベン到着が余り早すぎないように全体の行程から速力調整を行っています。
概ね1日に400里(ケブーツ)から500里(ケブーツ)ほど進むように速度調整をする予定でします。
この船は、出そうと思えば一時間に110里(ケブーツ)(≒時速80キロ)以上の速度が出せますので、リーベンまでは半月もかからずに到達できますけれど、それは流石に速すぎて周囲に疑惑を持たれますので、僕の冒険者ギルドの有効期間(三か月)の範囲内でリーベンのバクホウに到着できるように調整しているのです。
僕のアルビラでの冒険者ギルドの記録は7ビセットの4日までクエスト完了が残っていますので、10ビセットの3日までにリーベンの冒険者ギルドでのクエストをこなせればよいのです。
普通の船では四か月ほどもかかる行程を三か月足らずに縮めるのですからそれだけでも色々と疑われそうですけれど、そこは無理を押し通すつもりでいます。
風の方向さえ良ければ、この世界の交易船でも1月に2万里(ケブーツ)ほどを走ることは可能なのです。
尤も、実際には凪ぎもあれば時化もあって、その倍ほども時間がかかるのが常なのです。
◇◇◇◇
翌日二日目の夜間、潜水試験も無事に済みました。
潜水深度は300ブーツ(約216m)まで確認しました。
設計時の仕様では15000ブーツの深度でも大丈夫なはずですけれど、必要性が無いので試験は省略しています。
潜行時の最大速力は、計画通り毎時200里(ケブーツ)に達しました。
もう少し出せるかもしれませんが、取り敢えずは必要が無いので、毎時120里に達した段階で試験を中断しています。
潜行時の操船性能についても問題個所はありませんでしたし、全ての装置が計画通りに動いてくれています。
残りは搭載武器の試験が残っていますけれど、こちらの方は見送りです。
搭載武器の威力が強すぎるために通常時では使えないと思うのです。
万が一の場合は、僕が魔法で船を守ることにしますが、どうしてもやむを得ない場合には設計時の性能と割り切って使います。
ですから非常時以外には使うつもりもありません。
海賊程度ならば、アンドロイド型ゴーレムだけで制圧できるはずです。
アルビラを出てから四日目、何事もなく推移していますが、どうやら翌日あたりから優勢な低気圧にぶつかりそうです。
当座、予想外の問題を避けるために潜水航行を余儀なくされるかもしれません。
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