母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第四章 東への旅

4ー11 アルビラからの出発

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 僕はマルコです。
 予定していたカラガンダ翁の知人へのご挨拶等が済み、いよいよアルビラを出発する時が来ました。

 この世界では船の登録は一部の大陸でしか行われていないようで、このマイジロン大陸では登録制度はありません。
 但し、マイジロンの船の場合、どこの国の所属であるかの旗や商人であれば目印になるような旗なども掲揚することになるようです。

 この辺は冒険者のクエストをこなしながら有料の図書館や、船乗りや商人などから聞き出した話です。
 成人前の子供と知って皆さん丁寧に教えてくれました。

 船の乗組員となるのに特段の資格は必要が無いようですが、相応の経験は必要なのだそうですよ。
 そうしてこれから向かうことになるであろうリーベンの東にあるサザンポール亜大陸やオズモール大陸の一部では船舶の登録制度が始まっているようです。

 律令の整備、私的財産の保護制度の進展と相俟って、船舶という動産の所有権を明らかにするシステムが出来上がり始めたようですね。
 小型の船舶ならば左程の資産価値は有りませんけれど、大陸間を航行するような大型の帆船は建造費も高いですし、財産的価値も大きいからです。

 それでも海賊などが出現すれば、登録制度などは何の意味もありません。
 船首や船尾に描かれた船名などが書き換えられてしまえば、元の持ち主が誰であったかなど全く無意味になってしまうのです。

 まして全ての地域で登録制度が明確になっていない段階では、当該制度を取り入れている国内だけの保護になるでしょう。
 その意味でも海の上では弱肉強食の世界ですから、しっかりと防備を固めておく必要はありますね。

 尤も、カラガンダ翁とステラ媼のために造ったに等しい新造船は、どんな勢力が攻撃して来ようと跳ね返しますし、乗せている乗組員や執事にメイドまでが一大戦力です。
 船乗りとしての船員三名、コック一名、執事一名、メイド一名、御者一名のアンドロイド型ゴーレムですが、この七体で当たれば多分どこの大国と戦っても負けることは無いでしょう。

 僕としては、可能な限り無駄なバトルは避けたいと考えています。
 でも、旅路の途中で殲滅してきた野盗や山賊と同じく、海賊もまた交易商人たちにとっては不倶戴天ふぐたいてんの敵と聞いていますので、万が一、洋上で出遭うようなことがあれば容赦なく殲滅するつもりでいます。

 予定通り7ビセットの6日、馬車でアルビラの北側の海岸に向かいました。
 アルビラから出港するには、マルコが作った船が斬新なシルエットをしていて如何にも目立ってしまうので、人目のつかない海岸にまで行き、そこで船を出して乗り込む予定なのです。

 アルビラ港の北10ケブーツほどの距離にある砂浜の海岸に到着しました。
 この砂浜に至る適当な道路がありませんでしたので、最後の2ケブーツほどは僕の魔法で馬車ごと空中散歩です。

 そうして波打ち際から三十尋ほど沖合に新型の船を出しました。
 船の形状は両端がほぼ球状の紡錘形を呈していますが、全長が20尋弱(約31.4m)、最大幅が4尋弱(約6.3m)であり、海面に浮かぶ姿は日本人金谷正司が生きていたころの小型外洋ヨットに少し似ているんです。

 ブリッジ船橋部分が若干丸みを帯びて中央にあり、その背後に伸縮性のマスト基部がある。
 ブリッジ船橋後方にあるフラットなデッキ部分は狭く、5人も大人が立てば一杯になりそうな程度の広さしかありません。

 そのほかの船体部位は曲面で出来ているので、そこに立つことは一般人であれば難しいと思われます。
 色合いは薄いクリーム色で、トレント材の木質感が出ています。

 一見してこの船が特殊な金属でできているとは思えない代物なのです。
 ここでもカラガンダ翁とステラ媼を一気に転移で船に運び、収容していたゴーレム達を出して、出港準備にかかりました。

 船はマルコが定点に支えているだけで、錨も降ろしていないので、帆を上げるか特殊な推進機関を起動するだけで船は動くのです。
 海上模様はとても静かですし、砂浜近くの海面は多少の波は立っていても船の揺れはほとんど感じられません。

 さてさて、この状態でステラ義母様かあさまの様子はどうでしょう?
 今現在は、船は動いてはいないのですけれど波による多少の揺れはあるのです。
 
 全員がブリッジ船橋後方のデッキには居られませんので、カラガンダ夫妻とマルコ、それに執事、メイド、御者にコックは取り敢えずキャビンに入りました。
 そのほかの船員三名はブリジット(船橋)とデッキで待機中です。

義母様かあさま、船では酔うことがありますけれど如何でしょうか?
 義父様とうさまは、多分ある程度慣れてはおられると思いますけれど、船酔いというのは人によって違うものらしいのです。
 大きな船では酔わずとも小さな船では酔ってしまう人、その逆に野天の小型船に慣れている漁師などは大きな船の船内に入って揺れると酔ってしまうこともあると聞いております。」

 ステラ媼が答えます。

「うーん、今のところは気分が悪いということは無いわよ。
 ただ、このキャビンに居るとお外が見えないのよねぇ。
 せっかくの海の景色だから覗いてみたい気がするのだけれど・・・。」

「はい、直接目で見ることはできませんが、画面を通して見ることはできます。」

 マルコがそう言って壁面の一部に触れると、いきなり壁面の一部が透けて外の様子が見えるようになった。
 但し、位置関係が少しおかしいのだ。

 ステラたちはブリッジからキャビンに入るのに階段を下りたのだった。
 その高さから言えば座っている現在の眼光は海面に近い筈なのだけれど、景色はもっと高い位置から見えているようなのだ。

 マルコは空間拡張などの魔法も使えるので必ずしも高さが違っていてもおかしいわけではないのだが・・・。

「この、景色はブリッジ船橋の側面にある覗窓カメラの魔導具から見える景色ですが、これで両舷の景色がわかりますし、切り替えることにより前方や後方の景色も覗くことができます。
 馬車にはこのような魔導具は備え付けていませんでしたけれど、新たにつけることにしますので、今度陸上を馬車で旅する際には居間に居ながらにして外の景色も見ることができるようになると思いますよ。」

「あらあら、マルコが居ると本当に退屈しなくて済みそうね。
 そう言えば、この船も馬車と同じで空間拡張とかしているの?」

「はい、他所よその人には見せられませんけれど、義父様とうさま義母様かあさまの部屋に別室につながっている扉がありますのでそこを抜ければ、馬車と同様に広い居間や食堂、それに工房にもつながっていますので利用できますよ。
 それらは馬車と全く同じ空間を利用しています。
 滅多には無いと思いますけれど、他所よその人が訪れた際には最低限のスペースしかお見せできないことになりますね。
 万が一、船酔いがする場合には、居間や工房などに避難してください。
 向こうはそもそも空間が違いますので揺れは全く感じないはずです。
 では、取り敢えず船内をご案内しましょう。」

 船には乗員の寝所も備えられています。
 乗員室は二段ベッドが置かれているだけのスペースしかないのですけれど、立派なベッドがついているだけましというものです。

 但し、船員の内名目上船長になる者だけの部屋は一人部屋となっているんです。
 カラガンダ翁が知っている下級船員の部屋は、横から潜り込んで寝るだけの三段若しくは四段の寝床だった。

 碌に掃除もできていないから酷い匂いがしていたことを覚えている。
 大洋を航海する船は、旅客や貨物が優先であり、船員の居住環境は非常に劣悪なのだ。

 この船は新しいので綺麗であり、とても居心地が良さそうに見える。
 カラガンダ夫妻の寝室は、狭いながらも二人が寝起きするには十分なスペースがある。

 但し、ここは見せかけだけの寝室であり、これまで使っていた広い寝室が別空間にあり、夫妻は余程のことが無い限りそちらで生活することになる。
 マルコの一人部屋も小さかったが、同様に見せかけだけの部屋になる。

 倉庫には箱詰めの保存食糧などが一応置かれてはいるが、こちらも見せかけだけのもので普段使うのはマルコの亜空間庫に保管されている新鮮な食料を使うことになる。
 このほかに台所、シャワー室、トイレなど生活に必要な施設は揃っているものの、他所よその人が利用するかもしれないという程度のものだ。

 船橋には見慣れぬ魔道具が並んでおり、カラガンダ翁も流石に見当がつかない。
 そこで初めて、マルコがビル船長に指示をして船を動かし始めた。

 生憎と海から陸に向けて吹く弱い風なので逆風になるのだけれど、マストを押栓一つで伸長させると高さが二十尋ほどになるマストが出現、当該マストに隠されていたブームが後方に張り出して、メイン・セイルが伸展するとともに、ジブ・セイル用のワイヤーが張り、畳まれていたジブ・セイルが自動的に張られて、風に対して斜めにゆっくりと走り出した。
 船の進路を定めてやるとほぼ自動で航行できるようなシステムになっているのです。

 船の周辺については、魔導センサーで常時把握できているために、AIシステムが陸岸や暗礁などの障害物は自動的に避けてくれるのです。
 この航行システムは海上の二次元平面だけでなく、海中の三次元空間そのものを把握している優れものなので、潜航中も問題が無い筈なのです。

 今のところ、アルビラに近い海域にいるために他人目ひとめにつく恐れもあるので、当面は帆走のみで航行することになるのです。
 ある程度陸から離れたら、魔導推進で航行する予定で居るのです。

 何しろこれがこの船の処女航海ですし、未だに機能確認も性能試験もしていません。
 これから三日程度は慣らし運転を兼ねた試運転ですね。

 アンドロイド型ゴーレムについては、必要な航海技術の知識は与えていますので、乗員だけでなく執事やメイドを含めて全員が操船できるはずです。

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 11月3日、字句の一部修正を行いました。
 11月9日、都合により船長役のアンドロイド型ゴーレムの名を「ファーレン」から「ビル」に変更しました。

  By サクラ近衛将監
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