母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第四章 東への旅

4ー16 オチシでのクエスト

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 翌日の朝方、マルコはオチシの冒険者ギルド支部に来ています。
 朝の忙しい時期は過ぎて、今は、ギルド内も人はまばらです。

 マルコはひとまず受付に行き、「転入・一次滞在届」を出しました。
 これを提出することにより、アルビラで登録した冒険者の記録がオチシに登録しなおされ、オチシでの冒険者としての活動ができるのです。

 勿論、12歳未満であるために魔木クラスのクエストしか受けられませんが、オチシで活動することにより引き続き登録カードは有効期間を延長することが可能となるのです。
 今回は一時滞在届ですが、オチシに長く滞在して冒険者の活動を続ける意図がある場合は転入及び拠点登録をすることでその意思を示すことができます。

 今回は飽くまで一時的な滞在ですので一時滞在届になるわけです。
 アルビラの受付嬢の説明では、一時滞在届でも拠点登録届け出でもその効果は変わりませんが、拠点登録をした方がギルドからの情報提供の内容が地元に特化して濃くなるのだそうです。

 オチシの冒険者ギルドの受付嬢は、狐耳の獣人、シェアリアさんでした。
 シェアリアさんの年齢は19歳と簡易鑑定に出ていましたね。

 目で見えるオーラの状態から、マルコの見えている範囲に高位の魔力を持っている者が居ないと判断できたので、簡易鑑定で一応の人物を確認したわけです。
 此処のギルドの受付嬢は二人いるようですが、やはり受付嬢は美人を揃えるようですね。

 一時滞在届の手続きが終わると、次いでクエストが張られているボードの前に移動して確認です。
 既にめぼしいクエストは朝のラッシュ時に冒険者たちによって受注されており、残っているのはうま味の少ないクエストか常設依頼だけなのです。

 常設依頼でマルコが受けられるのは、薬草採取が定番なのですけれど、面白いことにオチシでは食用可能な植物の採取がクエストとして張り出されていました。
 ケモミミの受付嬢シェアリアさんに確認しましたら、リーベンは、沿岸を流れる暖流の影響で温暖な気候であるために、周年を通じてこのクエストがあるそうで、食用可能な野草、地下茎、果実が時価で買い取られるのだそうです。

 そうして各冒険者のクラスにより採取のための捜索範囲があらかじめ区分されているのだそうです。
 この食用の植物採取は、もともとリーベンでの薬草採取が危険地帯である山岳地帯に入らないと難しいこともあって、その代わりに始まったクエストのようです。

 都市部若しくは集落から離れれば離れるほど、魔物の棲息密度が濃厚になるとともに魔物が強力になってきますので、魔木クラスの冒険者は遠出そのものが危険となり、どうしても行動範囲は近場に限られるのです。
 また、その範囲では薬草が少ないために非常に採取しにくいという状況ができているのだとか。

 リーベンの住民が野草や植物性の漬物を好んで食べる風習があるので、食用植物の採取は結構な需要のあるクエストのようですが、無論単価はそれほど高いものではありません。
 この為に、魔木トレントクラスが活動できる範囲にある食用可能な野草、地下茎、果実が主にクエストとされているのだそうです。

 従って、魔木クラスの冒険者は活動できるエリアが能力的に限定されているということですね。
 オチシでは、アルビラの下水道掃除のような美味しいクエストはありませんでしたが、アルビラに比べると街中での雑用クエストはかなり多めみたいに見えます。

 張り出されている中に報酬の多いクエストは残っていませんので、残っているのは面倒な仕事か報酬の安いクエストだけですね。
 ざっとみて、受注が無いことで困っているような依頼がある様子でもないことから、街中でのクエストは取り敢えず見合わせ、常設依頼の薬草採取と野生の植物性食材採取を行うことにしました。

 常設依頼の場合でも、オチシの町から出るクエストについては、クエストで向かう地域や大枠の予定などを届け出る必要があります。
 マルコは、オチシの南西部に拡がる草原地帯で食用植物を採取する届出書を提出しました。

 その際に、シェアリア嬢からはこの時期に高値で買い取りをしてくれる食用の野生植物の絵図をいただきました。
 ある意味で、これらの植物があれば取ってきてほしいというギルドの意思表示なのでしょう。

 他所から来たマルコの場合その希少価値はわかりませんが、できる範囲で探すことにいたしましょう。
 という訳で、南中時までには未だ一刻ほど時間がある時間帯にオチシの南側門を出ました。

 この門は日没時には閉鎖され、緊急事態でないと開いてもらえませんからそれまでには戻ってくる必要があります。
 この日没と言う概念も場所により曖昧です。

 地平線若しくは水平線に太陽が沈んで見えなくなる時期を日没と言うところが多いのですけれど、概ね20歩先の標識の大きな文字が見えなくなったら日没という場所もありますね。
 西に水平線を要している地域(例えばニオルカン)や大草原地帯は、概ね前者が多く、周囲を山で囲まれた山間部などや東に海が見えるアルビラなどは後者を採用しているのです。

 何れにしろ、マルコはオチシの南西部に拡がる草原地帯にやってきました。
 草原地帯とは言いながら小規模な林や灌木類はかなり多いところです。

 地面の起伏は緩やかで、道を外れるとマルコの身長の半分ほどもある雑草が生い茂っています。
 で、早速センサーを使って植生を調べてみました。

 雑草が大半の藪の中にも、薬草や食用植物があるようです。
 魔物はほとんどいないのですけれど湿地上の場所にはスライムが居るようです。

 危険動物はそれなりに居るようです。
 毒虫のサソリベヒチュンムカデジネィ、毒蛇のナーグやタイバンですね。

 特に草地や藪に入る場合は、ダニティカノミチェニィシラミジュゥンヒルファハディなどの微生物にも要注意です。
 吸血の際に病原体を体内に送り込むために、数日後若しくは数年後に特殊な病を発病する場合もありそうです。

 詳細鑑定をかけて調べましたので間違いがありません。
 ウーン、これはもしかすると冒険者に教育が必要でしょうか?

 途中見かけたマルコよりも少し年上の子供は、特段の防護措置をしていないような気がします。
 勿論、体内に抗体があれば問題は無いわけですけれど、・・・・。

 マルコの場合、フード付きのケープを羽織り、手には手袋、脚には脚絆を巻いて極力肌を露出させないようにしています。
 マルコの場合、そもそも体の表面に薄い結界バリアーを張っていますので、毒虫、寄生虫、病原体などが体内に侵入することはありませんし、万が一侵入したとしても状態異常耐性が非常に高いので、発症することなく死滅するでしょう。

 その日、陽が傾き始めたころまでに見つけて採取したものは、薬草三種ロンガン、イリタブレ、ケラを、食用植物では灌木の実でリーチィとカロンダ、つる植物になる小果実のチリラキです。
 マルコは自分で作った大きなリュックを背負っているのですけれど、それがほぼ満杯になったので、陽はまた高いのですけれど、今日の作業はおしまいとして帰ることにしました。

 オチシでは宿は取っていませんので、港に接岸中のグリモルデ号へ戻ることになります。
 オチシの南門につながる道路に出て歩いていると前方に相方に肩を貸しながらよろよろと歩いている子供二人を見つけました。

 肩を貸されている方は足元がおぼつかなげです。
 マルコが鑑定を掛けると、その原因が分かりました。

 男の子が藪の中で毒蛇のナーグに噛まれたようです。
 男の子二人はマルコと同じ魔木クラスですが、初心者故の準備不足でしょうか、毒蛇に効く血清や抗毒ポーションなどは持っていないようです。

 仮にあったとしても高価なので魔木クラスの冒険者が通常持ち歩くようなものではないですね。
 このまま放置すれば、噛まれた男の子の方は死ぬことになります。

 見つけてしまった以上は見過ごすことはできません。
 ため息をつきながら駆け足で二人に近寄るマルコです。

「どうしたの?
 必要なら手助けするよ?」

「あぁ、助かる。
 ダグが赤蝮ラールナーグに噛まれたんだ。
 町に戻って薬師に見せないとダグが死んじゃう。」

「わかった。
 でも、ここから町まで運ぶんじゃ、間に合わないよ。
 地面に彼を寝かせてくれる。
 僕が持っている抗毒ポーションを試してみたい。
 上手くすれば助かるかも知れない。」

「本当か?
 でも、俺たち金は無いぞ。」

「金は要らないよ。
 取り敢えず貸だね。
 将来、金儲けができるようになったらその時に返してもらえば良いよ。」

 マルコは、ラールナーグを探し出し、その毒素から抗毒ポーションをその場で作り出した。
 勿論、目の前にいる少年たちに気づかせるようなへまはしない。

 その上で腰のポーチから小瓶に入った抗毒ポーションを取り出して、半分を左足の噛み傷にかけ、もう半分をなかば意識朦朧もうろうとなっているダグと言う少年に飲ませた。

 効果は劇的だった。
 シュワシュワと噛み傷が泡立って、やがて消えた時にはほとんど跡が残っていなかった。

 また、土気色に近かった顔色に血の気が戻ったようだ。
 但し、体内に残る毒素のために、元の健康体に戻るにはもう少し時間がかかりそうだ。

 本当はその場で安静にしておくのが一番良いのだろうけれど、この場所からなら普通に歩けても日没にかかるかも知れない距離なのだ。
 この付近は比較的安全な場所とは言いながら流石に野宿はまずい。

 従って、近くの木の枝を切り取って二本の棒にし、それに二本の桁を取り付け、蔓を巻いて担架状のものを造り、頭を上にして斜めに寝かせて引きずるような形で曳くことにした。
 此処から南門までは10ケブーツ余り、担架で両端を持って運ぶと、マルコは大丈夫でも、おそらくもう一人の子の体力が持たないだろう。

 足元の方が揺れても体の上半身があまり揺れなければ大丈夫と判断して実行した。
 走るわけには行かないものの、二人で曳けば普通の速度で移動できるのだ。

 そのようにして日没前には、南門に到達できたのだった。
 毒蛇に噛まれた少年の名は「ダグディル」で「ダグ」と呼ばれている。

 もう一人の少年は「オコンネル」と言う名で「ネル」と呼ばれている様だ。
 マルコも一応マルコとだけ名乗っておいた。

 オチシに滞在するのも長くは無い筈なので、商人の養子であることをわざわざ告げる必要も無いでしょう。
 最終的に、太守邸での晩さん会などもあって、オチシ滞在は足掛け五日になりました。

 そうして太守一家の見送りを受けながらグリモルデ号はオチシを出港し、リーベンの西海岸沿いに南下してリーベンの都ツロンに向かいます。
 あぁ、ついでにオチシ滞在中に、ゴーレム達と共に出動し、闇夜の中で海賊の根城を潰しておきました。

 虜囚になっていた人達は牢獄のカギを壊しておきましたので、自分たちで助けを呼ぶことが可能なはずです。
 虜囚となっていた中に漁師の奥さんや娘さんがいて、小型船ならば動かせるのです。

 一応、マルコ達が匿名で通報することもできますけれど、色々と事後処理が面倒になる可能性もあるので、彼女たちに委ねることにしたのです。
 一応、時折マルコが陰ながら見守っていましたけれど、彼女たちの選抜隊は見事にリーベン北端の町に到達し、最終的に海賊の巣窟に囚われていた虜囚全員が救助されましたよ。


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 12月12日、一部の字句修正を行いました。

  By サクラ近衛将監

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