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第五章 サザンポール亜大陸にて
5ー20 ヨルドムル その四
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カラガンダ夫妻とともにコンサートを聴きに行ったマルコでしたが、開演中に貴賓席のテラス席に居た12歳の少女が急病になるというアクシデントがありました。
マルコは多少の危険性を承知しながらも見て見ぬふりはできずに、遠隔で救命処置を施したのです。
誰にも気づかれないと思って動いた結果でしたが、生憎とマルコ達とはちょうど向かい側になる二階のテラス席に居た教会関係者のデミリスが魔法の動きを見てしまったのです。
デミリスも演壇正面に当たる貴賓席で急病人が発生した直後の騒ぎを見て、何か異変が生じたことを察知していました。
演奏の最中に小さな叫びをあげ、なおかつ周囲にいた従者数人が慌てふためいている様子なのですから、気づかないわけもないのです。
生憎とデミリスは聖人と呼ばれるような治癒能力を持つ者ではありませんし、そもそも、貴賓席で何が起きているかを正確に把握できては居ませんでした。
彼の特技はどちらかというと誰かが魔法を行使した際の魔力の流れや初動が分かるというものでした。
この能力はどちらかというと暗殺者などが攻撃魔法を発動する場合にその魔法が形になる前に察知し、場合により未然に防止できるという意味合いのモノなのです。
デミリスは、教会に務めており、聖職者の要人警護の任に就く護衛スタッフの一人なのです。
デミリス一人では、魔法発動を止めることはできませんが、もう一人の警護スタッフであるライノビルが、防護魔法を周囲に展開することで暗殺等を防ぐことができるのです。
ライノビルの防護魔法は珍重すべき能力ですけれど生憎と長時間の行使はできません。
精々が四半時程度の時間内で周囲に結界を張って魔法攻撃を防ぐことができるだけなのです。
但し、この魔法は移動しながらでも使えますので、魔法の及ばない場所まで避難すれば危険を回避できるわけです。
暗殺に使えるような魔法を使えることそのものが稀有な能力ですし、20ブーツも距離が離れると致死性の効果がほぼなくなることが多いのです。
従ってデミリスが要注意とすべき者は、警護対象者の10ブーツ前後に近づく者だけなのです。
このために向かい側の席になるテラス席などはその対象から外れる場所なので左程注意はしていませんでした。
そもそもクロキオン宗主国は、サザンポール亜大陸の二大宗派からは教義の異なる異端宗派として認定されているために、それら宗派の過激な教徒から聖職者が狙われるという事件がたびたび発生しているのです。
最近では数年前に総主教が首都で演説中に狙われるという事件が発生し、その際にデミリスやライノビルと同じような能力を有する警護スタッフが暗殺を防いでいるのです。
このような情勢から、一定以上の職にある聖職者には警護スタッフがついているのが普通なのです。
この日デミリスは、地区の副司教のお供で警護を兼ねながらディ・ファルバーナ音楽堂でのコンサートを聴きに来たのです。
警護スタッフでありながらも従者ではないので、デミリスやライノビルも席に座っていました。
貴賓席で騒ぎが起きたことに気づいてから百以上も数えるほどの時間が過ぎたころ、その向かい側のテラス席から薄い色合いの魔法がほんの短い間に投射されたことがデミリスには分かりました。
魔法の色はやや金色の色合いを帯びていたのでおそらくは治癒魔法の類ではないかと思うのですけれど定かではありません。
おまけに発動の瞬間を見逃していたので、当該テラス席にいる人物5名のうち誰が発動したものなのかは不明なのです。
魔法の発動があって、その効果が貴賓席に到達したことでようやく気付いたわけなので、おおまかな方向はわかっても発動元までは突き止められなかったというのが真相です。
デミリスがまず驚いたのは、貴賓席までの距離でした。
デミリスの居るテラス席から貴賓席までは少なくとも25ブーツほどもあるのです。
左右対称の音楽堂の作りから、向かいの席からの距離も同じはずなのです。
常識的には、比較的遠距離に到達する攻撃魔法でさえもこの距離ではほとんど役立ちません。
それなのに治癒魔法をその距離で発動する?
デミリスの頭ではありえないこととして否定し、自分が見たことを忘れるべきものでした。
しかしながら、彼もいろいろ迷いながら、最終的には隣にいるファビオン副司教に小声で報告したのです。
「あるいは私の見間違いかもしれませぬが、貴賓席で何かの騒ぎが起きたそのかなり後で、向かいにあるテラス席から魔法の発動を感じ取りました。
生憎と魔法の発動があった時点は向かいのテラス席を見ていなかったために、誰がなした魔法であるのかはわかりません。
但し、その色合いから発動したのはおそらく治癒魔法の類かと思われるのです。
その魔法の発動の後で貴賓席での騒ぎが沈静化しましたので、治癒魔法であるならばそれなりの効果を発揮したものと思われます。」
「向かいの席から貴賓席に?
なれば伝説のエリアヒールか?」
「いえ、エリアヒールは術者を中心にその周囲に影響を及ぼす治癒魔法と聞いております。
私が気づいた魔法はそのような広い範囲を覆うような魔法ではありませんでした。
敢えて申すならばファイアランスのような一点集中型の魔法に見えました。
正直なところそのような治癒魔法があるなど聞いたこともございませんが、遠隔でも効果のある特定の対象者を狙った治癒魔法というものがあるのでしょうか?」
「いや、儂も多少の治癒魔法を扱えるが、そのような魔法があると聞いたことはない。
貴賓席まではここから25ブーツほども離れていよう。
この距離で魔法を届かせようとするならば、途轍もない魔力が必要となるのだが・・・。
デミリス、そなた、魔力の保持者も感知できよう。
左程に強大な魔力の持ち主が向かいのテラス席におるのか?」
「いいえ、今見る限りはそのような大きな魔力の保有者はおりません。
従って、あるいは私の見間違えかも知れないことから、最初にそのように申し上げました。」
「ふむ、但し、それがもし事実であるならば由々しきことになるやもしれぬ。」
ファビオン副司教はしばし考慮したうえで、背後に控えていた従者に向かって言った。
「マールテン、至急貴賓席で何が起きたのかを確認なさい。
くれぐれも貴賓席に居られる方の対面を汚すことの無き様注意してな。
それと今一つ、我らの対面のテラス席にいる御仁の身元を密かに探ってくれ。
これもかなりの要人と思われる故、同じく相応の配慮をして調べよ。
コンサートも間もなく終わる故、今からでは難しいかもしれぬが、明日の昼までには報告を頼む。」
かくしてマルコ達のテラス席の向かいに居るテラス席での話し合いが終わったのである。
翌日の午前中には、副司教は従者のマールテンから報告を聞いていた
貴賓席に居たのは、宗主国の北にあるアルトシュタイン公国のモリブ侯爵一行であったこと。
モリブ侯爵の息女であるイマリア様が突然大量の血を吐いて意識不明の重体に陥ったが、幸いにして事後の看病が良かったのか、治癒師に診てもらい、一晩安静にして様子を見たことで、今現在はホボ正常に戻っているとのことである。
モリブ公爵一行は旅の予定を取りやめて、今日一日は安静にし、可能ならば明日にはヨルドムルを発って公国に向かうとのことだった。
マールテンは、診察のために呼ばれた治癒師からも話を聞いており、モリブ侯爵が息女イマリア様のご病気が何であったのかは不明であるが、喀血の様子から、内臓もしくは肺臓の病気の疑いの可能性もあり、あるいは不治の病『タピデク』やもしれないので、可能な限り接触者を限定するように注意したそうだ。
タピデクは、治癒魔法の効かない難病で有り、治癒師も薬師もともに匙を投げる不治の病である。
この病にかかると痰、咳が多くなり、時に喀血する。
また、徐々に身体が衰弱してやせ衰え、ついには死に至る恐ろしい病気である。
生憎と宗主国でもタピデクを治癒できるような聖人は居ない。
今現在は病状も安定しているが、今後はわからないというのが治癒師の見立てである。
発病したイマリア嬢は12歳だと聞いており、若くしてタピデクに罹ったのであれば余程に運の無いことである。
今一つの調べで、向かいのテラス席に居たのは、隣の大陸からサザンポール亜大陸に旅行に来た大商人の家族のようだ。
家督を長男に譲った元大商人であって、末っ子とともに亜大陸を観光旅行中とのことだ。
旅館はヨルドムルでも一、二を争う高級宿である。
旅は、家族三人と従者が二人、御者と警護のもの四人を加えた十人での旅のようだ。
マールテンは、使用している馬車を確認したが、外面にさほど装飾は施されてはいないものの、造り自体は王国貴族が用いる馬車と同等もしくはそれ以上のものと判断したようだ。
マールテンは目利きのできる従者であり、ファビオン副司教は折につけ重宝している人材である。
ファビオン副司教は独り言のようにつぶやいた。
「他大陸からの旅行者ともなれば取り込みは難しいじゃろうな。
そもそも治癒魔法を使ったという証拠が無い。
タピデクが瞬時に快癒したような状況であれば、宗主国聖騎士を動かしても身柄を確保するのだが、魔力量の事も有之、無理を押し通すのは危ないだろうな。
下手をすれば宗主国のメイン産業である観光客を減らすことにつながりかねない。
此処は様子見だろうな・・・。」
それから、マールテンに再度の指示を出した。
「モリブ侯爵の息女の情報については、今後も情報収集を続けてくれ。
それから、その旅人カラガンダ・モンテネグロの一行は、いずれマイジロン大陸に戻るであろう。
その際には、この宗主国を再び訪れるやもしれぬ。
出国した後、再度の入国があった場合には、即座に儂にその旨の連絡があるよう手配してくれ。」
ファビオン副司教のこの指示は無駄になった。
マルコ達一行は、帰路に宗主国を訪れることはない。
一行が、サザンポール亜大陸東端に達したなら、カラガンダ夫妻はマルコの転移能力によって一気にニルオカンへ送り届けられ、夫妻の歳からみても二度と宗主国へ来ることは無いのである。
マルコのなした善行により、アルトシュタイン公国のモリブ侯爵の娘イマリア嬢は、不治の病であったタピデクを克服し、四年後には公国の上級貴族の妃として嫁ぎ、その後も50年を子孫とともに過ごして大往生した。
因みに、イマリア嬢の病気はこの世界ではタピデクとして知られる変性結核である。
マルコは治癒魔法を行使するとともに抗生物質の薬剤を生み出して、イマリア嬢に投与したのでした。
仮に、ファビオン副司教が搦め手なりで、一行の捕縛に動いたならば、その時点でマルコ達は隣の国へと転移で逃亡していたでしょう。
そのための準備として常に逃亡先を準備しているマルコなのです。
マルコは多少の危険性を承知しながらも見て見ぬふりはできずに、遠隔で救命処置を施したのです。
誰にも気づかれないと思って動いた結果でしたが、生憎とマルコ達とはちょうど向かい側になる二階のテラス席に居た教会関係者のデミリスが魔法の動きを見てしまったのです。
デミリスも演壇正面に当たる貴賓席で急病人が発生した直後の騒ぎを見て、何か異変が生じたことを察知していました。
演奏の最中に小さな叫びをあげ、なおかつ周囲にいた従者数人が慌てふためいている様子なのですから、気づかないわけもないのです。
生憎とデミリスは聖人と呼ばれるような治癒能力を持つ者ではありませんし、そもそも、貴賓席で何が起きているかを正確に把握できては居ませんでした。
彼の特技はどちらかというと誰かが魔法を行使した際の魔力の流れや初動が分かるというものでした。
この能力はどちらかというと暗殺者などが攻撃魔法を発動する場合にその魔法が形になる前に察知し、場合により未然に防止できるという意味合いのモノなのです。
デミリスは、教会に務めており、聖職者の要人警護の任に就く護衛スタッフの一人なのです。
デミリス一人では、魔法発動を止めることはできませんが、もう一人の警護スタッフであるライノビルが、防護魔法を周囲に展開することで暗殺等を防ぐことができるのです。
ライノビルの防護魔法は珍重すべき能力ですけれど生憎と長時間の行使はできません。
精々が四半時程度の時間内で周囲に結界を張って魔法攻撃を防ぐことができるだけなのです。
但し、この魔法は移動しながらでも使えますので、魔法の及ばない場所まで避難すれば危険を回避できるわけです。
暗殺に使えるような魔法を使えることそのものが稀有な能力ですし、20ブーツも距離が離れると致死性の効果がほぼなくなることが多いのです。
従ってデミリスが要注意とすべき者は、警護対象者の10ブーツ前後に近づく者だけなのです。
このために向かい側の席になるテラス席などはその対象から外れる場所なので左程注意はしていませんでした。
そもそもクロキオン宗主国は、サザンポール亜大陸の二大宗派からは教義の異なる異端宗派として認定されているために、それら宗派の過激な教徒から聖職者が狙われるという事件がたびたび発生しているのです。
最近では数年前に総主教が首都で演説中に狙われるという事件が発生し、その際にデミリスやライノビルと同じような能力を有する警護スタッフが暗殺を防いでいるのです。
このような情勢から、一定以上の職にある聖職者には警護スタッフがついているのが普通なのです。
この日デミリスは、地区の副司教のお供で警護を兼ねながらディ・ファルバーナ音楽堂でのコンサートを聴きに来たのです。
警護スタッフでありながらも従者ではないので、デミリスやライノビルも席に座っていました。
貴賓席で騒ぎが起きたことに気づいてから百以上も数えるほどの時間が過ぎたころ、その向かい側のテラス席から薄い色合いの魔法がほんの短い間に投射されたことがデミリスには分かりました。
魔法の色はやや金色の色合いを帯びていたのでおそらくは治癒魔法の類ではないかと思うのですけれど定かではありません。
おまけに発動の瞬間を見逃していたので、当該テラス席にいる人物5名のうち誰が発動したものなのかは不明なのです。
魔法の発動があって、その効果が貴賓席に到達したことでようやく気付いたわけなので、おおまかな方向はわかっても発動元までは突き止められなかったというのが真相です。
デミリスがまず驚いたのは、貴賓席までの距離でした。
デミリスの居るテラス席から貴賓席までは少なくとも25ブーツほどもあるのです。
左右対称の音楽堂の作りから、向かいの席からの距離も同じはずなのです。
常識的には、比較的遠距離に到達する攻撃魔法でさえもこの距離ではほとんど役立ちません。
それなのに治癒魔法をその距離で発動する?
デミリスの頭ではありえないこととして否定し、自分が見たことを忘れるべきものでした。
しかしながら、彼もいろいろ迷いながら、最終的には隣にいるファビオン副司教に小声で報告したのです。
「あるいは私の見間違いかもしれませぬが、貴賓席で何かの騒ぎが起きたそのかなり後で、向かいにあるテラス席から魔法の発動を感じ取りました。
生憎と魔法の発動があった時点は向かいのテラス席を見ていなかったために、誰がなした魔法であるのかはわかりません。
但し、その色合いから発動したのはおそらく治癒魔法の類かと思われるのです。
その魔法の発動の後で貴賓席での騒ぎが沈静化しましたので、治癒魔法であるならばそれなりの効果を発揮したものと思われます。」
「向かいの席から貴賓席に?
なれば伝説のエリアヒールか?」
「いえ、エリアヒールは術者を中心にその周囲に影響を及ぼす治癒魔法と聞いております。
私が気づいた魔法はそのような広い範囲を覆うような魔法ではありませんでした。
敢えて申すならばファイアランスのような一点集中型の魔法に見えました。
正直なところそのような治癒魔法があるなど聞いたこともございませんが、遠隔でも効果のある特定の対象者を狙った治癒魔法というものがあるのでしょうか?」
「いや、儂も多少の治癒魔法を扱えるが、そのような魔法があると聞いたことはない。
貴賓席まではここから25ブーツほども離れていよう。
この距離で魔法を届かせようとするならば、途轍もない魔力が必要となるのだが・・・。
デミリス、そなた、魔力の保持者も感知できよう。
左程に強大な魔力の持ち主が向かいのテラス席におるのか?」
「いいえ、今見る限りはそのような大きな魔力の保有者はおりません。
従って、あるいは私の見間違えかも知れないことから、最初にそのように申し上げました。」
「ふむ、但し、それがもし事実であるならば由々しきことになるやもしれぬ。」
ファビオン副司教はしばし考慮したうえで、背後に控えていた従者に向かって言った。
「マールテン、至急貴賓席で何が起きたのかを確認なさい。
くれぐれも貴賓席に居られる方の対面を汚すことの無き様注意してな。
それと今一つ、我らの対面のテラス席にいる御仁の身元を密かに探ってくれ。
これもかなりの要人と思われる故、同じく相応の配慮をして調べよ。
コンサートも間もなく終わる故、今からでは難しいかもしれぬが、明日の昼までには報告を頼む。」
かくしてマルコ達のテラス席の向かいに居るテラス席での話し合いが終わったのである。
翌日の午前中には、副司教は従者のマールテンから報告を聞いていた
貴賓席に居たのは、宗主国の北にあるアルトシュタイン公国のモリブ侯爵一行であったこと。
モリブ侯爵の息女であるイマリア様が突然大量の血を吐いて意識不明の重体に陥ったが、幸いにして事後の看病が良かったのか、治癒師に診てもらい、一晩安静にして様子を見たことで、今現在はホボ正常に戻っているとのことである。
モリブ公爵一行は旅の予定を取りやめて、今日一日は安静にし、可能ならば明日にはヨルドムルを発って公国に向かうとのことだった。
マールテンは、診察のために呼ばれた治癒師からも話を聞いており、モリブ侯爵が息女イマリア様のご病気が何であったのかは不明であるが、喀血の様子から、内臓もしくは肺臓の病気の疑いの可能性もあり、あるいは不治の病『タピデク』やもしれないので、可能な限り接触者を限定するように注意したそうだ。
タピデクは、治癒魔法の効かない難病で有り、治癒師も薬師もともに匙を投げる不治の病である。
この病にかかると痰、咳が多くなり、時に喀血する。
また、徐々に身体が衰弱してやせ衰え、ついには死に至る恐ろしい病気である。
生憎と宗主国でもタピデクを治癒できるような聖人は居ない。
今現在は病状も安定しているが、今後はわからないというのが治癒師の見立てである。
発病したイマリア嬢は12歳だと聞いており、若くしてタピデクに罹ったのであれば余程に運の無いことである。
今一つの調べで、向かいのテラス席に居たのは、隣の大陸からサザンポール亜大陸に旅行に来た大商人の家族のようだ。
家督を長男に譲った元大商人であって、末っ子とともに亜大陸を観光旅行中とのことだ。
旅館はヨルドムルでも一、二を争う高級宿である。
旅は、家族三人と従者が二人、御者と警護のもの四人を加えた十人での旅のようだ。
マールテンは、使用している馬車を確認したが、外面にさほど装飾は施されてはいないものの、造り自体は王国貴族が用いる馬車と同等もしくはそれ以上のものと判断したようだ。
マールテンは目利きのできる従者であり、ファビオン副司教は折につけ重宝している人材である。
ファビオン副司教は独り言のようにつぶやいた。
「他大陸からの旅行者ともなれば取り込みは難しいじゃろうな。
そもそも治癒魔法を使ったという証拠が無い。
タピデクが瞬時に快癒したような状況であれば、宗主国聖騎士を動かしても身柄を確保するのだが、魔力量の事も有之、無理を押し通すのは危ないだろうな。
下手をすれば宗主国のメイン産業である観光客を減らすことにつながりかねない。
此処は様子見だろうな・・・。」
それから、マールテンに再度の指示を出した。
「モリブ侯爵の息女の情報については、今後も情報収集を続けてくれ。
それから、その旅人カラガンダ・モンテネグロの一行は、いずれマイジロン大陸に戻るであろう。
その際には、この宗主国を再び訪れるやもしれぬ。
出国した後、再度の入国があった場合には、即座に儂にその旨の連絡があるよう手配してくれ。」
ファビオン副司教のこの指示は無駄になった。
マルコ達一行は、帰路に宗主国を訪れることはない。
一行が、サザンポール亜大陸東端に達したなら、カラガンダ夫妻はマルコの転移能力によって一気にニルオカンへ送り届けられ、夫妻の歳からみても二度と宗主国へ来ることは無いのである。
マルコのなした善行により、アルトシュタイン公国のモリブ侯爵の娘イマリア嬢は、不治の病であったタピデクを克服し、四年後には公国の上級貴族の妃として嫁ぎ、その後も50年を子孫とともに過ごして大往生した。
因みに、イマリア嬢の病気はこの世界ではタピデクとして知られる変性結核である。
マルコは治癒魔法を行使するとともに抗生物質の薬剤を生み出して、イマリア嬢に投与したのでした。
仮に、ファビオン副司教が搦め手なりで、一行の捕縛に動いたならば、その時点でマルコ達は隣の国へと転移で逃亡していたでしょう。
そのための準備として常に逃亡先を準備しているマルコなのです。
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