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第五章 サザンポール亜大陸にて
5ー21 竜神様の湖 その一
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クロキオン宗主国のヨルドムルでの五泊六日の観光も無事に終了しました。
ディ・ファルバーナ音楽堂での出来事は、マルコ達の翌日の予定に重大な変更を余儀なくさせる恐れもあったのです。
但し、ファビオン副司教の警護スタッフであるデミリスの魔法行使の残滓をとらえる能力が特殊ではあっても、魔法発動の瞬間を見ていないことから、その痕跡は見つけられても魔法を発動した人物の特定にまで至らなかったことが明暗を分けました。
仮にデミリスがマルコの魔法発動を見ていればマルコが魔法を発動したと特定できたことでしょう。
しかしながら、その瞬間を見ていないばかりか、最上級貴賓席である正面テラス席の貴人の中で騒ぎが持ち上がった際にちらっと見た際には魔法発動の痕跡は無かったのです。
一方でこのような騒ぎの勃発により、デミリスが何らかの陽動の可能性もあるとして一時的に周囲の警戒を厳にしたために、当該貴賓席の監視がおろそかになったのです。
そのわずかの合間にマルコの治癒魔法が発動し、仕事を終えていたのでした。
マルコにとっては幸なことに、マルコ達一行に何らかの疑いは持たれても魔法発動による障害が発生していなければ、それを表沙汰にすることはデミリス達警護側にとっても無駄な作業と警護の能力を知られることになるので、避けたい事なのでした。
従って、その残滓の色合いから治癒魔法ではないかとの推測はしていても、それが害をなすものとは思われなかったことから、副司教もその警護陣も様子見に入ったので、マルコ達のその後の旅程は妨げらずに済んだのです。
かくして、マルコ達は6日目の早朝にヨルドムルを発つことができました。
この後、クロキオン宗主国内での予定は特になく、シナジル往還を東へと進みながら順次宿場町を辿って行きました。
ヨルドムルを発って十日が過ぎ、順調に東進を続けるマルコ達一行ですが、次の滞在予定地は、サザンポール亜大陸で竜神の棲む湖の伝説で有名なラディオン・ブルク共和国のブラノスです。
湖の名前は、タスィ・ディラ・ナグ。
ケサンドラスの図書館でマルコが調べた紀行文によれば、『タスィ・ディラ・ナグ』とは、この地域の古い言葉で「水神の湖」という意味なのだそうです。
紀行文にはブラノスに古くから伝わる御伽噺が紹介されていました。
『昔々、ブラノスがディル・ウラノスと呼ばれていたころ、北の山地にある水源地から流れる水路に異変が起きました。
水路の途中にある峡谷で大規模ながけ崩れが起きて、その際に地中に埋まっていた忌まわしきものが水に流れ込み、そのためにディル・ウラノスの湖を含めて下流域は生き物の住めない死の地域となりかけたのです。
ディル・ウラノスの集落でも多くの人々が病に倒れ、死の街になりかねない状態になっていました。
その時、天に居わした水神様がこれを見かねて下界に降臨され、ディル・ウラノスの傍にある湖に棲んで水を浄化されたので、ディル・ウラノスの人々は救われたのです。
湖畔の一角にある水神様を祀った祠は、永く周辺住民の感謝と尊敬を集めるようになりました。
この祠は入り口に青い二本の巨大な柱を配し、その奥に比較的大きな石洞があって、その中に庵を造って祀られているのです。
この地の水神信仰は根強く、ディル・ウラヌスがブラノスと名を変えてから七百年以上も経つのに未だに水神(竜神)様が信じられているのです。』
サザンポール亜大陸にあまねく広がるポーレン教の勢力下にありながら、地域だけの特殊な神を崇めるところは非常に稀なのです。
一つにはポーレン教が、主神ポーレン以外の神を敬うことを禁じていて、場所によってはあからさまな迫害を行っているからです。
その意味では水神様を信仰する地域が残っているのは極めて珍しいと言えます。
その理由の一つには、ラディオン・ブルク共和国において優勢なのが、少数派のブリミオン派であって、主神ポーレン以外の神の存在を必ずしも否定せず容認する姿勢だからなのかもしれません。
マルコは、そうした耳学問のお話を旅路の馬車の中でカラガンダ翁やステラ媼に話して聞かせています。
旅の行く先について何事かの予備知識を得ておくことは、現地に赴いた際に見るべきものをあらかじめ大まかに決めておくことも可能になります。
その意味ではマルコは書籍の虫ですね。
宿に置かれていて客が自由に読めるような書籍ならば何でも目を通しているのです。
本来であればマルコの年齢ならば読んではいけないようなきわどい性描写が記載された官能本やエロ本的なモノまで、目についたものは何でも読んでいます。
前世の研究者や錬金術師や魔導士の記憶がマルコを博学にし、同時にこの世界での知識との比較検証を行っているのです。
因みに、タスィ・ディラ・ナグは、北部山地の水系が一旦まとまる場所であり、西側にある出口から、先の河川をウデプ河といい、タスィ・ディラ・ナグ湖から端を発した大河は、サザンポール亜大陸の南西部を蛇行しながら海に注いでいるのです。
その河川総延長は、およそ5600里(約4000㎞)に及ぶけれど、生憎とこの世界では測量技術が発達していないことと多国間にまたがる河川の長さや詳細な地図は、国ごとに秘匿している状況なので正確な長さは知られていないのです。
5600里という概算の数値は、マルコが魔道具のドローンを造って、高空に飛ばしてサザンポール亜大陸各地域の簡易測量を事前に行うとともに概略の地図を作製した際に割り出した数字なのです。
その地図によれば、タスィ・ディラ・ナグは略東西に細長い湖で、最大長は31.3里(≒34㎞)、南北の最大幅は16,7里(≒12㎞)と、概ね琵琶湖の半分ほどの面積を有する湖なのです。
この世界における広さの単位については、地域や国家によってかなりばらつきがあるものの、概ね3ブーツ四方の広さを、1クレス(≒4.67㎡)と言います。
また、180~200ブーツ四方の広さが3600~4000クレスで、この広さが概ね新市街を作る際の目安になっていることが多いようです。
国や地域によって多少の誤差はあるようですけれど1ブロックの街の広さを1バンダと称しています。
因みに180~200ブーツ四方の中間をとって、190ブーツ(≒137m)四方を1バンダとすると、タスィ・ディラ・ナグの広さは概算で8900バンダほどになります。
そうして夕刻にタスィ・ディラ・ナグの西端付近に位置するブラノスに到着したマルコ達一行ですが、宿を探して街中をゆっくりと移動中、マルコは何となく違和感を覚えました。
危険が近づいていると何となく予知めいたものを感ずる場合があるのですけれど、それとも違う違和感で、何となく周囲に居るはずの妖精がざわついているような気がしたのです。
生憎と初めての感覚なので理由が分かりません。
危険を察知しているならばマルコはすぐにもこの地を離れますけれど、そうした切迫感はありません。
但し、どんよりとした重圧感のようなものを感じており、それと同時に普段はおとなしいはずの妖精がざわついていると感じるのです。
生憎と、妖精に問いただしても彼らにも理由はわからないようです。
湖を巡る周回路の長さはおおよそで130里ほどありますので、マルコの馬車で有れば1日で周回することも可能です。
風光明媚な観光地としては湖の東南部に位置するオシャロが有名であり、同時にそこには温泉もあるのです。
従って当初の予定では、その日はブラノス泊まり、翌日にブラノスに近い水神様の祠に参詣し、そこからオシャロに行って温泉泊まり、翌日に北回りで湖岸を周回してブラノスに戻ってくる予定なのです。
そのために湖畔では三泊になりますね。
ブラノス到着当日は何事もなく過ぎましたけれど、マルコはブラノスに入る手前からずっと肌に絡みつくような微妙な圧力を感じていました。
まるで水の中に潜って少し高めの水圧を全身に受けているような感じなのです。
マルコが結界を張ってもあまり効果は無いので、物理的な影響ではなくって心理的なモノなのかもしれません。
但し、闇魔法による精神攻撃を受けているわけではないのです。
念のために、カラガンダ翁とステラ媼にも尋ねてみましたは、二人には何の違和感も無いようです。
マルコは寝る前に色々試してみましたが、最後は諦めてふて寝のように寝てしまいました。
翌朝起きても依然として状態は変わらないようです。
何かはわかりませんが、仕方がないので当面この感覚とお付き合いせざるを得ないようですね。
ディ・ファルバーナ音楽堂での出来事は、マルコ達の翌日の予定に重大な変更を余儀なくさせる恐れもあったのです。
但し、ファビオン副司教の警護スタッフであるデミリスの魔法行使の残滓をとらえる能力が特殊ではあっても、魔法発動の瞬間を見ていないことから、その痕跡は見つけられても魔法を発動した人物の特定にまで至らなかったことが明暗を分けました。
仮にデミリスがマルコの魔法発動を見ていればマルコが魔法を発動したと特定できたことでしょう。
しかしながら、その瞬間を見ていないばかりか、最上級貴賓席である正面テラス席の貴人の中で騒ぎが持ち上がった際にちらっと見た際には魔法発動の痕跡は無かったのです。
一方でこのような騒ぎの勃発により、デミリスが何らかの陽動の可能性もあるとして一時的に周囲の警戒を厳にしたために、当該貴賓席の監視がおろそかになったのです。
そのわずかの合間にマルコの治癒魔法が発動し、仕事を終えていたのでした。
マルコにとっては幸なことに、マルコ達一行に何らかの疑いは持たれても魔法発動による障害が発生していなければ、それを表沙汰にすることはデミリス達警護側にとっても無駄な作業と警護の能力を知られることになるので、避けたい事なのでした。
従って、その残滓の色合いから治癒魔法ではないかとの推測はしていても、それが害をなすものとは思われなかったことから、副司教もその警護陣も様子見に入ったので、マルコ達のその後の旅程は妨げらずに済んだのです。
かくして、マルコ達は6日目の早朝にヨルドムルを発つことができました。
この後、クロキオン宗主国内での予定は特になく、シナジル往還を東へと進みながら順次宿場町を辿って行きました。
ヨルドムルを発って十日が過ぎ、順調に東進を続けるマルコ達一行ですが、次の滞在予定地は、サザンポール亜大陸で竜神の棲む湖の伝説で有名なラディオン・ブルク共和国のブラノスです。
湖の名前は、タスィ・ディラ・ナグ。
ケサンドラスの図書館でマルコが調べた紀行文によれば、『タスィ・ディラ・ナグ』とは、この地域の古い言葉で「水神の湖」という意味なのだそうです。
紀行文にはブラノスに古くから伝わる御伽噺が紹介されていました。
『昔々、ブラノスがディル・ウラノスと呼ばれていたころ、北の山地にある水源地から流れる水路に異変が起きました。
水路の途中にある峡谷で大規模ながけ崩れが起きて、その際に地中に埋まっていた忌まわしきものが水に流れ込み、そのためにディル・ウラノスの湖を含めて下流域は生き物の住めない死の地域となりかけたのです。
ディル・ウラノスの集落でも多くの人々が病に倒れ、死の街になりかねない状態になっていました。
その時、天に居わした水神様がこれを見かねて下界に降臨され、ディル・ウラノスの傍にある湖に棲んで水を浄化されたので、ディル・ウラノスの人々は救われたのです。
湖畔の一角にある水神様を祀った祠は、永く周辺住民の感謝と尊敬を集めるようになりました。
この祠は入り口に青い二本の巨大な柱を配し、その奥に比較的大きな石洞があって、その中に庵を造って祀られているのです。
この地の水神信仰は根強く、ディル・ウラヌスがブラノスと名を変えてから七百年以上も経つのに未だに水神(竜神)様が信じられているのです。』
サザンポール亜大陸にあまねく広がるポーレン教の勢力下にありながら、地域だけの特殊な神を崇めるところは非常に稀なのです。
一つにはポーレン教が、主神ポーレン以外の神を敬うことを禁じていて、場所によってはあからさまな迫害を行っているからです。
その意味では水神様を信仰する地域が残っているのは極めて珍しいと言えます。
その理由の一つには、ラディオン・ブルク共和国において優勢なのが、少数派のブリミオン派であって、主神ポーレン以外の神の存在を必ずしも否定せず容認する姿勢だからなのかもしれません。
マルコは、そうした耳学問のお話を旅路の馬車の中でカラガンダ翁やステラ媼に話して聞かせています。
旅の行く先について何事かの予備知識を得ておくことは、現地に赴いた際に見るべきものをあらかじめ大まかに決めておくことも可能になります。
その意味ではマルコは書籍の虫ですね。
宿に置かれていて客が自由に読めるような書籍ならば何でも目を通しているのです。
本来であればマルコの年齢ならば読んではいけないようなきわどい性描写が記載された官能本やエロ本的なモノまで、目についたものは何でも読んでいます。
前世の研究者や錬金術師や魔導士の記憶がマルコを博学にし、同時にこの世界での知識との比較検証を行っているのです。
因みに、タスィ・ディラ・ナグは、北部山地の水系が一旦まとまる場所であり、西側にある出口から、先の河川をウデプ河といい、タスィ・ディラ・ナグ湖から端を発した大河は、サザンポール亜大陸の南西部を蛇行しながら海に注いでいるのです。
その河川総延長は、およそ5600里(約4000㎞)に及ぶけれど、生憎とこの世界では測量技術が発達していないことと多国間にまたがる河川の長さや詳細な地図は、国ごとに秘匿している状況なので正確な長さは知られていないのです。
5600里という概算の数値は、マルコが魔道具のドローンを造って、高空に飛ばしてサザンポール亜大陸各地域の簡易測量を事前に行うとともに概略の地図を作製した際に割り出した数字なのです。
その地図によれば、タスィ・ディラ・ナグは略東西に細長い湖で、最大長は31.3里(≒34㎞)、南北の最大幅は16,7里(≒12㎞)と、概ね琵琶湖の半分ほどの面積を有する湖なのです。
この世界における広さの単位については、地域や国家によってかなりばらつきがあるものの、概ね3ブーツ四方の広さを、1クレス(≒4.67㎡)と言います。
また、180~200ブーツ四方の広さが3600~4000クレスで、この広さが概ね新市街を作る際の目安になっていることが多いようです。
国や地域によって多少の誤差はあるようですけれど1ブロックの街の広さを1バンダと称しています。
因みに180~200ブーツ四方の中間をとって、190ブーツ(≒137m)四方を1バンダとすると、タスィ・ディラ・ナグの広さは概算で8900バンダほどになります。
そうして夕刻にタスィ・ディラ・ナグの西端付近に位置するブラノスに到着したマルコ達一行ですが、宿を探して街中をゆっくりと移動中、マルコは何となく違和感を覚えました。
危険が近づいていると何となく予知めいたものを感ずる場合があるのですけれど、それとも違う違和感で、何となく周囲に居るはずの妖精がざわついているような気がしたのです。
生憎と初めての感覚なので理由が分かりません。
危険を察知しているならばマルコはすぐにもこの地を離れますけれど、そうした切迫感はありません。
但し、どんよりとした重圧感のようなものを感じており、それと同時に普段はおとなしいはずの妖精がざわついていると感じるのです。
生憎と、妖精に問いただしても彼らにも理由はわからないようです。
湖を巡る周回路の長さはおおよそで130里ほどありますので、マルコの馬車で有れば1日で周回することも可能です。
風光明媚な観光地としては湖の東南部に位置するオシャロが有名であり、同時にそこには温泉もあるのです。
従って当初の予定では、その日はブラノス泊まり、翌日にブラノスに近い水神様の祠に参詣し、そこからオシャロに行って温泉泊まり、翌日に北回りで湖岸を周回してブラノスに戻ってくる予定なのです。
そのために湖畔では三泊になりますね。
ブラノス到着当日は何事もなく過ぎましたけれど、マルコはブラノスに入る手前からずっと肌に絡みつくような微妙な圧力を感じていました。
まるで水の中に潜って少し高めの水圧を全身に受けているような感じなのです。
マルコが結界を張ってもあまり効果は無いので、物理的な影響ではなくって心理的なモノなのかもしれません。
但し、闇魔法による精神攻撃を受けているわけではないのです。
念のために、カラガンダ翁とステラ媼にも尋ねてみましたは、二人には何の違和感も無いようです。
マルコは寝る前に色々試してみましたが、最後は諦めてふて寝のように寝てしまいました。
翌朝起きても依然として状態は変わらないようです。
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