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第四章 学院生活(中等部編)
4ー29 領都セルデンにて その七
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ヴィオラでございます。
ブルボン侯爵領における六日目でございます。
今日は、領内の学校の見学?視察?がございます。
ブルボン家の領都には、ロデアルと同様に学校があるんです。
ロデアルと異なるところは、所謂、富裕層の子女でなければ入れない学校という事でしょうか?
ロデアルでは、一定の年齢になったら、誰でも入れる学校にいたしました。
そうしなければ、大勢の人が文盲のままで大人になってしまうからです。
必要な教育をして、人としての徳を磨き、数多の知識を身に付けてこそ、領内の進歩と躍進につながるのです。
工房も同じですね。
職人となるために必要な知識と技を磨くためには、それなりの教育が必要なんです。
左程の教育もなしに、『見ていて技を盗め』というような、根性だけを押し付けるような伝承制度では、多くの人が育ちません。
ですから最低限の初等教育を為し、その上で更なる教育を、現場でもしくは上級の学校で受けることが望ましいのです。
ですが、ブルボン家が後押ししている学校は、富裕層の商人、侯爵臣下の騎士の子女等に限られ、貧困層の農民、工房の職人等はその対象から外されているようですね。
その教育内容も、カリキュラムを見せてもらいましたが、社交に関する教育や武術に関する教育にかなりの比重が置かれているようです。
例えばダンスであるとか、剣術であるとかですね。
情操教育は大事なのですが、程度問題でしょうね。
それよりも、もっと基礎的な学習内容がいくらでもあると思うのですが、そこは抜けたままですので、もしかすると、そうした足りない部分は、それぞれの家庭で親兄弟から教えてもらっているのではないでしょうか。
教育対象期間は、7歳から11歳までの四年間です。
何となく中途半端と思うのは私の気のせいでしょうかねぇ。
授業も参観しましたけれど、生徒さんが一様におどおどしています。
理由は教える側の先生にあるようですね。
口調が高圧的なんです。
こちらの世界で7歳と言えば、前世で9歳前後でしょうか。
そう、小学校の三年生ぐらいでしょうねぇ。
そんな子に、ゴリマッチョのような大人が、さも偉そうに威圧的な授業をしていては子供が委縮します。
11歳(前世では14歳)ぐらいになれば相応にふてぶてしさや反抗心も出てくるかもしれませんが、それまでの数年間の習慣と云うか潜在意識の中に教師に対する怯えが残っていれば、やはり先生の前ではおどおどした態度になってしまいます。
教育の根幹が間違っているような気がします。
そうして女性の先生が一人もいないのには驚きました。
この学校には、男子ばかりではなくって、女子も居るんですよ。
なのに女性の教師を置かないのは、どういう理由なのでしょう。
9歳前後で整理が始まる女の子も居る筈ですから、そうしたことにも配慮ができない大人の人達は嫌いです。
今の私(ヴィオラ)は単なるお客様に過ぎないのでここでは何もできませんが、嫁入りしたならこの教育システムを絶対に変えてやろうと思いました。
少なくとも今日見たゴリマッチョの先生は、クビか若しくは降格ですね。
少なくとも学園長と呼ばれていた者は、教育者としての資格が無いように思います。
別の仕事に就いてもらう方が良いかもしれません。
午前中の課業を二つ参観し、昼食を生徒さんたちと頂きながら多少の歓談も致しました。
そうして、午後の課業も一つ参観して屋敷に戻りました。
この後、夕刻前からはフェアウエル・パーティが御座いますので、そのための準備が必要なのです。
本当はそうした準備(パーティに出るための装い)も自分一人でやった方が早いとは思うのですけれど、それを仕事としている者が居る以上、彼らの仕事を奪う訳にはまいりません、
本来、フェアウエル・パーティというのは、卒業式等集団でお別れをする場合のパーティで、例えば豪華客船での旅が明日で終わりを迎えるような時に、乗客である皆さんが離れ離れになる前に開くお別れ会なのです。
しかしながら、今日のフェアウエル・パーティは、私(ヴィオラ)とレイノルズ様をメインゲストとするパーティのようですから、少し趣旨が違うかもしれません。
お別れ会には違いないのですけれど、どちらかというと大多数がこの地に残る送別会ですよね。
特に、私(ヴィオラ)のメイドや侍従も会場には居りますが、彼らは私(ヴィオラ)の身の回りの世話をするために居るのであって、パーティの参加者とは違うのです。
そうしてまた、王都からついてきた騎士達も会場には入ってきません。
尤も、ルテナによれば、騎士達は騎士達だけでお別れ会をしているようですよ。
フェアウエル・パーティには、実に大勢の方が集まりました。
初日に開催されたパーティ以上に人が集まりましたね。
私が現場で顔を合わせた人達にも招請があったようで、製材所の方や森林組合(?)の方、農民の代表なども顔を見せていました。
皆さんと挨拶をし、そうしてしっかりとつなぎをしておくのも大事な役目ですね。
◇◇◇◇
翌日の午前中にはセルデンを発ちましたが、その前にはしっかりヒルベルタ様にリジェネ・ヒールをかけて、癒しました。
ヒルベルタ様の健康状況も殆ど正常になっているのですけれど最後の仕上げでした。
きっと、私が嫁入りするまではヒルベルタ様も健康でいられるはずです。
そのヒルベルタ様も、私達野旅立ちにわざわざ玄関のホール迄来られてお見送りしてくれました。
ブルボン邸でお世話になった方々にお礼を申し上げ、私とレイノルズ様は馬車に乗り込みました。
特段の問題が無ければ、来年の夏休みにはまたお邪魔するようになるのじゃないかと思います。
但し、レイノルズ様のお仕事に支障が無い場合に限りますけれどね。
私が一人でお尋ねするのは、ある意味で慣例に反するので余程の緊急時でもない限りはできません。
この辺は、近所にいる知人を訪ねるようなわけには参らないのです。
貴族の許嫁になった娘は、然るべき男性のエスコート無しに長旅をすること自体がそもそも許されていないのです。
さて、それから三日かけて無事に王都に辿り着きました。
これからまた中等部での生活が始まります。
私(ヴィオラ)が中等部を卒業すると、多分そう時間を置かずに嫁入りすることになるでしょうね。
◇◇◇◇
儂は、ジャクソン・ヒュルス・ド・ヴァル・ブルボン。
ブルボン侯爵領の領主だ。
エルグンド伯爵の次女がレイノルズと共に我が領を訪ねて来た。
学院が夏休みとあって、領民へ嫡男の許嫁として披露するための訪いでもある。
妻のマーガレットからは、すこぶる才を持つ女子とは聞いておったが、見目麗しき娘だったことは婚約披露宴の際に見て知っておった。
その際にはその才能の片鱗すらも伺い知れなかったのだが、このブルボン領に来て様々なことをしてのけて行きおったのには流石に驚いた。
我が母の脚の病を、癒したことがまず最初かのう。
領内に住む治癒師の誰をもってしても癒せなかったものを、セルデン滞在中に完全に治して行きおった。
そればかりではなく、雇い人の治癒師であるクラジーナには『リジェネ・ヒール』なる治癒術を教えていったようじゃな。
また、クラジーナに治癒師の様々な術を教えたことにより、クラジーナ自身もわずかの間にかなりの術が使える様になったと聞き及んでいる。
更には屋敷内の見学をしている間に、用人宿舎の地下に瘴気を感じ、その瘴気を浄化魔法で取り除いたことをレイノルズから内々に知らされたわい。
浄化の魔法を使える者はそれなりに居るが、少なくとも溜まった瘴気を浄化できるほどの者は、聖職者であっても数少なく、それが為せるような人物は、古来、聖人若しくは聖女に列せられるような人物なのである。
ライヒベルゼン王国には、数十年も昔に、サーランデルなる枢機卿が浄化魔法の達人で聖人と呼ばれたことがあるが、未だ聖女は出ていないと聞いている。
遠く、フレイディア聖教国においては、過去において何人かの聖女を輩出した記録があるようだ。
ヴィオラ嬢が聖女であるかどうかは別にしても、我が屋敷内に瘴気が溜まって害虫が大量に発生していたなどとむざむざと公言できるものではないから、この一件は秘密にせねばなるまい。
飽くまで、ブルボン家の秘密という事で居合わせた侍従長以外の余人には知られないように秘匿したようじゃが、実は以前より無数の瘴気を孕んだ虫が多数発生していて、用人達が日頃からその退治に苦労していたことから、それが一気に消えてなくなると、その直前に地下室に入ったヴィオラ嬢のことがすぐに噂になってしまった様じゃな。
これまで用人達の誰もがどうにもできなかったことを、ヴィオラ嬢が何かを為して、改善してくれたと推測してもおかしくはない。
そうしてその噂を聞き付けたマーガレットが、自分に秘密にしていたとむくれておったのぅ。
更には、セルデンの市外地を見学した折には、農民すら対処を知らなかった小麦の病害の原因を指摘し、彼女の実家のエルグンド領から、土地改良及び小麦以外の作物を植えること等により病害を防ぐことを知っている者を派遣する旨の話が飛び出たようじゃ。
ヴィオラ嬢が手紙で通知するとともに、儂からもエルグンド伯爵への依頼を出すことが条件じゃったが、ここ十数年来小麦の収穫量が徐々に減っていたことから、これは起死回生の手になるやもしれず、直ぐにも手紙を出したわい。
同じ日にヴィオラ嬢が手紙を出していたので、おそらくは同時にエルグンド伯爵の手に渡ることになるだろう。
少なくともエルグンド伯爵の方では、伯爵家に所縁の領主から依頼があれば、すぐにでも二人ほどの指導者を派遣する用意があると云うから、冬小麦を撒く頃にはその指導が始まっておるやも知れぬ。
今一つ、ヴィオラ嬢のお陰で、大きな問題が表面に出て来おった。
我が領内の山林で、秘密裏に私腹を肥やしていた輩が見つかったようじゃ。
これも山林の案内の際に予め予定されたいたコースを変更させて迄、当該山を見たいというヴィオラ嬢の願い(我儘?)でルートを変更したもののようだったが、その先に乱伐された広大な山林の斜面が見つけられたのだった。
これが発覚して直ぐにもレイノルズが組合事務所の調査に入り、その後の調べで勝手に山林を伐採していた事実が判明したのだった。
当然にこれに関わった者は、鉱山送りになるだろう。
その鉱山も最近は採掘量が減ってきていると聞いているから、別の鉱山を見つけなければならぬかもしれぬと余計なこと迄考えてしまう。
何しろ、過去百年近くにわたって銅鉱石を算出してきた鉱山であり、ライヒベルゼン王国でも有数の鉱山なのだ。
ここが枯渇すれば、我が領の収益も大いに減ることになるので、儂の悩みの一つでもある。
いずれにしろ、我が息子レイノルズの嫁になるヴィオラ嬢は大した福の神じゃ。
おそらくは、何気なさそうに誘導したのではないかと儂は見ている。
流石にマーガレットが見初めた娘じゃと思ったわ。
見た目器量良しだけの娘ではなかった。
場合によってはエルグンド領のここ最近の発展にはこのヴィオラ嬢が大いに関わっているやもしれぬ。
ひとつエルグンド領の内情を調べてみようかと思う儂だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
新作の投稿を始めました。
「転生したら幽閉王子でした~これどうすんの」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/24979442
よろしければご一読ください。
By サクラ近衛将監
ブルボン侯爵領における六日目でございます。
今日は、領内の学校の見学?視察?がございます。
ブルボン家の領都には、ロデアルと同様に学校があるんです。
ロデアルと異なるところは、所謂、富裕層の子女でなければ入れない学校という事でしょうか?
ロデアルでは、一定の年齢になったら、誰でも入れる学校にいたしました。
そうしなければ、大勢の人が文盲のままで大人になってしまうからです。
必要な教育をして、人としての徳を磨き、数多の知識を身に付けてこそ、領内の進歩と躍進につながるのです。
工房も同じですね。
職人となるために必要な知識と技を磨くためには、それなりの教育が必要なんです。
左程の教育もなしに、『見ていて技を盗め』というような、根性だけを押し付けるような伝承制度では、多くの人が育ちません。
ですから最低限の初等教育を為し、その上で更なる教育を、現場でもしくは上級の学校で受けることが望ましいのです。
ですが、ブルボン家が後押ししている学校は、富裕層の商人、侯爵臣下の騎士の子女等に限られ、貧困層の農民、工房の職人等はその対象から外されているようですね。
その教育内容も、カリキュラムを見せてもらいましたが、社交に関する教育や武術に関する教育にかなりの比重が置かれているようです。
例えばダンスであるとか、剣術であるとかですね。
情操教育は大事なのですが、程度問題でしょうね。
それよりも、もっと基礎的な学習内容がいくらでもあると思うのですが、そこは抜けたままですので、もしかすると、そうした足りない部分は、それぞれの家庭で親兄弟から教えてもらっているのではないでしょうか。
教育対象期間は、7歳から11歳までの四年間です。
何となく中途半端と思うのは私の気のせいでしょうかねぇ。
授業も参観しましたけれど、生徒さんが一様におどおどしています。
理由は教える側の先生にあるようですね。
口調が高圧的なんです。
こちらの世界で7歳と言えば、前世で9歳前後でしょうか。
そう、小学校の三年生ぐらいでしょうねぇ。
そんな子に、ゴリマッチョのような大人が、さも偉そうに威圧的な授業をしていては子供が委縮します。
11歳(前世では14歳)ぐらいになれば相応にふてぶてしさや反抗心も出てくるかもしれませんが、それまでの数年間の習慣と云うか潜在意識の中に教師に対する怯えが残っていれば、やはり先生の前ではおどおどした態度になってしまいます。
教育の根幹が間違っているような気がします。
そうして女性の先生が一人もいないのには驚きました。
この学校には、男子ばかりではなくって、女子も居るんですよ。
なのに女性の教師を置かないのは、どういう理由なのでしょう。
9歳前後で整理が始まる女の子も居る筈ですから、そうしたことにも配慮ができない大人の人達は嫌いです。
今の私(ヴィオラ)は単なるお客様に過ぎないのでここでは何もできませんが、嫁入りしたならこの教育システムを絶対に変えてやろうと思いました。
少なくとも今日見たゴリマッチョの先生は、クビか若しくは降格ですね。
少なくとも学園長と呼ばれていた者は、教育者としての資格が無いように思います。
別の仕事に就いてもらう方が良いかもしれません。
午前中の課業を二つ参観し、昼食を生徒さんたちと頂きながら多少の歓談も致しました。
そうして、午後の課業も一つ参観して屋敷に戻りました。
この後、夕刻前からはフェアウエル・パーティが御座いますので、そのための準備が必要なのです。
本当はそうした準備(パーティに出るための装い)も自分一人でやった方が早いとは思うのですけれど、それを仕事としている者が居る以上、彼らの仕事を奪う訳にはまいりません、
本来、フェアウエル・パーティというのは、卒業式等集団でお別れをする場合のパーティで、例えば豪華客船での旅が明日で終わりを迎えるような時に、乗客である皆さんが離れ離れになる前に開くお別れ会なのです。
しかしながら、今日のフェアウエル・パーティは、私(ヴィオラ)とレイノルズ様をメインゲストとするパーティのようですから、少し趣旨が違うかもしれません。
お別れ会には違いないのですけれど、どちらかというと大多数がこの地に残る送別会ですよね。
特に、私(ヴィオラ)のメイドや侍従も会場には居りますが、彼らは私(ヴィオラ)の身の回りの世話をするために居るのであって、パーティの参加者とは違うのです。
そうしてまた、王都からついてきた騎士達も会場には入ってきません。
尤も、ルテナによれば、騎士達は騎士達だけでお別れ会をしているようですよ。
フェアウエル・パーティには、実に大勢の方が集まりました。
初日に開催されたパーティ以上に人が集まりましたね。
私が現場で顔を合わせた人達にも招請があったようで、製材所の方や森林組合(?)の方、農民の代表なども顔を見せていました。
皆さんと挨拶をし、そうしてしっかりとつなぎをしておくのも大事な役目ですね。
◇◇◇◇
翌日の午前中にはセルデンを発ちましたが、その前にはしっかりヒルベルタ様にリジェネ・ヒールをかけて、癒しました。
ヒルベルタ様の健康状況も殆ど正常になっているのですけれど最後の仕上げでした。
きっと、私が嫁入りするまではヒルベルタ様も健康でいられるはずです。
そのヒルベルタ様も、私達野旅立ちにわざわざ玄関のホール迄来られてお見送りしてくれました。
ブルボン邸でお世話になった方々にお礼を申し上げ、私とレイノルズ様は馬車に乗り込みました。
特段の問題が無ければ、来年の夏休みにはまたお邪魔するようになるのじゃないかと思います。
但し、レイノルズ様のお仕事に支障が無い場合に限りますけれどね。
私が一人でお尋ねするのは、ある意味で慣例に反するので余程の緊急時でもない限りはできません。
この辺は、近所にいる知人を訪ねるようなわけには参らないのです。
貴族の許嫁になった娘は、然るべき男性のエスコート無しに長旅をすること自体がそもそも許されていないのです。
さて、それから三日かけて無事に王都に辿り着きました。
これからまた中等部での生活が始まります。
私(ヴィオラ)が中等部を卒業すると、多分そう時間を置かずに嫁入りすることになるでしょうね。
◇◇◇◇
儂は、ジャクソン・ヒュルス・ド・ヴァル・ブルボン。
ブルボン侯爵領の領主だ。
エルグンド伯爵の次女がレイノルズと共に我が領を訪ねて来た。
学院が夏休みとあって、領民へ嫡男の許嫁として披露するための訪いでもある。
妻のマーガレットからは、すこぶる才を持つ女子とは聞いておったが、見目麗しき娘だったことは婚約披露宴の際に見て知っておった。
その際にはその才能の片鱗すらも伺い知れなかったのだが、このブルボン領に来て様々なことをしてのけて行きおったのには流石に驚いた。
我が母の脚の病を、癒したことがまず最初かのう。
領内に住む治癒師の誰をもってしても癒せなかったものを、セルデン滞在中に完全に治して行きおった。
そればかりではなく、雇い人の治癒師であるクラジーナには『リジェネ・ヒール』なる治癒術を教えていったようじゃな。
また、クラジーナに治癒師の様々な術を教えたことにより、クラジーナ自身もわずかの間にかなりの術が使える様になったと聞き及んでいる。
更には屋敷内の見学をしている間に、用人宿舎の地下に瘴気を感じ、その瘴気を浄化魔法で取り除いたことをレイノルズから内々に知らされたわい。
浄化の魔法を使える者はそれなりに居るが、少なくとも溜まった瘴気を浄化できるほどの者は、聖職者であっても数少なく、それが為せるような人物は、古来、聖人若しくは聖女に列せられるような人物なのである。
ライヒベルゼン王国には、数十年も昔に、サーランデルなる枢機卿が浄化魔法の達人で聖人と呼ばれたことがあるが、未だ聖女は出ていないと聞いている。
遠く、フレイディア聖教国においては、過去において何人かの聖女を輩出した記録があるようだ。
ヴィオラ嬢が聖女であるかどうかは別にしても、我が屋敷内に瘴気が溜まって害虫が大量に発生していたなどとむざむざと公言できるものではないから、この一件は秘密にせねばなるまい。
飽くまで、ブルボン家の秘密という事で居合わせた侍従長以外の余人には知られないように秘匿したようじゃが、実は以前より無数の瘴気を孕んだ虫が多数発生していて、用人達が日頃からその退治に苦労していたことから、それが一気に消えてなくなると、その直前に地下室に入ったヴィオラ嬢のことがすぐに噂になってしまった様じゃな。
これまで用人達の誰もがどうにもできなかったことを、ヴィオラ嬢が何かを為して、改善してくれたと推測してもおかしくはない。
そうしてその噂を聞き付けたマーガレットが、自分に秘密にしていたとむくれておったのぅ。
更には、セルデンの市外地を見学した折には、農民すら対処を知らなかった小麦の病害の原因を指摘し、彼女の実家のエルグンド領から、土地改良及び小麦以外の作物を植えること等により病害を防ぐことを知っている者を派遣する旨の話が飛び出たようじゃ。
ヴィオラ嬢が手紙で通知するとともに、儂からもエルグンド伯爵への依頼を出すことが条件じゃったが、ここ十数年来小麦の収穫量が徐々に減っていたことから、これは起死回生の手になるやもしれず、直ぐにも手紙を出したわい。
同じ日にヴィオラ嬢が手紙を出していたので、おそらくは同時にエルグンド伯爵の手に渡ることになるだろう。
少なくともエルグンド伯爵の方では、伯爵家に所縁の領主から依頼があれば、すぐにでも二人ほどの指導者を派遣する用意があると云うから、冬小麦を撒く頃にはその指導が始まっておるやも知れぬ。
今一つ、ヴィオラ嬢のお陰で、大きな問題が表面に出て来おった。
我が領内の山林で、秘密裏に私腹を肥やしていた輩が見つかったようじゃ。
これも山林の案内の際に予め予定されたいたコースを変更させて迄、当該山を見たいというヴィオラ嬢の願い(我儘?)でルートを変更したもののようだったが、その先に乱伐された広大な山林の斜面が見つけられたのだった。
これが発覚して直ぐにもレイノルズが組合事務所の調査に入り、その後の調べで勝手に山林を伐採していた事実が判明したのだった。
当然にこれに関わった者は、鉱山送りになるだろう。
その鉱山も最近は採掘量が減ってきていると聞いているから、別の鉱山を見つけなければならぬかもしれぬと余計なこと迄考えてしまう。
何しろ、過去百年近くにわたって銅鉱石を算出してきた鉱山であり、ライヒベルゼン王国でも有数の鉱山なのだ。
ここが枯渇すれば、我が領の収益も大いに減ることになるので、儂の悩みの一つでもある。
いずれにしろ、我が息子レイノルズの嫁になるヴィオラ嬢は大した福の神じゃ。
おそらくは、何気なさそうに誘導したのではないかと儂は見ている。
流石にマーガレットが見初めた娘じゃと思ったわ。
見た目器量良しだけの娘ではなかった。
場合によってはエルグンド領のここ最近の発展にはこのヴィオラ嬢が大いに関わっているやもしれぬ。
ひとつエルグンド領の内情を調べてみようかと思う儂だった。
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By サクラ近衛将監
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