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第三章 新たなる展開
3-16 ロシア革命への介入 その三
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宏禎王が目くばせすると少しガタイの大きな女性ゴーレムが全員に紅茶を配ってくれた。
決して贅沢なカップではない。
セラミックスで造った量産品である。
紅茶は英国産ダージリンの上等なものを使っている。
小さな角砂糖をつけている。
「お茶を飲んで落ち着かれたら、アレクセイ殿下と皇女様たちの処置をいたしましょう。
お答えできないことが多いのですが、何かご質問はありますか。
可能であればお答えします。」
ニコライ皇帝が言った。
「日露戦争の折は、宏禎王殿下は参戦されたのかな?」
「いいえ、私はタチアナ皇女殿下と同じ歳ですので、ロシアとの戦の際は7歳か8歳だったはずでございます。
但し、父が参戦し、黄海の海戦で戦艦の砲弾を浴び軽傷を負いました。」
「なるほど、富士野宮殿下は武人にあられたか、では宏禎王殿下もかな?」
「いいえ、慣例では宮家の子息は通常陸軍か海軍に入るのですが、私は父宮と相談して自由な立場で支援をする方に回ることにしました。」
「例えば?」
「造船所を造って海軍の船を建造したり、工場を造って必要な武器を製造したりするのです。」
「なるほど、軍人に成らずとも国のために尽くせるか?
いやありがとう、殿下の心持だけ聞いておきたかった。」
「それでは、アレクセイ殿下と皇女殿下たちの療法をしたいと思います。
アレクセイ殿下は、この毛布の上にあおむけに寝てください。
四人の皇女殿下は寝ているアレクセイ殿下の周囲に立ってください。」
五人が指示通りに動くとさらに続けた。
「皇女殿下たちはもう少し近づいて四人で輪を作るように手をつないでください。」
床に寝るアレクセイの腰と脇付近に立った四人の娘達はそれぞれに手をつないで輪を作った。
「ではそのまま、出来るだけ動かないように。」
宏禎王が右手を差し伸べるようにするとその手から金色の輪が広がり徐々に大きくなりながら皇女たちの頭の上に広がった。
そこから流れるように金色のシャワーが降り注ぎ、やがてアレクセイ殿下と四人の皇女たちが眩しく光った。
そうして瞬時に光が消えると、見守っていた者は皆ざわざわとしている。
「無事に処置は終わりました。
これでアレクセイ殿下の病は癒されました。
但し、長年の病弱で筋肉が弱っています。
徐々に筋肉をつけて運動するようにすれば普通の体に戻るでしょう。
あ、食事に好き嫌いはいけませんよ。
体の健康のために何でも食べるようにしてください。
皇女殿下たちはごく普通に生活していただいて結構です。
嫁に行ってお子を産まれても大丈夫ですよ。」
「本当に魔法みたいにキラキラしていましたけれど、あれは何ですか?」
アナスタシア皇女が尋ねたが、宏禎王は首を横に振った。
「ごめんなさい。
それは話せないことの一つですね。」
マリア皇女が続いた。
「宏禎王殿下は、ご結婚は?」
「婚約者はいますが、まだ結婚していません。」
「帝国では妻はお一人ですか?
昔は沢山の妻がいたようにも聞いていますが?」
「そうですね、先の明治天皇の御父上である孝明天皇には、正妃以外に5人の后がおられたと聞いています。
同じく明治天皇は正妃以外に5人の側室がいたようですが、出産の際に無くなった者が二人、大正天皇は側室のお子ですが、その妻は今のところお一人だけです。」
「最近では妻を沢山お持ちの方はいないのですか?」
「うーん、まぁ、妻ではないのですが、妾と称して本宅には居ない女性を囲っている者はいるようです。
但し、居候を抱えているようなものですからお金持ちでなければできません。」
「そういう、宏禎王殿下はお金持ちなのではないのですか?」
「なぜそう思われますか?」
「だって、このような空を飛ぶ船を持っていらっしゃるなんて、お金持ちじゃなければできないでしょう。」
「ええ、まぁそれはそうですね。
それなりに資産はありますよ。」
「じゃあ、じゃあ、私たちの一人ぐらいその妾とやらにするというのはありですか?」
「あ、無理ですね。
妾と言うのはとても地位が低いのです。
本宅のメイドさんよりは上かも知れませんが、メイド長と比べると怪しいです。
そんな立場になりたいですか?」
「うーん、それは嫌よね。
せめて妻と同じぐらいで無ければ・・・。」
「では諦めてくださいな。
こんな話、余り人前ではするものではありません。
皇后さまが睨んでいらっしゃいます。
それにもう夜中の零時になります。
皆さん寝る時間です。
毛布は沢山ありますので必要な数だけ使ってください。
先ほども申し上げたようにベッドはありませんのでそのまま床で寝ていただく方が宜しいでしょう。
床ではなく椅子が良いという方は、余り良い椅子ではありませんが窓際の椅子で寝てください。
室内温度はこのままにしておきますが、室内灯は間もなく暗くします。
最初に申し上げましたが洗面所とトイレは後部にあります、間違わないようにしてください。
私は操縦席の方に居ます。」
そう言って壁のスイッチを操作して室内の明かりを暗めにした。
窓は全て閉鎖してあり、明日の朝までは開かない。
全員が毛布を使って寝床を作り、毛布一枚をかぶってすぐに寝入ったようだ。
◇◇◇◇
翌日早朝8時過ぎには全員が起きていたのでトーストとベーコンエッグ、紅茶で簡単に朝食を摂る。
窓を開けてやると皆が外を覗くが、下に雲海が見えるだけ。
上空は比較的晴れているが、下界はきっと雪だろう。
お昼もサンドイッチだけの簡単な食事だ。
全員贅沢はできないと知っている。
サンドイッチを出す前に一応サンクトペテルブルグ上空ですよと伝えてはみたが、下界は見えなかった。
スゥエーデン上空あたりからようやく雲の切れ目が見えだした。
乗客のほぼ全員が窓のそばに陣取って下界を眺めている。
三時のおやつにショコラ・スフレと紅茶を出したらとても喜ばれた。
どうやら甘いものに飢えていたようだ。
夕刻夕焼けが迫るデンマーク上空で夕食だが、非常食の野菜入りスープ、缶入りのパン、ビン詰めのフルーツ、ハンバーグが実に好評だった。
あと4時間ほどで着くよと言うと皆目を輝かせていた。
その一方で不安でもあるのだろう。
イギリスの海岸線に達し、到着一時間前になって注意事項を再度繰り返した。
「最初に申し上げた通り、この中で見たこと聞いたことは全て秘密です。
飛行船でロシアから来たことは告げてもいいですが、飛行船の性能その他は秘密です。
ですから皆さんには何も説明はしていません。推測はできますけれどね。
そうして私を含めて船の乗組員、救助に出向いた者、すべてを秘密にしてください。
秘密にする理由は恩人に頼まれたから言えませんで結構です。
次いでアレクセイ君の病気の話は本当に内緒です。
神のご加護があって治りました。
聞かれても、それで突っぱねてください。
名残惜しいですが、皆さんとは間もなくお別れです。あるいはどこかでお会いすることが有るかもしれませんが、その際は初対面のふりをしてください。
お願いします。
それじゃぁ、後一時間足らず、殆ど着の身着のままで連れ出しちゃったから、荷物はないはずだけれど忘れものはしないようにしてください。
皆さんが元気でいてくれることが私にとって何よりのご褒美です。
ご協力ありがとう。」
それから30分ほどで徐々に高度を下げ始めたが、室内の照明は消している。
窓からかろうじて町明かりが見えるかもしれない。
そうして着陸場所が見え始めた。
館にはかがり火が焚かれていた。
館の前面に広がる庭の周囲には沢山の人がいるようだ。
その中を音もなく飛行船が静かに着陸をする。
真っ黒ないで立ちに目出し帽をかぶったゴーレムたちが、居住区のドアを開けタラップを降ろす。
宏禎王が宣言する。
「英国に到着です。
下船してください。」
最初にニコライ二世が前に進み出る。
宏禎王もまた黒ずくめの上に仮面をかぶっているので人相はおろか髪の色も見えない。
ロシア最後の皇帝陛下は宏禎王にハグをして、ロシア語でありがとうと言った。
その際に宏禎王はロシア語の手紙を渡した。
怪訝な表情を浮かべた皇帝だったが、頷いてからタラップに足を踏み出した。
続いて皇后陛下も同じ所作をし、アレクセイや皇女たちも他の人たちも全員がハグをして下船していった、
全員が下船すると、すぐにゴーレムたちがタラップを引き上げ、離陸を始めた、
救助された全員が無言で手を振っていた。
飛行船は急速に上昇し、やがて前進を始めて彼らの視界外に消えた。
この救出劇は新聞にセンセーショナルに報道された。
しかしながら救助者が誰であったのかはついに明かされなかった。
救助された側が口を開かなかったし、英国政府も何者なのかを知らなかったからである。
この事件は、出来たばかりのソヴィエトとボリシェビキに大きな痛手を与えた。
皇帝に逃げられたことで抵抗勢力である白ロシアに勢いをつけさせたのであり、ボリシェビキを支持した者たちの信頼を失ったからである。
ソヴィエトもボリシェビキも急速に求心力を失っていったのである。
ために旧ロシア全土がカオス状態に陥っていた。
1920年、白ロシア軍は西欧列強と帝国の支援を受けつつ、シベリアに東シベリア共和国を建国したのである。
因みに宏禎王から皇帝に渡された書簡は、皇帝に対しての提言であった。
差出人の名は書かれていない。
曰く;
『皇帝陛下の海外資産は莫大な金額に上ることと承知しております。
これからの生活において左程の贅沢を望まねば、かなりの資産が余るはずです。
失礼ながら、今後、ロシア皇帝の座に復することは至難の業にございましょう。
また、仮に欧州の何処かにて皇帝陛下と妃殿下の余生を過ごされるとするならば、必要な資産は1000万ドルもあれば十分かと存じます。
無論贅沢を為せばキリはありませんが、ご子息ご息女の将来に必要な金額も同じく各500万ドルもあれば十分に裕福な生活を送れましょう。
旧ロシアは革命により四分五裂しており、今後しばらくは動乱が続きましょう。
シベリアに元貴族の方々を中心として東ロシア共和国という暫定政府を立ち上げておりますが、今のところ勢力的には弱いと思われます。
旧ロシア国民を庇護すべきは皇帝陛下であらせられた御身の義務ではないかと愚考します。
余剰の資産はロシア国内の動静を見極めつつ、ロシア国民のために浄財として利用されんことを衷心よりお勧めいたします。
今回の救助なかりせば無に帰したはずの資産でございます。
どうかご賢察をもってご高配を賜りますよう謹んで提言申し上げます。』
最後のロシア皇帝は、この提言を心より感謝した。
決して贅沢なカップではない。
セラミックスで造った量産品である。
紅茶は英国産ダージリンの上等なものを使っている。
小さな角砂糖をつけている。
「お茶を飲んで落ち着かれたら、アレクセイ殿下と皇女様たちの処置をいたしましょう。
お答えできないことが多いのですが、何かご質問はありますか。
可能であればお答えします。」
ニコライ皇帝が言った。
「日露戦争の折は、宏禎王殿下は参戦されたのかな?」
「いいえ、私はタチアナ皇女殿下と同じ歳ですので、ロシアとの戦の際は7歳か8歳だったはずでございます。
但し、父が参戦し、黄海の海戦で戦艦の砲弾を浴び軽傷を負いました。」
「なるほど、富士野宮殿下は武人にあられたか、では宏禎王殿下もかな?」
「いいえ、慣例では宮家の子息は通常陸軍か海軍に入るのですが、私は父宮と相談して自由な立場で支援をする方に回ることにしました。」
「例えば?」
「造船所を造って海軍の船を建造したり、工場を造って必要な武器を製造したりするのです。」
「なるほど、軍人に成らずとも国のために尽くせるか?
いやありがとう、殿下の心持だけ聞いておきたかった。」
「それでは、アレクセイ殿下と皇女殿下たちの療法をしたいと思います。
アレクセイ殿下は、この毛布の上にあおむけに寝てください。
四人の皇女殿下は寝ているアレクセイ殿下の周囲に立ってください。」
五人が指示通りに動くとさらに続けた。
「皇女殿下たちはもう少し近づいて四人で輪を作るように手をつないでください。」
床に寝るアレクセイの腰と脇付近に立った四人の娘達はそれぞれに手をつないで輪を作った。
「ではそのまま、出来るだけ動かないように。」
宏禎王が右手を差し伸べるようにするとその手から金色の輪が広がり徐々に大きくなりながら皇女たちの頭の上に広がった。
そこから流れるように金色のシャワーが降り注ぎ、やがてアレクセイ殿下と四人の皇女たちが眩しく光った。
そうして瞬時に光が消えると、見守っていた者は皆ざわざわとしている。
「無事に処置は終わりました。
これでアレクセイ殿下の病は癒されました。
但し、長年の病弱で筋肉が弱っています。
徐々に筋肉をつけて運動するようにすれば普通の体に戻るでしょう。
あ、食事に好き嫌いはいけませんよ。
体の健康のために何でも食べるようにしてください。
皇女殿下たちはごく普通に生活していただいて結構です。
嫁に行ってお子を産まれても大丈夫ですよ。」
「本当に魔法みたいにキラキラしていましたけれど、あれは何ですか?」
アナスタシア皇女が尋ねたが、宏禎王は首を横に振った。
「ごめんなさい。
それは話せないことの一つですね。」
マリア皇女が続いた。
「宏禎王殿下は、ご結婚は?」
「婚約者はいますが、まだ結婚していません。」
「帝国では妻はお一人ですか?
昔は沢山の妻がいたようにも聞いていますが?」
「そうですね、先の明治天皇の御父上である孝明天皇には、正妃以外に5人の后がおられたと聞いています。
同じく明治天皇は正妃以外に5人の側室がいたようですが、出産の際に無くなった者が二人、大正天皇は側室のお子ですが、その妻は今のところお一人だけです。」
「最近では妻を沢山お持ちの方はいないのですか?」
「うーん、まぁ、妻ではないのですが、妾と称して本宅には居ない女性を囲っている者はいるようです。
但し、居候を抱えているようなものですからお金持ちでなければできません。」
「そういう、宏禎王殿下はお金持ちなのではないのですか?」
「なぜそう思われますか?」
「だって、このような空を飛ぶ船を持っていらっしゃるなんて、お金持ちじゃなければできないでしょう。」
「ええ、まぁそれはそうですね。
それなりに資産はありますよ。」
「じゃあ、じゃあ、私たちの一人ぐらいその妾とやらにするというのはありですか?」
「あ、無理ですね。
妾と言うのはとても地位が低いのです。
本宅のメイドさんよりは上かも知れませんが、メイド長と比べると怪しいです。
そんな立場になりたいですか?」
「うーん、それは嫌よね。
せめて妻と同じぐらいで無ければ・・・。」
「では諦めてくださいな。
こんな話、余り人前ではするものではありません。
皇后さまが睨んでいらっしゃいます。
それにもう夜中の零時になります。
皆さん寝る時間です。
毛布は沢山ありますので必要な数だけ使ってください。
先ほども申し上げたようにベッドはありませんのでそのまま床で寝ていただく方が宜しいでしょう。
床ではなく椅子が良いという方は、余り良い椅子ではありませんが窓際の椅子で寝てください。
室内温度はこのままにしておきますが、室内灯は間もなく暗くします。
最初に申し上げましたが洗面所とトイレは後部にあります、間違わないようにしてください。
私は操縦席の方に居ます。」
そう言って壁のスイッチを操作して室内の明かりを暗めにした。
窓は全て閉鎖してあり、明日の朝までは開かない。
全員が毛布を使って寝床を作り、毛布一枚をかぶってすぐに寝入ったようだ。
◇◇◇◇
翌日早朝8時過ぎには全員が起きていたのでトーストとベーコンエッグ、紅茶で簡単に朝食を摂る。
窓を開けてやると皆が外を覗くが、下に雲海が見えるだけ。
上空は比較的晴れているが、下界はきっと雪だろう。
お昼もサンドイッチだけの簡単な食事だ。
全員贅沢はできないと知っている。
サンドイッチを出す前に一応サンクトペテルブルグ上空ですよと伝えてはみたが、下界は見えなかった。
スゥエーデン上空あたりからようやく雲の切れ目が見えだした。
乗客のほぼ全員が窓のそばに陣取って下界を眺めている。
三時のおやつにショコラ・スフレと紅茶を出したらとても喜ばれた。
どうやら甘いものに飢えていたようだ。
夕刻夕焼けが迫るデンマーク上空で夕食だが、非常食の野菜入りスープ、缶入りのパン、ビン詰めのフルーツ、ハンバーグが実に好評だった。
あと4時間ほどで着くよと言うと皆目を輝かせていた。
その一方で不安でもあるのだろう。
イギリスの海岸線に達し、到着一時間前になって注意事項を再度繰り返した。
「最初に申し上げた通り、この中で見たこと聞いたことは全て秘密です。
飛行船でロシアから来たことは告げてもいいですが、飛行船の性能その他は秘密です。
ですから皆さんには何も説明はしていません。推測はできますけれどね。
そうして私を含めて船の乗組員、救助に出向いた者、すべてを秘密にしてください。
秘密にする理由は恩人に頼まれたから言えませんで結構です。
次いでアレクセイ君の病気の話は本当に内緒です。
神のご加護があって治りました。
聞かれても、それで突っぱねてください。
名残惜しいですが、皆さんとは間もなくお別れです。あるいはどこかでお会いすることが有るかもしれませんが、その際は初対面のふりをしてください。
お願いします。
それじゃぁ、後一時間足らず、殆ど着の身着のままで連れ出しちゃったから、荷物はないはずだけれど忘れものはしないようにしてください。
皆さんが元気でいてくれることが私にとって何よりのご褒美です。
ご協力ありがとう。」
それから30分ほどで徐々に高度を下げ始めたが、室内の照明は消している。
窓からかろうじて町明かりが見えるかもしれない。
そうして着陸場所が見え始めた。
館にはかがり火が焚かれていた。
館の前面に広がる庭の周囲には沢山の人がいるようだ。
その中を音もなく飛行船が静かに着陸をする。
真っ黒ないで立ちに目出し帽をかぶったゴーレムたちが、居住区のドアを開けタラップを降ろす。
宏禎王が宣言する。
「英国に到着です。
下船してください。」
最初にニコライ二世が前に進み出る。
宏禎王もまた黒ずくめの上に仮面をかぶっているので人相はおろか髪の色も見えない。
ロシア最後の皇帝陛下は宏禎王にハグをして、ロシア語でありがとうと言った。
その際に宏禎王はロシア語の手紙を渡した。
怪訝な表情を浮かべた皇帝だったが、頷いてからタラップに足を踏み出した。
続いて皇后陛下も同じ所作をし、アレクセイや皇女たちも他の人たちも全員がハグをして下船していった、
全員が下船すると、すぐにゴーレムたちがタラップを引き上げ、離陸を始めた、
救助された全員が無言で手を振っていた。
飛行船は急速に上昇し、やがて前進を始めて彼らの視界外に消えた。
この救出劇は新聞にセンセーショナルに報道された。
しかしながら救助者が誰であったのかはついに明かされなかった。
救助された側が口を開かなかったし、英国政府も何者なのかを知らなかったからである。
この事件は、出来たばかりのソヴィエトとボリシェビキに大きな痛手を与えた。
皇帝に逃げられたことで抵抗勢力である白ロシアに勢いをつけさせたのであり、ボリシェビキを支持した者たちの信頼を失ったからである。
ソヴィエトもボリシェビキも急速に求心力を失っていったのである。
ために旧ロシア全土がカオス状態に陥っていた。
1920年、白ロシア軍は西欧列強と帝国の支援を受けつつ、シベリアに東シベリア共和国を建国したのである。
因みに宏禎王から皇帝に渡された書簡は、皇帝に対しての提言であった。
差出人の名は書かれていない。
曰く;
『皇帝陛下の海外資産は莫大な金額に上ることと承知しております。
これからの生活において左程の贅沢を望まねば、かなりの資産が余るはずです。
失礼ながら、今後、ロシア皇帝の座に復することは至難の業にございましょう。
また、仮に欧州の何処かにて皇帝陛下と妃殿下の余生を過ごされるとするならば、必要な資産は1000万ドルもあれば十分かと存じます。
無論贅沢を為せばキリはありませんが、ご子息ご息女の将来に必要な金額も同じく各500万ドルもあれば十分に裕福な生活を送れましょう。
旧ロシアは革命により四分五裂しており、今後しばらくは動乱が続きましょう。
シベリアに元貴族の方々を中心として東ロシア共和国という暫定政府を立ち上げておりますが、今のところ勢力的には弱いと思われます。
旧ロシア国民を庇護すべきは皇帝陛下であらせられた御身の義務ではないかと愚考します。
余剰の資産はロシア国内の動静を見極めつつ、ロシア国民のために浄財として利用されんことを衷心よりお勧めいたします。
今回の救助なかりせば無に帰したはずの資産でございます。
どうかご賢察をもってご高配を賜りますよう謹んで提言申し上げます。』
最後のロシア皇帝は、この提言を心より感謝した。
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