親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-15 ロシア革命への介入 その二

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 この大きさで通常のヘリウム飛行船は5トンもの重量は多分運べません。
 でも、魔導船だし、飛行能力の魔石装備だし、多少の無理はできちゃうんです。

 皇帝一家の監禁場所は、ソ連領チュメニ州トボリスクの元知事邸宅。
 監視の兵は邸宅内に30名、邸宅外に70名、トボリスク中心部の公務所に約200名の兵士が駐屯しています。

 最初に別動隊がもう一隻の魔道飛行船で上空から強襲し、元知事邸宅内の兵士全員を眠らせます。
 宏禎王も作戦に直接参加予定なのでソ連軍兵士を見逃すことは絶対にあり得ません。

 決行日は1918年2月23日土曜日、日本時間で言うと午前3時過ぎなんですが、現地のトボリスクは5時間ほど時差がありますので午後10時ぐらいなのです。
 2月は冬ですからね、北緯58度付近のトボリスクはとっても寒いんです。
 外で働く人は大変なんですが、ゴーレムなんでしっかり働いてもらいます。

 最初に急襲部隊が簡易のパラシュートで飛び降りて行きます。
 門前の兵士二名を一瞬のうちに麻酔ガスで眠らせます。

 次いで最寄り待機所でウォッカを飲みながらとぐろを巻いていた兵士6名を同じく瞬時に眠らせます。
 さらに元知事邸宅脇にある詰所を襲撃、内部に居た60名ほど、そもそも寝ていた者もいましたがこれまた麻酔ガスで制圧。

 元知事邸宅内にも待機組がいますので速攻で眠らせます。
 これで邸宅及びその周辺の無血制圧は完了。

 残りは街の中心部にある公務所内の200名ほどと、現在真面目に市内巡回中の二組12名ほども念のため麻酔ガスで制圧します。
 寒空の中寝込むと凍死するかもしれませんが、麻酔の効果は約2時間。

 それで目覚めなければ仕方がないですね。
 尊い犠牲と思って諦めてください。

 で、制圧した邸宅内をピンポイントで回って監禁されていたロマノフ王家の全員と忠臣達それにメイド達を集めましたが、併せて26名になりました。
 全身黒づくめで目出し帽をかぶった風体の男たちが銃を持っての乱入ですから、被救助者は随分驚いたようですが、ロシア語で王家を助けるためにここから脱出すると聞いてすぐに頷いてくれたようです。

 最大50名ほどまでと見込んでいたんですが、救助人員が少なくて助かりました。
 別のところに分散されていてもこれ以上の救出作戦はしません。

 監禁されていた人を取り急ぎ身支度させて玄関に集合させます。
 集合作業に合わせて、邸宅の前に横に延びる道路わきに邪魔な立ち木やら電灯やらが立っているのでこれを全部地上30センチで切断させました。

 ゴーレムが持っている長剣で横なぎすれば簡単に切り倒せちゃうんですが、流石百人力のゴーレムさんです。
 作戦開始からここまで30分強、うん、若干遅れているけれど誤差の範囲内。

 即座に上空で待機していた魔導飛行船が当該道路に着陸。
 驚いている要救助者に号令を掛けます。

 「あの飛行船に向かって死ぬ気で走れ。」

 効きましたね、皆血相を変えて走り出しました。
 ちょっと病弱なアレクセイ君は、見るからに屈強なオッサンに抱きかかえられて運ばれています。

 飛行船真下にある居住区入口までホンの30mぐらいですから、足の遅い女性でも10秒以内に到達できます。
 因みに外は吹雪模様。

 降雪で真っ白になりながら船内に飛び込みました。
 要救助者全員の船内収用を確認して、強襲部隊も撤収準備。

 1号飛行船が上昇すると、入れ替わりに2号飛行船が着陸、急襲部隊を収容して上昇します。
 この間、2分以内。

 訓練が行き届いてます。嘘です。訓練なんかしていません
 一方、1号飛行船の中は最大で60名まで収容できる空間がありますから、乗員と宏禎王それに要救助者26名を併せても40名足らず、十分に余裕があります。

 但し、ロシアのトボリスクから英国のワデスドンマナーまで凡そ4300キロほどありますので、時速150キロで飛んでも29時間ほどかかります。
 ワデスドンマナー到着は現地時間で24日午後11時ころになるでしょうか。

 まぁ、一応トイレと洗面所はあるし、お弁当的なものは用意してありますけれどね。
 皆さん贅沢は無しですよ。

 無理を言われても無い物は無いんです
 で、宏禎王が前に出て話をします。

「最初に申し上げておきますが、この船で見聞きしたことは私を含めて全て秘密にしてください。
 それがあなた方を助ける条件です。
 先ず、自己紹介しましょうか。
 私は、大日本帝国の宏禎王、皇族の一員で富士野宮宏恭王の嫡男です。
 実はあなた方はいずれボリシェビキの手により全員が銃殺される運命にありました。」

 皆さんある程度覚悟はしていたみたいですけれど、面と向かってそう言われるとビクッとしますよね。
 実のところメイドさんについては、皇帝一家が銃殺される前に邸を去らざるを得なくなっていますから、必ずしも真実じゃないですけれど、まぁ、嘘も方便っていうことで。

「その前哨とでもいうべき命令がボリシェビキの司令部から既に発せられています。
 4月にニコライ二世陛下とアレクサンドラ皇后陛下さらにマリア皇女をエカテリンブルグへ移送しろとの命令です。
 因みにその命令ではアレクセイ皇子を含め他の方々はそのままトボリスクに置かれたままになります。
 更には3月からは虜囚扱いで食糧事情が極端に悪くなります。
 末端兵士と同じものの配給になりますから、贅沢は一切できなくなりますね。
 これも中央の既定方針です。
 私の配下が情報を入手してくれていますのでそこまでのことはわかりました。
 ボリシェビキ幹部はあなた方を処刑する口実を探しています。
 今のところ広報できるような明確な処刑理由が無いので、躊躇(ちゅうちょ)しているのですが、それも夏場まででしょうね。
 何れにしろ邪魔な存在を消し去る方針は既に決まっているのです。
 で、この事態を救うにはあなた方をトボリスクから救出して何処かの国へ亡命させるしか方法はありませんでした。
 現在この船は英国に向かっています。
 英国宰相ディヴィッド卿及び国王陛下のジョージ五世が皆様の亡命を受け入れてくれます。
 私のお手伝いは、英国政府にあなた方をお渡しするまでです。
 亡命後のことは英国政府とご相談ください。
 どのようにして救出されたかについて問われた場合、飛行船を使ったことは英国政府には話していただいても構いませんが、私の正体及び配下の者達についての情報は一切隠してください。
 英国国王及び宰相も私の介在は知りません。
 単に国際的な秘密の組織と考えている筈です。
 恩人から口止めされていると言えば向こうも無理に聞こうとはしないでしょう。
 英国の宰相若しくはその配下の方々と落ち合う場所までは、ここから凡そ28時間ほどかかります。
 今現在はトボリスク時間で午後11時過ぎですが、英国とは4時間の時差がありますので、向こうは午後7時でしょうか。
 で、英国到着時刻は凡そですが現地時間の午後11時ころになるかと思います。
 それまで、この飛行船はどこにも寄りません。
 皆さんにはこの飛行船で1日強を過ごしていただきます。
 さほど広い部屋ではありませんし、豪華なベッドもありません。
 申し訳ありませんが皆さん毛布にくるまって寝てください。
 毛布は清潔なものが船内前部の方に積み上げられています。
 船内後部に洗面所とトイレがあります。
 男女の区別はないのですが、女性が多いので三つまでは女性用、残り一つは男性用とします。
 女性用はピンク、男性用は青の札をドアノブに着けていますのでわかりやすいでしょう。
 ただし緊急の場合はどうか譲り合ってくださいね。」

 そう言うとちょっと笑い声が出た。

「あともう一つ大事なことを申し上げておきましょう。
 私はラスプーチンではないのですが、ちょっとした魔術ができます。
 アレクセイ皇子は、ロマノフ家特有の病気、血友病にかかっていますね。
 これは遺伝によって発病する病気です。
 従って発病はしていませんが、オリガ皇女以下四名の皇女全員がその血をひいていますので、その子孫にも発病する者が出るかもしれません。
 で、提案です。
 私を信用してくださるならお子達の悪い遺伝子を取り除きます。
 但し、このことは誰にも知らせてはなりません。
 この場にいる誰かが秘密を一言でも口にすればアレクセイ殿下は即時に死に瀕しますし、漏らした者も苦しみぬいて死ぬことになります。
 この秘術は、呪術でもあり、そうそう使えません。
 同じ病気の人達がいて直してほしいと頼まれてもできないこともあるのです。
 お願いされてできなければ恨みが残るだけですが、そうした事態になりたくはありません。
 ですから、秘密は絶対に厳守してください。
 敢えて言うなら神の御恵があったと言えばいいでしょう。
 皇帝陛下、皇后陛下、ただいま申し上げた私のご提案について如何お考えでしょうか?」

「アレクセイを助けられるものならば何でもする、助けてやってほしい。」

「私も同じです、アレクセイのためならばこの命を差し上げます。」

「わかりました。
 次にオリガ皇女殿下如何ですか?」

「私たちに付きまとう血がなくともアレクセイのことは助けてほしい。
 秘密はどんなことが有っても守ります。」

「わかりました。
 次にタチアナ皇女殿下・・・・。」

 ・・・・・・・・・・・・・

 王家の一族全てに問いかけ了解を得てから、宏禎王が言った。

「残りの方々も決して他言無用です。
 アレクセイ殿下のお命がかかっておりますので、何卒、良しなに。」

 その場にいた全員が頷いた。
 宏禎王は念のため闇魔法で彼らの心も縛っている。

 これで彼らは秘密を洩らせない。
 漏らそうとしても声が出なくなり、動けなくなるからだ。

 闇魔法はある種の呪いに近いのだ。
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