婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう

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婚約破棄されましたが価値ある存在なのです

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 ライマン皇太子は、ソフィアが座った席のそばまで、静かに歩み寄った。会場がどよめく中、ライマンは立ったまま、フィリップの方に向き直って問いかけた。

「フィリップ公子。貴様は、このソフィア・アルザン子爵令嬢と婚約したのではなかったのか?」

 フィリップは、一瞬だけ表情を引きつらせたが、すぐに薄く笑った。

「ああ、ライマン皇太子殿下、気にされることはありません」

 彼は手をひらひらと振り、ソフィアを嘲るように見た。

「この女は確かに、かつて、私の婚約者であった者。しかし、貴族としての価値がないと判断して、既に婚約は破棄しました」

 クラウディアも言い添える。

「フィリップは、今は私の婚約者なのです。殿下が彼女に気を遣われる必要など、ありませんわ」

「ほう……」

 ライマンは一瞬目を細めると、静かに息を吐いた。

「貴族としての価値がない、か」

「ええ、その通りです!」

 フィリップは自信満々にうなづいた。

「そもそも、この女は帝国の貿易にも、政治にも、何の関係もありません。関わる必要もない、去年のカレンダーよりも役に立たない、無用な過去の存在なのです」

 その瞬間、ライマンはふっと笑った。

 しかしその笑顔は、残酷で冷たいものだった。

「なるほど……」

 ライマンは、すっと顎に手を添えながらつぶやいた。

「では、貴様の言い分では、不要な者は切り捨てるというのが、リタールの掟か?」

「当然です」

「貴族は常に自らの利益を追求し、最善の相手と結婚すべきですわ」

 クラウディアが優雅に言い添える。

「下らぬ感情に流されることなく、最も価値ある血統を残す……それこそが、貴族のあるべき姿です」

「……フッ」

 ライマンは短く笑い、今度は真正面からフィリップを睨みつけた。

 その紫色の瞳には、氷のような冷酷さが宿っていた。

「では、その下劣な血統を根絶やしにすべきなのは、お前たちだな」

 会場が静まり返った。

「は?」

 フィリップの顔から血の気が引く。

「な、何を?」

「貴族とは、価値のある存在。そう言ったではないか?」

 ライマンの声は冷たく響く。

「では、貴様の価値とは何だ?」

 フィリップが凍りつく。

「おのれの利益のために婚約者を捨て、利権にしがみつこうとする薄汚い男の、どこに価値がある?」

「ぐっ……!」

「本当の貴族、本当に価値のある存在とは、義を守り、誇りを持つ者を言うのだ。血筋など問題ではない。おのれの都合で簡単に婚約者を捨て、目先の利益に踊らされるようなクズに、貿易など任せられるか!」

「何という暴言! 殿下。なぜ私に、こんなひどい仕打ちをなさるので⁉」

 我慢の限界が来て抗議し始めたフィリップに、ライマンは肩をすくめながら、冷たく言い放つ。

「簡単なことだ」

 彼は、ゆっくりとソフィアへと目を向ける。

「弱者を切り捨てる者よりも、誇りを保ち続ける者を、私は価値ある存在として愛し、信頼する」

 その瞬間、フィリップの顔が歪む。

「お前のような浅ましい男に、帝国の貿易を任せるつもりは毛頭ない」

「そんなあ……!」

「それにだ」

 ライマンは鋭く言い放った。

「この場で、彼女を侮辱する者は、私が絶対に許さない」

 その言葉の意味を、まだ誰も理解していなかった。

 だが、会場には恐怖と緊張感が張りつめた。

「処罰は、リタール国王の判断に委ねよう。しかし、覚えておけ」

 ライマンは静かに、しかし絶対的な威圧感をもって告げる。

「帝国は、義なき者とは手を組まない」

 貴族たちがざわめき始める。

「フィリップ公子殿……これはまずいのでは?」

「もし、ライマン皇太子殿下がリタール王国を見限ったら……」


「くっ……!」

 フィリップは歯を食いしばり、拳を握りしめた。

(なぜだ、どうしてこうなった!)

 事ここに及んでも、彼はまだ理解していなかった。

 自分が捨てた「ただの養女」が、オーヴェスト帝国にとって何よりも重要な存在であることを……。
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