婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう

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婚約破棄されましたがお兄様は激おこです

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「さて……」

 ライマン皇太子は、会場の中心に立ち、静かに息を吐いた。

「そろそろ、真実を明かそう」

 その言葉に、貴族たちは息を呑んだ。
 誰もが、この場で何が語られるのかを注視していた。

 そして―ライマンは、ゆっくりとソフィアの手を取り、立ち上がらせた。

「彼女こそが、オーヴェスト帝国の皇女であり、我が妹、ソフィア・シュバイク・オーヴェストだ。」

 水を打ったような静寂が、場を包んだ。

 まるで時が止まったかのように、しばらく誰も動けなかった。

 フィリップの顔は、血の気が引いていき、クラウディアの扇が床に落ちる音だけが空虚に響いた。

「な……何だって?」

 貴族たちの間に動揺が広がる。

「皇女?」

「嘘だ……アルザン子爵家の養女だったはずでは?」

「ば、馬鹿な! そんなはずが……」

「ソフィアが……帝国皇族?」

 会場がざわめき、貴族たちは顔を見合わせた。
 先ほどまで彼女を見下し、侮辱していた者たちが、今度は必死に事態を理解しようとしていた。

 ソフィアは、哀れむような目で、貴族たちを見つめていた。

「信じられませんか? ですが、それが真実なのです」

「で、では……」

 レント侯爵が、焦ったように言う。

「私たちは、まさか、帝国の皇女殿下に対して……無礼を?」

「その通りだ」

 ライマンは冷たく言い放つ。

「貴様らは、帝国の皇女を公然と侮辱し、愚弄した。」

 会場が凍りついた。

 彼らの行為は、帝国に対する侮辱と同義だった。

「い、いやいやいや!」

 ハーディ伯爵が慌てて膝をつく。

「皇太子殿下、どうか……どうかお許しください! 我々は何も知らなかったのです!」

「そうです! 誤解でした! 決して悪気があったわけではありません!」

「ソフィア様が皇女殿下であると知っていれば、決してあのような無礼は致しませんでした!」

 次々に貴族たちがソフィアの足元に跪き、懇願を始める。

 たった数分前まで彼女を侮辱していた者たちが、今や必死に赦しを求めていた。

 だが、ライマンは冷笑した。

「哀れなものだな」

「皇太子殿下!」

「お前たちの罪は、消えない。必ず罰してやる」

 ライマンの声が響き渡る。

「知らなかったでは済まされぬ。無知は罪であり、お前たちはそれを証明した!」

 貴族たちの顔がみるみるうちに青ざめる。

「そんなむちゃくちゃな……」

 その時ソフィアが、口を開いた。

「お兄様? お兄様、本当にお久しゅうございます。このような形での再会となったこと、何とも複雑な気持ちでございます。ですが、この喜ばしき兄妹再会の席で、リタール王国の貴族の皆様を罰するようなご発言は、これ以上はどうか、控えてはいただけないでしょうか」

「そうだったな、ソフィアよ。リタール王国の王が来るのを待って、どう判断するかを見極めるとしよう」

 ライマンはソフィアの言葉を聞くと、たちまち硬い表情を崩して、ソフィアの隣に用意された自分の椅子に着席した。その様子に、貴族たちはホッと胸をなで下ろした。

 しかし次の瞬間、フィリップの怒声が響いてきた。


「ふざけるな!」

 フィリップが叫び、会場の全員が彼を見た。

 彼は怒りと焦りに満ちた表情でライマンを睨みつける。

「何が皇女だ! 何が罪だ! これは、オーヴェスト帝国の横暴ではないのか⁉ 外交問題だ!」

 クラウディア王女が、勝ち誇ったように微笑む。

「確かに、皇太子殿下のお言葉は、内政干渉ではなくて?」

 その言葉に、貴族たちは再びざわつく。

「内政干渉?」

「た、確かに!」

 フィリップは勢いづいて熱弁を振るう。

「そもそも、リタール王国の貴族社会において、どの貴族が誰と婚約しようが、誰と婚約破棄しようが、すべては我々の自由だ!」

「まさに、その通りよ」

 クラウディアが優雅に扇を広げる。

「貿易協定を盾に取って、帝国が我が国の婚姻制度や貴族社会に口を出すなら、それはすでに、侵略、ではなくて?」

 貴族たちはフィリップとクラウディアの飛躍した論理に困惑しながらも、中には、その言葉に賛同する者も出始めた。リント侯爵が、口火を切る。

「確かに、それはそうだ。リタールの独立万歳!」

 ハーディ伯爵も、ヒゲを立てながら、他人事のように解説する。

「ライマン皇太子は、どうやらリタール王国に圧力をかけ始めたようですな。ここは、リタール側も言うべきことはきちんと言ったほうが得策でしょう」

「我々は帝国の属国ではないのだ!」

ボルドン男爵も、強がって凄んでみせた。貴族たちの間に、不安と動揺が広がる。

 フィリップは拳を握りしめ、声を張り上げた。

「リタール王国は独立した国家だ! 帝国の経済侵略に屈するつもりはない!」

「ふむ。面白いことを言うな」

 ライマンは冷ややかに笑った。

「つまり、貴様らは、『侵略者』である我が帝国と、貿易をして儲けようとしていたわけだな? 貿易が侵略なら、貴様らが我が妹にやったことは、何なんだ?」

「そ、それは……!」

「貴様の理屈は、すべてご都合主義だ。我が帝国との貿易利権を、ヨダレを垂らして欲しがっておきながら、自分の悪事が暴かれると、帝国を『侵略者』呼ばわりする。なるほど。ならば、リタールは、『侵略者』である帝国との貿易を、一切断つ方針というわけだな?」

 その瞬間、会場の貴族たちが息を呑む。

「ま、待ってください!」
「それは困ります!」
「リタールの経済が破綻してしまう……!」

 慌てふためく貴族たちを見て、ライマンは満足げに微笑んだ。

「よく覚えておけ」

 彼の声は冷徹だった。

「貿易するかどうかは、我々が決める。もはや貴様らに、選択権などない!」

 貴族たちは震え上がり、たちまち黙り込んだ。

 貴族たちを煽動する最後の賭けに敗れたフィリップとクラウディアの二人は、屈辱に身を震わせながら、大広間の隅で茫然と立ち尽くしていた。
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