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番外 三十 番外 三十 マルチバース異世界編 猟師のダリオとバグ有テオドール 後日談 2
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東の都のカーニバルといえば、ちょっとした有名行事らしい。
ダリオは成人して以降、ほとんど他人から無視されるような生活を送っていたので、この華やかな祭りに参加した当日、すっかり目を回してしまっていた。人は多いし、目抜き通りには屋台が並び、皆が派手な衣装や仮面を身に着けている。誰が誰だか分からない。
「ダリオさん、大丈夫ですか?」
肩に短い腕をちょこんと乗せ、猫のように器用にぶら下がっているのは、スライム水饅頭のテオドールだ。
「あ、ああ。ちょっと驚いたけど、平気だ。ありがとうな。とりあえず、なんか食べるか……」
屋台はよりどりみどりだ。
焼いた豚肉を薄切りにしてもちもちしたパンに挟んだもの。生ソーセージを縦に裂いて鉄板で焼き、同じくパンに挟んだもの。油で揚げた穴なしドーナツにきのこのシチュー、シナモンたっぷりのホットワイン。少し先では大きなチーズの塊を豪快にナイフで切り分け、その場で炙ってくれる。
ダリオは早速、腹にたまる肉のパンとホットワインを買ってきて、テオドールと分け合うことにした。肉入りもちもちパンは炙りチーズものせてもらった特別仕様だ。
食べ歩きもいいが、噴水の台座に腰掛けると、その上にテオドールがぴょんと乗った。
「テオ、熱いから気をつけてな」
「はい。……ダリオさん、美味しいですね」
「美味しいな~」
はふはふ食べていると、とんでもなく幸せになる。口の中に熱々の肉汁が広がり、もちっとしたパンに染み込んで、たまらなく美味しい。
膝の上では、テオドールの小さな口からチーズがみょーんと伸び、短い腕で一生懸命格闘していた。
「テオ、チーズは切れそうか?」
「ありがとうございます、僕がこいつをやっつけます」
「はは、そうだな。俺も自分のをやっつけるか」
もう一口食べて、台に直置きしたホットワインに手を伸ばす。シナモンやクローブ、しょうがに蜂蜜を効かせた赤ワインは、飲むと体の奥からぽかぽか温まった。膝上に両手でコップを持つと、温石代わりにもなり、心も体も満たされる。
テオドールも興味をひかれたのか、短い腕で警戒気味にちょいちょいとつつくので、彼用の小さな木のコップに注いで手渡してやった。
「ありがとうございます」
テオドールはくぴくぴ飲み干すと、ダリオを見上げて言う。
「ダリオさん、この赤いやつ、不思議な味です。体が温かくなりますね」
水饅頭の体でも温かくなるんだなぁ、とダリオは感心しつつ答えた。
「ああ。ホットワインっていうんだけどな、色んな香辛料が入ってるからだろう」
「ダリオさんは、ホットワインを飲んだことがあるのですか?」
「そうだな。冬の冷え込む晩は、特別に作って飲んでたよ」
思い出しながら説明する。
「寒い日の贅沢で、ご馳走だった。でも、一人で飲んでた時より、テオと一緒だとずっと美味しく感じるなぁ。こんなに美味しいホットワイン飲んだことねーや」
「……ぼくも、ダリオさんと一緒に食べると、ひとりより美味しく感じます」
「そっか、お揃いだな」
夢みたいに幸せなこともあるんだなぁと胸がいっぱいになる。ほんの少し前まで、村で爪弾きにされ独りぼっちだったのに。
冷え切った小屋で一人もそもそ食べていた頃は、それが当たり前で何とも思っていなかった。
でも今だけは、大切な存在と一緒に食べる食事が、こんなにも幸せだと感謝で満たされた。
それからふたりは豚肉を挟んだパンを最後の一欠まで胃におさめ、ワインを飲み干し、また屋台を覗きに行く。人混みに疲れたら、噴水まで戻ってきて、戦利品をふたりで分け合って楽しんだ。
今度は揚げ物を食べていたら、いきなり紙吹雪を顔に投げつけられて、ダリオはびっくりした。白い仮面に黒いマントを身に着けた男たちが三人、ダリオを見下ろしている。
「よ、ダリオ!」
仮面を外すと、ふつうに東の都でできた知り合いだった。ダリオの店のお客様とも言える。
「なんだ、お前らか。今のは、よそ者は出ていけって儀式か何か?」
「ちげーよ! 祭りの時のいたずらだよ! ヘヴィにすんな!」
「テオドールちゃんは、今日も可愛いわねぇ!」
ムキムキの冒険者に迫られて、テオドールは「シャー!」と威嚇した。ウニ状態である。テオドールは、クソ王子の件もあって、基本的に人間が嫌いだ。ただ、ダリオも人間なので、かろうじて「人間はカス」と思うのを内心にとどめ、無の状態に保っているらしい。しかし店の中ならまだしも、外で向こうから近づかれると、こうなってしまう。
大騒ぎになる前に、「はいはい、あまり近寄らないでください」とダリオはテオドールを引き寄せてガードした。祭りで死傷者を出されたら本当に困る。
「あらあら、ごめんなさいねッ、プライベートゾーンを守らなきゃだったわ!」
ムキムキ冒険者たちはなぜかクネクネ喋りかけてくるので、余計に警戒されている。悪気はないようだが、本人たちも言う通り、適正な距離を守ってほしいものだ。
ダリオは成人して以降、ほとんど他人から無視されるような生活を送っていたので、この華やかな祭りに参加した当日、すっかり目を回してしまっていた。人は多いし、目抜き通りには屋台が並び、皆が派手な衣装や仮面を身に着けている。誰が誰だか分からない。
「ダリオさん、大丈夫ですか?」
肩に短い腕をちょこんと乗せ、猫のように器用にぶら下がっているのは、スライム水饅頭のテオドールだ。
「あ、ああ。ちょっと驚いたけど、平気だ。ありがとうな。とりあえず、なんか食べるか……」
屋台はよりどりみどりだ。
焼いた豚肉を薄切りにしてもちもちしたパンに挟んだもの。生ソーセージを縦に裂いて鉄板で焼き、同じくパンに挟んだもの。油で揚げた穴なしドーナツにきのこのシチュー、シナモンたっぷりのホットワイン。少し先では大きなチーズの塊を豪快にナイフで切り分け、その場で炙ってくれる。
ダリオは早速、腹にたまる肉のパンとホットワインを買ってきて、テオドールと分け合うことにした。肉入りもちもちパンは炙りチーズものせてもらった特別仕様だ。
食べ歩きもいいが、噴水の台座に腰掛けると、その上にテオドールがぴょんと乗った。
「テオ、熱いから気をつけてな」
「はい。……ダリオさん、美味しいですね」
「美味しいな~」
はふはふ食べていると、とんでもなく幸せになる。口の中に熱々の肉汁が広がり、もちっとしたパンに染み込んで、たまらなく美味しい。
膝の上では、テオドールの小さな口からチーズがみょーんと伸び、短い腕で一生懸命格闘していた。
「テオ、チーズは切れそうか?」
「ありがとうございます、僕がこいつをやっつけます」
「はは、そうだな。俺も自分のをやっつけるか」
もう一口食べて、台に直置きしたホットワインに手を伸ばす。シナモンやクローブ、しょうがに蜂蜜を効かせた赤ワインは、飲むと体の奥からぽかぽか温まった。膝上に両手でコップを持つと、温石代わりにもなり、心も体も満たされる。
テオドールも興味をひかれたのか、短い腕で警戒気味にちょいちょいとつつくので、彼用の小さな木のコップに注いで手渡してやった。
「ありがとうございます」
テオドールはくぴくぴ飲み干すと、ダリオを見上げて言う。
「ダリオさん、この赤いやつ、不思議な味です。体が温かくなりますね」
水饅頭の体でも温かくなるんだなぁ、とダリオは感心しつつ答えた。
「ああ。ホットワインっていうんだけどな、色んな香辛料が入ってるからだろう」
「ダリオさんは、ホットワインを飲んだことがあるのですか?」
「そうだな。冬の冷え込む晩は、特別に作って飲んでたよ」
思い出しながら説明する。
「寒い日の贅沢で、ご馳走だった。でも、一人で飲んでた時より、テオと一緒だとずっと美味しく感じるなぁ。こんなに美味しいホットワイン飲んだことねーや」
「……ぼくも、ダリオさんと一緒に食べると、ひとりより美味しく感じます」
「そっか、お揃いだな」
夢みたいに幸せなこともあるんだなぁと胸がいっぱいになる。ほんの少し前まで、村で爪弾きにされ独りぼっちだったのに。
冷え切った小屋で一人もそもそ食べていた頃は、それが当たり前で何とも思っていなかった。
でも今だけは、大切な存在と一緒に食べる食事が、こんなにも幸せだと感謝で満たされた。
それからふたりは豚肉を挟んだパンを最後の一欠まで胃におさめ、ワインを飲み干し、また屋台を覗きに行く。人混みに疲れたら、噴水まで戻ってきて、戦利品をふたりで分け合って楽しんだ。
今度は揚げ物を食べていたら、いきなり紙吹雪を顔に投げつけられて、ダリオはびっくりした。白い仮面に黒いマントを身に着けた男たちが三人、ダリオを見下ろしている。
「よ、ダリオ!」
仮面を外すと、ふつうに東の都でできた知り合いだった。ダリオの店のお客様とも言える。
「なんだ、お前らか。今のは、よそ者は出ていけって儀式か何か?」
「ちげーよ! 祭りの時のいたずらだよ! ヘヴィにすんな!」
「テオドールちゃんは、今日も可愛いわねぇ!」
ムキムキの冒険者に迫られて、テオドールは「シャー!」と威嚇した。ウニ状態である。テオドールは、クソ王子の件もあって、基本的に人間が嫌いだ。ただ、ダリオも人間なので、かろうじて「人間はカス」と思うのを内心にとどめ、無の状態に保っているらしい。しかし店の中ならまだしも、外で向こうから近づかれると、こうなってしまう。
大騒ぎになる前に、「はいはい、あまり近寄らないでください」とダリオはテオドールを引き寄せてガードした。祭りで死傷者を出されたら本当に困る。
「あらあら、ごめんなさいねッ、プライベートゾーンを守らなきゃだったわ!」
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