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番外 三十 番外 三十 マルチバース異世界編 猟師のダリオとバグ有テオドール 後日談 2
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ダリオは手紙を手にしたまま、呆然と立ち尽くした。
しかし、すぐに慌てて二階まで駆け上がり、テオドールがいないのを確かめると、カフェを飛び出した。
いつの間に出て行ったのだろう。寝ている間にいなくなったのだ。
以前、壁に磔にされ、無数の矢で針鼠のようにされたテオドールの姿が脳裏をよぎる。
まさかそんなことはないだろうが、人間が小さなテオドールにしてきた仕打ちの数々は、むしろダリオのトラウマになっていた。
とにかく探さねば。
昨日ふたりで歩いた目抜き通りや広場を往復し、目を皿にして小さなスライムを探す。
人々を呼び止めては「このくらいの水饅頭みたいなスライムを見ませんでしたか?」と尋ねる。
そのたびに不審そうにされたり、気の毒そうに「知らない」と言われたりしては、「そうですか、ありがとうございました」と頭を下げた。
もう一度くまなく広場を往復し、今度は範囲を広げてセントラルリバーまで足を運ぶ。
大きな河の流れを土手から見つめ、「まさか河に落ちたりしてないよな」と端から端まで歩いた。
わからない。小さなテオドールがそこにいるかどうか、見当もつかなかった。
河を切り上げてマーケットへも行ってみる。いや、そもそもテオドールは人混みが嫌いだ。
あまり意味がない気がして、今度は人気のない路地を探す。しかし、そこにも気配はなかった。
探し回るうちに、すっかり日が傾いてくる。
もしかしたら入れ違いかもしれないと家に戻ってみた。しかし、一階のカフェはしんと静まり返り、二階も夕日が差し込むばかりで、誰の気配もない。
あとはどこに行ったのだろう。
ダリオはよろよろと階下に降りて来た。
かたん、とドアの音に、はっと顔を上げた。
「テオ?!」
ドアを開けたのは、昨晩一緒に踊った青年、イーストシティ警備隊のアランだった。
「ごめん、なんか間が悪かったかな? って……ダリオ、すっごく顔色悪いよ。どうしたんだい?」
テオドールではなかった。急にめまいがして、ダリオは椅子に腰を下ろすと、額を押さえた。
「悪い、テオかと思って……」
ただ事ではないと察したアランは、革のブーツを鳴らして近づくと、ダリオの足元に膝をつき、助力を申し出た。
「何か困ったこと? 俺でよければ力になるよ。一応、イーストシティ警備隊だから。状況を教えてくれないか?」
いい奴だな、とダリオは情けなく思いながら、のろのろと口を開いた。
「テオが……置き手紙を残して、いなくなってしまった」
「……!」
「あちこち探したが、見つからない」
ダリオは座ったままぐったりした。
「……テオ、一見小さなスライムだろう? でも本当は、俺よりずっと強いんだよ。信じられないかもしれないけど、兵士が百人以上いても、たぶん余裕で勝てる……」
「信じるよ」
アランはきっぱりと肯定した。
「ダリオはテイマーとは違うみたいだけど、テイマーの召喚獣の強さは、見た目の大きさに比例しないことも多いから」
さすが東の都の警備隊員だけあって、アランの見識はずっと広いようだ。
「ああ。テオも見た目よりずっと強くて……分かってるんだが、……もし、河に落ちたり……」
その可能性を自分で言葉にした途端、ダリオは口元をおさえた。悪い想像をトリガーに、テオドールから聞かされた辛い話が次々と頭の中に広がっていく。
「うまく言えないんだが……その、テオは昔、独りで旅をしていた時に、馬車に忍び込んで、人間に見つかったことがあるらしくて。その時、棒でめった打ちにされたって言うんだ。地面と一体化するくらい棒で何度も叩かれて……泥や石が体に食い込んで、再生するのが酷く時間がかかったって」
「そんなことが……」
「ああ。テオから旅の話を聞くと、そんな話ばかりでさ。でも本人は気にしてないんだ。そんなこと何度もあったのに、遠いところから旅して、俺に会いに来たって……俺に会えるのが楽しみで、全然辛くなかったですって言うんだよ……」
ダリオは話しながら悲しくなってきた。
「あいつ、一事が万事そんなで……また似たような目に遭ってたらって考えてしまって……すまん、悪い想像ばかりだし、要領を得なさすぎるな」
「大丈夫。調書取るのに慣れてるから、言いたいことはわかるよ」
「……ああ、ありがとう」
やはり、先ほどからダリオは悪い想像に捕まってしまって抜け出せないでいた。
テオドールは、自分が酷い目に遭うのを、全く気にしてないのだ。
気にしてくれと言っても、本当の意味で理解してくれない。
どんなにテオドールがもう強いのだとわかっていても、ダリオはどうしても、小さな彼が大量の矢を受けて矢で針鼠にされていた姿や、旅をしていた時の話を思い出して、あまりにも辛かった。
テオドールがどこにいるかわからないから、もし彼がひどいことになっていても、ダリオは助けられない。本当は、テオドールにダリオの助けが不必要だとしても、それでも。
自分が情けなくなり、それ以上に心配で喉もつまる。
途切れ途切れの懸念を黙って聞いていたアランは、膝をついたままダリオの手を握った。
「そうか。ダリオは、置いて行かれたのが怖いんじゃない。テオドールくんが酷い目に遭ってるんじゃないかって、心配なんだな」
わかったよ、と力強く頷く。
「テオドールくんの捜索届を警備隊に出してみないか? ペットではないけど、その枠も使える。テイマーが登録モンスターを逃がした場合は捜索を受け付けるんだ。人海戦術なら、ダリオが一人で探すよりきっと早く見つかる」
「……すまない……それに、ほんとうにありがとう。お願いできると、とても助かる」
「市民の権利だから、『すまない』はいらないよ。じゃあ、一緒に行こう」
手を握られたまま、ダリオはゆっくりと立ち上がった。
しかし、すぐに慌てて二階まで駆け上がり、テオドールがいないのを確かめると、カフェを飛び出した。
いつの間に出て行ったのだろう。寝ている間にいなくなったのだ。
以前、壁に磔にされ、無数の矢で針鼠のようにされたテオドールの姿が脳裏をよぎる。
まさかそんなことはないだろうが、人間が小さなテオドールにしてきた仕打ちの数々は、むしろダリオのトラウマになっていた。
とにかく探さねば。
昨日ふたりで歩いた目抜き通りや広場を往復し、目を皿にして小さなスライムを探す。
人々を呼び止めては「このくらいの水饅頭みたいなスライムを見ませんでしたか?」と尋ねる。
そのたびに不審そうにされたり、気の毒そうに「知らない」と言われたりしては、「そうですか、ありがとうございました」と頭を下げた。
もう一度くまなく広場を往復し、今度は範囲を広げてセントラルリバーまで足を運ぶ。
大きな河の流れを土手から見つめ、「まさか河に落ちたりしてないよな」と端から端まで歩いた。
わからない。小さなテオドールがそこにいるかどうか、見当もつかなかった。
河を切り上げてマーケットへも行ってみる。いや、そもそもテオドールは人混みが嫌いだ。
あまり意味がない気がして、今度は人気のない路地を探す。しかし、そこにも気配はなかった。
探し回るうちに、すっかり日が傾いてくる。
もしかしたら入れ違いかもしれないと家に戻ってみた。しかし、一階のカフェはしんと静まり返り、二階も夕日が差し込むばかりで、誰の気配もない。
あとはどこに行ったのだろう。
ダリオはよろよろと階下に降りて来た。
かたん、とドアの音に、はっと顔を上げた。
「テオ?!」
ドアを開けたのは、昨晩一緒に踊った青年、イーストシティ警備隊のアランだった。
「ごめん、なんか間が悪かったかな? って……ダリオ、すっごく顔色悪いよ。どうしたんだい?」
テオドールではなかった。急にめまいがして、ダリオは椅子に腰を下ろすと、額を押さえた。
「悪い、テオかと思って……」
ただ事ではないと察したアランは、革のブーツを鳴らして近づくと、ダリオの足元に膝をつき、助力を申し出た。
「何か困ったこと? 俺でよければ力になるよ。一応、イーストシティ警備隊だから。状況を教えてくれないか?」
いい奴だな、とダリオは情けなく思いながら、のろのろと口を開いた。
「テオが……置き手紙を残して、いなくなってしまった」
「……!」
「あちこち探したが、見つからない」
ダリオは座ったままぐったりした。
「……テオ、一見小さなスライムだろう? でも本当は、俺よりずっと強いんだよ。信じられないかもしれないけど、兵士が百人以上いても、たぶん余裕で勝てる……」
「信じるよ」
アランはきっぱりと肯定した。
「ダリオはテイマーとは違うみたいだけど、テイマーの召喚獣の強さは、見た目の大きさに比例しないことも多いから」
さすが東の都の警備隊員だけあって、アランの見識はずっと広いようだ。
「ああ。テオも見た目よりずっと強くて……分かってるんだが、……もし、河に落ちたり……」
その可能性を自分で言葉にした途端、ダリオは口元をおさえた。悪い想像をトリガーに、テオドールから聞かされた辛い話が次々と頭の中に広がっていく。
「うまく言えないんだが……その、テオは昔、独りで旅をしていた時に、馬車に忍び込んで、人間に見つかったことがあるらしくて。その時、棒でめった打ちにされたって言うんだ。地面と一体化するくらい棒で何度も叩かれて……泥や石が体に食い込んで、再生するのが酷く時間がかかったって」
「そんなことが……」
「ああ。テオから旅の話を聞くと、そんな話ばかりでさ。でも本人は気にしてないんだ。そんなこと何度もあったのに、遠いところから旅して、俺に会いに来たって……俺に会えるのが楽しみで、全然辛くなかったですって言うんだよ……」
ダリオは話しながら悲しくなってきた。
「あいつ、一事が万事そんなで……また似たような目に遭ってたらって考えてしまって……すまん、悪い想像ばかりだし、要領を得なさすぎるな」
「大丈夫。調書取るのに慣れてるから、言いたいことはわかるよ」
「……ああ、ありがとう」
やはり、先ほどからダリオは悪い想像に捕まってしまって抜け出せないでいた。
テオドールは、自分が酷い目に遭うのを、全く気にしてないのだ。
気にしてくれと言っても、本当の意味で理解してくれない。
どんなにテオドールがもう強いのだとわかっていても、ダリオはどうしても、小さな彼が大量の矢を受けて矢で針鼠にされていた姿や、旅をしていた時の話を思い出して、あまりにも辛かった。
テオドールがどこにいるかわからないから、もし彼がひどいことになっていても、ダリオは助けられない。本当は、テオドールにダリオの助けが不必要だとしても、それでも。
自分が情けなくなり、それ以上に心配で喉もつまる。
途切れ途切れの懸念を黙って聞いていたアランは、膝をついたままダリオの手を握った。
「そうか。ダリオは、置いて行かれたのが怖いんじゃない。テオドールくんが酷い目に遭ってるんじゃないかって、心配なんだな」
わかったよ、と力強く頷く。
「テオドールくんの捜索届を警備隊に出してみないか? ペットではないけど、その枠も使える。テイマーが登録モンスターを逃がした場合は捜索を受け付けるんだ。人海戦術なら、ダリオが一人で探すよりきっと早く見つかる」
「……すまない……それに、ほんとうにありがとう。お願いできると、とても助かる」
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手を握られたまま、ダリオはゆっくりと立ち上がった。
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