俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 十三 教会と聖女編

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 ことの発端は、テオドールのお父さん発覚事件よりもだいぶ前にあった。
 マルチバースの不憫テオドールがこちらの世界にやって来た事件よりは後、こちらのテオドールと人型で初セックスするよりは前の出来事である。
 ちょうどこの期間は、ダリオとテオドールの『仲良し』といったら、主に指での開発で、ふたりの関係ももだもだと進行していたあたりだ。
 ことの発端日――
 昨晩は、大変仲良くしました――というわけで、『仲良し』の翌日、大学もアルバイトも休みだったダリオは無言でコーヒーを入れながら嬉しいような微妙なような顔つきである。
 キッチンにはダリオひとりで、テオドールは「用事がある」と言って今は外出している。放り出された感じではなく、出際にテオドールが思いなおしたように、フレンチ・キスをしてきて、挨拶のキスだと思っていたダリオは文字通り腰が砕けた。無感動な顔をして、「よいですか」と言うから、昨日仲良くしたもので、ダリオも軽い挨拶かなと思って了承した。それが、人外の青年から口腔をぐちゃぐちゃにまさぐられてみるといい。昨晩のあれこれからようやく落ち着いて、快く送り出そうとした瞬間、気まぐれか何か知らないが、振り向いてからの遠慮のないキスに舌使いである。全部ぶち壊され、朝からシャレにならない『お漏らし』をするところだった。
 恐らく、テオドールは何の意図もなく、したいからしただけで、揶揄うとか、熱愛とか、そういうためにしたのではない。この青年は常にマジレスなのだ。「馬、馬鹿……朝から……」とダリオはインキュバスに精魂絞り尽くされた馬鹿な男の気分で、気持ち的には蹴り出した。人外の青年に空気を読めとは言わないが、もっと軽くていいだろ、朝からこんなひとりでバスルーム直行コースとか……と暗澹たる気分だった。
 テオドールは熱心にダリオの拡張を進めているようだが、いまだにダリオはテオドールのキスひとつで、脳のヒューズがぶっ飛ぶところがある。
 それでも、人外の青年のふてぶてしいようなところを見ると、ダリオも嫌な気持ちにはならなかった。
(なんかだんだん元の感じなってきたな)
 悪くはない。
 まあいいか、とバスルームで処理をし、それからキッチンへ足を運んでからの現在だ。
 ケトルで湯を注ぎながら、ぼーっとしていると、不意にまた昨晩から今朝にかけてを思い出し、ダリオは「ああ~」というどうにもならない気持ちになって、手を止めた。
 これ俺一人で盛り上がってないか? などという羞恥や内省が頭をよぎっては沈下し、また浮上してくる。同時に、今朝のテオドールの急な遠慮のないキスが、ダリオの気分を浮つかせた。
 そうなればなるほどに、今までどれほど過去の対人関係に不誠実だったか分かるやつ、と過去の自分の言動が我が身に矢となって降り注ぎ、余計に頭が痛くなった。
 現在、テオドールが人外かつ価値観がぶっ飛んでいるため、ダリオの方が自分の空回りを気にする場面が多い。たぶん、過去に最短一週間で破局した数少ないガールフレンドたちも、今のダリオと同じような気持ちになっていたのだろう。ダリオが平淡で、自分だけ気持ちを回している。盛り上がっているのは自分だけか? そんな疑問が高じて、耐えきれなくなり、最終的にダリオはいつも相手から微妙な顔で振られたのだ。
(エヴァも聞いてみねえとわかんねえけど、たぶんそれだよな)
 テオドールとエヴァの淡々とした関係を見ていると、紹介後に平手打ち食らったのも、単なる口実で、本当はダリオをぶん殴りたくてぶん殴っただけなのかもしれないという気がする。そもそも最初つき合い立ての頃、エヴァはダリオにあまり厳しくはなかった。段々口調がきつくなって来て、本人も本当にそう思っているのか謎のような言いがかりをつけて来ては、言っているエヴァの方がしんどそうに見えて、どうしたらいいんだろうとか、そろそろ振られるサイン見えてきたかね、などとどこかぼんやり思っていたダリオだ。ダリオは誰かに好きになってもらうと、顔には出ないが嬉しくてぶんぶん尻尾を振ってしまうところがあり、付き合ってほしいと言われると、フリーならちょっと考えて、「うん」と頷いてしまう。だって嬉しい。誰かが俺を好きになってくれる。金がないなりに、できるだけ相手に尽くそうとするので、最初はいいのだが、それって誰でもいいんじゃない? 私だけが好きなの? と相手に思わせては、失望させてきたのだった。その辺の無責任さ全部を含めてぶん殴られたかなと思う。いや、それこそ本当のところはわからないが。
 だから、テオドールが急に抑えきれないようにキスしてきたのは、許可も取って来たし、ダリオ一人の空回りと言うわけでもないのだろう。普通に嬉しいやつ……と口元に手の甲を当てて、噛みしめてしまう。
 テオドールも俺のこと好き……と想像するだけで、ダリオは胸がいっぱいになって、今死んじゃっても別に俺いいけど……という気持ちになった。ダリオは割と幸せの沸点が低い。
 実際、テオドールが手加減忘れると、ダリオも自滅するため、けっこうデッドオアアライブではある。
 日常に支障をきたしていた時ほど異常性欲は感じないが、やはり愛情表現とお互いに積極的に合意しての肉体的接触は本当に満たされる。
 昨晩かなり、指で愛してもらって、ダリオは十分満足した。
(テオに、ゆびで、いっぱい……してもらった)
 もうなんか俺、最中呂律回ってなかったよな、と何とも言えない気持ちになる。後ろから中を掻き回されながら、とんでもない台詞を吐いていた気がする。
 指でこうだから、性器でも入れられた日には自分の輪郭が崩れそうな予感がするし、テオドールが精液を出せるのかも知らんけども、ナマで出してもらったらもう人間の形どころか精神崩壊しそう過ぎる、と思った。
(まあ、テオもその辺あるから、しねーんだろうけど)
 人外だが、テオドールは本当に理性が鉄壁な部分がある。
(あいつがやたら慎重ムーブだったのって、俺を壊さないためなんだろうな。あんまり俺のことどうでもいいと思ってた時は、そういう『壊れるかもしれない』ことについて、遠慮も手加減もさほどなかったと思うし)
 例え四肢が爆散して、人格が喪失しても、くっつけて動けば元通り判定していたのが初期テオドールである。
 『花』に対する執着と、ダリオ個人の人格への保持は完全に割り切って、後者は前者に付随するオマケ的なものでしかなかったように思う。
 それがずいぶん変わったものだ。
 今のテオドールはずいぶんダリオが『壊れない』ように執心しているのだから。
 しかし、この気遣いも比重が過ぎると、お互い負担が大きくなる。こうした無理が、現実に問題になってきていたのが最近のトラブルだとダリオは認識していた。
 そして今、今朝がたの思いなおしたような遠慮のないキスや、初期の頃を思わせる面の皮の厚そうな返答を見るに、恐らくよい方向に歩きだせているのではないかとも。
 敬意のない、個人として尊重されない態度も問題だが、壊れ物のように扱われるのも困る。
(と言っても、あいつほんと本体でかいし、力も強いんだろうから、壊さないか慎重になってくれるのはありがたいんだがな。ただ、負担かけすぎるのも本意じゃねーし、あいつがやってくれてるメンテナンスで、耐性つくのを期待するか)
 うん、とダリオは整理をつけて、顔を上げた。
 そのままドリップしたコーヒーフィルターを廃棄して、自室へ移動しようとした時だ。
 滅多に鳴ることのない呼び鈴が、この洋館内に音を鳴らしたのである。
 ダリオは「あ?」と不審に思ったが、引っ越して来た当初、近隣の怪異たちが挨拶に来たこともある。また、郵便物関連はテオドールが施した迷いの結界のようなものを除外されており、普通にたどり着けるようにはなっているらしい。
(宅配便かなんかか? なんも頼んでねえけど)
 テオドールだろうか。首をかしげながら、とりあえずダリオは訪問者を出迎えに行くこととした。
 そして出迎えたのは、ニコニコと愛想のいい金髪の男性一名に、難しい顔をしたハニーブロンドの女性一名、おどおどとした白い修道服姿の女性一名の計三名だ。各自腕に赤い十字の縫い取りや十字のネックレスを下げており、どう見てもイーストシティ・テンプルの関係者だった。
 ダリオは「……」と少し考えて後、
「俺は、宗教には現在、満足してますので」
 とそのまま玄関を締めようとしたのだが、真ん中に立つ金髪の女性に、
「違います!」
 と凄い形相で阻止されて、「はあ」と仕方なく話を聞くはめになったのだった。
 声を上げたのは、真ん中に立つ金髪碧眼の人形のような容貌の女性で、彼女は仕立ての良いパンツスーツ姿である。
「突然の訪問、非礼をまずはお詫びいたします」
 スーツ姿の金髪女性がまずは謝罪した。
「わたくしは、オルドラ教イーストシティ教区門徒会イーストシティ・テンプル教区長マリア・レフトウィッチです。こちらは、オルドラ教聖マジオ騎士団イーストシティ管区長のナサニエル・ヘルシング」
 目の覚めるような金髪に、氷海のようなアイスブルーの目をした若い男性が、ニコニコと目礼してきたので、ダリオも軽く頭を下げる。
「そして、彼女はアリアラエル・グリーン……見習いです」
 焦げ茶ヘアのそばかすが浮いた修道服女性を紹介する際、見習いと言う言葉の前に妙な沈黙があり、何の見習いだ? とダリオは疑問に思ったが、とりあえず口をつぐむ。
 あと、教区長とか、管区長とか、なんか偉そうな人たちが出て来たなと思った。要するにこの地区のオルドラ教トップではないだろうか。一大学生のダリオのところにわざわざ足を運んでくる理由は本来ない。つまり、絶対いい話じゃないやつ……たぶんテオドールのことだよなあ、と他に思いつかず、このまま扉を閉めたくなる。
「ご丁寧にどうも……俺はイーストシティ大学在学のダリオ・ロータスです……が、うちに何か?」
 ひとまず無礼にならないように挨拶した。
 イーストシティ・テンプルは、包括宗教法人オルドラ教の傘下寺院だ。信心より現物のマネーなダリオにはあまりこれまで縁がない団体ではある。ダリオは信仰心こそないものの、宗教へは一定の敬意を持っている。彼にあるのは、ただとにかく今の自分には無縁だなという線引きだった。将来的にはお世話になる可能性もあるし、あるいはまったくないかもしれない。現時点、特になんもねえなというところである。隣人が自分と違う何かを信じていたところで、害がなければ揶揄したり否定したりするのは、敬意がないという考えだ。
 どうやってここまでたどり着いたのか本当にわからないが、ダリオは次の言葉で彼らを中に招くことに決めた。
「あなたが無許可に使役……または、あなた自身が支配されているであろう大悪魔について、話があります」
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