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番外 十三 教会と聖女編
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「あなたが無許可に使役……または、あなた自身が支配されているであろう大悪魔について、話があります」
あー………とダリオはしばらく考えた。というか、考えているのか俺は? という謎の状態になった。
(えーと、正統派宗教関係者から見ると、そうなるのか……)
同時に、教会はやはりちゃんと怪異を把握してたのかよ、と改めて驚く。今までの俺の幼少時から怪異に追い回されて目玉や手足取られそうになってた苦労総スルーはなんだったんだ。
今来る? 今来るんだ……という脱力感のようなものが肩にずっしりのしかかる。
ダリオが覚えたのは、特に失意や悪意のようなものではなかった。
(ええ……来るならもっと早く来てほしかった……)
まあもういいけど……というのが正直なところである。多分、教会にとっては、幼いダリオが必死にサバイブしようがどうでもいい枠だったんだろうなとも思わされた。
ただ、テオドールのことは『どうでもよくない』枠なのだろう。
(というか、あいつ大悪魔扱いなのか)
テオドールが便宜上名乗った『支配者』も、各種次元の住人たちから、悪名高く認識されての呼称らしいし、そこは不思議ではない。というか、糞ヤバ物件扱いされている名称を自分達で「なるほど」と採用する感性も謎である。
彼のご先祖様? の『花』に対する仕打ち、拒絶されたらかわいさ余って憎さ百倍DV行為がこの次元でも目撃されていれば、悪魔と呼ばれてもまあそうなんかもな、と納得してしまうダリオだ。
「ええと、立ち話することでもないので……とりあえず中へどうぞ」
別に歓迎しているわけではないのだが、玄関先もどうかと思いダリオは促す。
「ありがとうございます」
教区長マリア・レフトウィッチと名乗ったハニーブロンドの女性は礼を言い、「アリアラエル」と声をかけて、おどおどとする見習い女性には「あなたはここにいなさい」と玄関口に残るように指示した。
「は、はい……」
アリアラエルと呼ばれた白い修道服の女性は、そばかすの浮いた顔を、ざっと青ざめさせた。見るからに卑屈な表情で、ぎゅっとなにか聖書のような本を胸元に抱きしめ、不明瞭に消え入りそうな声で返事する。
(ひとりだけ玄関に立たせるの、なに? いじめか?)
ダリオは内心引いた。オルドラ教の見習いとはそういう扱いなのか。
「あの、良ければ皆さんどうぞ。二人も三人も変わりませんので」
「ありがとうございます。ただ、これは我々の役目にかかることですので、お気遣いなく」
宗教的な何かをにおわされると、無理にとも言えず、ダリオは曖昧に頷いた。
そういうわけで、オルドラ教の偉い人、イーストシティ教区長マリアとなんとか騎士団管区長ナサニエルのふたりだけを応接室に通す。とりあえず茶を出そうとしたのだが、
「突然の非礼ですし、それには及びません」
とマリアに断られた。
「はあ……」
じゃあ、とダリオもあっさり引く。ここは駆け引きするところでもない。
面倒がなくていいが、どうも非礼云々だけではない気がする。テオドールを大悪魔と呼んでいるし、いいイメージからは出て来ない言葉だ。とすると――この館で飲食するのを避けているんだろうなあ、知らんけど、とダリオは推測する。いわばここはテオドールの領域だし、ダリオも全容を把握していない。ひとまず指摘は控え、ダリオとイーストシティ・テンプル組で、お互いに対面に座る。口火を切ったのは、無表情のマリアだ。
「結論から申し上げると、我々は今回、あなたが無許可に使役している悪魔を、我々に譲渡、もしくは返還するよう求めに来ました。急な厚かましいお願いとも呼べない要求ですし、色々と反論もあるかとは思いますが……本件は、聖マジオ騎士団管区長のナサニエル・ヘルシングからご説明させていただきます」
話を振られた管区長ナサニエルは、改めて挨拶し、聖人のようにニコリと微笑んだ。
「私のことは、ナサニエルと呼んでほしい」
いきなりフレンドリー感を出しながら言われたダリオは、「はあ」と言いそうになって、かろうじて「はい」と返事した。厳しい顔のマリアより、一見穏やかそうにしている騎士団管区長ナサニエルの方がどうも引っかかる。なんとなく、マリアはダリオよりもナサニエルをけん制しているように感じたのだ。同じオルドラ教でも縦割り組織で、仲が良くないのかもしれない。いや、知らんが……と先入観を頭の中、片手で追い払う。
とりあえず先に一言釘を刺しておくことにする。
「その……譲渡っていうのは……俺が仮に使役しているとすれば、譲渡になるでしょう。別に使役してませんが。ただ、返還っていうのがよくわからないんですが」
これには、ナサニエルが答えた。
「ダリオ君は、オルドラ教の神の恩恵について知っているかい?」
あんまり知らん……と思ったが、言い方あるよなとダリオも常識的に返した。
「一般教養としての範囲でしたら」
「そうだね。であれば、理解しやすいかな」
ナサニエルは両手を膝の上で組む。
「私たちの教義では、我々の生きるこの地は、煉獄と言うね。いわば魂の牢獄だ」
あー、なんかそんな話だったよね、とダリオは相槌を打つ。
「その煉獄において、生きることは苦役であり、試練と言える。それゆえに、神の恩恵なしに我々は生きられない。魂まで凍える大地、決して消えることのない不浄の炎の檻を、神が浄化くださることで、私たちは日々、暮らしていくことができるとするものだ」
ダリオはとりあえず頷いた。
「これが神の恩恵と呼ばれる。また、かの神がお使いになった力の欠片を、我々もギフトとして貸与にあずかることができる。つまり、信徒である我々もまた、この浄化を手伝うことがつとめと言えるね」
はあ、と相槌が曖昧になる。
「ギフトを与えられた信徒は、悪魔を調伏し、使役することで、神の恩恵を世界に行き届かせる一端を担っているんだよ」
なんかもうすでに話についていけん……とダリオは真顔の裏で混迷を極めていた。俺の知る一般教養とちがう……
「我々は、この使途及び使途する者をルーラードと呼んでいてね。私もまたルーラードだ。こちらのマリア嬢もね。理解してほしいのは、ルーラードが悪魔を調伏し、使役するのは神のギフトの代行者としてのそれであり、ゆえに全ての悪魔は、神の使役するものでもある」
「は、はあ」
そうすっか、とダリオは色々返事に困った。要するに、大悪魔テオドールも、神の代行者である教会に使途権利があると主張しているわけだ。
言っていることはぶっ飛んでて凄いが、ナサニエルもあまり熱狂的口調ではない。なんというか淡々としている。だが、愛想よくしていても、氷塊のようなアイスブルーの目の奥は笑っておらず、非常に冷徹なものを感じさせた。
(あー……これ、どっちかっていうと、信仰云々の熱意より、利権的なあれなんかな……)
大悪魔テオドールの使役管理利権を巡って、ナイフとフォークを片手に、関係者たちが分割権利を牽制しあっているイメージがダリオの頭に浮かんだ。
テオドールは他者から権利を主張されるようなものではないし、そもそもあいつそういうタマか? という疑問も同時に沸く。
そこまでナサニエルが告げて、隣で黙ってきいていたマリアは長々と嘆息した。
「正直申し上げて、わたくしは『寝ている犬は寝かせておけ』……という気持ちなのですが……」
テオドールを犬呼ばわりしたのではなく、昔からある故事だ。面倒事になりそうなことはそっとしておいた方がよい、災いを招くこともないという意である。
マリアは嫌そうな顔をして、優雅そうにしている騎士団管区長ナサニエル・ヘルシングを見た。ナサニエルは気にしたようすもなく、両手を膝上に組んだまま聖人めいた微笑みを崩さない。マリアは再度ダリオの方を向いた。
「わたくしから最初に申し上げ、先ほどヘルシング管区長が説明いたしましたのは、このような理由で、オルドラ教は動いておりますという意です」
彼女は言葉を切った。
「ただ、現実として、わたくしの見立てでは、大悪魔——テオドールさんとおっしゃるのでしたね、ええ、失礼ながら調べさせていただきましたので……彼には下手に手を出さない方がよいだろうと思います」
「あー……ええと、つまり、それはレフトウィッチさん」
「わたくしのことはマリアとお呼びください」
「あ、ではマリアさん。その、それはマリアさん個人の考えでいらっしゃる?」
「横から失礼」
ナサニエルが口を挟んだ。
「我々聖マジオ騎士団も基本的に現時点そのように考えているね」
マリアは、すん、とした顔になったが、そのまま続ける。
「ヘルシング管区長も申し上げた通り……オルドラ教団も色々な考えがありまして……教団自体は、あくまで先に述べたとおりの理由で動きますから、わたくしが出てこなければ、よろしくないちょっかいをかけて、よろしくないことになるなと思いまして、わたくしが参りました」
マリアは横のナサニエルを冷たい目で睨んだ。彼は変わらず内心の読めない微笑を浮かべていた。つまり、ナサニエル・ヘルシング並びに彼が管区長をつとめるなんとか騎士団(聖マジオ騎士団)は、「現時点」テオドールへの手出しについて様子見である。しかし長期視点では、本音は別のところにあると。また、マリアはダリオの前でもあからさまに牽制を隠さないでいる。仲が悪いというより、パフォーマンスされてんのかなあ、とダリオは思った。ナサニエルとは違うのだというアピールを、後々のために惜しまないつもりなのかもしれない。
「そうですか。その、俺は一介の学生なので、ざっくばらんな口調を許していただきたいんですが、この場合、そちらの落としどころってどの辺になるんでしょうか」
教会内の政治バランスとか俺は知らんし、教えてくれや、とダリオは直に尋ねることとした。
マリアは厳しい表情を崩し、謝意のようなものを見せた。
「ダリオさん、あなたからそうおっしゃってくださって、とてもありがたいです。よろしければ、定期的にこのような場をもうけていただきたいのです」
「このような場……」
「はい。わからないから、人はそれをもって、実体以上に恐れます」
ダリオにも言いたいことはわかる。
「とはいえ、実体の方が、我々の想像より遥かに大きいとわたくして見ていますが……」
マリアは自嘲するように呟き、すぐに気持ちを切り替えるように顔を上げた。
「定期的な対話をもって、テオドールさんが我々と敵対しないという証の代わりに。本当はそもそも放置でいいと思うのですが……ごめんなさい、もしあなたがたの気が向けば、こちらの手助けをしてくださるとありがたいです」
「そうしないと、色々ちょっかいかけられそうなんですよね?」
その場合、テオドールをどこまで止められるかダリオにもわからなかった。
「わたくしは、テオドールさんを過小評価するつもりはないのです。つまり、あなた方にとって、我々のちょっかいも究極には問題ないかもしれませんが、よろしくないちょっかいが、よろしくない被害を起こすのは、わたくしも……現時点騎士団も避けたいと考えている。そうご理解ください」
ダリオは話を聞いて、テオドールと出会ったばかりの頃のことを思い出した。
(テオに「お前が本気出したらどうなんの?」って聞いたら、「控えめに言ってイーストシティが崩壊します」的なこと言われた覚えが……ある……)
そのまま少しシミュレーションしてみた。
教会からのちょっかい→テオが「排除していいですか」と言い出す→下手するとイーストシティが→俺が止める羽目になる→テオが納得いかないとごねる→俺が止める羽目になる(二回目)。
そこまでクリアに浮かんで、ダリオは目の前が暗くなった。悪夢だ。
「先程申し上げた通り、俺はテオドールを使役しているわけじゃあないんで、彼が言うこと聞くかどうかはわかりませんが。できるだけ穏便にすむよう、努力はします」
「……ダリオさん、ありがとうございます」
感謝します、とほっとした表情を見せたマリアは、そのまま、みぞおちを押さえた。笑おうとしているのだが、顔面から血の気が下がり、気づけば脂汗の量が尋常ではない。
「マリアさん……?」
「え、ええ」
かなり胃を痛めていたらしい。再度微笑もうとして、「うっ」と差し込むように体を折り曲げた。
「え、ちょっと大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、安心したら急に来て……すぐにおいとましますので」
「いやいやいや、ほんと休んでください! 救急車呼びますか?!」
「いつものことなのでおかまいなく……」
いつものことってなんだ。教団の職場環境は大丈夫なのか。ナサニエルを見ると、肩をすくめて、「珍しいことではないよ。マリア嬢はよく胃を痛める体質のようでね」と言う。
とりあえず、こんな冷淡対応のナサニエルがいるとマリアが気を抜けないのではないだろうか。休んでもらいたいが、この家でダリオとふたりきりの方が、状況的にストレスかもしれない。玄関口に待たせている見習いとかいう女性も気になる。どうするのがベターか。
少し話し合って、マリアはやはり休んでもらうことになった。彼女は別にダリオに対して拒否感はないらしい。よって、具合がわるい人の都合が優先という判断だ。また、ナサニエルは外で待つ女性と先に帰ってもらうことで話がついたのだった。
「上は好き勝手言うし、わたくしはルーラードとしても力は微妙なのに、中間管理職だし……断られたら、どうなるかと……後任はきっと絶対テオドールさんを怒らせてシティがめちゃくちゃに……うううううう」
希望を聞いて温かい飲み物を出し、ソファベッドで休んでもらっている内に、ダリオとマリアは『苦労が多い』点でいつの間にか意気投合していた。そして、何故かマリアの愚痴大会になってしまった。
「放っておけばいいのに、わざわざちょっかいかけて、シティが……シティが……」
「とりあえずゆっくり休んでください。まだ起きてない悪夢ですから。それまだ幻覚です」
「そ、そう、幻覚です。幻覚ですよね。でも絶対何かろくでもないことをする奴らが……わたくし全力で止めますから、ダリオさんもテオドールさんを止めてください。お願いしますお願いします」
ダリオもそこそこ苦労してきた方だが、マリアは別の意味で気苦労が多いようだ。なんだこのひと、気の毒だな、とダリオはできるだけ本当に協力しようと思わされた。
そうして、マリアが回復して辞去してから、テオドールも帰宅したので、本件の話をこの人外の青年にしたのである。
「……というわけだ」
「そうですか……」
応接間のソファで、テーブルを囲んで説明する。テオドールは首を傾げて少し考えるように口元に手を当てていたが、ダリオに確認してきた。
「少し映像を見たいので、該当時間のものを確認してもよろしいでしょうか」
「あ? マリアさんたちが屋敷にいた時間帯の映像見られるのか?」
「はい。ダリオさんの過去の言動を勝手に閲覧するのもどうかと思いましたので、許可をいただけましたら確認します」
テオドールはこういうところがある。勝手に見たってダリオにはわからない。力関係上、テオドールが強行したとしても、ダリオの抗議など、この青年に何の不利益ももたらさない。それでも確認してくれるのは、ダリオの自由や権利、気持ちを尊重してくれるからだ。無理。好き。あー……と、ダリオは少し情緒が乱れたし、頭をぐしゃぐしゃにしたくなったが、ここは話を進める場面だ。空咳して仕切り直した。
「……俺はいいけど、マリアさんたちは許可とれねーしな。まあ向こうが無茶振って来てるし、そこは勘弁してもらおう」
該当施設管理者が防犯カメラを確認するようなものと割り切って、ダリオも了承した。テオドールはすぐに確認をすませたらしい。
「大体内容を把握しました」
「あー、じゃあマリアさんの顔わかるか?」
「はい」
ダリオは膝を開いた姿勢で、十指を組み、やや前傾した。
「なんか気苦労多そうだし、できる範囲で協力……というか、優しくしてほしい……まあテオが嫌だなと思うことはしなくていいが、できるだけでいいから」
「優しくですか」
「う、うーん……難しいよな。そうだな、最低限いきなり排除行動に走らないでほしい……いや、テオは毎度排除前に、俺にどうか聞いてくれてるが、教会がけっこうちょっかいかけてきそうなんで、反射的にこう……物理で強めに排除しないでほしいというか。優し目に頼む……」
「マリアさんだけそうすれば?」
「ええ~~~~いや、排除行動全般はこれまで通り止めてほしいが……とにかく優し目に……」
「とりあえず、マリアさんの顔は記憶しました。玄関口にいる女性はどうされますか?」
「あー、ええと確か……アリアラエルさんだったか。彼女も同じだな。とにかく優し目に……」
ダリオは同じことを念押しする。『優しい』がゲシュタルト崩壊しそうだ。
すると、テオドールが、ずい、と顔を寄せて覗き込んで来た。
うわ、とダリオはソファに倒れ込むようにしてクッションの山に沈む。手をつき、膝をソファに乗り上げ見下ろしてくるテオドールの影がダリオの顔にかかり、息が止まる。
「僕はダリオさんには『優しく』したいと思い、できるだけそうしているつもりです」
「う、あ、ああ」
それは痛いほど理解している。妙にテオドールの迫力があるので、ダリオは気おされるように舌がもつれた。
「ダリオさんにするように――他の誰にも『優しく』はできません。僕の理解では、それは人間社会では不貞にあたります。支配者的にも、性質上難しいです」
「う、うん」
そうだな、とダリオも頷いた。そして脈拍が異様に早くなるのを感じて戸惑った。
「ですが、『花』にお願いされたら全部叶えたい。ダリオさんにするようには他の誰にもなしえませんが――ダリオさんが他の方にされるように、『親切に』するようにします。それでよろしいか」
「は、はい」
なぜかダリオは敬語になってしまった。もしかして俺、テオの虎の尾を踏んだのか――? と思わされたが、迫力があるだけで、テオドールも別に脅しでやっている感じではない。
それなのに、ダリオは巨大な虎に圧し掛かられて首筋に牙を立てられているような心地がした。このまま首の骨を噛み砕かれ、いいようになぶられる幻視まで見えて、妙に緊張している自分に気づく。そんなことテオドールがしないのは分かってる。しかし、起きてもおかしくないくらいの力の差はあるのだと、急に差し迫って生々しく感じられた。例えば、テオドールに押さえ込まれたら、ダリオは恐怖を感じて抵抗し、喚いて拒否したとしても、自力ではね除けることはできない。そのくらいふたりの間には歴然と権力勾配が横たわっている。
幻視したり、緊張したりしているということは、結局どこかで、自分より強い存在に力を行使される可能性を恐れているということだ。そうなれば、ふたりの関係は壊れてしまう。一度関係が壊れたら、元の信頼を取り戻すのは容易でない。ダリオはもう安心して身を委ねることもできなくなるだろう。
テオドールにそのつもりがなくても、自分の本能的なところに根差した感覚が、巨大な存在を感じ取って怖がってるな、とダリオは客観的に思った。こればかりは、明確に力の差があることで、信頼があるからダリオも腹を見せられているに過ぎない。だから、些細なことで、それが壊れるのを恐れている。
覆い被さられた体勢で、このまま雪崩れ込みそうな雰囲気もあるが、今の状態で性行為をすると、いつもと違う感じになりそうだ。
普段ならぴたりと心身を密着して、何も酷いことはされないのだと安心し委ねられるのが、どこか凹凸の隙間を感じる状態ですることになる。ダリオは今の自分が怖いなと感じた気持ちを無視しない方がいいなと思った。上手く言わないと、とテオドールを見上げる。口を開いた。
「て、てお。ひ、ひどいこと、しないで……」
慣れないことをしたせいか、舌が思い切りもつれる。あれ、思ったより、変な感じの懇願になってしまった、とダリオは我ながら焦った。
当然ながら、目の前のテオドールは、ソファに乗り上がり、ダリオの体をまたぐようにして手をついたまま、目を見開いて硬直してしまった。
テオドールにしてみれば、心外すぎるだろう。ダリオも焦るあまり、そうじゃないと失言を返上しようとして、ほとんど考えずに反射で言葉が出た。
「え、あ、い、いつもみたいに、してほしい……優しくしてくれるのが好き……」
言った端からダリオは頭を抱えたくなる。舌が動かなさすぎだ。三歳児だろうか。これでは、汚名返上どころか、汚名挽回である。
「ダリオさん、すみません。少し……漏れていたようです」
漏れていたって何がだ。テオドールは口許に手をやった。
「今もまだ障りがありますが……もう一度」
「は?」
「もう一度言っていただけると」
は? 何をと疑問符が浮かぶ。先の台詞らしいことを理解させられるのに、やや要領を得ないもたつく問答がふたりの間で応酬された。
わかったのは、ひどいことをしないでほしいという台詞が、テオドールには自省をもたらすと同時に、なんらか琴線に触れたらしい。
ダリオは混乱しながら、もつれる舌でまたお願いすることになった。
「ひ、ひどいこと、しないで」
テオドールから反応はない。短くない沈黙と静寂が落ちた後、バキッッッッ、と明らかに折れてはいけない何かが折れる破壊音がした。
瞳孔の開ききったテオドールが、ダリオの肩を細心の注意でつかむ。
「しないです」
ここは、これまでの自制と努力を軽んじられて、怒ってもいいところではないかと思う。しかし、なぜかそちらの方面ではないようだ。
わかるのは、めちゃくちゃテオドールが興奮しているということである。
どこがどう琴線に触れたのか、まったくわからない。後々ダリオは、テオドールのお世話したい欲だとか、花からの懇願めいた本心からのお願いやおねだりだとか、支配者特有の暴力的な性質だとか、いろんなものが奇跡的にがっちりはまる言い方を自分がしてしまったのだと。
理解するには、現在情報のピースが足りないまま、口を開ける。そして、興奮をコントロールできないテオドールに逆に懇願されて、彼の領域に連れ込まれ、ぐちゃぐちゃのどろどろのトロトロになるまで彼の精を注がれた。
興奮しすぎて、テオドールは二本生殖器を作った。ダリオが三歳児なら、テオドールは数が数えられなくなったか、1本では高ぶりが発散できないと我慢できなかったかどちらかだ。彼は二輪刺しこそしなかったものの、交互に抜き差しして、悦点をぬくぬくからごりごりと擦り上げた。ダリオは入れ代わり立ち代わり入れられた上に、白濁をたっぷり奥にかけられて、気持ちよすぎるあまり、顔を覆いたくなるような台詞を吐きまくった。
挿入されて気持ちいいのもあるが、テオドールがわかりやすく興奮していたのが大きい。ダリオもテオドールの興奮に共鳴し、内壁が疼痛感を覚えるくらいギュウギュウと食い締めた。奥の入り口は、はむはむじぱじぱとペニスの先端に健気なほど吸い付いて、すき、すき、とキスをせがんだ。テオドールも歓ぶ。つまり、最奥にどぷどぷ白濁を出された。現実ではこうもいかない。感極まって、ふるふると多幸感に感じ入りながら、だめぇ、とか、だいすき、とか、あとはとにかく泣いて酷かった。本当に酷い。
最初に避妊の説明はあったのだが、あかちゃんできちゃう、と泣きじゃくったので、避妊してますから、となだめられ、たぶんその台詞でまたテオドールは収拾がつかなくなっているようだった。ちなみに、テオドールが避妊しないと、恐らく本当にあかちゃんはできる。経済的基盤もなく、なんの準備もしてない。結婚もしてないのに、そんなの駄目だった。
あとはイキっぱなしだと辛いので、スローセックスしてもらって、落ち着かせていく。咥え込んだまま、たくさんキスしてもらい、ゆっくりゆっくり揺さぶりながら、キスの方に夢中になってきて、湯に浸かるように気持ちよくなってくる。何度か天井に導かれながら、優しく生殖器を抜かれると、最初はじんじんとしていた奥も、満たされてとぷとぷ白濁を穴の縁から溢しながら、力が抜けていくのだった。ダリオは頭が痺れながら、現実のテオともこういう風にしたいなぁと思った。
思いがけずテオドールの本体とめちゃくちゃ盛り上がってしまった。全然大歓迎だが、ダリオは現実にかえっても、しばらくぼーっとなる。凄かった。テオドールと喧嘩別れを万一しても、たぶんダリオは二度と他の人と充実セックスできないレベルで凄かった。一番快感がすごい状態で戻されずに、橋渡しするようスローセックスしてくれるテオドールの気遣いもありがたい。あれをしてもらわないと、帰ってくるのは相当きつい。現実でも満たされないようにおなかがじんじんして、悶え苦しむ羽目になるだろう。なお、現実に帰ってからもキスをちょいちょいして、結局寝台に転移してからいちゃいちゃした。
なので、ダリオ的にはいい日だったなーで終わった一幕であったが、ことの発端の芽はすでに出ていたのである。
本件からしばらくたったある日、テオドールはダリオにお願いされたとおり、「親切に」振る舞った。
ダリオの「親切」をテオドールはよく見ていたので、この人外の青年なりに解釈し、ある女性が性的暴行を受けそうになった際、間に割って入り、彼女を暴漢から助けて、安全な場所まで送り届けるまでしたのだ。
これはテオドール本人が、そうした方が女性にとって心的負担が軽減されるだろうとか、思いやりから行われたわけではない。ダリオを観察学習した結果、ダリオさんはいつもこうされているので……と親切の範疇に含めて行ったものだった。
結果だけ見ると、非常に「親切」だが、よりによってある種の人間を『狂わせる』テオドールがこれら一連の行為をひとりの女性に丁寧に振る舞ったのは果たして「親切」だったのか。
テオドールを見て、魅了される人々は多々いるが、大体の人間は、しばらくすると正気にかえる。
その中でも、覚めない極彩色の悪夢のように、『狂わされる』人間たちには、実はひとつの共通点がある。
彼らは、満たされないということだ。
どれほど与えられても、底の抜けた桶のように満たされることがない。
空虚を抱え、湯水のように金を使おうと、あるいは他者から与えられようと、飢餓を抱えている人間たちが、支配者を見ると狂う。
意外に、貧困者は一時的に魅了されても、正気にかえりやすい。彼らが抱えているのは、底のある器のケースも多いからだ。食欲や性欲、睡眠欲の三大欲求など、空っぽの器が満たされれば落ち着く。それゆえ狂わされることは少なく、富裕層にテオドールを見て狂ってしまう人々が多いのはそういうわけである。
だが、今回は事情が違った。
『親切』を与えたのはテオドールであり、それ以上の何かは与えられない状況が発生した。
成熟した人格の人間ならば問題なかったかもしれない。しかし今回はそうでなかった。
重ねてダリオは、テオドールに、「教会関係者ともめごと起こさんでくれ」と言ったついでに、マリアの胃痛を思い出して、「できるだけ優しくしてやって」と付け加えた一言が、後に事態を悪化させるとは思ってもいなかったのである。
テオドールに特別のように扱われたと感じた人間が、この人外の青年をどのように見て、神聖視するか、更に自身との関係をどうとらえるか。その仮定を。
あるいは、テオドールが特別扱いするダリオをどのように見るか。その人間が、ダリオが不当に大悪魔を使役しているという情報に接することが可能で、詳しい事情には立ち入れない立場であれば。どう考えるのか。
ことの発端から、種は発芽を始め、やがて大輪の花を咲かせようとしていた。
あー………とダリオはしばらく考えた。というか、考えているのか俺は? という謎の状態になった。
(えーと、正統派宗教関係者から見ると、そうなるのか……)
同時に、教会はやはりちゃんと怪異を把握してたのかよ、と改めて驚く。今までの俺の幼少時から怪異に追い回されて目玉や手足取られそうになってた苦労総スルーはなんだったんだ。
今来る? 今来るんだ……という脱力感のようなものが肩にずっしりのしかかる。
ダリオが覚えたのは、特に失意や悪意のようなものではなかった。
(ええ……来るならもっと早く来てほしかった……)
まあもういいけど……というのが正直なところである。多分、教会にとっては、幼いダリオが必死にサバイブしようがどうでもいい枠だったんだろうなとも思わされた。
ただ、テオドールのことは『どうでもよくない』枠なのだろう。
(というか、あいつ大悪魔扱いなのか)
テオドールが便宜上名乗った『支配者』も、各種次元の住人たちから、悪名高く認識されての呼称らしいし、そこは不思議ではない。というか、糞ヤバ物件扱いされている名称を自分達で「なるほど」と採用する感性も謎である。
彼のご先祖様? の『花』に対する仕打ち、拒絶されたらかわいさ余って憎さ百倍DV行為がこの次元でも目撃されていれば、悪魔と呼ばれてもまあそうなんかもな、と納得してしまうダリオだ。
「ええと、立ち話することでもないので……とりあえず中へどうぞ」
別に歓迎しているわけではないのだが、玄関先もどうかと思いダリオは促す。
「ありがとうございます」
教区長マリア・レフトウィッチと名乗ったハニーブロンドの女性は礼を言い、「アリアラエル」と声をかけて、おどおどとする見習い女性には「あなたはここにいなさい」と玄関口に残るように指示した。
「は、はい……」
アリアラエルと呼ばれた白い修道服の女性は、そばかすの浮いた顔を、ざっと青ざめさせた。見るからに卑屈な表情で、ぎゅっとなにか聖書のような本を胸元に抱きしめ、不明瞭に消え入りそうな声で返事する。
(ひとりだけ玄関に立たせるの、なに? いじめか?)
ダリオは内心引いた。オルドラ教の見習いとはそういう扱いなのか。
「あの、良ければ皆さんどうぞ。二人も三人も変わりませんので」
「ありがとうございます。ただ、これは我々の役目にかかることですので、お気遣いなく」
宗教的な何かをにおわされると、無理にとも言えず、ダリオは曖昧に頷いた。
そういうわけで、オルドラ教の偉い人、イーストシティ教区長マリアとなんとか騎士団管区長ナサニエルのふたりだけを応接室に通す。とりあえず茶を出そうとしたのだが、
「突然の非礼ですし、それには及びません」
とマリアに断られた。
「はあ……」
じゃあ、とダリオもあっさり引く。ここは駆け引きするところでもない。
面倒がなくていいが、どうも非礼云々だけではない気がする。テオドールを大悪魔と呼んでいるし、いいイメージからは出て来ない言葉だ。とすると――この館で飲食するのを避けているんだろうなあ、知らんけど、とダリオは推測する。いわばここはテオドールの領域だし、ダリオも全容を把握していない。ひとまず指摘は控え、ダリオとイーストシティ・テンプル組で、お互いに対面に座る。口火を切ったのは、無表情のマリアだ。
「結論から申し上げると、我々は今回、あなたが無許可に使役している悪魔を、我々に譲渡、もしくは返還するよう求めに来ました。急な厚かましいお願いとも呼べない要求ですし、色々と反論もあるかとは思いますが……本件は、聖マジオ騎士団管区長のナサニエル・ヘルシングからご説明させていただきます」
話を振られた管区長ナサニエルは、改めて挨拶し、聖人のようにニコリと微笑んだ。
「私のことは、ナサニエルと呼んでほしい」
いきなりフレンドリー感を出しながら言われたダリオは、「はあ」と言いそうになって、かろうじて「はい」と返事した。厳しい顔のマリアより、一見穏やかそうにしている騎士団管区長ナサニエルの方がどうも引っかかる。なんとなく、マリアはダリオよりもナサニエルをけん制しているように感じたのだ。同じオルドラ教でも縦割り組織で、仲が良くないのかもしれない。いや、知らんが……と先入観を頭の中、片手で追い払う。
とりあえず先に一言釘を刺しておくことにする。
「その……譲渡っていうのは……俺が仮に使役しているとすれば、譲渡になるでしょう。別に使役してませんが。ただ、返還っていうのがよくわからないんですが」
これには、ナサニエルが答えた。
「ダリオ君は、オルドラ教の神の恩恵について知っているかい?」
あんまり知らん……と思ったが、言い方あるよなとダリオも常識的に返した。
「一般教養としての範囲でしたら」
「そうだね。であれば、理解しやすいかな」
ナサニエルは両手を膝の上で組む。
「私たちの教義では、我々の生きるこの地は、煉獄と言うね。いわば魂の牢獄だ」
あー、なんかそんな話だったよね、とダリオは相槌を打つ。
「その煉獄において、生きることは苦役であり、試練と言える。それゆえに、神の恩恵なしに我々は生きられない。魂まで凍える大地、決して消えることのない不浄の炎の檻を、神が浄化くださることで、私たちは日々、暮らしていくことができるとするものだ」
ダリオはとりあえず頷いた。
「これが神の恩恵と呼ばれる。また、かの神がお使いになった力の欠片を、我々もギフトとして貸与にあずかることができる。つまり、信徒である我々もまた、この浄化を手伝うことがつとめと言えるね」
はあ、と相槌が曖昧になる。
「ギフトを与えられた信徒は、悪魔を調伏し、使役することで、神の恩恵を世界に行き届かせる一端を担っているんだよ」
なんかもうすでに話についていけん……とダリオは真顔の裏で混迷を極めていた。俺の知る一般教養とちがう……
「我々は、この使途及び使途する者をルーラードと呼んでいてね。私もまたルーラードだ。こちらのマリア嬢もね。理解してほしいのは、ルーラードが悪魔を調伏し、使役するのは神のギフトの代行者としてのそれであり、ゆえに全ての悪魔は、神の使役するものでもある」
「は、はあ」
そうすっか、とダリオは色々返事に困った。要するに、大悪魔テオドールも、神の代行者である教会に使途権利があると主張しているわけだ。
言っていることはぶっ飛んでて凄いが、ナサニエルもあまり熱狂的口調ではない。なんというか淡々としている。だが、愛想よくしていても、氷塊のようなアイスブルーの目の奥は笑っておらず、非常に冷徹なものを感じさせた。
(あー……これ、どっちかっていうと、信仰云々の熱意より、利権的なあれなんかな……)
大悪魔テオドールの使役管理利権を巡って、ナイフとフォークを片手に、関係者たちが分割権利を牽制しあっているイメージがダリオの頭に浮かんだ。
テオドールは他者から権利を主張されるようなものではないし、そもそもあいつそういうタマか? という疑問も同時に沸く。
そこまでナサニエルが告げて、隣で黙ってきいていたマリアは長々と嘆息した。
「正直申し上げて、わたくしは『寝ている犬は寝かせておけ』……という気持ちなのですが……」
テオドールを犬呼ばわりしたのではなく、昔からある故事だ。面倒事になりそうなことはそっとしておいた方がよい、災いを招くこともないという意である。
マリアは嫌そうな顔をして、優雅そうにしている騎士団管区長ナサニエル・ヘルシングを見た。ナサニエルは気にしたようすもなく、両手を膝上に組んだまま聖人めいた微笑みを崩さない。マリアは再度ダリオの方を向いた。
「わたくしから最初に申し上げ、先ほどヘルシング管区長が説明いたしましたのは、このような理由で、オルドラ教は動いておりますという意です」
彼女は言葉を切った。
「ただ、現実として、わたくしの見立てでは、大悪魔——テオドールさんとおっしゃるのでしたね、ええ、失礼ながら調べさせていただきましたので……彼には下手に手を出さない方がよいだろうと思います」
「あー……ええと、つまり、それはレフトウィッチさん」
「わたくしのことはマリアとお呼びください」
「あ、ではマリアさん。その、それはマリアさん個人の考えでいらっしゃる?」
「横から失礼」
ナサニエルが口を挟んだ。
「我々聖マジオ騎士団も基本的に現時点そのように考えているね」
マリアは、すん、とした顔になったが、そのまま続ける。
「ヘルシング管区長も申し上げた通り……オルドラ教団も色々な考えがありまして……教団自体は、あくまで先に述べたとおりの理由で動きますから、わたくしが出てこなければ、よろしくないちょっかいをかけて、よろしくないことになるなと思いまして、わたくしが参りました」
マリアは横のナサニエルを冷たい目で睨んだ。彼は変わらず内心の読めない微笑を浮かべていた。つまり、ナサニエル・ヘルシング並びに彼が管区長をつとめるなんとか騎士団(聖マジオ騎士団)は、「現時点」テオドールへの手出しについて様子見である。しかし長期視点では、本音は別のところにあると。また、マリアはダリオの前でもあからさまに牽制を隠さないでいる。仲が悪いというより、パフォーマンスされてんのかなあ、とダリオは思った。ナサニエルとは違うのだというアピールを、後々のために惜しまないつもりなのかもしれない。
「そうですか。その、俺は一介の学生なので、ざっくばらんな口調を許していただきたいんですが、この場合、そちらの落としどころってどの辺になるんでしょうか」
教会内の政治バランスとか俺は知らんし、教えてくれや、とダリオは直に尋ねることとした。
マリアは厳しい表情を崩し、謝意のようなものを見せた。
「ダリオさん、あなたからそうおっしゃってくださって、とてもありがたいです。よろしければ、定期的にこのような場をもうけていただきたいのです」
「このような場……」
「はい。わからないから、人はそれをもって、実体以上に恐れます」
ダリオにも言いたいことはわかる。
「とはいえ、実体の方が、我々の想像より遥かに大きいとわたくして見ていますが……」
マリアは自嘲するように呟き、すぐに気持ちを切り替えるように顔を上げた。
「定期的な対話をもって、テオドールさんが我々と敵対しないという証の代わりに。本当はそもそも放置でいいと思うのですが……ごめんなさい、もしあなたがたの気が向けば、こちらの手助けをしてくださるとありがたいです」
「そうしないと、色々ちょっかいかけられそうなんですよね?」
その場合、テオドールをどこまで止められるかダリオにもわからなかった。
「わたくしは、テオドールさんを過小評価するつもりはないのです。つまり、あなた方にとって、我々のちょっかいも究極には問題ないかもしれませんが、よろしくないちょっかいが、よろしくない被害を起こすのは、わたくしも……現時点騎士団も避けたいと考えている。そうご理解ください」
ダリオは話を聞いて、テオドールと出会ったばかりの頃のことを思い出した。
(テオに「お前が本気出したらどうなんの?」って聞いたら、「控えめに言ってイーストシティが崩壊します」的なこと言われた覚えが……ある……)
そのまま少しシミュレーションしてみた。
教会からのちょっかい→テオが「排除していいですか」と言い出す→下手するとイーストシティが→俺が止める羽目になる→テオが納得いかないとごねる→俺が止める羽目になる(二回目)。
そこまでクリアに浮かんで、ダリオは目の前が暗くなった。悪夢だ。
「先程申し上げた通り、俺はテオドールを使役しているわけじゃあないんで、彼が言うこと聞くかどうかはわかりませんが。できるだけ穏便にすむよう、努力はします」
「……ダリオさん、ありがとうございます」
感謝します、とほっとした表情を見せたマリアは、そのまま、みぞおちを押さえた。笑おうとしているのだが、顔面から血の気が下がり、気づけば脂汗の量が尋常ではない。
「マリアさん……?」
「え、ええ」
かなり胃を痛めていたらしい。再度微笑もうとして、「うっ」と差し込むように体を折り曲げた。
「え、ちょっと大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、安心したら急に来て……すぐにおいとましますので」
「いやいやいや、ほんと休んでください! 救急車呼びますか?!」
「いつものことなのでおかまいなく……」
いつものことってなんだ。教団の職場環境は大丈夫なのか。ナサニエルを見ると、肩をすくめて、「珍しいことではないよ。マリア嬢はよく胃を痛める体質のようでね」と言う。
とりあえず、こんな冷淡対応のナサニエルがいるとマリアが気を抜けないのではないだろうか。休んでもらいたいが、この家でダリオとふたりきりの方が、状況的にストレスかもしれない。玄関口に待たせている見習いとかいう女性も気になる。どうするのがベターか。
少し話し合って、マリアはやはり休んでもらうことになった。彼女は別にダリオに対して拒否感はないらしい。よって、具合がわるい人の都合が優先という判断だ。また、ナサニエルは外で待つ女性と先に帰ってもらうことで話がついたのだった。
「上は好き勝手言うし、わたくしはルーラードとしても力は微妙なのに、中間管理職だし……断られたら、どうなるかと……後任はきっと絶対テオドールさんを怒らせてシティがめちゃくちゃに……うううううう」
希望を聞いて温かい飲み物を出し、ソファベッドで休んでもらっている内に、ダリオとマリアは『苦労が多い』点でいつの間にか意気投合していた。そして、何故かマリアの愚痴大会になってしまった。
「放っておけばいいのに、わざわざちょっかいかけて、シティが……シティが……」
「とりあえずゆっくり休んでください。まだ起きてない悪夢ですから。それまだ幻覚です」
「そ、そう、幻覚です。幻覚ですよね。でも絶対何かろくでもないことをする奴らが……わたくし全力で止めますから、ダリオさんもテオドールさんを止めてください。お願いしますお願いします」
ダリオもそこそこ苦労してきた方だが、マリアは別の意味で気苦労が多いようだ。なんだこのひと、気の毒だな、とダリオはできるだけ本当に協力しようと思わされた。
そうして、マリアが回復して辞去してから、テオドールも帰宅したので、本件の話をこの人外の青年にしたのである。
「……というわけだ」
「そうですか……」
応接間のソファで、テーブルを囲んで説明する。テオドールは首を傾げて少し考えるように口元に手を当てていたが、ダリオに確認してきた。
「少し映像を見たいので、該当時間のものを確認してもよろしいでしょうか」
「あ? マリアさんたちが屋敷にいた時間帯の映像見られるのか?」
「はい。ダリオさんの過去の言動を勝手に閲覧するのもどうかと思いましたので、許可をいただけましたら確認します」
テオドールはこういうところがある。勝手に見たってダリオにはわからない。力関係上、テオドールが強行したとしても、ダリオの抗議など、この青年に何の不利益ももたらさない。それでも確認してくれるのは、ダリオの自由や権利、気持ちを尊重してくれるからだ。無理。好き。あー……と、ダリオは少し情緒が乱れたし、頭をぐしゃぐしゃにしたくなったが、ここは話を進める場面だ。空咳して仕切り直した。
「……俺はいいけど、マリアさんたちは許可とれねーしな。まあ向こうが無茶振って来てるし、そこは勘弁してもらおう」
該当施設管理者が防犯カメラを確認するようなものと割り切って、ダリオも了承した。テオドールはすぐに確認をすませたらしい。
「大体内容を把握しました」
「あー、じゃあマリアさんの顔わかるか?」
「はい」
ダリオは膝を開いた姿勢で、十指を組み、やや前傾した。
「なんか気苦労多そうだし、できる範囲で協力……というか、優しくしてほしい……まあテオが嫌だなと思うことはしなくていいが、できるだけでいいから」
「優しくですか」
「う、うーん……難しいよな。そうだな、最低限いきなり排除行動に走らないでほしい……いや、テオは毎度排除前に、俺にどうか聞いてくれてるが、教会がけっこうちょっかいかけてきそうなんで、反射的にこう……物理で強めに排除しないでほしいというか。優し目に頼む……」
「マリアさんだけそうすれば?」
「ええ~~~~いや、排除行動全般はこれまで通り止めてほしいが……とにかく優し目に……」
「とりあえず、マリアさんの顔は記憶しました。玄関口にいる女性はどうされますか?」
「あー、ええと確か……アリアラエルさんだったか。彼女も同じだな。とにかく優し目に……」
ダリオは同じことを念押しする。『優しい』がゲシュタルト崩壊しそうだ。
すると、テオドールが、ずい、と顔を寄せて覗き込んで来た。
うわ、とダリオはソファに倒れ込むようにしてクッションの山に沈む。手をつき、膝をソファに乗り上げ見下ろしてくるテオドールの影がダリオの顔にかかり、息が止まる。
「僕はダリオさんには『優しく』したいと思い、できるだけそうしているつもりです」
「う、あ、ああ」
それは痛いほど理解している。妙にテオドールの迫力があるので、ダリオは気おされるように舌がもつれた。
「ダリオさんにするように――他の誰にも『優しく』はできません。僕の理解では、それは人間社会では不貞にあたります。支配者的にも、性質上難しいです」
「う、うん」
そうだな、とダリオも頷いた。そして脈拍が異様に早くなるのを感じて戸惑った。
「ですが、『花』にお願いされたら全部叶えたい。ダリオさんにするようには他の誰にもなしえませんが――ダリオさんが他の方にされるように、『親切に』するようにします。それでよろしいか」
「は、はい」
なぜかダリオは敬語になってしまった。もしかして俺、テオの虎の尾を踏んだのか――? と思わされたが、迫力があるだけで、テオドールも別に脅しでやっている感じではない。
それなのに、ダリオは巨大な虎に圧し掛かられて首筋に牙を立てられているような心地がした。このまま首の骨を噛み砕かれ、いいようになぶられる幻視まで見えて、妙に緊張している自分に気づく。そんなことテオドールがしないのは分かってる。しかし、起きてもおかしくないくらいの力の差はあるのだと、急に差し迫って生々しく感じられた。例えば、テオドールに押さえ込まれたら、ダリオは恐怖を感じて抵抗し、喚いて拒否したとしても、自力ではね除けることはできない。そのくらいふたりの間には歴然と権力勾配が横たわっている。
幻視したり、緊張したりしているということは、結局どこかで、自分より強い存在に力を行使される可能性を恐れているということだ。そうなれば、ふたりの関係は壊れてしまう。一度関係が壊れたら、元の信頼を取り戻すのは容易でない。ダリオはもう安心して身を委ねることもできなくなるだろう。
テオドールにそのつもりがなくても、自分の本能的なところに根差した感覚が、巨大な存在を感じ取って怖がってるな、とダリオは客観的に思った。こればかりは、明確に力の差があることで、信頼があるからダリオも腹を見せられているに過ぎない。だから、些細なことで、それが壊れるのを恐れている。
覆い被さられた体勢で、このまま雪崩れ込みそうな雰囲気もあるが、今の状態で性行為をすると、いつもと違う感じになりそうだ。
普段ならぴたりと心身を密着して、何も酷いことはされないのだと安心し委ねられるのが、どこか凹凸の隙間を感じる状態ですることになる。ダリオは今の自分が怖いなと感じた気持ちを無視しない方がいいなと思った。上手く言わないと、とテオドールを見上げる。口を開いた。
「て、てお。ひ、ひどいこと、しないで……」
慣れないことをしたせいか、舌が思い切りもつれる。あれ、思ったより、変な感じの懇願になってしまった、とダリオは我ながら焦った。
当然ながら、目の前のテオドールは、ソファに乗り上がり、ダリオの体をまたぐようにして手をついたまま、目を見開いて硬直してしまった。
テオドールにしてみれば、心外すぎるだろう。ダリオも焦るあまり、そうじゃないと失言を返上しようとして、ほとんど考えずに反射で言葉が出た。
「え、あ、い、いつもみたいに、してほしい……優しくしてくれるのが好き……」
言った端からダリオは頭を抱えたくなる。舌が動かなさすぎだ。三歳児だろうか。これでは、汚名返上どころか、汚名挽回である。
「ダリオさん、すみません。少し……漏れていたようです」
漏れていたって何がだ。テオドールは口許に手をやった。
「今もまだ障りがありますが……もう一度」
「は?」
「もう一度言っていただけると」
は? 何をと疑問符が浮かぶ。先の台詞らしいことを理解させられるのに、やや要領を得ないもたつく問答がふたりの間で応酬された。
わかったのは、ひどいことをしないでほしいという台詞が、テオドールには自省をもたらすと同時に、なんらか琴線に触れたらしい。
ダリオは混乱しながら、もつれる舌でまたお願いすることになった。
「ひ、ひどいこと、しないで」
テオドールから反応はない。短くない沈黙と静寂が落ちた後、バキッッッッ、と明らかに折れてはいけない何かが折れる破壊音がした。
瞳孔の開ききったテオドールが、ダリオの肩を細心の注意でつかむ。
「しないです」
ここは、これまでの自制と努力を軽んじられて、怒ってもいいところではないかと思う。しかし、なぜかそちらの方面ではないようだ。
わかるのは、めちゃくちゃテオドールが興奮しているということである。
どこがどう琴線に触れたのか、まったくわからない。後々ダリオは、テオドールのお世話したい欲だとか、花からの懇願めいた本心からのお願いやおねだりだとか、支配者特有の暴力的な性質だとか、いろんなものが奇跡的にがっちりはまる言い方を自分がしてしまったのだと。
理解するには、現在情報のピースが足りないまま、口を開ける。そして、興奮をコントロールできないテオドールに逆に懇願されて、彼の領域に連れ込まれ、ぐちゃぐちゃのどろどろのトロトロになるまで彼の精を注がれた。
興奮しすぎて、テオドールは二本生殖器を作った。ダリオが三歳児なら、テオドールは数が数えられなくなったか、1本では高ぶりが発散できないと我慢できなかったかどちらかだ。彼は二輪刺しこそしなかったものの、交互に抜き差しして、悦点をぬくぬくからごりごりと擦り上げた。ダリオは入れ代わり立ち代わり入れられた上に、白濁をたっぷり奥にかけられて、気持ちよすぎるあまり、顔を覆いたくなるような台詞を吐きまくった。
挿入されて気持ちいいのもあるが、テオドールがわかりやすく興奮していたのが大きい。ダリオもテオドールの興奮に共鳴し、内壁が疼痛感を覚えるくらいギュウギュウと食い締めた。奥の入り口は、はむはむじぱじぱとペニスの先端に健気なほど吸い付いて、すき、すき、とキスをせがんだ。テオドールも歓ぶ。つまり、最奥にどぷどぷ白濁を出された。現実ではこうもいかない。感極まって、ふるふると多幸感に感じ入りながら、だめぇ、とか、だいすき、とか、あとはとにかく泣いて酷かった。本当に酷い。
最初に避妊の説明はあったのだが、あかちゃんできちゃう、と泣きじゃくったので、避妊してますから、となだめられ、たぶんその台詞でまたテオドールは収拾がつかなくなっているようだった。ちなみに、テオドールが避妊しないと、恐らく本当にあかちゃんはできる。経済的基盤もなく、なんの準備もしてない。結婚もしてないのに、そんなの駄目だった。
あとはイキっぱなしだと辛いので、スローセックスしてもらって、落ち着かせていく。咥え込んだまま、たくさんキスしてもらい、ゆっくりゆっくり揺さぶりながら、キスの方に夢中になってきて、湯に浸かるように気持ちよくなってくる。何度か天井に導かれながら、優しく生殖器を抜かれると、最初はじんじんとしていた奥も、満たされてとぷとぷ白濁を穴の縁から溢しながら、力が抜けていくのだった。ダリオは頭が痺れながら、現実のテオともこういう風にしたいなぁと思った。
思いがけずテオドールの本体とめちゃくちゃ盛り上がってしまった。全然大歓迎だが、ダリオは現実にかえっても、しばらくぼーっとなる。凄かった。テオドールと喧嘩別れを万一しても、たぶんダリオは二度と他の人と充実セックスできないレベルで凄かった。一番快感がすごい状態で戻されずに、橋渡しするようスローセックスしてくれるテオドールの気遣いもありがたい。あれをしてもらわないと、帰ってくるのは相当きつい。現実でも満たされないようにおなかがじんじんして、悶え苦しむ羽目になるだろう。なお、現実に帰ってからもキスをちょいちょいして、結局寝台に転移してからいちゃいちゃした。
なので、ダリオ的にはいい日だったなーで終わった一幕であったが、ことの発端の芽はすでに出ていたのである。
本件からしばらくたったある日、テオドールはダリオにお願いされたとおり、「親切に」振る舞った。
ダリオの「親切」をテオドールはよく見ていたので、この人外の青年なりに解釈し、ある女性が性的暴行を受けそうになった際、間に割って入り、彼女を暴漢から助けて、安全な場所まで送り届けるまでしたのだ。
これはテオドール本人が、そうした方が女性にとって心的負担が軽減されるだろうとか、思いやりから行われたわけではない。ダリオを観察学習した結果、ダリオさんはいつもこうされているので……と親切の範疇に含めて行ったものだった。
結果だけ見ると、非常に「親切」だが、よりによってある種の人間を『狂わせる』テオドールがこれら一連の行為をひとりの女性に丁寧に振る舞ったのは果たして「親切」だったのか。
テオドールを見て、魅了される人々は多々いるが、大体の人間は、しばらくすると正気にかえる。
その中でも、覚めない極彩色の悪夢のように、『狂わされる』人間たちには、実はひとつの共通点がある。
彼らは、満たされないということだ。
どれほど与えられても、底の抜けた桶のように満たされることがない。
空虚を抱え、湯水のように金を使おうと、あるいは他者から与えられようと、飢餓を抱えている人間たちが、支配者を見ると狂う。
意外に、貧困者は一時的に魅了されても、正気にかえりやすい。彼らが抱えているのは、底のある器のケースも多いからだ。食欲や性欲、睡眠欲の三大欲求など、空っぽの器が満たされれば落ち着く。それゆえ狂わされることは少なく、富裕層にテオドールを見て狂ってしまう人々が多いのはそういうわけである。
だが、今回は事情が違った。
『親切』を与えたのはテオドールであり、それ以上の何かは与えられない状況が発生した。
成熟した人格の人間ならば問題なかったかもしれない。しかし今回はそうでなかった。
重ねてダリオは、テオドールに、「教会関係者ともめごと起こさんでくれ」と言ったついでに、マリアの胃痛を思い出して、「できるだけ優しくしてやって」と付け加えた一言が、後に事態を悪化させるとは思ってもいなかったのである。
テオドールに特別のように扱われたと感じた人間が、この人外の青年をどのように見て、神聖視するか、更に自身との関係をどうとらえるか。その仮定を。
あるいは、テオドールが特別扱いするダリオをどのように見るか。その人間が、ダリオが不当に大悪魔を使役しているという情報に接することが可能で、詳しい事情には立ち入れない立場であれば。どう考えるのか。
ことの発端から、種は発芽を始め、やがて大輪の花を咲かせようとしていた。
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