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番外 二十二 出る?! ランダムガチャ
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しおりを挟むあれ? とダリオは目が覚めた。自宅のベッドの中である。
おまけに、向かい合ってテオドールに抱きついている状態だったので、うわ……とダリオは驚いた。ダリオの方が思い切り身を寄せているが、毛布の下でテオドールの片腕もダリオに優しく回っていて、酔っぱらい相手に宥めてくれたようだ。
昨晩はダンスして、それから……楽しくて、また酒を飲んで、へらへらへろへろになり、潰れたっぽいな、と冷静にダリオは思った。
最初の一杯はダグラスの奢りで、あとは自分の飲み代は自分で払ったダリオである。
こんな贅沢、前はできなかった。常にかつかつで、余計な出費は抑える生活を送っていたのだ。いつだって、何かをすれば、別の何かを我慢しなければならない。その月の金銭的収支や、来月はどうなるかなど、財布の中が気になって、思い切り食べたり、飲めたりしたことがなかった。ダリオには家族の支援も、後ろ盾もない。限られた家計費の中で、優先すべきは、勉学の教材だった。また、体を壊さないよう、衣食住には気を使わなければならず、自然と交際費は切りつめることになった。
経済的に自転車操業だった時は、友人と後先考えず、気軽に飲みに行くなんて、ほとんど考えられなかっただろう。
しかし、テオドールが来てから、倒れても生活をシェアしてくれる人がいるため、ダリオも心身の余裕ができた。
それで、財布をあまり気にせず、友人たちと飲めるのが嬉しくて、つい杯を重ねてしまった。
だが、記憶が抜けるほど飲むのはどうなんだ。これはあまりよくない。
テオドールに運んでもらったような記憶はある。
テオ……とダリオは少し悩んで、もう少し頭を彼に預けるようにした。
胸のぎゅうっと不整脈になるような疝痛を覚える。
ずっと一緒にいたいな。
ダリオは素直に思った。前は認めるのも怖くて、あまり意識しないようにしていたが、ずっと一緒にいたい。
ずっとの単位がお互いに認識違いで想定外だったが、この先も一緒にいたいのは本当だった。
どうしよう、とダリオは目をつぶる。
もう1年以上ともに過ごしているのに、気持ちが落ち着くことがない。
好きになって、昨日よりもっと好きになる。
両思いというやつのはずなのだが、片思いみたいに苦しい。
テオドールがしてくれる以上に、ダリオも返したいのに、上手くできていない気がする。
毎日もっと好きになるのに、ちゃんと伝えられていない。
だいすき。
テオドールが好きだ。
なんでもしてあげたい。
他人に何かをしてあげたいと思う心理は、劣等感から強迫観念的に、相手を繋ぎ止めようとしてだったり、何もできていない罪悪感からというケースもあると聞くが、自分のはそれなのだろうか。
そういう面も全くないとは言わないが、今のダリオは、与えられるように自分もできうる限り与えたいという気持ちがいっぱいだった。
ダリオがしてあげたいのは、テオドールがしてくれるように、彼からもらう愛を返したいということだ。
だって、テオドールから愛してもらうのは、とても幸せだ。ダリオもテオドールに幸せになってほしい。
なんでもあげたい。
テオドールは食事を必要とはしないけれど、もし彼が飢えることがあれば、ダリオの食べ物を全部あげる。
ふたりではんぶんこなら、大きい方を、美味しい方をあげる。
そういうふうに、ダリオはテオドールに何でもあげたかった。
でも、テオドールは実際食事も金銭も不要だから、何をあげたらいいのか、思いつかない。
「テオ、だいすきだ……」
ぴったりくっついて、ダリオが呟くと、ぼくもです、と柔らかな黒髪のかかる白皙の額の下、テオドールが目を開けて、ダリオを見下ろしていた。驚くと、青年が囁くように口にする。
「好きです。ダリオさん……好きです」
「おれも……おれも、テオがすき……昨日は送ってくれたんだろ、ありがとうな。テオと踊れて、凄く嬉しかった……」
とても楽しかった、と伝える。テオドールの形の良い唇が、かすかに開閉し、わなないたように見えた。ぼくも、とテオドールは何か耐えるように言い、苦痛と我慢とのせめぎ合いのようなものが、葛藤として愁眉を寄せた眉間に表れる。折り合いがついたのか、海の底のような青い双眸に、紫の炎が熱を帯びて身を捩るさまが見えた。
「触りたいです。ダリオさんの体に触ってもよろしいでしょうか」
ん、ぜんぶ大丈夫、と頷いたが早いか、項から優しく指を差し入れられた。
項をたどる指が、襟足から頭皮をなぞり、ダリオは気持ちの良さに思わず喉が反る。
「こちらもいいですか」
背中に回されていた腕が動き、少しだけ指先が腰に触れられる。
「ぜんぶ、ぜんぶいい……さわって。テオにいっぱい触られたい……」
わずかに触れられた腰の中心から、痺れるような官能の兆しがあった。
「はい」
ぼくも、とテオドールがどこか上擦って、再びため息のように呟いた。指先が降りてくる。
「ん……ん!」
腰骨から尾てい骨へ、肉付きの良い臀部をも指は愛撫していき、体の表面から奥へと快楽の熾火でじりじり炙られるような心地がする。
もう駄目だった。
「テオ……テオ」
向き合っていた半身を反転し、背中から肩に腕を回すと、頭の横に優しく手を添えられ唇が落ちてきた。
優しく唇をついばみ、すぐ離れて、また唇が降りてきて、角度を変え、何度も何度もリップ音だけさせている。
もっと。
もっとして。
だいすき。だいすき。
自分の好意が、テオドールの感覚器官に伝わるというのなら、今たくさんテオドールに色とりどりの結晶のようなそれが降り注いで彼の体に吸収されているはずだ。ダリオも一度経験したが、それはまるで、美しい多角形や帯が体に入り込んできて、万華鏡のようでもあり、音楽のようにも思える。共鳴して鳴り響き、すき、すき、と相手の気持ちがダイレクトに伝わってくる刺激的な体験だった。気持ち良すぎて、ダリオはブラックアウトしたくらいである。
(テオも気持いいか?)
「ン゙っ、んぅ、てお、」
もっとして。
ようやく舌が唇を割って、少しだけ入ってくる。
ダリオは迎え入れて、すき、きもちい、だいすき、と自ら舌を絡める。
いちばん弱い舌先を、ちゅっ、と吸われて、痺れるような快感に、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
柔らかな舌を合わせて、擦り合わせているだけで、疼痛めいた快感と幸福感に、テオドールの下で繰り返し絶頂へと達している。
最後に、舌の半ばを先っぽまで擦られながら、「~~~~~~ッ!?!?」とダリオは深く真っ白で真っ暗な急転直下突き落とされるようなオーガズムに達した。
「ぁ……ぅ、……」
しばらく放心して、震える手でテオドールにしがみつき、鼻をすする。
「って、てお、きもち……きもちいいよぉ……」
がくがくと腰が立たない。
口の中で性交した。
ひく、ひく、と体の何処かが痙攣しているが、自分でどの部分かも把握できない。
テオドールが、ダリオの肩口に顔を埋め、頭を撫でるように抱え込んで謝罪する。
「すみません、加減を誤ってしまいました……」
体液管理のことだろう。本当は、一回くらい中出しされたいのだが、少しテオドールが加減をしそこねた程度で、この調子では、生でされたら本当に発狂しそうだ。
テオドールの脇下から肩に手を回し、ふたりでぎゅっとくっつきあったまま、鼻先をこすり合わせたり、お互いの体臭に安心したりする。
やっと落ち着いてきて、ダリオはテオドールに答えがてら尋ねた。
「んん、別に大丈夫……感染症も妊娠リスクもねーし、テオに、俺の中へ出してほしいんだけど、まだ駄目かな」
一応聞いてみたら、テオドールは、ばっと顔を離し、猫の目みたいに瞳孔を細めて、真顔でダリオを凝視した。
普通に怖い。
なに、どういう気持ち。
テオドールは、真っ黒な目でダリオをガン見しながら、鬼気迫るように確認した。
「それは……僕とダリオさんの子どもを作るための疑似行為をされたいという理解でよろしいですか?」
「え……あ、ああ。たぶん、そう……」
ダリオもよく分かっていなかったが、テオドールの精液を取り込みたい、種付けされたいと思うので、そういう心理なのではないかと思う。
「僕の情報が欲しいということですよね?」
「ん? 遺伝情報という意味ではそうか……? あーうん、そうだと思う」
テオドールは目をかっ開いたまま黙り込み、何が彼の琴線に触れたのか、硬直している。
ダリオは困って、つつ、と自分の臍の下、気持ちが良くなるところに指を這わせた。
「ここ……ここに、テオのいっぱい欲しい……テオの精液、いつもほんとは、いっぱいかけてほしいな、って思ってた」
この奥に、と自分の指で撫でさする。
奥にかけてもらいたいなって、思ってた。
そう言うと、想像だけで、ダリオはうっとりした。
テオにかけてもらったら、この奥に出してもらえたら。
俺もう、死んでもいいな、と思って、さすがに口にはしなかった。
しあわせすぎて、その瞬間、命が尽きても、ダリオ一人の問題なら、別にいいかなという気持ちだ。
テオドールを置いてきぼりにするわけにはいかないので、言わないし、実際は望まない。
「……ぅ、」
テオドールが呻いた。
珍しく、冷や汗をかいたように、苦痛の表情をしている。
慌てたのはダリオだ。おい、大丈夫か? と起き上がろうとして、テオドールに押し戻された。
「すみません、出ます」
出ますって何が、と思うか思わないかのうちに、バキョバキャッ、と凄まじい異音がした。天井まで届く巨大な影がダリオに落ちてくる。ふわ、と先っぽで頬を撫でられ、
「……おお」
感嘆の声が出た。羽毛だ。確かに出たな、とダリオは見上げる羽目になる。
青年の背中を突き破るようにして、白い猛禽の羽根が六枚ほど生えていた。羽根が重なって、わさわさしているな、とダリオの感想は結構酷い。ダリオにはこういうところが多々ある。
「おー、でかいな……」
「危なかったので……可能な限り無害な形にしました……」
何が『出る』かは、ランダムだったらしい。意志の力で、無難におさめたようだ。羽の数や大きさから見て、この質量変換が別のものだった場合、大惨事を思わせる。まあ、なんとかなったからセーフ。
でかいな、と見上げていると、テオドールの背中の羽根が動いて、ダリオにまとわりつき柔らかく包んだ。
「お、おお? あ、案外気持ちいな、これ」
リラックスして、レビューまで始めるダリオだ。ダリオには、本当にこういうところがある。
ふるり、とテオドールの翼の付け根が震えて、更にダリオを閉じ込めるよう覆いかぶさりながら重なり合う。
これでは、外から見たら、ほとんど巨大な翼の繭だ。翼のやばいのに捕食されているような恐怖光景に間違いない。
テオドールがそっと寄り添って、青年の喉がくぅくぅ鳴る。声帯まで変性が及んでいるようだ。
「うーん、とりあえず、希望しとくから検討しといてくれ」
テオドールは頷き、甘え音のようなものを出しながら、ふぁさり、とダリオの身体を覆い隠して、腕の中に彼の花をおさまりのいいよう上手に抱きしめた。
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