下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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探し物

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実家の門を潜ると、すぐに父が出てきて抱きしめられる。

「き、気持ち悪いので離してください」

「おお、すまん!まさかお前が……」

「先程兄上からも言われたので聞き飽きましたよ。それより、二三日滞在したいのですけど」

「じゃあ、宴会でもせねばな」

「いえ、本当に体がバキバキなんですよ。なので寝かせてくれたらありがたいんですけど」

「そうか分かった。ゆっくりと体を癒すが良い」

「あ、兄上にも伝えましたが、雪翔の事ありがとうございました」

「父としても頑張らねばの?」

「帰ったらたっぷりと」

その日は久しぶりにぐっすりと朝まで眠り、起きてから狐達の状態を見る。

「みんな大丈夫そうですね?あのちび狐は?」

「心得は教えておいたがねぇ。あの兄弟名前が無いんだってさ。冬弥がつけるかい?」

「雪翔に任せますよ。わんぱくそうでしたけど」

「漆の一言で大人しいもんさ。それに飲み込みも早いし、話を聞くとまだ三つ程だねぇ。上は五つと言ったくらいだから、よく生きていたと感心するよ」

「どうやって生きてきたんでしょうねぇ?」

「あそこの森の木ノ実と魚で何とか凌いでいたようだよ?きつく見せてはいるが、朱狐や桜狐に近いかもしれないねぇ」

「性格ですか?」

「そう。ただ、何故親狐があの子達を捨てたのかは分からないままさね」

「分かりました。人型 ひとがたにはなれそうですか?」

「私らが手伝えばなんとかなりそうだよ?」

ならばと、着替えを風呂敷に包んで「出掛けてきます」と声を掛けてから温泉街へと向かう。

「久しぶりですねぇ。帰るまでにもう少し綺麗になるといいんですけど……」

まだ割れた爪も治っておらず、色々なところに痣もあったので、これでは雪翔に心配を掛けてしまう。

「昼食券付きで一枚」と受付でお金を払い、目当ての温泉へと向かう。

看板には傷・打ち身に効くと書いてあり、温度もそれほど高くはなかったと記憶している。

かけ湯をしてから入り、狐たちにも出てきていいとみんなでのんびりと浸かる。

隣の湯は肌荒れだったか、いくつか分かれているので、一日浸かったり食事をしてのんびりするにはいい所だ。

「パパ、どこー?」

「こっちだ、離れちゃダメじゃないか」

「だって、ママの所に行きたかったんだもん」

そんな親子の話を聞いて、パパとママか……と呑気に考えていると、珍しく藍狐が「雪翔様はもう大きいので、呼ばないと思います」と言われガクッとする。

「やはりお父さんですかねぇ?」

「冬弥、まさか無理やり呼ばせようとしてはいないだろうな?」

「まさか……」

これは呼ばせるつもりだったんだ!とほかの狐にも笑われ、お黙りなさい!と言うしかなかった。

昼を食べて畳の部屋で休んでいると、何処かで感じた事のある気配が一つ近づいてきた。

「よう!ここいいか?」

「あなたは?」

「俺は、昨日会っただろう?一番端に座ってたが」

「天狐様?」

「やめてくれよ。確かにそうだし、みんな見た目は冬弥と同じくらいにしてるからわかりにくいかもしれないけどさ。俺は、はた すばるだ。昴でいい」

「冬弥です……あ、早乙女冬弥になりました」

「普段は一々天狐を名乗る必要は無いから下の名だけ言う。相手が術者ならば、下の名だけでは術は効かないからな。でだ、なんで俺がここにいるかと言うとだな……」

ゴン__と頭をゲンコツされ、「どんだけ神気ダダ漏れしてやがるバカ!」と怒られてしまった。
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