9 / 102
探し物
.
しおりを挟む
実家の門を潜ると、すぐに父が出てきて抱きしめられる。
「き、気持ち悪いので離してください」
「おお、すまん!まさかお前が……」
「先程兄上からも言われたので聞き飽きましたよ。それより、二三日滞在したいのですけど」
「じゃあ、宴会でもせねばな」
「いえ、本当に体がバキバキなんですよ。なので寝かせてくれたらありがたいんですけど」
「そうか分かった。ゆっくりと体を癒すが良い」
「あ、兄上にも伝えましたが、雪翔の事ありがとうございました」
「父としても頑張らねばの?」
「帰ったらたっぷりと」
その日は久しぶりにぐっすりと朝まで眠り、起きてから狐達の状態を見る。
「みんな大丈夫そうですね?あのちび狐は?」
「心得は教えておいたがねぇ。あの兄弟名前が無いんだってさ。冬弥がつけるかい?」
「雪翔に任せますよ。わんぱくそうでしたけど」
「漆の一言で大人しいもんさ。それに飲み込みも早いし、話を聞くとまだ三つ程だねぇ。上は五つと言ったくらいだから、よく生きていたと感心するよ」
「どうやって生きてきたんでしょうねぇ?」
「あそこの森の木ノ実と魚で何とか凌いでいたようだよ?きつく見せてはいるが、朱狐や桜狐に近いかもしれないねぇ」
「性格ですか?」
「そう。ただ、何故親狐があの子達を捨てたのかは分からないままさね」
「分かりました。人型にはなれそうですか?」
「私らが手伝えばなんとかなりそうだよ?」
ならばと、着替えを風呂敷に包んで「出掛けてきます」と声を掛けてから温泉街へと向かう。
「久しぶりですねぇ。帰るまでにもう少し綺麗になるといいんですけど……」
まだ割れた爪も治っておらず、色々なところに痣もあったので、これでは雪翔に心配を掛けてしまう。
「昼食券付きで一枚」と受付でお金を払い、目当ての温泉へと向かう。
看板には傷・打ち身に効くと書いてあり、温度もそれほど高くはなかったと記憶している。
かけ湯をしてから入り、狐たちにも出てきていいとみんなでのんびりと浸かる。
隣の湯は肌荒れだったか、いくつか分かれているので、一日浸かったり食事をしてのんびりするにはいい所だ。
「パパ、どこー?」
「こっちだ、離れちゃダメじゃないか」
「だって、ママの所に行きたかったんだもん」
そんな親子の話を聞いて、パパとママか……と呑気に考えていると、珍しく藍狐が「雪翔様はもう大きいので、呼ばないと思います」と言われガクッとする。
「やはりお父さんですかねぇ?」
「冬弥、まさか無理やり呼ばせようとしてはいないだろうな?」
「まさか……」
これは呼ばせるつもりだったんだ!とほかの狐にも笑われ、お黙りなさい!と言うしかなかった。
昼を食べて畳の部屋で休んでいると、何処かで感じた事のある気配が一つ近づいてきた。
「よう!ここいいか?」
「あなたは?」
「俺は、昨日会っただろう?一番端に座ってたが」
「天狐様?」
「やめてくれよ。確かにそうだし、みんな見た目は冬弥と同じくらいにしてるからわかりにくいかもしれないけどさ。俺は、秦 昴だ。昴でいい」
「冬弥です……あ、早乙女冬弥になりました」
「普段は一々天狐を名乗る必要は無いから下の名だけ言う。相手が術者ならば、下の名だけでは術は効かないからな。でだ、なんで俺がここにいるかと言うとだな……」
ゴン__と頭をゲンコツされ、「どんだけ神気ダダ漏れしてやがるバカ!」と怒られてしまった。
「き、気持ち悪いので離してください」
「おお、すまん!まさかお前が……」
「先程兄上からも言われたので聞き飽きましたよ。それより、二三日滞在したいのですけど」
「じゃあ、宴会でもせねばな」
「いえ、本当に体がバキバキなんですよ。なので寝かせてくれたらありがたいんですけど」
「そうか分かった。ゆっくりと体を癒すが良い」
「あ、兄上にも伝えましたが、雪翔の事ありがとうございました」
「父としても頑張らねばの?」
「帰ったらたっぷりと」
その日は久しぶりにぐっすりと朝まで眠り、起きてから狐達の状態を見る。
「みんな大丈夫そうですね?あのちび狐は?」
「心得は教えておいたがねぇ。あの兄弟名前が無いんだってさ。冬弥がつけるかい?」
「雪翔に任せますよ。わんぱくそうでしたけど」
「漆の一言で大人しいもんさ。それに飲み込みも早いし、話を聞くとまだ三つ程だねぇ。上は五つと言ったくらいだから、よく生きていたと感心するよ」
「どうやって生きてきたんでしょうねぇ?」
「あそこの森の木ノ実と魚で何とか凌いでいたようだよ?きつく見せてはいるが、朱狐や桜狐に近いかもしれないねぇ」
「性格ですか?」
「そう。ただ、何故親狐があの子達を捨てたのかは分からないままさね」
「分かりました。人型にはなれそうですか?」
「私らが手伝えばなんとかなりそうだよ?」
ならばと、着替えを風呂敷に包んで「出掛けてきます」と声を掛けてから温泉街へと向かう。
「久しぶりですねぇ。帰るまでにもう少し綺麗になるといいんですけど……」
まだ割れた爪も治っておらず、色々なところに痣もあったので、これでは雪翔に心配を掛けてしまう。
「昼食券付きで一枚」と受付でお金を払い、目当ての温泉へと向かう。
看板には傷・打ち身に効くと書いてあり、温度もそれほど高くはなかったと記憶している。
かけ湯をしてから入り、狐たちにも出てきていいとみんなでのんびりと浸かる。
隣の湯は肌荒れだったか、いくつか分かれているので、一日浸かったり食事をしてのんびりするにはいい所だ。
「パパ、どこー?」
「こっちだ、離れちゃダメじゃないか」
「だって、ママの所に行きたかったんだもん」
そんな親子の話を聞いて、パパとママか……と呑気に考えていると、珍しく藍狐が「雪翔様はもう大きいので、呼ばないと思います」と言われガクッとする。
「やはりお父さんですかねぇ?」
「冬弥、まさか無理やり呼ばせようとしてはいないだろうな?」
「まさか……」
これは呼ばせるつもりだったんだ!とほかの狐にも笑われ、お黙りなさい!と言うしかなかった。
昼を食べて畳の部屋で休んでいると、何処かで感じた事のある気配が一つ近づいてきた。
「よう!ここいいか?」
「あなたは?」
「俺は、昨日会っただろう?一番端に座ってたが」
「天狐様?」
「やめてくれよ。確かにそうだし、みんな見た目は冬弥と同じくらいにしてるからわかりにくいかもしれないけどさ。俺は、秦 昴だ。昴でいい」
「冬弥です……あ、早乙女冬弥になりました」
「普段は一々天狐を名乗る必要は無いから下の名だけ言う。相手が術者ならば、下の名だけでは術は効かないからな。でだ、なんで俺がここにいるかと言うとだな……」
ゴン__と頭をゲンコツされ、「どんだけ神気ダダ漏れしてやがるバカ!」と怒られてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる