下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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記憶

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「……自分に危害を加えない人は覚えているようです。ショックや恐怖によるものだと思います」

「先生、名前や年齢が言えなかったのは?」

「その時のことを思い出したくないように、自分を守っていると言ったらわかりやすいかと」

「治るんですか?」

「ゆっくりと時間を掛けるしか治療方法はありません」

「そんな……」

「ですが、怪我が治れば普段の生活はできます。話は聞いてますし、今はゆっくりと休ませてあげるしかないかと」

「学校は……?入学したばかりなのに」

「心の傷はそう簡単には。なので、ご家族や友人のご理解とご協力、サポートが必要になります」

「一つ、退院は?」

「怪我が治ってから、外泊を何度か続けて問題がなければ」

「分かりました。このまま個室でお願いします」

そのまま部屋を出てつい壁を叩いてしまう。

「那智様……」

「もう少し俺が早く来ていたら……」

「那智様のせいでは……」

「手続きとやらに時間がかかって。これも言い訳にしかならん!」

「あの、良いですか?」

「なんだ?」

「警察の人が来てて、那智さんを呼んで欲しいって言われたんですけど」

「すぐ行く。当たって済まない……」

刑事の話では、現行犯で逮捕。
今は勾留中との事だった。

煌輝こうき、常に雪翔のそばを離れずに守れ。りん、雪翔を癒せ!」

「御意」

携帯電話で弁護士に状況を伝え、すぐに対応してくれるように頼む。

噂では妖街に冬弥が戻ったと聞いたが、また姿が見えなくなったと聞く。
天狐の何かがあるのなら呼ぶべきではない……

「那智」

「秋彪?」

「俺達の影も使ってくれ。冬弥さんの社に交代で行かせてるけど、兄貴の狐も攻守の奴がいるし、俺にも癒しの狐がいる。交代でしないと那智が持たない」

「……そうだな。だが、栞のはダメだ。今、弱っているのに出させるわけには行かないだろう」

「これからどうするつもり?」

「人間の手続きは俺がする。二度と雪翔の前に現れないようにしてやる」

「俺もそれがいいと思うけど、雪翔は望まないんじゃないか?」

「俺は嫌われても構わん!人間は都合のいい時だけお参りし、願っていく。全てを叶える訳では無いが、それなりに札や守りに力を入れ良いように進むようにとしてきた。だが、あれはなんだ?鬼か?」

「那智……」

「那智も手続きが終わったら休め。俺ら兄弟で代わるから」

「病室に行ってくる」

ガラッと扉を開けようとして一度息を深く吸い、そっと開ける。

「那智様」

「手続きは俺がやる。弁護士との話もすぐにつく。俺が言うのもなんだが、下宿の者達で雪翔を交代で見てもらいたい」

「構いませんしそのつもりです。でも、那智さんて栞さんの知り合いとは聞いてましたけど、雪翔の何なんですか?」

「叔父だ」

「なら納得が行きます。俺は隆弘と言います。大学で法学部です」

「俺は賢司。こっちの泣いてるのが海都と言って、高校二年」

「僕は大学で働いてます堀内と言います」

「よろしく頼む」

深々と頭を下げ、雪翔を見てから部屋を出て待ち合わせの弁護士のところへと行く。

入院費用は今まで投資家としてやって来た分があるのでそれで賄えばいいが、問題は心の傷の方だ。
他の者でも限界があるだろう……

どうしたものか。

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