下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

文字の大きさ
43 / 102
退院

.

しおりを挟む
「今日はこの辺にしたら?」

「僕、聞く……」

「前にお前を叩いた女は、その不良の母親じゃ。誰しもわが子は可愛い。怒りを向けるのが雪翔というのには納得できんが。と、こんな所じゃ。色々な手続きは那智がしておる。冬弥はまだ戻れんが、面白いものをよこしてきた」

「この前の手紙、冬弥様からだったんですか?」

「中身はな。代理が持ってきて、雪翔にとこいつらを置いていったわ」と小さな狐を二匹出す。

「お爺さん、この狐は……」

「我らのとは少し違うが、雪翔とは相性がいいだろう」

パイプ椅子の座るところくらいまでの小さな狐が、ペコッとお辞儀をする。もう一匹はそれよりもまだ小さく、隣を見て真似してお辞儀をしている。

「可愛い」

「雪翔が良いと言えば、影に入れられるし、使役もできる。どうする?」

「しーちゃんは?」

「もちろん一緒にいられる。紫狐、こいつらの教育を頼む」

「はい!」

そっと手を伸ばして頭を撫でる。

「この狐、しーちゃんとなんか違う気がする」

「どんな風にかわかるか?」

「そこまでは。でも何となく違うとはわかる」

「入れるか?」

「君達はいいの?」

コクっと頷くので、入れていいと言うと、影の中に入ってしまった。

「冬弥が見つけた子でな、漆と琥珀が一通りのことは教えたそうじゃが、まだ名前が無いと言っていた。雪翔が気に入れば雪翔につけさせた方が良いと手紙には書いてあった」

「名前かぁ。考えてみる」

「さっきの話じゃが……」

「他人の話みたいで……でも、学校に行ってたんなら、また行ける?」

「体が治って、医者がいいといえば行けるはずじゃったかの?」

「雪翔君、無理しなくてもいいのよ?今は高卒の資格試験もあるみたいだし、って、みんなから聞いたんだけど」

「でも……」

「さ、話は終わりでしょう?羊羹があるの。みんなで食べましょう」

「よーかん?よーかんてなぁに?」

ひょこっと出てくる二匹に、紫狐がダメと言っているが、いいよと布団の上に座らせる。

「ゆっきーは甘やかすからダメですー!」

「しーちゃんも食べようよ」

「ううっ……紫狐はお姉さんだから……」

「紫狐、雪翔の言うようにせんか!言いつけるのは那智か冬弥かどちらにしようかの?」

「どちらも勘弁してくださいー。食べますから!」

羊羹は上に綺麗な絵が描いてあり、甘さも控えめでとても美味しかった。

「君達どこから来たの?」

「あっち!」

「あっちって……」

「えーと、兄弟なのかな?」

「うん!俺がにーちゃん!」

「おじいちゃん、どうしたらいいの?」

「まずは仲良くなることから始めればいい。そやつらからも何か分かることがあるかもしれんぞ?」

「そうねぇ。でもまだ小さいから、これからねぇ」

みんなの話はよくわからなかったが、取り敢えずほかの人の前には出たらダメだといい、少し寝たいと横になる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

処理中です...