下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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退院

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話を聞いてから何度か外泊を繰り返し、まだ完全に治っている訳では無いのでと、リハビリは関節部分からほぐしていくことから始まった。

「今から膝を曲げるので、痛くても我慢してくださいね」

ゆっくりと曲げられた左膝はなんとか我慢できたが、右膝だけはどうしても我慢出来ず、少しずつ曲げていくことになり、朝のリハビリが終わると昼過ぎまでぐっすりと眠ってしまう。

「ねー!ゆっきー!」ポンポンと叩かれ、眠いから後でと言ってもポンポン叩いてくる。

「どうしたの?」

「外に誰か居るー!人だよ?」

「誰かな?居るだけなの?」

「そー!立ってる」

あまりにも言うので、歩行器に掴まって扉まで行き開ける。

パタンと扉を閉じ、シーッと口に手を当てる。

ベッドに行き、「あ、あれは人だけど生きてる人じゃないよ?最近よく見るけど、何もしてこないなら平気じゃない?」

「だめー!」

「なんで?」

「沢山持ってくる!」

「しーちゃん?意味わかんないんだけど」

「紫狐が見るのと、この子達が見るのと違うようです。影の中でも追い払わないとと言ってるので」

「まだ、誰も来ないし。来たら聞いてみるよ。僕じゃどうにもできないもん」

二匹の名前を単純だが『金と銀』と付け、いいつけを守った時には病室内で遊ばせている。

この二匹が来てから、たまに不思議なものが見えたりするが、まだ全く慣れていない。

「ちょっと待ってね」

携帯を取り出して、那智に連絡をすると用事もあるのですぐに行くと返事が来た。

「那智さん来てくれるって」

「なっちー怖いもん」

「銀は怖がりだなぁ、なっちーはおやつくれるからいい人だよ」

「おやつくれるからって、悪いことしたらげんこつだよ?それに、なっちーって何?」

「紫狐はもう怖くて仕方が無いですー。この子達あの怖さがわからないんでしょうか」

「僕は外にいるもののが怖いよ……」

那智が来たので、外のもののことを話、祓ってもらってから、そろそろ自分で出来るだろうと言われる。

「無理、怖いから……」

「金と銀がいるだろう?」

「うん、でも教えてくれるだけだし。本はたくさん読んだし、那智さんに借りた古い書物も読んだけど、いまいちピンとこないし」

「まぁ、追々慣れていくしかないが。それより、記憶の方はどうだ?」

「夢によく見るけど、現実なのか夢なのか……暴行……はまだ思い出せないけど、勉強してたことは思い出してきて、参考書見た時覚えてるのがあったから、やっぱり学校いってたんだなって位」

「徐々に思い出していくだろう。今日は、一度妖街に祖父母には帰ってもらった。すぐにまた来るが、しばらくあちらで生活するか?」

「いい……僕、ここにいないといけない気がするんだ」

「そうか。雪翔、退院の日が決まったぞ」

「本当?用事ってそれだったの?」

「ああ。今後の話もしてきた。薬とリハビリは続くが、明後日帰れる」

「しーちゃん、帰れるよ!」

「但し、学校は休学しろ。それが条件だ」

「なんで?まだ忘れてることが多いから?歩けないから?」

「それもあるが、戻ったら記憶が一度に戻って混乱する場合があると言われた」
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