97 / 102
退学
.
しおりを挟む
搬送され少し自力で呼吸はできていたが、呼吸気を付けられ寝かされている姿は見たくはなかった。
浮遊城の水盆で見ていたのとは訳が違う。
すぐに入院の準備を栞に頼み、椅子に腰掛けて雪翔の手を握る。
冷たい__
まだ幼いこの子に何故このようなことばかり起きるのか。守りも那智の守を持っていた。藍狐も付けた。それでも心までは守れなかった。
後悔だけが、もっとこうしていたら、もっと話を聞いてあげたら、天狐になるのを辞めていたら。そんなことばかりが頭をよぎる。
カラカラっと戸が空いて振り向くと、京弥と栞が立っていた。
「冬弥……何があった?」
「……医者は原因はストレスと。それもあるかもしれませんが、力の片鱗を見ました。怒るだけで窓が割れる。力が表に出てきているのかも知れません。怒る時に突然溢れ出す感じでしょうか……漆と琥珀に今も中で止めてもらってますが、呼吸が浅く、手もこんなに冷たい……」
「昨日のことが原因か?」
「それがきっかけでしょうが、前のこともあると思います。あの時天狐になることを辞めていれば、こうしていたらなど考えてしまいます」
「お前のせいじゃない!街に暮らす狐は試験でも仙の手前までしかなれん。天狐は選ばれたものだけがなれるんだ。誇りに思え」
「ですが、また雪翔が……父親失格です。天狐も失格です」
「お前まさか……」
「ええ、赦しません。誰1人として……ね」
「冬弥様!なりません。剥奪されてしまいます!」
「構いません!天狐でない私とは夫婦になれませんか?」
「そのような事は……」
「あの祭りのあとから夢見てました。最初は結婚なんてと思ってました。雪翔が子になり、あなたと夫婦になって三人で下宿屋をして笑って過ごしていきたい。そう願ってました。父と母……養父母になりますが、仲良く暮らしていけると。いつか子ができて雪翔が兄になり、兄弟仲良く家族みんなで楽しく暮らしていけることが一番の望みでした。私は……掟を破ります」
「冬弥様……」
「落ち着け。四社で話し合いを持て。すぐに父上たちにもこちらにと伝える。それまで何もするな!」
「雫、皆様に連絡を頼みます」
「はい」
「冬弥様、許嫁として私、全力でお止めしますから!本気の神気で来られたら私は跡形もなく吹き飛ぶでしょう。それでも良いのなら私を散らしてから行ってくださいませ!」
「栞さん……」
「京弥様は早くお義父様達を……」
「二人を頼みます」
元天狐の力を使ったのか、病室の中に二人が現れた時には驚いたが、それと同時に秋彪・玲・那智も集まり、気が抜けたのか栞は座り込んでしまった。
「栞さんよく耐えましたねぇ。ほら、椅子に座ってお茶を飲んで……」
「あ、ありがとうございます」
「神気ダダ漏れ!俺達もふきけすつもりか?」
「有り得るな?」
「兄弟で馬鹿な漫才をせずに、癒し狐出してください」
「冷静なふりして、那智だって凛じゃなくて煌輝出してるじゃん」
「う、煩いです!とにかく、心の傷はどうにもならないでしょうが、思いつくのはもう、体の回復だけですので」
「そうじゃのう、儂はちょっと息子に灸を据えるとしようかの」
「父上?」
ゴン!
「痛っ!」
「掟はいくら破っても構わんが、神気を閉ざせ。人間にも影響が出るではないか!みんなに任せていくぞ?」
「何処に……」
「そやつらのところじゃ」
姿を消せと言われ、無理矢理また学校に戻される。
「衰えてませんね。もう1度戻ったらどうです?」
「あんなところ懲り懲りじゃ。して、どの子供じゃ?」
「今回の主犯はあの小娘。あちらの小童が手伝ったようです」
「どれ?」
中の話を聞くと、穏便に済ませる校長の話が親にされていた。
「成績も優秀なので、どちらかが転校という形に。それならば学校にとってもそちらにとっても良いかと。どこにでも推薦は書けます。勿論、示談していただいてからですが」
「分かりました。娘を女子校へ転向させます。治療費は半額ずつでどうです?慰謝料を合わせて支払えば問題ないと思いますけれど」
浮遊城の水盆で見ていたのとは訳が違う。
すぐに入院の準備を栞に頼み、椅子に腰掛けて雪翔の手を握る。
冷たい__
まだ幼いこの子に何故このようなことばかり起きるのか。守りも那智の守を持っていた。藍狐も付けた。それでも心までは守れなかった。
後悔だけが、もっとこうしていたら、もっと話を聞いてあげたら、天狐になるのを辞めていたら。そんなことばかりが頭をよぎる。
カラカラっと戸が空いて振り向くと、京弥と栞が立っていた。
「冬弥……何があった?」
「……医者は原因はストレスと。それもあるかもしれませんが、力の片鱗を見ました。怒るだけで窓が割れる。力が表に出てきているのかも知れません。怒る時に突然溢れ出す感じでしょうか……漆と琥珀に今も中で止めてもらってますが、呼吸が浅く、手もこんなに冷たい……」
「昨日のことが原因か?」
「それがきっかけでしょうが、前のこともあると思います。あの時天狐になることを辞めていれば、こうしていたらなど考えてしまいます」
「お前のせいじゃない!街に暮らす狐は試験でも仙の手前までしかなれん。天狐は選ばれたものだけがなれるんだ。誇りに思え」
「ですが、また雪翔が……父親失格です。天狐も失格です」
「お前まさか……」
「ええ、赦しません。誰1人として……ね」
「冬弥様!なりません。剥奪されてしまいます!」
「構いません!天狐でない私とは夫婦になれませんか?」
「そのような事は……」
「あの祭りのあとから夢見てました。最初は結婚なんてと思ってました。雪翔が子になり、あなたと夫婦になって三人で下宿屋をして笑って過ごしていきたい。そう願ってました。父と母……養父母になりますが、仲良く暮らしていけると。いつか子ができて雪翔が兄になり、兄弟仲良く家族みんなで楽しく暮らしていけることが一番の望みでした。私は……掟を破ります」
「冬弥様……」
「落ち着け。四社で話し合いを持て。すぐに父上たちにもこちらにと伝える。それまで何もするな!」
「雫、皆様に連絡を頼みます」
「はい」
「冬弥様、許嫁として私、全力でお止めしますから!本気の神気で来られたら私は跡形もなく吹き飛ぶでしょう。それでも良いのなら私を散らしてから行ってくださいませ!」
「栞さん……」
「京弥様は早くお義父様達を……」
「二人を頼みます」
元天狐の力を使ったのか、病室の中に二人が現れた時には驚いたが、それと同時に秋彪・玲・那智も集まり、気が抜けたのか栞は座り込んでしまった。
「栞さんよく耐えましたねぇ。ほら、椅子に座ってお茶を飲んで……」
「あ、ありがとうございます」
「神気ダダ漏れ!俺達もふきけすつもりか?」
「有り得るな?」
「兄弟で馬鹿な漫才をせずに、癒し狐出してください」
「冷静なふりして、那智だって凛じゃなくて煌輝出してるじゃん」
「う、煩いです!とにかく、心の傷はどうにもならないでしょうが、思いつくのはもう、体の回復だけですので」
「そうじゃのう、儂はちょっと息子に灸を据えるとしようかの」
「父上?」
ゴン!
「痛っ!」
「掟はいくら破っても構わんが、神気を閉ざせ。人間にも影響が出るではないか!みんなに任せていくぞ?」
「何処に……」
「そやつらのところじゃ」
姿を消せと言われ、無理矢理また学校に戻される。
「衰えてませんね。もう1度戻ったらどうです?」
「あんなところ懲り懲りじゃ。して、どの子供じゃ?」
「今回の主犯はあの小娘。あちらの小童が手伝ったようです」
「どれ?」
中の話を聞くと、穏便に済ませる校長の話が親にされていた。
「成績も優秀なので、どちらかが転校という形に。それならば学校にとってもそちらにとっても良いかと。どこにでも推薦は書けます。勿論、示談していただいてからですが」
「分かりました。娘を女子校へ転向させます。治療費は半額ずつでどうです?慰謝料を合わせて支払えば問題ないと思いますけれど」
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる