魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
138 / 167
第十一章

『諸島群の戦い。後編』

しおりを挟む

 リザードマン退治が出来たことで浮かれていたつもりはない。
固める場所は固め、後ろを突かれる懸念を先に払拭。殲滅戦に移行しつつ、陣地を整えて今後に備えたつもりだった。だが、結果として隙を晒してしまったのは仕方あるまい。

夕方になって暗く成り始めた所で『敵』が襲ってきたのだ。

「大変です! 浅瀬を守っていた隊が突破されました! 間もなくこちらにも来ます! 敵は複数! 繰り返します、敵は複数です!」
「っ! 作業中のゴーレムを前に出せ! 騎士たちは各個に応戦準備!」
 そのタイミングで襲われるのは別にピンチではない。
間もなく殲滅に向かった騎士たちが戻ってくる頃で、フォローの為のジャコビニアス隊は程近くまで持ってきているだろう。そんな状況であったので誰も悲観してはいないが、だからこそ……油断してしまったというべきだろう。

そして今回の件で厄介なのは、複数の強敵が居たという話である。

「判っている範囲で良い、形状と数は? キマイラか、マンティコアか!?」
「キマイラらしき存在が三! 獅子の体に竜の頭を持つ個体と、山羊の頭を持つ個体が迫っております! 浅瀬側で戦闘中の個体は不明!」
 声を挙げて状況を確認しつつ、無詠唱で持続光を唱えた。
薄暗がりでは戦い難いし、松明が倒れたら目も当てられないからだ。また、突如打ち合わせにない輝きが本陣の上に現われたら騎士たちも駆けつけて来るだろう。それよりも問題なのが、こちら側に二体来ているという事である。

ひとまず片方にはゴーレムを当てるとして、もう一体の対処をしなければならない。

「暫くすれば援軍が駆けつける。無理をするなよ、確実に抑えて行くんだ」
「「はっ!!」」
 俺は剣の形をしたゴーレムを抜刀して戦う準備を整える。
今は防御が重要なので、蛇腹剣状にはせずにオートガードで護衛として機能させておく。蛇腹剣でも相手が人間サイズなら護衛になるんだが、今回はデカイからな。受け流せるだけの質量がないとどうにもならない。

その上で近づいてくる敵を眺める訳だが……。

(確かに獅子の体に竜や山羊の頭だな。思ったよりも体が小さいが……)
(こいつのコンセプトは何だ? それにリザードマンは追い出されたのか?)
(それとも脅威を感じて別の島を調査しただけで追い出されてはいない?)
(いや、それは別に今考える事じゃないよな。それよりもなんで両方に翼が残ってるんだ? 俺の指示を無視した? 騎士はともかくゴーレムがか? ありえん……何かがおかしい……)
 最初に感じた違和感は『俺の知ってるキマイラと違う』だった。
もちろんそれで弱いなら問題ない。サックっと倒しておしまいだ。キマイラはゴーレムより強い存在だが、こいつらなら暫く戦ってたら倒せそうなイメージがあった。それもそのはずで通常は三つの首と顔を持ち、場合によっては尻尾にも顔を持つのがキマイラだ。それが一つずつの首と顔しかないのでは恐ろしさの敷居が下がる。

ただ、より違和感が強くなったのが優先命令にも関わらず翼を先に狙って居ない事だ。もちろん当ってないだけという可能性もあるのだが……。

「は、伯爵! こいつ……再生します!? こんな能力、聞いてません!」
「なに!?」
 気合の入った兵隊さんがキマイラを刺したのだが直ぐに治ってしまった。
そいつ自体は報告するような余裕なんかないが、指揮していた騎士の一人が俺に報告してきた。その報告に兵士が突き刺した個体を確認し、慌ててゴーレムが時間稼ぎしている筈の個体も眺める。よく見れば相手に攻撃が当たっていないのではなく……掠って入るが、即座に傷が修復されるから、相手の能力が落ちないのだ。

ありない……そう思いつつキマイラの学術的来歴を漁ろうとするが、魔術的見地よりも、先にギリシャ神話を思い出してしまうのは俺も慌てていたのだろう。

「……っ! そうか、スライムだ! 溶かして融合する性質で異なる肉体を持つ生物を一つに繋げようという実験をしたって話があった! 松明を持ってこい! それとゴーレムの傍から出来るだけ離れろ! 火球で焼き払うぞ!」
「なんでそんな実験が……!?」
「そんなことより松明だ! さっさと持ってこい!」
 通常、スライムが大きいと全てを捕食してしまう。だが少量なら?
少しずつ取り込んでいき、やがて大きく侵食していくのだ。触れた部分が徐々に境界線が怪しく成り、やがて取り込まれている部分の方が多くなる。しかし、途中でスライムの総体情報を保てなくなるほどに焼かれてしまったり、異なる生物などの生命情報が強烈になって行くと、スライムの方が情報汚染されてしまう可能性が『増えて来る』わけだ。もちろんただの賭けでしかないし、人間はショック死とか拒否反応あるはずだけどな。

つまり、こいつはキマイラを作る過程で放り出された失敗作だ。今回はたまたま、俺たちの不利になっただけの話で、本来は未完成であったのだろう。

「敵に素手で触るなよ! 粘液はともかく本体に触れた奴は松明に触れて焼いてろ! 死にたくなければ火傷は嫌だとぬかすな!」
「りょ、了解しました! 本人が嫌がっても傷口の確認を徹底しろ!」
「はい!」
 思うのだが魔族側でキマイラを作ろうとした実験でもあったのだろう。
残された留守居の魔将が考えたのか、単純に以前から存在して解き放たれただけかもしれない。いずれにせよスライムに成り掛かっているキマイラと戦う事になる。おそらくは浅瀬側で戦っている最後の一体も、元は同じ個体だったのではないだろうか? キマイラとして統合しきれておらず、個々に動いて、それぞれが好き勝手に戦っているものと思われる。

ここでの問題は兵士たちにも飛び火する可能性があるのと、剣で切ったり刺したりするくらいでは倒しきれないということだ。

「離れたな? まずはあいつから焼く! そしたらゴーレムにそいつも任せろ! その後は浅瀬側の連中にも伝えろ! 決して触るなとな!」
「は、はい!」
「炎よ!」
 そのままファイヤーボールの呪文を唱え、もう一発唱えて一体目を撃破。
兵士を移動させつつゴーレムに牽制させ、後から戻って来たジャコビニアス隊も合わせてようやくキマイラもどきを退治する事が出来た。だが、この話はここで終わる事はない。万が一にもスライムが残って居たら大変だからだ。その日は徹夜で兵士たちの体を確かめ、翌日はもう一度島を調査して侵食された存在が居ないかを確認。

浅瀬でつながる隣の島も、翌日から数日掛けて徹底的に探してようやく諸島群を制圧したのである。

その過程で石化の呪文がスライムに有効だと思い出したり、わざと粗雑に作った無形のゴーレムを石化するというテクニックに思い至ったのはずっと後の事である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...