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第2章 二回目の学園生活
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「まあ……懐かしいわ」
馬車から降りると私は感慨深く白亜の建物を見上げた。
ここはエナン王立高等学園。
二年制で、通えるのは王侯貴族の子女と一部の優秀な平民。
かつて私が通っていた、そしてゲームの舞台であるこの学園に来るのはもう一人の息子で、アルドリッジ伯爵家に婿入りしたショーイの卒業式以来だ。
私が目覚めてから約一か月。
マリアンヌの意識が戻る様子はなかった。
親族会議の結果、私は記憶喪失になったマリアンヌとして学園に通うことになった。
マリアンヌは記憶喪失ということは公表されているけれど、いつまでも姿を見せないので人目に出せないような怪我をしているのではなど良からぬ噂が出始めているらしい。
だから学園に通うことで、マリアンヌが健康であるとアピールする必要があるのだ。
だが私が学園に行く事に反対する声もあった。
――マリアンヌを階段から突き落とした犯人が分からないため、また私の身に危険が及ぶのではないかと。
けれど、犯人が分からないからこそ、私は学園に行くべきだと言った。
きっと犯人は私に接触してくるだろう。
マリアンヌのために、私は犯人を見つけたいのだ。
「教室に案内しましょう」
一緒の馬車に乗ってきたカミーユがそう言って手を差し出した。
彼とマリアンヌはハトコとはいえそう親しくしていたそうではないが、私がマリアンヌの中に入ってからは頻繁に屋敷を訪れ何かと気にかけてくれている。
幼い頃も、毎年のように領地に来ては『大叔母様!』と慕ってくれていた。
そのクールビューティーな容姿と大人びた性格、女性を寄せ付けないことからゲームでは『氷の貴公子』などと呼ばれていたが、本当はとても心優しい青年なのだ。
「ありがとう……」
「アン!」
エスコートしてくれるカミーユの手を取ろうとすると声が聞こえた。
「殿下……」
「何をしている」
駆け寄って来たフレデリク殿下が、私の手に触れようとしていたカミーユの手を払いのけた。
「教室へ案内する所ですよ」
「手を取る必要があるのか?」
「はぐれたら大変ですから」
そう答えてカミーユは私を見た。
「祖父から『マリアンヌは結構抜けている所があるので目を離さないように』と言い含められておりますので」
……ええ? 私、兄にそんな風に思われているの?
「ですから私から離れないで下さいね」
思わずカミーユを見上げると、爽やかな笑顔を向けられた。
「アンを守るのは僕の役目だ」
フレデリク殿下は私の腰に手を回すと自身へと引き寄せ、カミーユを睨みつけた。
「親戚だからといって、気安く人の婚約者に触るな」
「婚約の件は保留になったと聞きましたが」
「保留になったのは婚約解消の件だし、解消も保留もしない」
「そう思っているのは殿下だけですよね」
睨みつける王子に怯むことのない、涼やかな表情でカミーユは言った。
王宮を訪れてから今日まで約二週間。
その間、殿下は毎日のように私に会いに侯爵家までやってきた。
そうしてどれだけ私を慕っていたのか、二度と会えないと思っていた私と会えてどれだけ嬉しいか……こちらが恥ずかしくなるくらい、真っ直ぐな言葉で伝えてくる。
周囲の大人たちからすれば、殿下が恋したのはローズモンドを通して美化された『少女リリアン』だ。
そして今殿下の前に現れた『リリアン』は、見た目は十六歳だけれど中身は六十歳のリリアンで……今はよくとも、そのうち理想と現実のギャップで私に幻滅してしまうだろう。
そう思っているのだが、今の所殿下からの好意は変わらず……むしろますます増えている、気がする。
『年齢なんか関係ないし、どんなリリアンでも好きだ』というのが殿下の言い分だ。
私をリリアンと呼べない代わりにマリアンヌとの名前の共通部分である『アン』と呼び、全身で私への好意を表すその姿は……例えは失礼だけれど、まるで前々世で飼っていた犬を思わせた。
馬車から降りると私は感慨深く白亜の建物を見上げた。
ここはエナン王立高等学園。
二年制で、通えるのは王侯貴族の子女と一部の優秀な平民。
かつて私が通っていた、そしてゲームの舞台であるこの学園に来るのはもう一人の息子で、アルドリッジ伯爵家に婿入りしたショーイの卒業式以来だ。
私が目覚めてから約一か月。
マリアンヌの意識が戻る様子はなかった。
親族会議の結果、私は記憶喪失になったマリアンヌとして学園に通うことになった。
マリアンヌは記憶喪失ということは公表されているけれど、いつまでも姿を見せないので人目に出せないような怪我をしているのではなど良からぬ噂が出始めているらしい。
だから学園に通うことで、マリアンヌが健康であるとアピールする必要があるのだ。
だが私が学園に行く事に反対する声もあった。
――マリアンヌを階段から突き落とした犯人が分からないため、また私の身に危険が及ぶのではないかと。
けれど、犯人が分からないからこそ、私は学園に行くべきだと言った。
きっと犯人は私に接触してくるだろう。
マリアンヌのために、私は犯人を見つけたいのだ。
「教室に案内しましょう」
一緒の馬車に乗ってきたカミーユがそう言って手を差し出した。
彼とマリアンヌはハトコとはいえそう親しくしていたそうではないが、私がマリアンヌの中に入ってからは頻繁に屋敷を訪れ何かと気にかけてくれている。
幼い頃も、毎年のように領地に来ては『大叔母様!』と慕ってくれていた。
そのクールビューティーな容姿と大人びた性格、女性を寄せ付けないことからゲームでは『氷の貴公子』などと呼ばれていたが、本当はとても心優しい青年なのだ。
「ありがとう……」
「アン!」
エスコートしてくれるカミーユの手を取ろうとすると声が聞こえた。
「殿下……」
「何をしている」
駆け寄って来たフレデリク殿下が、私の手に触れようとしていたカミーユの手を払いのけた。
「教室へ案内する所ですよ」
「手を取る必要があるのか?」
「はぐれたら大変ですから」
そう答えてカミーユは私を見た。
「祖父から『マリアンヌは結構抜けている所があるので目を離さないように』と言い含められておりますので」
……ええ? 私、兄にそんな風に思われているの?
「ですから私から離れないで下さいね」
思わずカミーユを見上げると、爽やかな笑顔を向けられた。
「アンを守るのは僕の役目だ」
フレデリク殿下は私の腰に手を回すと自身へと引き寄せ、カミーユを睨みつけた。
「親戚だからといって、気安く人の婚約者に触るな」
「婚約の件は保留になったと聞きましたが」
「保留になったのは婚約解消の件だし、解消も保留もしない」
「そう思っているのは殿下だけですよね」
睨みつける王子に怯むことのない、涼やかな表情でカミーユは言った。
王宮を訪れてから今日まで約二週間。
その間、殿下は毎日のように私に会いに侯爵家までやってきた。
そうしてどれだけ私を慕っていたのか、二度と会えないと思っていた私と会えてどれだけ嬉しいか……こちらが恥ずかしくなるくらい、真っ直ぐな言葉で伝えてくる。
周囲の大人たちからすれば、殿下が恋したのはローズモンドを通して美化された『少女リリアン』だ。
そして今殿下の前に現れた『リリアン』は、見た目は十六歳だけれど中身は六十歳のリリアンで……今はよくとも、そのうち理想と現実のギャップで私に幻滅してしまうだろう。
そう思っているのだが、今の所殿下からの好意は変わらず……むしろますます増えている、気がする。
『年齢なんか関係ないし、どんなリリアンでも好きだ』というのが殿下の言い分だ。
私をリリアンと呼べない代わりにマリアンヌとの名前の共通部分である『アン』と呼び、全身で私への好意を表すその姿は……例えは失礼だけれど、まるで前々世で飼っていた犬を思わせた。
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