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第1章 帰郷
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「おはようございます、殿下」
「遅いぞオリエンス」
「申し訳ございません、途中で政務官に捕まってしまいまして」
「そんなもの放っておけ」
露骨に不快な表情で、執務室の椅子に座っていた王太子ユークはオリエンスを見上げた。
「お前が来ないから書類がメチャクチャだ」
「今すぐ整理しますのでその間お茶でも召し上がっていて下さい。昨日ちょうど領地から今年の新茶が届いたんですよ」
「ほう、それは楽しみだ」
「どうぞソファーへ」
あっさり機嫌を直したユークに笑顔を向けると、オリエンスは部屋の片隅に控えていた侍女に茶を入れるよう指示し、ユークの机上に散らばった書類を手に取った。
ユークの機嫌を取りながら書類を処理させたり、彼への陳情書を渡したい貴族達の対応などに追われながら、一通り仕事を終えてようやく宰相の政務室へ向かった頃には陽も傾き始めていた。
———本当に、シズクが彼らの血縁であれば良いのだが。
青ざめた少女の顔を思い出しながらオリエンスは長い廊下を歩いていた。
突然屋敷に現れた不思議な少女、シズクはフェールの名前を出した途端、激しく動揺しそのまま意識を失ってしまった。
しばらくして意識を取り戻した彼女は、おそらく自分はフェールの事を知っているが今は思い出せない、と言った。
シズクには幼少の頃の記憶がないのだという。
そして今一緒に暮らしている家族とは血の繋がりがないのだと。
何故アズール家の屋敷に倒れていたのかは本当に分からないようだったが、ずっと遠い場所から来たのだと言っていた。
———彼女とノワール家にどんな関係があるのか。
シズクの今後の扱いを決めるためにも、まずは彼らに確認しなければならない。
政務室の前まで来ると、中から何か言い争う声が聞こえて来た。
…またやっているのか。
呆れたように一つため息をつくと、オリエンスはドアをノックし返事も待たずドアを開いた。
「…本当にうるさい奴だなお前は」
「宰相閣下がいい加減過ぎるのです」
「いい加減ではない、お前が非情過ぎるんだ」
机を挟んで二人の男が口論をしていた。
中年の男性と若い男、二人とも黒々とした髪を持ち、その顔立ちもよく似ている。
オリエンスが入って来た事にも気付かずしばらく言い合いをしていたが、やがてこちらに向いて座っていた中年の男がようやくオリエンスの存在に気づき、ほっとしたような表情を見せた。
「何だオリエンス、来ていたのなら声を掛けてくれ」
「お取り込み中のようでしたので」
机の側まで来ると手にしていた書類を机上に置き、オリエンスは二人の男を改めて見た。
この国の宰相であるヒュドール・ノワール公爵と、その息子で宰相の補佐を務めるフェール・ノワール。
宰相はいつも穏やかな表情をたたえ、中身も外見通りの温厚な性格だが、フェールは鋭い青い瞳を持ち、心がないのではと噂されるほど冷徹な男だった。
外見はよく似ているが性格は正反対のこの宰相親子の口論は政務室ではいつもの光景であり、室内で仕事をしている政務官たちも特に気に留めている様子はない。
「…何だ」
オリエンスの視線に気づいたフェールがその鋭い瞳をこちらへ向けて来た。
「———申し訳ありませんが、人払いをお願いできますか」
小声で告げた思いがけない言葉に宰相が眉を上げた。
「休憩室へ行こう」
そう言って宰相は立ち上がった。
「それで、何の話だ」
休憩室のドアをぴたりと閉ざすとフェールが口を開いた。
「また殿下が何か無理難題でも言っているのか」
「いや、全く別の話だ」
宰相がソファーへ座った、その傍らへ立つとオリエンスは二人を改めて見比べた。
———ああ、目の色は宰相と同じなのだな。
二人とよく似たシズクの顔を思い浮かべてオリエンスは思った。
「どうした、さっきから人の顔をよく見ているが」
宰相がオリエンスを見上げた。
「…お二人は、シズクという名前に心当たりは?」
「シズク?」
宰相親子は顔を見合わせた。
「いや、ないな」
「十八歳くらいの、黒髪と青灰色の瞳を持った女性です」
オリエンスの言葉に二人の顔色が変わった。
「お二人によく似た容姿で、首のここにホクロがあって…」
「おい…っ!」
フェールが自分の首元を指差したオリエンスの腕を強く掴んだ。
「———その娘はどこにいる」
オリエンスを睨みつけるその瞳には、見たことがないほど強い光が宿っていた。
「遅いぞオリエンス」
「申し訳ございません、途中で政務官に捕まってしまいまして」
「そんなもの放っておけ」
露骨に不快な表情で、執務室の椅子に座っていた王太子ユークはオリエンスを見上げた。
「お前が来ないから書類がメチャクチャだ」
「今すぐ整理しますのでその間お茶でも召し上がっていて下さい。昨日ちょうど領地から今年の新茶が届いたんですよ」
「ほう、それは楽しみだ」
「どうぞソファーへ」
あっさり機嫌を直したユークに笑顔を向けると、オリエンスは部屋の片隅に控えていた侍女に茶を入れるよう指示し、ユークの机上に散らばった書類を手に取った。
ユークの機嫌を取りながら書類を処理させたり、彼への陳情書を渡したい貴族達の対応などに追われながら、一通り仕事を終えてようやく宰相の政務室へ向かった頃には陽も傾き始めていた。
———本当に、シズクが彼らの血縁であれば良いのだが。
青ざめた少女の顔を思い出しながらオリエンスは長い廊下を歩いていた。
突然屋敷に現れた不思議な少女、シズクはフェールの名前を出した途端、激しく動揺しそのまま意識を失ってしまった。
しばらくして意識を取り戻した彼女は、おそらく自分はフェールの事を知っているが今は思い出せない、と言った。
シズクには幼少の頃の記憶がないのだという。
そして今一緒に暮らしている家族とは血の繋がりがないのだと。
何故アズール家の屋敷に倒れていたのかは本当に分からないようだったが、ずっと遠い場所から来たのだと言っていた。
———彼女とノワール家にどんな関係があるのか。
シズクの今後の扱いを決めるためにも、まずは彼らに確認しなければならない。
政務室の前まで来ると、中から何か言い争う声が聞こえて来た。
…またやっているのか。
呆れたように一つため息をつくと、オリエンスはドアをノックし返事も待たずドアを開いた。
「…本当にうるさい奴だなお前は」
「宰相閣下がいい加減過ぎるのです」
「いい加減ではない、お前が非情過ぎるんだ」
机を挟んで二人の男が口論をしていた。
中年の男性と若い男、二人とも黒々とした髪を持ち、その顔立ちもよく似ている。
オリエンスが入って来た事にも気付かずしばらく言い合いをしていたが、やがてこちらに向いて座っていた中年の男がようやくオリエンスの存在に気づき、ほっとしたような表情を見せた。
「何だオリエンス、来ていたのなら声を掛けてくれ」
「お取り込み中のようでしたので」
机の側まで来ると手にしていた書類を机上に置き、オリエンスは二人の男を改めて見た。
この国の宰相であるヒュドール・ノワール公爵と、その息子で宰相の補佐を務めるフェール・ノワール。
宰相はいつも穏やかな表情をたたえ、中身も外見通りの温厚な性格だが、フェールは鋭い青い瞳を持ち、心がないのではと噂されるほど冷徹な男だった。
外見はよく似ているが性格は正反対のこの宰相親子の口論は政務室ではいつもの光景であり、室内で仕事をしている政務官たちも特に気に留めている様子はない。
「…何だ」
オリエンスの視線に気づいたフェールがその鋭い瞳をこちらへ向けて来た。
「———申し訳ありませんが、人払いをお願いできますか」
小声で告げた思いがけない言葉に宰相が眉を上げた。
「休憩室へ行こう」
そう言って宰相は立ち上がった。
「それで、何の話だ」
休憩室のドアをぴたりと閉ざすとフェールが口を開いた。
「また殿下が何か無理難題でも言っているのか」
「いや、全く別の話だ」
宰相がソファーへ座った、その傍らへ立つとオリエンスは二人を改めて見比べた。
———ああ、目の色は宰相と同じなのだな。
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「どうした、さっきから人の顔をよく見ているが」
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「…お二人は、シズクという名前に心当たりは?」
「シズク?」
宰相親子は顔を見合わせた。
「いや、ないな」
「十八歳くらいの、黒髪と青灰色の瞳を持った女性です」
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「お二人によく似た容姿で、首のここにホクロがあって…」
「おい…っ!」
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「———その娘はどこにいる」
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