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第1章 帰郷
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「…はあ」
窓の外を見上げて雫はため息をついた。
「どうしよう…乙女ゲームの世界の中にいるなんて」
すっかり日も暮れた夜空にかかる、二つの月はここが元の世界ではない事をはっきりと示していた。
そしてあの二つの月を自分は見た事があるのだ。
———スマホの中のゲーム画面で。
昨日、オリエンスの顔を見た時は本当に驚いた。
親友のひかりに勧められて始めたスマホゲームの攻略対象の一人に名前も顔もそっくりだったのだ。
『光の乙女と恋の魔法』というタイトルのゲームで、オリエンスは王太子ユークの次に雫が攻略したキャラだった。
ゲーム同様優しいオリエンスは、倒れた雫が目を覚ました時はとても心配してくれた。
———その倒れる原因となったフェールも攻略対象の一人で…ひかりが雫にゲームを勧めるきっかけとなったキャラだった。
雫によく似ているというフェールの絵を最初に見た時も既視感を覚えた。
そしてオリエンスの口からその言葉が出た時も。
私は…彼の事を知っている。
そう、ずっと昔から。
だけど…
(ここは…ゲームの世界じゃないの?)
雫は読んだことがなかったが、乙女ゲームの世界に転移や転生をする小説が流行っているとひかりに聞いた事があった。
そんな事が本当に起きるとは思わなかったけれど…二晩を過ごしたけれど元の世界に戻る気配はない事と、リアルな感覚はこれが夢ではないと分かる。
侍女やオリエンスからこの国の事を簡単に説明してもらったが、王家を中心に四つの公爵家がある事やオリエンスが仕えているという王太子の名前や性格も、ゲームの設定と同じものだった。
本当にここがゲームの世界ならば、どうして…自分はその中に出てくるキャラの事を知っていると思うのか。
「はあ…」
もう一度雫はため息をついた。
オリエンスにフェールを知っているかと聞かれ、思い出せないけれど知っていると答えてしまった。
それに家族以外誰も…親友のひかりでさえ知らない、雫の素性の事も。
ずっと、居場所がないと思っていた。
育ての親は優しいけれど、それでも本当の家族ではないという気持ちが消える事はなかった。
…彼らに引き取られる前の記憶がない事が余計にそう思わせていたのかもしれない。
自分が何者か分からない不安。
消えた記憶。
日本人には見えない容姿。
それらはフェール・ノワールという存在と繋がるのだと、雫は確信していた。
彼は自分にとって何なのか———もう少しで思い出せそうなのに。
モヤモヤしたものが喉に引っかかっているような不快感に再度息を吐くと、ドアがノックする音が聞こえて雫は振り返った。
黒髪の青年が立っていた。
青い瞳が雫を凝視している。
「…ロゼ…」
その言葉が耳に届いた瞬間、雫の身体が揺れた。
「ロゼ」
大股で部屋に入ってくると青年は雫の目の前に立った。
大きな手がその存在を確かめるように、雫の頭や肩を撫でる。
雫の瞳から涙が零れた。
頬に伝うそれを指先で拭い取ると、青年は安堵したように頬を緩めた。
「無事で良かった」
「———お兄様…」
雫は目の前の胸に飛び込んだ。
「ロゼ…会いたかった」
震える背中を撫でると、フェールは十三年ぶりに再会した妹を強く抱きしめた。
窓の外を見上げて雫はため息をついた。
「どうしよう…乙女ゲームの世界の中にいるなんて」
すっかり日も暮れた夜空にかかる、二つの月はここが元の世界ではない事をはっきりと示していた。
そしてあの二つの月を自分は見た事があるのだ。
———スマホの中のゲーム画面で。
昨日、オリエンスの顔を見た時は本当に驚いた。
親友のひかりに勧められて始めたスマホゲームの攻略対象の一人に名前も顔もそっくりだったのだ。
『光の乙女と恋の魔法』というタイトルのゲームで、オリエンスは王太子ユークの次に雫が攻略したキャラだった。
ゲーム同様優しいオリエンスは、倒れた雫が目を覚ました時はとても心配してくれた。
———その倒れる原因となったフェールも攻略対象の一人で…ひかりが雫にゲームを勧めるきっかけとなったキャラだった。
雫によく似ているというフェールの絵を最初に見た時も既視感を覚えた。
そしてオリエンスの口からその言葉が出た時も。
私は…彼の事を知っている。
そう、ずっと昔から。
だけど…
(ここは…ゲームの世界じゃないの?)
雫は読んだことがなかったが、乙女ゲームの世界に転移や転生をする小説が流行っているとひかりに聞いた事があった。
そんな事が本当に起きるとは思わなかったけれど…二晩を過ごしたけれど元の世界に戻る気配はない事と、リアルな感覚はこれが夢ではないと分かる。
侍女やオリエンスからこの国の事を簡単に説明してもらったが、王家を中心に四つの公爵家がある事やオリエンスが仕えているという王太子の名前や性格も、ゲームの設定と同じものだった。
本当にここがゲームの世界ならば、どうして…自分はその中に出てくるキャラの事を知っていると思うのか。
「はあ…」
もう一度雫はため息をついた。
オリエンスにフェールを知っているかと聞かれ、思い出せないけれど知っていると答えてしまった。
それに家族以外誰も…親友のひかりでさえ知らない、雫の素性の事も。
ずっと、居場所がないと思っていた。
育ての親は優しいけれど、それでも本当の家族ではないという気持ちが消える事はなかった。
…彼らに引き取られる前の記憶がない事が余計にそう思わせていたのかもしれない。
自分が何者か分からない不安。
消えた記憶。
日本人には見えない容姿。
それらはフェール・ノワールという存在と繋がるのだと、雫は確信していた。
彼は自分にとって何なのか———もう少しで思い出せそうなのに。
モヤモヤしたものが喉に引っかかっているような不快感に再度息を吐くと、ドアがノックする音が聞こえて雫は振り返った。
黒髪の青年が立っていた。
青い瞳が雫を凝視している。
「…ロゼ…」
その言葉が耳に届いた瞬間、雫の身体が揺れた。
「ロゼ」
大股で部屋に入ってくると青年は雫の目の前に立った。
大きな手がその存在を確かめるように、雫の頭や肩を撫でる。
雫の瞳から涙が零れた。
頬に伝うそれを指先で拭い取ると、青年は安堵したように頬を緩めた。
「無事で良かった」
「———お兄様…」
雫は目の前の胸に飛び込んだ。
「ロゼ…会いたかった」
震える背中を撫でると、フェールは十三年ぶりに再会した妹を強く抱きしめた。
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