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第1章 帰郷
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このオレオール王国は、王家と四公爵家の異なる魔力を持つ五家が支え合って成り立っている。
火魔法を持つ王家のフールス家。
王家を支える側近、風魔法のアズール家。
政治を司る宰相家で水魔法のノワール家。
将軍として武力で国を守る、雷魔法のアルジェント家。
そして五家の調和を保つ役目を持つ、土魔法のフラーウム家。
各家の中でも特に魔力が強い者はその髪色に特徴が現れ〝色持ち〟と呼ばれる。
ノワール家の第二子として生まれた娘ロゼも、五歳上の兄や父と同様に黒髪の色持ちとして生まれたが、魔力の高さに対して身体は弱く、日々のほとんどをベッドの上で過ごしていた。
家族はそんなロゼを宝物のように大切に扱い、特に兄フェールは妹を溺愛していた。
四歳を過ぎた頃にはようやくベッドから離れる時間も増え、ロゼは庭に出る事ができるようになっていた。
天気が良い日は庭に子供達の笑い声が響く幸せな日々は、けれど長くは続かなかった。
同じ属性の色持ちが同時に存在する事は親子でも少なく、兄弟では過去を遡ってもほとんど例がない。
複数いる場合、互いにいい影響を及ぼすこともあれば反発しあう事もある。
フェールとロゼの場合は〝共鳴〟だった。
常に一緒にいるうちに相手の感情を共有するようになり、特にフェールがロゼの心の動きに強い影響を受けていた。
ロゼが五歳の誕生日を迎えた夏の日。
休暇を過ごすため家族で領地に戻っていたノワール家は、ロゼの体調が良い時を選んで屋敷の近くにある湖畔へと向かった。
そこでロゼが野犬に襲われたのだ。
響き渡るロゼの悲鳴と、彼女の感じた激しい恐怖と痛みに。
共鳴したフェールはその魔力を暴走させた。
元々の魔力が強かったのと、場所が魔力と相性の良い水辺というのもあったせいか。
激しい光が辺りを包み込んだ。
そうして光が消えた時、ロゼの姿は消えていたのだ。
それ以降、どれだけ探しても彼女の姿は見つからなかった。
「私は…あの時、別の世界に飛ばされたんです」
「別の世界?」
フェールがオリエンスにロゼの事を一通り説明した後、雫は言葉を継いで言った。
「こことは全く違う世界で…私は、記憶を失っていました」
あの時、確かに野犬に噛まれたはずだったがその傷は消えていた。
ロゼとしての記憶も消えていた雫は、公園の池の傍に倒れていたのを保護され、そして里親に引き取られたのだ。
「二日前…家に帰る途中で突然あの時みたいに光に包まれて…。またこの世界に戻ってきました」
「ふうむ…そんな事があるんだな」
雫の話を聞いてオリエンスは言った。
信じがたい話だが、雫が嘘をついているようにも見えない。
「どうやって戻ってこれた?また魔力が暴走したのか?」
「いいえ…あの世界には魔力も魔法もありません」
「魔力がない?」
オリエンスも、フェールも目を見張った。
こちらの世界でも魔力を持たない者の方が多いが、色持ちである彼らにとって魔力が存在しないというのは理解しがたいものなのだろう。
「そんな世界があるのか」
「…まあともかく。ロゼが戻ってきて良かった」
フェールは雫の手を握るとその顔を見つめて笑みを浮かべた。
「お兄様」
「死んだとは思っていなかったが…本当に、無事で良かった」
しばらく雫と見つめ合ってからその頭にキスを落とすと、フェールは呆気に取られた表情のオリエンスに鋭い視線を送った。
「何だその顔は」
「———いや…お前…そんな顔するんだな」
フェールといえば氷の宰相と渾名されるほどに感情というものがないというのが王宮内での評判であり、笑顔を見た事など一度もなかったのだが。
雫、もといロゼの反応を見る限り、妹の前では普通…というより随分と甘いようだ。
———彼が冷酷な性格になったのは妹の行方不明と関係があるのだろうな。
オリエンスの言葉を気にする事なくロゼへ優しい視線を送るフェールを見て、オリエンスは思った。
「帰ろう、ロゼ。父上達も待っている」
フェールは妹を促すと立ち上がった。
「オリエンス、ロゼを保護してくれて感謝する。礼は後日改めてする」
「いや、礼はいい。貸しにしておいてくれ。こちらから助けて欲しい事も出るだろうし」
「…そうだな」
二人の頭の中に同じ人物が浮かんだが、それを口にする事なくオリエンスも立ち上がった。
火魔法を持つ王家のフールス家。
王家を支える側近、風魔法のアズール家。
政治を司る宰相家で水魔法のノワール家。
将軍として武力で国を守る、雷魔法のアルジェント家。
そして五家の調和を保つ役目を持つ、土魔法のフラーウム家。
各家の中でも特に魔力が強い者はその髪色に特徴が現れ〝色持ち〟と呼ばれる。
ノワール家の第二子として生まれた娘ロゼも、五歳上の兄や父と同様に黒髪の色持ちとして生まれたが、魔力の高さに対して身体は弱く、日々のほとんどをベッドの上で過ごしていた。
家族はそんなロゼを宝物のように大切に扱い、特に兄フェールは妹を溺愛していた。
四歳を過ぎた頃にはようやくベッドから離れる時間も増え、ロゼは庭に出る事ができるようになっていた。
天気が良い日は庭に子供達の笑い声が響く幸せな日々は、けれど長くは続かなかった。
同じ属性の色持ちが同時に存在する事は親子でも少なく、兄弟では過去を遡ってもほとんど例がない。
複数いる場合、互いにいい影響を及ぼすこともあれば反発しあう事もある。
フェールとロゼの場合は〝共鳴〟だった。
常に一緒にいるうちに相手の感情を共有するようになり、特にフェールがロゼの心の動きに強い影響を受けていた。
ロゼが五歳の誕生日を迎えた夏の日。
休暇を過ごすため家族で領地に戻っていたノワール家は、ロゼの体調が良い時を選んで屋敷の近くにある湖畔へと向かった。
そこでロゼが野犬に襲われたのだ。
響き渡るロゼの悲鳴と、彼女の感じた激しい恐怖と痛みに。
共鳴したフェールはその魔力を暴走させた。
元々の魔力が強かったのと、場所が魔力と相性の良い水辺というのもあったせいか。
激しい光が辺りを包み込んだ。
そうして光が消えた時、ロゼの姿は消えていたのだ。
それ以降、どれだけ探しても彼女の姿は見つからなかった。
「私は…あの時、別の世界に飛ばされたんです」
「別の世界?」
フェールがオリエンスにロゼの事を一通り説明した後、雫は言葉を継いで言った。
「こことは全く違う世界で…私は、記憶を失っていました」
あの時、確かに野犬に噛まれたはずだったがその傷は消えていた。
ロゼとしての記憶も消えていた雫は、公園の池の傍に倒れていたのを保護され、そして里親に引き取られたのだ。
「二日前…家に帰る途中で突然あの時みたいに光に包まれて…。またこの世界に戻ってきました」
「ふうむ…そんな事があるんだな」
雫の話を聞いてオリエンスは言った。
信じがたい話だが、雫が嘘をついているようにも見えない。
「どうやって戻ってこれた?また魔力が暴走したのか?」
「いいえ…あの世界には魔力も魔法もありません」
「魔力がない?」
オリエンスも、フェールも目を見張った。
こちらの世界でも魔力を持たない者の方が多いが、色持ちである彼らにとって魔力が存在しないというのは理解しがたいものなのだろう。
「そんな世界があるのか」
「…まあともかく。ロゼが戻ってきて良かった」
フェールは雫の手を握るとその顔を見つめて笑みを浮かべた。
「お兄様」
「死んだとは思っていなかったが…本当に、無事で良かった」
しばらく雫と見つめ合ってからその頭にキスを落とすと、フェールは呆気に取られた表情のオリエンスに鋭い視線を送った。
「何だその顔は」
「———いや…お前…そんな顔するんだな」
フェールといえば氷の宰相と渾名されるほどに感情というものがないというのが王宮内での評判であり、笑顔を見た事など一度もなかったのだが。
雫、もといロゼの反応を見る限り、妹の前では普通…というより随分と甘いようだ。
———彼が冷酷な性格になったのは妹の行方不明と関係があるのだろうな。
オリエンスの言葉を気にする事なくロゼへ優しい視線を送るフェールを見て、オリエンスは思った。
「帰ろう、ロゼ。父上達も待っている」
フェールは妹を促すと立ち上がった。
「オリエンス、ロゼを保護してくれて感謝する。礼は後日改めてする」
「いや、礼はいい。貸しにしておいてくれ。こちらから助けて欲しい事も出るだろうし」
「…そうだな」
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