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第2章 再会と出会い
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「あの…お兄様」
「どうした」
「…手は繋がなくても…」
「初めての場所ではぐれたら大変だろう」
子供じゃないんだから、はぐれたりしないのに。
さりげなく振りほどこうとしたら逆にフェールに力を込められて、ロゼは諦めるしかなかった。
ユークとのお茶会を終え、二人は図書館へと向かっていた。
ランドは図書館長の肩書を持ち、図書館の管理の他に国の歴史や魔力について研究しているのだという。
お茶会の場所は王太子のプライベートエリアである内廷だったため、すれ違う人々も警備の騎士や侍女、侍従といった限られた者たちであったが、今いるのは王宮の表舞台、外廷である。
行き交う人々の数も、職業もずっと増え———ロゼたちに向けられる好奇と驚愕の視線も増えた。
宰相補佐のフェールが見慣れぬ娘の手を引いて歩いているのだから仕方ないのだろうが…恥ずかしくて仕方がない。
オリエンスやユークの反応を見る限り、フェールがこういう事をするのはかなり珍しい事なのだろう。
彼がロゼに笑顔を向ける度に周囲からざわめきが起きる。
ロゼにとって、フェールはいつでも優しい兄であり、その笑顔も見慣れたものであるが…ここは彼の職場なのだから甘い態度は控えた方がいいだろうに。
周囲の反応に気付いているはずなのに、フェールは全く気にしていないようだった。
「やあ。待っていたよ」
館長室で本に埋もれた机に座っていたランド・フラーウムは二人を見ると立ち上がった。
いたる所に本が積み上げられた室内といい、長い金髪を無造作に束ね、シャツのボタンを外して着崩したラフな恰好といい、大学の研究室に篭っていた准教授の姿を思い出させた。
「ロゼ、君の事は先代である祖父から話を聞いているよ」
ランドはロゼの前に立った。
「確か小さい時に死んだと聞いたけれど」
「死んではいない。行方不明になったんだ」
不快そうに眉をひそめてフェールが言った。
「行方不明?」
明るい水色の瞳がロゼの瞳を覗き込んだ。
「———身体が耐えられない程の魔力があったんだよね、でも今は全く感じないな」
「あまり近づくな」
フェールはマジマジと見つめるランドから離すようにロゼを引き寄せた。
「フェール、噂は聞いているよ。氷の宰相は妹にメロメロなんだってね」
くすりと笑ってそう言うと、ランドは二人にソファに座るよう促し自分もその正面に腰を下ろした。
「それじゃあ、これまでの経緯を詳しく話してもらおうか」
フェールがロゼが消えた時の説明をし、その後の事をロゼが継いだ。
ランドに問われるまま日本の事も———さすがにゲームの事は伏せたが———色々と語った。
「———魔力のない別の世界、か」
一通り話を聞き終えるとランドは腕を組み何か思案しながら言った。
「そういう別の世界や時間から渡って来た人間の話はいくつか読んだ事がある」
「本当…ですか?」
「どれも相当古い話だけどね。今もそういう事が起きているかは調べてみないと分からないけれど」
ランドは軽く視線を周囲の本棚へ送ってからフェールを見た。
「今の話を聞いただけでは分からない事が多すぎる。色々と調べたいから時間をくれるか」
「ああ…それは構わないが。早く知りたい事がある」
「何だ」
「またロゼが消えてしまう可能性があるかだ」
「それはあるだろうな」
ランドは即答した。
「…あるのか」
「これは祖父が残した、君達を調べた時の記録だ」
ランドは机上に置かれていた一冊の本を手に取った。
「兄弟の色持ちはとても珍しい。まして共鳴して魔力の暴発を起こすなど聞いた事がないし、そもそも身体が耐えられないほど魔力が高いという事自体が異例なんだ。今後も何が起きてもおかしくないと思っておいた方がいい」
「———はい…」
急に不安に襲われ目を伏せたロゼの手をフェールが握りしめた。
「何か対策はないのか」
「そうだな、まずは十三年前のような状況が起きないようにする事。子供の時に比べればそう容易く暴走する事もないだろうが、気をつけるんだな」
「ああ」
「そもそも我々〝色持ち〟の魔力について、分かっていない事も多いんだ」
ふ、とランドは息を吐いた。
「何故五家だけなのか、一族の中でも魔力を持つ者と持たない者がいるのか…その数が減って来ている事も」
「フラーウム家でも分からないのか」
「代々の当主達が調べてきたけれどね、何せ参考になる例が少ないんだ」
そういえば…この世界の魔法は〝雫〟の知っている魔法とは違うのだとロゼは思い出した。
雫のいた世界に魔法はなかったが、その概念はあり小説や漫画、映画などフィクションの世界では様々な物語が作られていた。
その多くが魔法を使った攻撃で戦ったり、日常的に魔法を使うようなものだった。
けれどここでは魔力を持つ者自体が少なく、魔法を使う事もあまりない。
幼い頃に父親が噴水の水を操って見せてくれた事があったが…それくらいではなかったろうか。
乙女ゲームの中でも、魔法を使う場面はほとんどなかったはずだ。
「ロゼ?」
フェールがロゼの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か」
「あ…ええ」
「疲れたか?そろそろ戻るか」
「それじゃあ、先ずは過去の文献を当たってみるから」
「ああ、頼む」
フェールは立ち上がるとロゼを促して立たせた。
「そうだ一つだけ先に確認させてくれ」
ランドはロゼの前に立った。
「ロゼ、目を閉じて」
言われるまま目を閉じたロゼの額に手を当てる。
「私の手に意識を集中して」
ランドの手のひらが淡い光を放つ。
しばらくして光が消えるとランドは手を離した。
「やっぱり。魔力が消えた訳ではないな」
「消えていない?」
「魔力の有無は髪色に現れる。ロゼは黒髪のままだからそうじゃないかとは思ったが、身体の奥にかすかに魔力を感じる」
ランドはフェールを見た。
「魔力のない世界にいたせいか…他の要因かは分からないが。一時的に使えなくなっているんだろう」
「———今後魔力が使えるようになる事もあるという事か」
「ああ」
「また寝込むようになる事も?」
「それはもうないだろうな、子供の身体ではないのだし」
視線をロゼに移すと、ランドは労わるように目を細めた。
「魔力に関しては心配しなくてもいいけど、もしも何かあったらすぐに連絡してくれ」
「…はい、よろしくお願いします」
「お前はもう少し寛容になれよ」
頭を下げたロゼの頭をランドが撫でるのを見て露骨に嫌そうな表情を浮かべたフェールに、祖父の記録にあった少年時代のフェールの妹の溺愛ぶりを思い出してランドは苦笑した。
「どうした」
「…手は繋がなくても…」
「初めての場所ではぐれたら大変だろう」
子供じゃないんだから、はぐれたりしないのに。
さりげなく振りほどこうとしたら逆にフェールに力を込められて、ロゼは諦めるしかなかった。
ユークとのお茶会を終え、二人は図書館へと向かっていた。
ランドは図書館長の肩書を持ち、図書館の管理の他に国の歴史や魔力について研究しているのだという。
お茶会の場所は王太子のプライベートエリアである内廷だったため、すれ違う人々も警備の騎士や侍女、侍従といった限られた者たちであったが、今いるのは王宮の表舞台、外廷である。
行き交う人々の数も、職業もずっと増え———ロゼたちに向けられる好奇と驚愕の視線も増えた。
宰相補佐のフェールが見慣れぬ娘の手を引いて歩いているのだから仕方ないのだろうが…恥ずかしくて仕方がない。
オリエンスやユークの反応を見る限り、フェールがこういう事をするのはかなり珍しい事なのだろう。
彼がロゼに笑顔を向ける度に周囲からざわめきが起きる。
ロゼにとって、フェールはいつでも優しい兄であり、その笑顔も見慣れたものであるが…ここは彼の職場なのだから甘い態度は控えた方がいいだろうに。
周囲の反応に気付いているはずなのに、フェールは全く気にしていないようだった。
「やあ。待っていたよ」
館長室で本に埋もれた机に座っていたランド・フラーウムは二人を見ると立ち上がった。
いたる所に本が積み上げられた室内といい、長い金髪を無造作に束ね、シャツのボタンを外して着崩したラフな恰好といい、大学の研究室に篭っていた准教授の姿を思い出させた。
「ロゼ、君の事は先代である祖父から話を聞いているよ」
ランドはロゼの前に立った。
「確か小さい時に死んだと聞いたけれど」
「死んではいない。行方不明になったんだ」
不快そうに眉をひそめてフェールが言った。
「行方不明?」
明るい水色の瞳がロゼの瞳を覗き込んだ。
「———身体が耐えられない程の魔力があったんだよね、でも今は全く感じないな」
「あまり近づくな」
フェールはマジマジと見つめるランドから離すようにロゼを引き寄せた。
「フェール、噂は聞いているよ。氷の宰相は妹にメロメロなんだってね」
くすりと笑ってそう言うと、ランドは二人にソファに座るよう促し自分もその正面に腰を下ろした。
「それじゃあ、これまでの経緯を詳しく話してもらおうか」
フェールがロゼが消えた時の説明をし、その後の事をロゼが継いだ。
ランドに問われるまま日本の事も———さすがにゲームの事は伏せたが———色々と語った。
「———魔力のない別の世界、か」
一通り話を聞き終えるとランドは腕を組み何か思案しながら言った。
「そういう別の世界や時間から渡って来た人間の話はいくつか読んだ事がある」
「本当…ですか?」
「どれも相当古い話だけどね。今もそういう事が起きているかは調べてみないと分からないけれど」
ランドは軽く視線を周囲の本棚へ送ってからフェールを見た。
「今の話を聞いただけでは分からない事が多すぎる。色々と調べたいから時間をくれるか」
「ああ…それは構わないが。早く知りたい事がある」
「何だ」
「またロゼが消えてしまう可能性があるかだ」
「それはあるだろうな」
ランドは即答した。
「…あるのか」
「これは祖父が残した、君達を調べた時の記録だ」
ランドは机上に置かれていた一冊の本を手に取った。
「兄弟の色持ちはとても珍しい。まして共鳴して魔力の暴発を起こすなど聞いた事がないし、そもそも身体が耐えられないほど魔力が高いという事自体が異例なんだ。今後も何が起きてもおかしくないと思っておいた方がいい」
「———はい…」
急に不安に襲われ目を伏せたロゼの手をフェールが握りしめた。
「何か対策はないのか」
「そうだな、まずは十三年前のような状況が起きないようにする事。子供の時に比べればそう容易く暴走する事もないだろうが、気をつけるんだな」
「ああ」
「そもそも我々〝色持ち〟の魔力について、分かっていない事も多いんだ」
ふ、とランドは息を吐いた。
「何故五家だけなのか、一族の中でも魔力を持つ者と持たない者がいるのか…その数が減って来ている事も」
「フラーウム家でも分からないのか」
「代々の当主達が調べてきたけれどね、何せ参考になる例が少ないんだ」
そういえば…この世界の魔法は〝雫〟の知っている魔法とは違うのだとロゼは思い出した。
雫のいた世界に魔法はなかったが、その概念はあり小説や漫画、映画などフィクションの世界では様々な物語が作られていた。
その多くが魔法を使った攻撃で戦ったり、日常的に魔法を使うようなものだった。
けれどここでは魔力を持つ者自体が少なく、魔法を使う事もあまりない。
幼い頃に父親が噴水の水を操って見せてくれた事があったが…それくらいではなかったろうか。
乙女ゲームの中でも、魔法を使う場面はほとんどなかったはずだ。
「ロゼ?」
フェールがロゼの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か」
「あ…ええ」
「疲れたか?そろそろ戻るか」
「それじゃあ、先ずは過去の文献を当たってみるから」
「ああ、頼む」
フェールは立ち上がるとロゼを促して立たせた。
「そうだ一つだけ先に確認させてくれ」
ランドはロゼの前に立った。
「ロゼ、目を閉じて」
言われるまま目を閉じたロゼの額に手を当てる。
「私の手に意識を集中して」
ランドの手のひらが淡い光を放つ。
しばらくして光が消えるとランドは手を離した。
「やっぱり。魔力が消えた訳ではないな」
「消えていない?」
「魔力の有無は髪色に現れる。ロゼは黒髪のままだからそうじゃないかとは思ったが、身体の奥にかすかに魔力を感じる」
ランドはフェールを見た。
「魔力のない世界にいたせいか…他の要因かは分からないが。一時的に使えなくなっているんだろう」
「———今後魔力が使えるようになる事もあるという事か」
「ああ」
「また寝込むようになる事も?」
「それはもうないだろうな、子供の身体ではないのだし」
視線をロゼに移すと、ランドは労わるように目を細めた。
「魔力に関しては心配しなくてもいいけど、もしも何かあったらすぐに連絡してくれ」
「…はい、よろしくお願いします」
「お前はもう少し寛容になれよ」
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