18 / 62
第3章 惹かれる心
01
しおりを挟む
冒頭に「主要登場人物一覧」を追加しました。
————————————————
「お嬢様にお届けものでございます」
ロゼがマナーの勉強を兼ねて母親とお茶をしていると、侍女が入ってきた。
「私に?」
「こちらです」
別の侍女が大きな花束を抱えて入ってきた。
淡い色や濃い色、様々な紫色の花がまとめられている。
「綺麗…」
「あら、まあ!」
手渡された花束を見つめるロゼの向かいで公爵夫人が声を上げた。
「ロゼ、あなたったらいつの間に」
「…え?」
「こちら贈り主からです」
キョトンとしたロゼに、侍女が一通の封筒を手渡した。
中には流麗な文字が書かれた、綺麗な模様の描かれたカードが入っていた。
———先日は短い間だったが共に過ごせて嬉しかった。
また同じ時を過ごせる事を願っている———ヴァイス
「ヴァイス様…」
ロゼの脳裏に優しい紫色の瞳が浮かんだ。
カードを見つめる娘の瞳が潤んでくるのを見て夫人は目を細めた。
「…ロゼ。あなたいつの間に彼とそういう関係になったの?」
「え…いえ?!」
驚いてロゼは慌てて首を振った。
「先日お茶会の時にお会いしたのが初めてで…それきりです」
「まあそうなの?随分と親しそうだったけれど。王妃様が残念がっていたわ」
「残念?」
「あなたをユーク殿下のお妃にどうかと思っていたんですって」
「ええ?!」
ロゼは目を見開いた。
「殿下はこれまでどの御令嬢にも興味を示さなかったの。そこにあなたが現れて、殿下自らお茶会に招待したっていうから」
「で、でも私は…」
「いつまた身体が悪くなるかも分からないしお妃は務まりませんってお断りしたのだけれど、それでも一度会ってみたいとなったのがこの間のお茶会だったのよ。でもヴァイス様ととても親しそうにしていたから、これは難しそうねって言っていたの」
あなたの事、諦めてはいないみたいだけれど。
夫人はそう付け加えた。
先日の王妃様とのお茶会に迎えに来たヴァイスは、これまでロゼが会ったどの男性とも違っていた。
初めて会うのに初めてではないような、けれど懐かしさとは違う…不思議と落ち着く感じを抱かせた。
男性が苦手なロゼだったがヴァイスには緊張を感じる事もなく、優しい眼差しも、低めの声もとても心地良くてずっと一緒にいたいと思えるくらいだった。
彼と言葉を交わしながら後宮へと向かう内に気持ちも落ち着き、お茶会も無事に終える事が出来たのだ。
「ロゼ」
視線をカードに落としたロゼに夫人は声を掛けた。
「お父様が端からお断りしているけれど、あなたを娶りたいという打診がいくつも来ているの」
「…え」
「公爵家の娘ですもの、他の貴族からすれば是非にと願うわ。ただあなたは貴族社会に慣れていないし、政治の道具にするには可愛そうだから。私はなるべくあなたの望む所に嫁がせたいと思っているわ」
「お母様…」
「ヴァイス様ならば家柄も釣り合うし、家は長男のディラン様が継ぐでしょうからあなたの負担も少ないと思うの」
「え、あの」
ロゼは視線を泳がせた。
「私…と…ヴァイス様はそういう訳では…」
「この国ではね」
夫人は花束を指した。
「自分の瞳と同じ色を贈るのは特別に想う相手へと決まっているのよ」
「特別…」
様々な花は、ロゼが知っている、桔梗や紫陽花に似た花もあれば見覚えのないような形のものもある。
色味や濃さは異なるけれど紫色で統一された花束は上品で、ヴァイスと一緒にいた時のように落ち着く感じを与えた。
本当に…彼は、自分の事を特別だと思ってくれているのだろうか。
———自分が彼の存在を特別だと感じたように。
「そうだわ、返事をしないと」
ぱん、と夫人は手を打った。
「こういう時はお礼の手紙を出すのよ」
「はい…お母様」
ロゼは母親を見上げた。
「私も…何か手紙以外に贈り物をしたいの」
「まあ。そうねえ」
夫人は思案するように首を傾げた。
「そうだわ、ハンカチに刺繍をしたらどうかしら。あなた上手だもの」
この世界で刺繍は令嬢のたしなみの一つとされているが、ロゼの腕前は普通の令嬢のそれよりもかなり上のものだった。
雫は手芸が趣味で、中でもフランス刺繍だけでなく日本刺繍にも手を出すくらい、刺繍が好きだった。
ひと針ひと針、無心になって刺す時間は普段漠然と抱いていた不安を忘れさせ、また少しずつ形になっていくのを見るのは楽しいものだった。
「あなたの瞳の色の糸を使って刺せば、きっと喜んでくれるわ」
「…はい」
どんな図柄にしようか。イニシャルと…何か絵柄もいれた方がいいだろうか。
ヴァイスを思い出しながら、ロゼは早速刺繍の事で頭がいっぱいになった。
————————————————
「お嬢様にお届けものでございます」
ロゼがマナーの勉強を兼ねて母親とお茶をしていると、侍女が入ってきた。
「私に?」
「こちらです」
別の侍女が大きな花束を抱えて入ってきた。
淡い色や濃い色、様々な紫色の花がまとめられている。
「綺麗…」
「あら、まあ!」
手渡された花束を見つめるロゼの向かいで公爵夫人が声を上げた。
「ロゼ、あなたったらいつの間に」
「…え?」
「こちら贈り主からです」
キョトンとしたロゼに、侍女が一通の封筒を手渡した。
中には流麗な文字が書かれた、綺麗な模様の描かれたカードが入っていた。
———先日は短い間だったが共に過ごせて嬉しかった。
また同じ時を過ごせる事を願っている———ヴァイス
「ヴァイス様…」
ロゼの脳裏に優しい紫色の瞳が浮かんだ。
カードを見つめる娘の瞳が潤んでくるのを見て夫人は目を細めた。
「…ロゼ。あなたいつの間に彼とそういう関係になったの?」
「え…いえ?!」
驚いてロゼは慌てて首を振った。
「先日お茶会の時にお会いしたのが初めてで…それきりです」
「まあそうなの?随分と親しそうだったけれど。王妃様が残念がっていたわ」
「残念?」
「あなたをユーク殿下のお妃にどうかと思っていたんですって」
「ええ?!」
ロゼは目を見開いた。
「殿下はこれまでどの御令嬢にも興味を示さなかったの。そこにあなたが現れて、殿下自らお茶会に招待したっていうから」
「で、でも私は…」
「いつまた身体が悪くなるかも分からないしお妃は務まりませんってお断りしたのだけれど、それでも一度会ってみたいとなったのがこの間のお茶会だったのよ。でもヴァイス様ととても親しそうにしていたから、これは難しそうねって言っていたの」
あなたの事、諦めてはいないみたいだけれど。
夫人はそう付け加えた。
先日の王妃様とのお茶会に迎えに来たヴァイスは、これまでロゼが会ったどの男性とも違っていた。
初めて会うのに初めてではないような、けれど懐かしさとは違う…不思議と落ち着く感じを抱かせた。
男性が苦手なロゼだったがヴァイスには緊張を感じる事もなく、優しい眼差しも、低めの声もとても心地良くてずっと一緒にいたいと思えるくらいだった。
彼と言葉を交わしながら後宮へと向かう内に気持ちも落ち着き、お茶会も無事に終える事が出来たのだ。
「ロゼ」
視線をカードに落としたロゼに夫人は声を掛けた。
「お父様が端からお断りしているけれど、あなたを娶りたいという打診がいくつも来ているの」
「…え」
「公爵家の娘ですもの、他の貴族からすれば是非にと願うわ。ただあなたは貴族社会に慣れていないし、政治の道具にするには可愛そうだから。私はなるべくあなたの望む所に嫁がせたいと思っているわ」
「お母様…」
「ヴァイス様ならば家柄も釣り合うし、家は長男のディラン様が継ぐでしょうからあなたの負担も少ないと思うの」
「え、あの」
ロゼは視線を泳がせた。
「私…と…ヴァイス様はそういう訳では…」
「この国ではね」
夫人は花束を指した。
「自分の瞳と同じ色を贈るのは特別に想う相手へと決まっているのよ」
「特別…」
様々な花は、ロゼが知っている、桔梗や紫陽花に似た花もあれば見覚えのないような形のものもある。
色味や濃さは異なるけれど紫色で統一された花束は上品で、ヴァイスと一緒にいた時のように落ち着く感じを与えた。
本当に…彼は、自分の事を特別だと思ってくれているのだろうか。
———自分が彼の存在を特別だと感じたように。
「そうだわ、返事をしないと」
ぱん、と夫人は手を打った。
「こういう時はお礼の手紙を出すのよ」
「はい…お母様」
ロゼは母親を見上げた。
「私も…何か手紙以外に贈り物をしたいの」
「まあ。そうねえ」
夫人は思案するように首を傾げた。
「そうだわ、ハンカチに刺繍をしたらどうかしら。あなた上手だもの」
この世界で刺繍は令嬢のたしなみの一つとされているが、ロゼの腕前は普通の令嬢のそれよりもかなり上のものだった。
雫は手芸が趣味で、中でもフランス刺繍だけでなく日本刺繍にも手を出すくらい、刺繍が好きだった。
ひと針ひと針、無心になって刺す時間は普段漠然と抱いていた不安を忘れさせ、また少しずつ形になっていくのを見るのは楽しいものだった。
「あなたの瞳の色の糸を使って刺せば、きっと喜んでくれるわ」
「…はい」
どんな図柄にしようか。イニシャルと…何か絵柄もいれた方がいいだろうか。
ヴァイスを思い出しながら、ロゼは早速刺繍の事で頭がいっぱいになった。
106
あなたにおすすめの小説
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる