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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】
オーキス、直訴する
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○○○ オーキス視点
シャーロットと逸れてから30分、気配察知とマップマッピングスキルを活用させる事で、彼女の位置は大凡掴んだのだけど、魔物に追われているのか、同じ位置に留まっていない。僕の索敵範囲から外れたり、急に入ってきたりしている。
「オーキスさん、シャーロット様の位置は掴めましたか?」
ネルマも不安に思っているのか、声に張りがない。
「大凡の位置は掴めているけど、多分…彼女は魔物に追われている」
「魔物に!?」
一刻も早くシャーロットと合流したいけど、僕達が動くことで周辺にいる魔物達も、意外な行動を見せている。奴等は二手に分かれ、一方が僕達と対峙している間、もう一方が僕達から遠ざかるようシャーロットを追いかけている。
彼女も頑張って数体倒しているけど、マップ上の魔物達の赤い光が消えても、別の何処かで倒した分のマーカーがポツンと現れ、彼女の方へ向かっていく。同じ現象が、僕達にも起きている。
これじゃあ、堂々巡りだ。
いつかシャーロットの体力が尽きてしまい、魔物達に食べられてしまう。
「だったら、急いでシャーロット様のもとへ行きましょうよ!」
僕だってそうしたいよ!
ネルマに現状況を説明すると……
「そんな…それじゃあ、どうしたら…」
どうする?
このまま強行突破で、シャーロットのもとへ向かうか?
もしくは、彼女が僕達の気配を察知するまで……いや、それは無謀か。今の彼女の力だと、相当接近しない限り気づかないと思う。
くそ!
僕の中で、警笛が鳴っている!
時間の経過と共に、【危機察知】スキルとは違う何かが僕に叫んでいる。
こうなったら……禁じ手を使うしかない。
僕も《試験不合格》となるけど、シャーロットの命の方が大事だ!
【ハーゴンズパレスの主人・初代聖女シエラ・フェンデュラムに助けを求める!!!】
元々、僕とコウヤ先生は、転移直後にシエラ様から皆の挑む試験内容を聞いている。
シャーロット
欠点
最弱から最強までの道のりが短すぎる。本来、長い月日をかけて経験を積んでいき、死の危機を幾つも乗り越えた先で得られる至高の強さを、彼女は実質【数秒】で手に入れている。肉体的な面では《世界最強》だけど、あらゆる面で経験不足。今はいいが、成長した成人以降の性格に問題が生じる可能性がある。
試験内容
ハーゴンズパレスエリア内にて彼女を最弱状態に戻し、【警戒心・洞察力・観察力など】を向上させ、【混乱・孤独・悔恨】といった絶望を味合わせることで、弱者達の気持ちを改めて知ってもらい、彼女の心を成長させる。
フレヤ
欠点
彼女の場合、欠点は2年前の時点でほぼ消失したらしい。詳細を聞きたいと思い、シエラ様に問い詰めたけど、何故か教えてくれなかった。ただ、彼女の称号の【海女】だけは、ズルで入手したものらしい。
試験内容
【海女】の効果を身につけるには、時間が圧倒的に足りない。だから、彼女への課題は、海中の海産物を縦横無尽に採れるようになることだ。一見簡単そうに思えるけど、《潮の流れ》というものは複雑で、通常ではどの種族の者でも捉えられない。僕自身、親から海の怖さを聞いている。だからこそ、この課題もかなり過酷だ。
クロイス女王
欠点
5年間貧民街にいたことで、平民の気持ちを誰よりも深く理解しているものの、当の本人はドジっ子の影響で、料理・洗濯などを殆ど行なっていない。
試験内容
平民の気持ちを更に知ってもらうため、試験中自らの力で洗濯を行い、料理を作り、フレヤ達に振る舞う。普通の人から見れば、圧倒的に楽な課題だけど、ドジっ子の彼女にとっては、かなりの重労働らしい。
トキワさん(付き添い人として恋人のスミレさんも参加)
欠点
スミレさんの話題になると、視野が狭くなり、キレると何をするかわからない。
現実問題、それで1国を滅亡させている。
試験内容
塔の地下7階から地上に出るまでの間、階層内にある【コウヤメダル】を全て集めること。試験官であるコウヤ先生が常に2人を監視しているため、トキワさんがメダルを拾ったと同時に、先生がトキワさんの黒歴史を語り出す。彼が悪口などでキレて鬼人変化したら、その時点で失格となり、ステータスが本当にリセットされる。スミレさんはトキワさんと共に行動することで、彼の自制心を安定化させる役割を持つ。
僕:
欠点 勇者としての資質不足。
試験内容
7日以内に、遥か昔《難攻不落》と呼ばれていたこの塔を攻略すること。このままのペースだと、僕1人の力では瘴気王を倒せないらしい。僕が不甲斐ない場合、シャーロットは【とある秘策】で瘴気王に挑むと聞いたけど、シエラ様はその秘策について教えてくれなかった。僕としてはシャーロットに、そんなだらしない自分を見てほしくない。だから、強くなるため試験を受けた。
シャーロットの試験の詳細を知らないけど、自分の不甲斐なさにショックを受けることはあっても、死にかけるようなことは起こらないはずなんだ。
それが初日で死にかけるだって!
話が違う!
多分、残された時間も少ない。
やるしかない!
「シエラ様、僕達を見ているんでしょ! 姿を現してください!」
「オーキスさん、突然どうしたんですか!? まさか、シャーロット様と同じく幻惑を!?」
ネルマを混乱させることになるけど、緊急事態なのだから仕方ない。
「ネルマ、君は少し黙っていてくれ。そして、これから起こる出来事を静かに聞いているんだ」
「わ…わかりました」
すまない、時間がないんだ。
早くシエラ様を呼び出し、シャーロットの状況を聞き出したい。
「シエラさま! 見ているんだろ! 出てこい………シエラ!」
不敬と捉えられる発言だから、これで反応してくれるはず。
「全く、こっちは《塔後半部の改良》で大忙しなのに煩いわよ。年上の女性に向かって、呼び捨てはダメよ、オーキス」
映像越しだけど、やっと姿を見せてくれた。
見た目は18歳くらい見えるが、あれで3000歳を超えているのだから、少し怖い。
「それは謝罪しますが、シャーロットが危険なんです! 今すぐ、彼女を助けてください!」
「あなた…《その行為》が何を意味するのかわかっているの?」
「わかっていますよ! でも、俺の勘が正しければ、彼女は死の危険に陥っているはずです!」
「あなた達は塔の2階でしょう? 少し弄ったけど、死ぬ危険性は皆無のはずよ?」
いや、そんなはずはない。魔物達の本能を考えれば、単独行動を行えば死に繋がりやすい。僕はともかく、ネルマとシャーロットを1人にしてはいけない!
「現在、シャーロットが1人で行動しています! 魔物達の本能や習性を考慮すれば、十分危険です。至急、ベアトリスさんかルクスさんを向かわせて下さい!」
「ベアトリスもルクスも休憩中だから、今は誰も見ていないわね。といっても、目を離した30分程度の時間では何も起こらないと思うけど? ……あれ、嘘でしょ!? …一手変更しただけで、こんな事になりえるなんて!」
彼女の顔色に、動揺の色が見えるのは何故だ?
やはり、僅か30~40分の間に、シャーロットの身に何か起きたのか?
「シエラ様、シャーロットの映像を見ても構いませんか?」
「………」
何故、何も言わないんだ?
「……よかった。かなり危険な状態だけど、これなら助けられるわ」
え、危険な状態だって!?
まさか、大怪我を負ったんじゃあ!?
「映像をそちらに送るわ」
突然、周囲が明るくなり、シャーロットの映像が映し出される。
「え、シャーロット!」
「シャーロット様! まさか、死んでいるの!」
僕は、映し出された彼女に息を飲む。
彼女が仰向けで倒れ気絶しており、学生服もあちこち破れている。特に、右肩付近の傷跡が痛々しい。他は特に目立った外傷はないようだけど、いや……魔物に噛まれた右肩付近だけ肌の色が紫へと変色している!
そうか、毒にやられているから呼吸も浅いんだ!
「シエラ様…まさか彼女は毒に侵されているのでは?」
「ええ、弱毒性の毒に侵されているわね。浅い階層の魔物に噛まれた場合、10%の確率で毒を貰うのだけど、まさかたった1度の攻撃で……そうか……私は魔物の習性を見落としていたのね。これは、まずいわね」
いくら弱毒性の毒でも、シャーロットはずっと走り続けていた。
だから、毒のまわりも早いんだ。
人目見ただけで、緊急事態であることが窺える。
「シエラ様、急いでシャーロットを治療して下さい! このままだと死んでしまいます!」
今から向かっても、絶対に間に合わない。
「未来の情報を知ってしまったから、予定を変更して浅い階層で単独行動になるよう仕向けたのだけど、まさかたったそれだけの行為でこんな状態になるなんて。未来のシャーロットと私から注意を受けていたのに……ありえない失態だわ。【マックスヒール】」
彼女の身体が光り輝き、傷がみるみるうちに塞がっていく。酷く蒼ざめていた顔色も赤みを帯びてきた。完全に回復したけど、彼女は目覚めない。精神的な疲弊については、いかにマックスヒールでも治せない。とりあえず、このまま寝かせてあげよう。
「シエラ様、予定変更とはどういうことです?」
彼女も、酷く動揺している。
やはり、展望エリアで何か起きたのか?
「今日になって、あの未来の映像の中に、私だけ見られるような箇所を発見したのよ。このまま進めていくと、シャーロットに多大な精神的負荷が掛かりすぎてしまい、試験6日目の塔9階付近で倒れてしまう。その後、3年近く眠り続けるのだけど、彼女の精神的負荷は相当なものだったらしく、原因不明の病にも侵され歩行不可能となる。仲間と共に賢明にリハビリを続けていくことで、試験から約6年後に完全復帰すると聞かされたわ」
なんだよ、それ!?
彼女には、【状態異常無効化】スキルがある。
それにも関わらず、病に侵されるなんて!
今更になって、そんな事が発覚したのか!
「本来であれば、あのドラマ自体を本当に起きた出来事のように編集し、シャーロットとネルマに見せる予定だった。でも、未来の《シャーロット》と《私》が、それを中止するよう伝えてきたの。つまり、あのドラマがキッカケとなり、彼女の精神が徐々に蝕まれていき、病を誘発するのよ」
彼女の心を成長させるよう、精神を追い詰める予定だった。
けど、その行為をやり過ぎて病を誘発させたのか!?
「未来の人達は、彼女の精神的負荷を少しでも軽減させるため、《おまけ映像》を制作したのよ。私自身も許可を出し、急いで塔を改装させる予定だったのだけど……こんなことになるなんて」
最弱状態とはいえ、精神的な強さに関しては封印していない。だから、僕もコウヤ先生も、シャーロットの負荷のことまで深く考えなかった。ハーモニック大陸に転移されてもなお生き残った彼女ならば、詳細を知らされていないものの、シエラ様の用意した試験内容に耐えられると思ったんだ。
まさか、そこまでの負荷が襲い掛かるなんて。
くそ!
僕は最低だ!
《シャーロットは精神的にも強い女の子だ》と思い込んでいたばかりに、悲惨な事故を引きこそうとしていたのか! それに、ついさっきまで彼女は死にかけていたんだ!
好きな女の子を、こんな恐ろしい目に合わせるなんて!
くそ!
「シエラ様、シャーロットの試験を即刻中止してください! 彼女を展望エリアに転移させて、休養を与えてください!」
「私からもお願いします! 状況をイマイチ飲み込めませんけど、シャーロット様の状態が危険であることは一目でわかります!」
ネルマも、シャーロットの危機を感じ必死に懇願してくれている。
「やもえないわね。彼女の精神を成長させるどころか、壊すところだった。これは、私の責任よ。急いで転移させ、ルクスに看病してもらうわ。ただし、オーキスとネルマは、そのまま試験を続行すること」
「「え!?」」
シャーロットがあんな酷い状態なのに、僕とネルマだけ試験を受け続けるのか!
そんなの出来るわけないだろ!
「オーキス、あなたの使命は強くなり、瘴気王を仲間と共に討伐することよ。シャーロットが目覚めた後、私は謝罪してこれまでのことを全て話すわ。全ての事情を知ってくれれば、彼女はあなた達を責めないわ」
シャーロットの性格を考えると、僕達を責めることはない!
これは断言できる!
でも、僕とネルマの気持ちが重要なんだよ!
「オーキス、皆に話していないもう一つの目的のため試験を続けなさい。今の時点で話しても絶対に興醒めするだろうから言えないけど、あなたのためよ」
僕のため?
もう一つの目的というのは、僕に関連しているのか?
「……わかりました。シエラ様を信じ、試験を続行します。その代わり!」
「ええ、シャーロットを全力で看病し、あの未来と同じ事件を起こさせないことを誓うわ」
シャーロットが消えると、シエラ様の映像もすぐに消えた。
よかった……彼女の命をギリギリのところで守りきれた。
シャーロット、ごめん、ごめん。
こんな不甲斐ない者が、勇者だなんておかしいよな。
君がいなくなる直前、何らかの魔法の兆候を感じはしたんだ。
でも、それが何なのかわからなかった。
きちんと把握し対処していれば、君に大怪我を負わせることもなかった。
くそ! くそ! くそ!
全てにおいて強くなってやる!
絶対に強くなるぞ!
シャーロットと逸れてから30分、気配察知とマップマッピングスキルを活用させる事で、彼女の位置は大凡掴んだのだけど、魔物に追われているのか、同じ位置に留まっていない。僕の索敵範囲から外れたり、急に入ってきたりしている。
「オーキスさん、シャーロット様の位置は掴めましたか?」
ネルマも不安に思っているのか、声に張りがない。
「大凡の位置は掴めているけど、多分…彼女は魔物に追われている」
「魔物に!?」
一刻も早くシャーロットと合流したいけど、僕達が動くことで周辺にいる魔物達も、意外な行動を見せている。奴等は二手に分かれ、一方が僕達と対峙している間、もう一方が僕達から遠ざかるようシャーロットを追いかけている。
彼女も頑張って数体倒しているけど、マップ上の魔物達の赤い光が消えても、別の何処かで倒した分のマーカーがポツンと現れ、彼女の方へ向かっていく。同じ現象が、僕達にも起きている。
これじゃあ、堂々巡りだ。
いつかシャーロットの体力が尽きてしまい、魔物達に食べられてしまう。
「だったら、急いでシャーロット様のもとへ行きましょうよ!」
僕だってそうしたいよ!
ネルマに現状況を説明すると……
「そんな…それじゃあ、どうしたら…」
どうする?
このまま強行突破で、シャーロットのもとへ向かうか?
もしくは、彼女が僕達の気配を察知するまで……いや、それは無謀か。今の彼女の力だと、相当接近しない限り気づかないと思う。
くそ!
僕の中で、警笛が鳴っている!
時間の経過と共に、【危機察知】スキルとは違う何かが僕に叫んでいる。
こうなったら……禁じ手を使うしかない。
僕も《試験不合格》となるけど、シャーロットの命の方が大事だ!
【ハーゴンズパレスの主人・初代聖女シエラ・フェンデュラムに助けを求める!!!】
元々、僕とコウヤ先生は、転移直後にシエラ様から皆の挑む試験内容を聞いている。
シャーロット
欠点
最弱から最強までの道のりが短すぎる。本来、長い月日をかけて経験を積んでいき、死の危機を幾つも乗り越えた先で得られる至高の強さを、彼女は実質【数秒】で手に入れている。肉体的な面では《世界最強》だけど、あらゆる面で経験不足。今はいいが、成長した成人以降の性格に問題が生じる可能性がある。
試験内容
ハーゴンズパレスエリア内にて彼女を最弱状態に戻し、【警戒心・洞察力・観察力など】を向上させ、【混乱・孤独・悔恨】といった絶望を味合わせることで、弱者達の気持ちを改めて知ってもらい、彼女の心を成長させる。
フレヤ
欠点
彼女の場合、欠点は2年前の時点でほぼ消失したらしい。詳細を聞きたいと思い、シエラ様に問い詰めたけど、何故か教えてくれなかった。ただ、彼女の称号の【海女】だけは、ズルで入手したものらしい。
試験内容
【海女】の効果を身につけるには、時間が圧倒的に足りない。だから、彼女への課題は、海中の海産物を縦横無尽に採れるようになることだ。一見簡単そうに思えるけど、《潮の流れ》というものは複雑で、通常ではどの種族の者でも捉えられない。僕自身、親から海の怖さを聞いている。だからこそ、この課題もかなり過酷だ。
クロイス女王
欠点
5年間貧民街にいたことで、平民の気持ちを誰よりも深く理解しているものの、当の本人はドジっ子の影響で、料理・洗濯などを殆ど行なっていない。
試験内容
平民の気持ちを更に知ってもらうため、試験中自らの力で洗濯を行い、料理を作り、フレヤ達に振る舞う。普通の人から見れば、圧倒的に楽な課題だけど、ドジっ子の彼女にとっては、かなりの重労働らしい。
トキワさん(付き添い人として恋人のスミレさんも参加)
欠点
スミレさんの話題になると、視野が狭くなり、キレると何をするかわからない。
現実問題、それで1国を滅亡させている。
試験内容
塔の地下7階から地上に出るまでの間、階層内にある【コウヤメダル】を全て集めること。試験官であるコウヤ先生が常に2人を監視しているため、トキワさんがメダルを拾ったと同時に、先生がトキワさんの黒歴史を語り出す。彼が悪口などでキレて鬼人変化したら、その時点で失格となり、ステータスが本当にリセットされる。スミレさんはトキワさんと共に行動することで、彼の自制心を安定化させる役割を持つ。
僕:
欠点 勇者としての資質不足。
試験内容
7日以内に、遥か昔《難攻不落》と呼ばれていたこの塔を攻略すること。このままのペースだと、僕1人の力では瘴気王を倒せないらしい。僕が不甲斐ない場合、シャーロットは【とある秘策】で瘴気王に挑むと聞いたけど、シエラ様はその秘策について教えてくれなかった。僕としてはシャーロットに、そんなだらしない自分を見てほしくない。だから、強くなるため試験を受けた。
シャーロットの試験の詳細を知らないけど、自分の不甲斐なさにショックを受けることはあっても、死にかけるようなことは起こらないはずなんだ。
それが初日で死にかけるだって!
話が違う!
多分、残された時間も少ない。
やるしかない!
「シエラ様、僕達を見ているんでしょ! 姿を現してください!」
「オーキスさん、突然どうしたんですか!? まさか、シャーロット様と同じく幻惑を!?」
ネルマを混乱させることになるけど、緊急事態なのだから仕方ない。
「ネルマ、君は少し黙っていてくれ。そして、これから起こる出来事を静かに聞いているんだ」
「わ…わかりました」
すまない、時間がないんだ。
早くシエラ様を呼び出し、シャーロットの状況を聞き出したい。
「シエラさま! 見ているんだろ! 出てこい………シエラ!」
不敬と捉えられる発言だから、これで反応してくれるはず。
「全く、こっちは《塔後半部の改良》で大忙しなのに煩いわよ。年上の女性に向かって、呼び捨てはダメよ、オーキス」
映像越しだけど、やっと姿を見せてくれた。
見た目は18歳くらい見えるが、あれで3000歳を超えているのだから、少し怖い。
「それは謝罪しますが、シャーロットが危険なんです! 今すぐ、彼女を助けてください!」
「あなた…《その行為》が何を意味するのかわかっているの?」
「わかっていますよ! でも、俺の勘が正しければ、彼女は死の危険に陥っているはずです!」
「あなた達は塔の2階でしょう? 少し弄ったけど、死ぬ危険性は皆無のはずよ?」
いや、そんなはずはない。魔物達の本能を考えれば、単独行動を行えば死に繋がりやすい。僕はともかく、ネルマとシャーロットを1人にしてはいけない!
「現在、シャーロットが1人で行動しています! 魔物達の本能や習性を考慮すれば、十分危険です。至急、ベアトリスさんかルクスさんを向かわせて下さい!」
「ベアトリスもルクスも休憩中だから、今は誰も見ていないわね。といっても、目を離した30分程度の時間では何も起こらないと思うけど? ……あれ、嘘でしょ!? …一手変更しただけで、こんな事になりえるなんて!」
彼女の顔色に、動揺の色が見えるのは何故だ?
やはり、僅か30~40分の間に、シャーロットの身に何か起きたのか?
「シエラ様、シャーロットの映像を見ても構いませんか?」
「………」
何故、何も言わないんだ?
「……よかった。かなり危険な状態だけど、これなら助けられるわ」
え、危険な状態だって!?
まさか、大怪我を負ったんじゃあ!?
「映像をそちらに送るわ」
突然、周囲が明るくなり、シャーロットの映像が映し出される。
「え、シャーロット!」
「シャーロット様! まさか、死んでいるの!」
僕は、映し出された彼女に息を飲む。
彼女が仰向けで倒れ気絶しており、学生服もあちこち破れている。特に、右肩付近の傷跡が痛々しい。他は特に目立った外傷はないようだけど、いや……魔物に噛まれた右肩付近だけ肌の色が紫へと変色している!
そうか、毒にやられているから呼吸も浅いんだ!
「シエラ様…まさか彼女は毒に侵されているのでは?」
「ええ、弱毒性の毒に侵されているわね。浅い階層の魔物に噛まれた場合、10%の確率で毒を貰うのだけど、まさかたった1度の攻撃で……そうか……私は魔物の習性を見落としていたのね。これは、まずいわね」
いくら弱毒性の毒でも、シャーロットはずっと走り続けていた。
だから、毒のまわりも早いんだ。
人目見ただけで、緊急事態であることが窺える。
「シエラ様、急いでシャーロットを治療して下さい! このままだと死んでしまいます!」
今から向かっても、絶対に間に合わない。
「未来の情報を知ってしまったから、予定を変更して浅い階層で単独行動になるよう仕向けたのだけど、まさかたったそれだけの行為でこんな状態になるなんて。未来のシャーロットと私から注意を受けていたのに……ありえない失態だわ。【マックスヒール】」
彼女の身体が光り輝き、傷がみるみるうちに塞がっていく。酷く蒼ざめていた顔色も赤みを帯びてきた。完全に回復したけど、彼女は目覚めない。精神的な疲弊については、いかにマックスヒールでも治せない。とりあえず、このまま寝かせてあげよう。
「シエラ様、予定変更とはどういうことです?」
彼女も、酷く動揺している。
やはり、展望エリアで何か起きたのか?
「今日になって、あの未来の映像の中に、私だけ見られるような箇所を発見したのよ。このまま進めていくと、シャーロットに多大な精神的負荷が掛かりすぎてしまい、試験6日目の塔9階付近で倒れてしまう。その後、3年近く眠り続けるのだけど、彼女の精神的負荷は相当なものだったらしく、原因不明の病にも侵され歩行不可能となる。仲間と共に賢明にリハビリを続けていくことで、試験から約6年後に完全復帰すると聞かされたわ」
なんだよ、それ!?
彼女には、【状態異常無効化】スキルがある。
それにも関わらず、病に侵されるなんて!
今更になって、そんな事が発覚したのか!
「本来であれば、あのドラマ自体を本当に起きた出来事のように編集し、シャーロットとネルマに見せる予定だった。でも、未来の《シャーロット》と《私》が、それを中止するよう伝えてきたの。つまり、あのドラマがキッカケとなり、彼女の精神が徐々に蝕まれていき、病を誘発するのよ」
彼女の心を成長させるよう、精神を追い詰める予定だった。
けど、その行為をやり過ぎて病を誘発させたのか!?
「未来の人達は、彼女の精神的負荷を少しでも軽減させるため、《おまけ映像》を制作したのよ。私自身も許可を出し、急いで塔を改装させる予定だったのだけど……こんなことになるなんて」
最弱状態とはいえ、精神的な強さに関しては封印していない。だから、僕もコウヤ先生も、シャーロットの負荷のことまで深く考えなかった。ハーモニック大陸に転移されてもなお生き残った彼女ならば、詳細を知らされていないものの、シエラ様の用意した試験内容に耐えられると思ったんだ。
まさか、そこまでの負荷が襲い掛かるなんて。
くそ!
僕は最低だ!
《シャーロットは精神的にも強い女の子だ》と思い込んでいたばかりに、悲惨な事故を引きこそうとしていたのか! それに、ついさっきまで彼女は死にかけていたんだ!
好きな女の子を、こんな恐ろしい目に合わせるなんて!
くそ!
「シエラ様、シャーロットの試験を即刻中止してください! 彼女を展望エリアに転移させて、休養を与えてください!」
「私からもお願いします! 状況をイマイチ飲み込めませんけど、シャーロット様の状態が危険であることは一目でわかります!」
ネルマも、シャーロットの危機を感じ必死に懇願してくれている。
「やもえないわね。彼女の精神を成長させるどころか、壊すところだった。これは、私の責任よ。急いで転移させ、ルクスに看病してもらうわ。ただし、オーキスとネルマは、そのまま試験を続行すること」
「「え!?」」
シャーロットがあんな酷い状態なのに、僕とネルマだけ試験を受け続けるのか!
そんなの出来るわけないだろ!
「オーキス、あなたの使命は強くなり、瘴気王を仲間と共に討伐することよ。シャーロットが目覚めた後、私は謝罪してこれまでのことを全て話すわ。全ての事情を知ってくれれば、彼女はあなた達を責めないわ」
シャーロットの性格を考えると、僕達を責めることはない!
これは断言できる!
でも、僕とネルマの気持ちが重要なんだよ!
「オーキス、皆に話していないもう一つの目的のため試験を続けなさい。今の時点で話しても絶対に興醒めするだろうから言えないけど、あなたのためよ」
僕のため?
もう一つの目的というのは、僕に関連しているのか?
「……わかりました。シエラ様を信じ、試験を続行します。その代わり!」
「ええ、シャーロットを全力で看病し、あの未来と同じ事件を起こさせないことを誓うわ」
シャーロットが消えると、シエラ様の映像もすぐに消えた。
よかった……彼女の命をギリギリのところで守りきれた。
シャーロット、ごめん、ごめん。
こんな不甲斐ない者が、勇者だなんておかしいよな。
君がいなくなる直前、何らかの魔法の兆候を感じはしたんだ。
でも、それが何なのかわからなかった。
きちんと把握し対処していれば、君に大怪我を負わせることもなかった。
くそ! くそ! くそ!
全てにおいて強くなってやる!
絶対に強くなるぞ!
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