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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

《シャーロットの逃亡》と《オーキスの奮起》

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オーキスとゴブリンが入れ替わった?
ネルマの声も聞こえないから、彼女も魔物と入れ替わったんだ!
いつ?

このフロアに入った瞬間、風が正面から吹いてきた。まさか、光が消えた後の闇の中で、位置が入れ替わる魔法を使用されたの?

「キキキキキ」「けけけけけっけ」「ゴゴゴゴゴゴゴ」

フロアのあちこちから魔物の声が聞こえる!

オーキス達のいない状況下だと、1対1なら私も《戦う》を選択するけど、いくらなんでも多勢に無勢だよ。逃げないと、確実に殺される。
私の身体から、冷や汗が溢れ出てくる。

「離して!」

私の大声に驚いたのか、私の右手を掴む力が緩んだ。
逃げるなら、今しかない!

私は脱兎の如く元来た道を戻ろうとしたのだけど、周囲が真っ暗のため、何処をどう走ればいいのかわからない。とにかく、まずは壁を見つけよう。壁伝いに歩いていけば、セーフティーエリアに到着出来るかもしれない。

オーキスとネルマが私の気配を辿れるから、それまで1人で耐えるしかない。
真っ暗闇の中、私は闇雲に走る。

「痛い!」

走って10秒も経たないうちに、ぶ厚い何かにぶつかった。頭がクラクラするけど、今は逃げることが先決だ。多分壁だろうから、ここからは左手を壁につけて早歩きで行こう!


……おかしい。


周囲から唸り声ばかり聞こえてくるけど、肝心の魔物達が襲ってこない。
でも、周囲の空気が、どんどん重くなっている気がする。

まずい…何か起こる?

「怖い…何も見えない。聞こえてくるのは、魔物の唸り声だけ…オーキス、ネルマ、早く私を見つけて」

心臓がドキドキする。
身体が重い。
魔物がいつ襲ってくるのかがわからない分、気を抜けない。

ハーモニック大陸の冒険でも、ここまで精神的に追い詰められたことなんてないよ。【状態異常無効化】スキルの影響で、今まではこういった情緒不安定に至った場合でもすぐに落ち着きを取り戻していた。でも、待てども待てども精神が安定しない。考えれば考える程、不安定さだけが増していく。

暗い…怖い…助けて…助けて!

「ガウガウガウ!」
「ひ!?」

突然、犬のような鳴き声が聞こえてきた!
それも近い!

「え、きゃああ~!!!」

いきなり、押し倒された!
この感じ、四足歩行の魔物!

「がああああーーーーー」
こいつ、私に噛みつこうとしている!?
本能的に、両手が魔物の顔を掴む。

これは…骨?
1階と同じくスカル系の魔物だ!

落ち着け、焦るな。
魔物やスキルを使えなくても、アレが使えるじゃないか!

「負けない!」

スキルや魔法を封印されていても、身体が10歳児の子供であっても、属性攻撃はできる! 身体の魔力を両手に集め、光属性を纏わせ殴りつけるんだ!

「ギャン!?」

よし、上手くいった!
短剣を鞘から抜いて臨戦態勢をとる!
スカル系の弱点は【光】、全身に光を纏わせる!

いる…多分…2体くらいかな?

神経が研ぎ澄まされているせいもあって、魔物の気配を掴める。さっきの手応え、多分Fランクの魔物だ。

「イッターーーーーー」
急に、右肩に激痛が走る!
く、前方ばかり気にしていたせいで、後方を疎かにしていた。

「ぐううううううーーーー」
「かは!」

牙が、どんどん食い込んでいく!
痛い…痛い。

「これでもくらえ!」
「ギャ!?」

よし、手応えあり!
短剣で顔面付近を刺した!

まずい…やっぱり私1人じゃ対応できない。
こうなったら、奥の手を使う!
こういう時こそ、気合を相手に見せるんだ!

相手に殺意を見せろ!
相手を威圧しろ!
佇まいだけで、《こいつ、何かやるな!》と思わせるんだ!

……いまだ!

《パアアアーーーーーーーーーーン》

私は全身全霊の力を込めて、光属性付きの柏手を打った!
弱点付きの音響攻撃、これなら敵も動揺する。

さっき属性攻撃を仕掛けてわかったけど、身体に光属性を纏わせることで、ほんの少し周囲が明るくなることもわかった。

これを利用して、逃走だ!
こんな奴らといちいち戦うだけ、体力の無駄遣いだ!

走れ…走れ!
逃げろ…逃げろ…逃げるんだ!
オーキス達が私を探し当てるまで逃げ続けてやる!


「オーキス、ネルマ……私を早く……見つけて」


後方から追ってくる魔物達の追撃を回避すべく、私は逃げ続ける選択肢を選ぶ!


○○○ オーキス視点


シャーロット、何処に行ったんだ?

広いフロアに到達した瞬間、風が正面から吹いてきた。あれから、シャーロットの様子が激変したんだ。顔色が急に悪くなり、僕やネルマを見て酷く驚いていた。その後、急に叫ぶものだから、つい繋いでいた手を緩めてしまい、彼女はそのまま逃走した。

あれから彼女を捜索しているけど、気配を全く辿れない。
どういうことだ?

「オーキスさん、シャーロット様は何故逃げたのですか? 逃げる直前、私達のことを化物を見るかのような目をしていました」

ネルマは、周囲の状況をよく見ている。
シャーロットだけがおかしくなった原因、それは簡単だ。

「幻惑魔法だよ」
「幻惑!? でも、シャーロット様はハーモニック大陸でそういった魔法を経験していますよね?」

ネルマは、シャーロットからハーモニック大陸へ転移された内容を聞いているのか。行動を共にする以上、親近感を持たせるために話したのかもな。会って間もないけど、彼女からは《無邪気さ》を強く感じる。

「経験しているからといって、【幻惑】そのものが効かないというわけじゃない。複数の人間を幻惑で惑わすのなら、周囲を幻惑で変化させればいい。個人だけを惑わすのなら、周囲にいる仲間達を幻惑で変化させ、魔物の声などで混乱させればいい。幻惑の使用方法も、多種多様なのさ」

ネルマにとっては全て初めての経験となるから、幻惑をかけられると惑わされるかもな。現に、彼女は《私も幻惑をかけて欲しい!》と目を輝かせている。彼女自身が、まだ恐怖を経験していないから、そんな反応が出来るんだ。

僕自身、騎士団とダンジョンで何度も訓練を行い、予期せぬトラップを経験し《死の恐怖》を覚えるまでは、彼女と似た反応だった。

「シャーロット様ばかり、災難が続いて可哀想です。初日は毒を盛られ死ぬ寸前まで追い詰められたし、その後はシャンデリアのトラップ、未来の映像だってシャーロット様を犯人とした悲惨な事件を作るし、その後のおまけ映像が面白かっ………」

「ちょっと待て!」

今、彼女は何と言った!?
初日に死にかけただって!?
何のことだ?

シャーロットに与えられる試験については、あの人からある程度聞いているけど、初日に関しては驚かせる程度のはずだ。

まして、彼女は【僕】と【シャーロット】を強くさせるために、ここへ転移させたんだ。
殺すつもりなんか、初めからないぞ!

「ネルマ、僕と出会うまでの工程を聞かせてくれないか?」
「え…構いませんけど?」

僕はシャーロットを捜索しながら、ネルマから《毒殺未遂事件》、《バックントラップ》、《とある未来で起こる聖女代理殺人事件》《その後のおまけ映像》について聞いた。未来の映像については、内容自体知らなかったから正直驚いた。

僕がシャーロットの婚約者なんだから!

多分、瘴気王討伐の功績が大きいのだろう。
僕としては、自分自身の力で彼女の心を振り向かせたい!
その話よりも、今は初日の毒殺未遂の件だ!
あれは、ルクスさんが微量の毒を混入させて、軽く脅す予定だったはずだ!
彼女に強い警戒心を思い出させるため、軽く苦しめると聞いている。

『試験中、死ぬかもしれない』
『失敗すれば、ステータスがリセットされる』

あの人の力や経歴を聞いた限り、ハーゴンズパレス内にいればこの2つを実行可能だろう。でも、それらを実行に移せない理由が存在する。そんな大それた事をすれば、神ガーランドやミスラテル様の逆鱗に触れてしまうのだから。

試験者1人1人は過酷かもしれないけど、かなり配慮した内容と気配りがあるからこそ、《僕》と《コウヤ先生》は全てを知った上で試験のことを承諾したんだ。

「あいつ、何を考えているんだ! 話と違うじゃないか!」
「あいつ? 話? どういう意味ですか?」


いけない!
今の時点でネルマに知られると余計に拗れてしまう!

展望エリアで、何か起きているのか?
このままだと、シャーロットの命が本当に危険かもしれない。

最悪、禁じ手でもある《あの手》を使ってシャーロットを救うべきか?
アレを使えば、僕も……

考えろ…考えるんだ!


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