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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

《恐怖》との戦い

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【全ての転換点に於いて、《勇者》と《聖女》が必ず介入している】

勇者の称号は、1人にしか与えられない。
聖女の称号は、各大陸に1人ずつ与えられる。

《鬼人族vs神ガーランド》においては、2人は鬼人族側にいたと思われる。
神との戦いを、何故回避できなかったのかが疑問だ。

《鬼人族vs妖魔族》、《200年前の戦争》では、どちら側にいたのかはわからないけど、勝者側にいたと考えるのが妥当かな。

遺跡の主人は女性ということを考慮すると、《聖女》なのだろうか?

でも、ランダルキア大陸の聖女はズフィールド国の女王だから、ここにいるはずがない。ハーモニック大陸の聖女は、バードピア王国にいるはずだから、これだけでは正体を掴みきれないね。

「ほえ~、こんな歴史があったんですね~。シャーロット様が帰還したこともあって、200年前の戦争に関しては私も多少知っていますけど、1000年前や3000年前の歴史なんて初耳です。神に戦いを挑むお馬鹿な一族、人類はこいつらのせいで、絶滅の危機に瀕していたんですね」

「ネルマ、魔人族達が再び差別されかねないから、他の人に言ってはダメだよ」

1階の石碑でこの内容なら、階が上がる程、遺跡の主人の正体に繋がるものが刻まれているはず。気掛かりなのは、魔物の強さだよね。今すぐ2階へ上がることも可能だけど、この塔のシステムを完全に理解していない状態で上るのは危険だよね。

「オーキス、あなたはこの塔のシステムを何処まで知っているの?」

現在のオーキスの装備はロングソードと小さなラウンドシールドとなっており、私達と同じように散策して装備品を入手したのなら私達以上に塔内のシステムを理解しているはず。

「基本的なことは、昨日の段階でほぼわかったよ。僕は塔の1階に転移された直後、ベアトリスさんと出会い、そこで試験のことも聞いた。僕自身、彼女と謁見したいから、勿論受けることにしたよ」

あれ?
オーキスは遺跡の主人と出会っていないのだから、性別すらも知らないはず?
まるで、1度会っているかのような言い方だ。

「探索前、僕はベアトリスさんと模擬戦を行った。その後、多くの魔物達と戦いながら1階の探索を続けたのだけど、途中で彼女から《待った》の合図がかかった。何事かと思い少し戸惑ったけど、彼女は僕自身気づいていない《欠点》を数多く指摘してくれた。彼女のおかげもあって、僕はまた1つ強くなれたよ」

爽やかな笑みで答えてくれるけど、ベアトリスさんはオーキスに甘くない?
私の場合、いきなり毒殺されかけたし、欠点なんかも直接的に教えてくれなかった。

この対応の違いは、何だろうか?

「あ…ごめん…話が逸れたね。肝心の塔内のシステムについては、【自分で動いて知っていきなさい!】と最初に言われているんだ。途中で《欠点の件》もあり中断したけど、僕は実質1人で塔1階を探索し続けた。そして昨日と今日の探索で、僕は、この塔の基本システムについて大まかだけど把握出来たよ」

オーキスの探索で判明した塔の基本システム

1) 階層内にいる魔物を全滅させることはできない。魔物を倒したとしても、倒した分何処かで新たな魔物が生まれる。
2) 階層内のセーフティーエリアは2つあり、場所は階層の入口と出口である。
3) 塔内の食事は、《床に落ちているもの》か《宝箱内にあるもの》から摂取しないといけない。これは、武器防具類にも適用される。
4) 1階で拾える料理は、軽食ばかり。
5) 料理の出現場所はランダムで、放置されている個数も決まっていない。

入口と出口が【セーフティーエリア】というのは、嬉しい誤算だ。
ここなら魔物を警戒せず、休息をとれる。

「オーキスさん、それだと料理や飲み物に関してはこの階で拾い集めた方が良いですよね?」

「ああ、ネルマの言う通りだね。僕としては今日1日をフル活用して、1階で数日保管可能な料理を確保すべきだと思う」

それがベストかな。今日1日を犠牲にするけど、階が上がるごとに緊張感も増していくから、料理を拾う余裕も出てこなくなる。


3人で話し合った結果、私達は2階へと上がるフロアを拠点に、料理を集めることに専念する。本来なら3人別々で集めていく方が効率的だけど、私のステータスは封印されているし、ネルマも初めての冒険となる。ここはオーキスにリーダーとなってもらい、スリーマンセルで行動を共にし料理を拾い集めていくのが得策だよね。


その結果、《フランスパン》《クロワッサン》《アンパン》といったパン類、《タリネギリ》《ヤキタリネギリ》《カレータリネギリ》《カレーライス》といったライス類や、数種類の果物を拾えたのだけど、夕食のメインとなるステーキなどの料理を拾うことは出来なかった。


それでも軽食を見つけられたのだから、私達は不満を口にすることなく、軽食だけでお腹を満たし、やや物足りないものの体力回復のため早めに就寝することとなった。


○○○


試験3日目、私達は塔2階へと辿り着く。
その瞬間、1階への階段が閉ざされていく。

「これは…」
「なに…これ…暗い! 1階と全然違いますよ!」
「シャーロット、ネルマ! 僕から離れるなよ!」

1階全てが何の変哲もない普通のフロアだったけど、2階は黒1色の壁に覆われている。1階への通路が少しずつ閉じられていく度に、光量も少なくなっていく。そして完全に封鎖されると、周囲は闇に覆われ、ネルマとオーキスの姿も見えなくなった。

……完全なる闇だ。

以前なら、スキル【暗視】【気配察知】【魔力感知】などもあったため、何も恐れることはなかった。ナルカトナではスキルを完全封印されていても、身体自体に備わる足技スキルとかは使えたけど、今の私では10歳児のステータスということもあって、そういったものも作用されない。


こうなってくると、【第六感】という超感覚だけで魔物の気配や周囲の構造を探るしかない。塔1階での戦闘経験で、自分を中心とする狭い範囲でなら、魔物の気配も探れるし、強さや位置も大凡把握できる。多分、半径5mが限界だろう。

でも、【暗闇の怖さ】だけはどうしようもない!
暗いだけで、身体の奥底から果てしない寒気を感じてしまう。

これは……【恐怖】だ。

5歳の時、ガーランド様から祝福を受け、その帰りに起きたワイバーン戦を思い出す。あの時は最弱だったから、私は構造解析と構造編集で奴を弱体化させ、騎士の人達が討伐してくれた。

転生以降、あの経験こそが初めての【恐怖】だった。

次に恐怖し死を予感させたのは、ケルビウム山上空12000mからのスカイダビング、ただ事前に話を聞いていたこともあり、恐怖を感じたのは一瞬で、すぐ生き残るための模索に専念する。

ナルカトナ遺跡攻略の終盤、橋が崩れていき、私もろともマグマへと落下した瞬間、死を感じとった。ただ、あれもスキルに助けられたことで、一瞬の出来事で終わる。

そして今回、頼りになるのはオーキスとネルマのみ。
単独行動を起こしたら、私の心は恐怖に侵されるだろう。

「シャーロット、大丈夫?」
オーキスの声?

「だ…大丈夫」

そうだ、今の私は最弱だけど、仲間がいるんだ。
2人を不安にさせないためにも、しっかりしなくては!
《恐怖》に心を支配されてはいけない。

「暗いですね~。こんな状態でも冒険しないといけないんですね。でも、感覚的に周囲に何があるかわかります。とりあえず、覚えたての【トーチ】を使用します…トーチ!」

怖!?
彼女の顔だけが、ほんのりぼんやりと闇に現れた!

「ネルマ、もっと光量を強めて。それじゃあ、余計に怖いから」
「シャーロットの言う通りだ。僕もトーチを使うから、周囲5mを明るくしよう」

オーキスも加わったことで、周辺も明るくなったのだけど、フロア全体が黒1色ということもあり、薄気味悪さに関しては余計に酷くなった気がする。

「明るくしても、黒ばかりでどの方向が通路なのかわかりにくいな。……なるほど、こういった構造なのか。ネルマ、僕には騎士団やシャーロットから教わった【暗視】と【マップマッピング】というスキルがある」

「【暗視】なら知っていますけど、【マップマッピング】というスキルは初耳です。どんな効果なのですか?」

「詳しいことは省くけど、自分を中心とする周辺の地図をステータス上に表示させることができるんだ」

効果を聞いた途端、ネルマの表情がパアと明るくなり、目の輝きがどんどん増していく。

「超便利スキル! 私も欲しい!」

オーキスもネルマも、この状況を怖くないのだろうか?
質問したいところだけど、2人をかえって不安にさせてしまう。

「シャーロットはステータスを封印されているから、1度でも逸れると2度と会えないかもしれない。僕と……手を繋いで進もう」

「え?」

別にネルマとでもいいような?
彼女を見ると、何故かニヤニヤして私達を見ている。

「(さすが、未来の婚約者様は積極的! この冒険で何処まで進むかな?)」

ネルマめ、あなたのニヤケ顔だけで何を考えているのか想像つくよ。かくいう私自身も未来の映像を見た所為もあって、オーキスの発言にドキッとしてしまう。

「う…うん、わかったわ」
やっぱり、ちょっと緊張しているかな。

「(よし!)」
オーキスが何か呟いたような気もするけど、私達は手を繋いで先に進む。

……不思議な気分。

オーキスと手を繋いでくれているからか、私の身体から怖さも無くなっていく。こんな行為だけで、人に安心感を与えるものなんだね。今まで、こんな感覚を味わったことがないよ。私自身も、彼のことを心から信頼しているんだ。


○○○


あれからどのくらいの時間が過ぎたのだろう?

暗闇の中通路を進んでいるけど、魔物の唸り声こそ聞こえるけど全然襲ってこないし、アイテムも周囲に落ちていない。この階自体に、何か罠を仕掛けているのかと思い、全員が慎重に歩を進めているけど、何も起きない。

「少し止まるよ。この先に、大きなフロアがある。何か仕掛けるとすれば、ここだと思う。シャーロットもネルマも気を引き締めてね」

私達は、静かに頷く。再び歩を進めると、不意に風が正面から吹いてきた。
その瞬間、魔法【トーチ】の明かりが消え、周囲が真っ暗となる。

「風!? 魔物が正面にいるの!?」

何故か、オーキスもネルマも喋らない。

「2人とも、何か喋ってよ」
「キキキキキ」
「キャスウススススス」

魔物の声!?

「オーキス! 魔物が近くにいるわ!」
「キキキキキ」
「キャス」

また、この声!
あ、周囲が少し明るくなった!

「オーキス、魔物が…」

え、私はついさっきまでオーキスと手を繋いでいたはず?
何故……ゴブリンと手を繋いでいるの?

「キキキキキキキキキキキキキキ、ギグワワワワワワ!!!」

低い威圧感のある声を聞いた瞬間、私の心は恐怖に染まる。
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