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最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】
試験の顛末
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○○○ シャーロット視点
暖かい。
身体がポカポカする。
「シャーロット…シャーロット」
誰かが、私を呼んでいる。
聞いたことのある声だ。
目を開けると、ミスラテル様が私の目の前にいた。
「ミスラテル様…ここは…」
全体が白い空間で覆われている。
いつも夢の中で呼ばれている場所だけど、何処か暖かい。
「よかった。ギリギリ、間に合ったようね」
間に合った?
どういう意味だろう?
「あなたは暗闇の中、多数の魔物に襲われ毒に侵された。魔物の追撃から逃れようと走り回ったことで、弱毒性の毒の浸潤速度が速くなり、身体全体を侵してしまったのよ。もう少し遅ければ、後遺症が残っていたでしょうね。【マックスヒール】の力でも、神経などの治療は術者次第で完全に治せない場合もあるのよ」
そうだ!
私が単独行動を起こした途端、魔物達が襲いかかってきたんだ。
そうか、私は毒に侵されていたんだ。
逃走するのに必死で、全く気づかなかった。
てっきり体力が尽きてしまい、倒れたとばかり思っていた。
「オーキスがあなたを助けたのよ」
オーキスが、死にかけている私を助けてくれたんだ!
あの状況下から、私を見つけ出せたんだね。
凄い…彼は頼もしい存在になりつつある。
「シャーロット、まずは心を落ち着かせましょう。順を追って説明します」
ミスラテル様に言われ、今の自分を再確認すると、まだ頭がボーッとしている。
ふ~、深呼吸、深呼吸だ。
「……大丈夫です。御説明をお願いします」
まずは、ミスラテル様が遺跡の主人と結託しているのかを問いたい。
「今回、私は一切関与していません。あなたが学園からハーゴンズパレスへ強制転移された瞬間、私はあなたを認識できなくなりました。正確に言えば、転移された12名を完全に見失ってしまったのです」
あの女は、神の目を欺けることも可能なの!?
「詳しくは、あなたを転移させた張本人に聞けばいいでしょう。私もついさっき聞いたばかりなので、非常に驚いています。一言で言うのなら、あのハーゴンズパレス遺跡のシステムや彼女自体が、ガーランドの残した【負の遺産】なのです」
遺跡のシステム自体や【あの女性】が負の遺産!?
あの人も、オトギさんと同じように何かされたのだろうか?
「今回、あなたは暗闇の中、最弱状態で複数の魔物に囲まれ襲われた。毒に侵された状態のまま必死に逃げ回ったことで、精神も限界以上に蝕まれたはず。もしかしたら、魂に歪みが生じているかもと思い、精神体をここへ呼び寄せました」
あの時、私は極限状態だった。暗闇、群がる魔物達、いつになったら解放されるのかわからない《不安》と《焦燥》、普段の私では絶対に体験できない出来事だ。
「幸い、オーキスの的確な判断のおかげもあり、魂も少し磨耗した程度で済みました。たとえ神であっても、魂の破損をすぐには治せません。破損していた場合、最低でも1年間、あなたは眠り続けることになる。身体を動かさない以上、ステータスも大幅に減衰します」
当然か、地球でも寝たきり状態が何年も続いてしまうと、子供の頃から鍛え続けてきた身体だって衰えてしまう。
目覚めたら、オーキスに御礼を言わないといけない。
彼が動かなければ、私は毒で死んでいたと思う。
彼は、私の【命の恩人】だ。
「シャーロット、《遺跡の主人》はあなたの味方です。私が保証しましょう。元々、彼女もあなたを死なせるつもりなどなかったのです」
保証すると言われても、私だけ散々な目に遭わされたのですが?
言い分次第では力を回復させた後、遺跡の主人だけでなく試験官達にもお仕置きを執行させたい。
「あなたの気持ちもわかりますが、彼女なりの理由があるのです。全ては、彼女から直接聞きなさい。聞いてもなお納得できないのなら、その時点で私があなたの力を解放させます」
ミスラテル様がそこまで言うとは……どんな理由が秘められているのだろうか?
「システム上、私が数秒程で世界最強になってしまったから、再び弱者にさせることで多くの経験を積ませようとしていた……という理由だけだったら、即座にお仕置きを執行しますからね」
私だって、これだけ酷い目に遭わせられたら、どうして弱体化させたのかくらいわかるよ。
でもね、これはやり過ぎだよ!
現に、オーキスがいなければ、私は確実に死んでいた!
ここまで酷い仕打ちを受けてきたのだから、そんな理由だけで私達を転移させたのなら、絶対に許せない。相手が神だろうがなんだろうが、絶対にお仕置きしてやる。
「………」
何故、黙るの!?
「一応、それも理由の1つです」
理由の1つ?
「今回の強制転移の件、発端はシャーロット、あなたです。アストレカ大陸へ帰還した後、国王達に話した内容、これこそが【発端】なのです」
国王陛下に話した内容の中に、原因があるの?
別段、おかしなことを言ってないけど?
「私が話せるのはここまで。残りは、本人に聞きなさい」
・私を弱体化させ、様々な経験を積ませること
・強制転移の発端は、2年前の私の発言にあること
明確な理由を知りたい。
ミスラテル様も納得しているのなら、それ相応の理由があるはずだ。
彼女の口から、全てを直接聞く。
「わかりました。目覚めた後、試験を再開して彼女との謁見を実現させてみせます!」
と言ったものの、正直言って………怖い。
私達の現在位置は塔2階、まだまだ序盤なんだよね。
今でも、あの時の光景が思い浮かんで、手足が震えてしまう。
きちんと冒険できるだろうか?
2人の足手まといにならないだろうか?
せめて、今のオーキスと同じくらいの力が欲しい。
このまま最弱状態で進むのは、またあの時のように……
「シャーロット、安心して。試験なら……もう終了しています」
え?
ミスラテル様は慈愛を込めた満面な笑みで、今なんと言った?
「魂が少し磨耗していたと言いましたよね?」
「はい、言いましたね」
何が言いたいのですか?
「あなたが倒れてから、丁度5日経過しています。既に試験も終了しており、結果も出ています」
は?
え…もう終わっているの?
嘘でしょ?
「あなた以外、全員合格です。ネルマ、フレヤ、オーキス、クロイス、トキワ、皆立派に目的を成し遂げ、強くなりましたよ」
え?
「私は?」
「《リタイヤ》ということで、不合格となりました」
えーーーー私だけが不合格!?
そんな~~~~こんな終わり方ってありなの~~~~!!!
「ただし、彼女との謁見は可能です。今回、あなたに課せられたハンデが、あまりにも厳しすぎました。仲間がいるとはいえ、地球の10歳児の力で塔の攻略は至難の技です。もっと言えば、あなたは全く悪くありません。あの女性があなたの精神を過大評価していたからこそ、今の事態に陥ったのだから」
過大評価って……
「そのお詫びとして、謁見は可能と?」
「はい」
……嬉しくない、嬉しくないよ。
私だけ不合格で謁見って、全然嬉しくないよ。
まさか、こんな不甲斐ない結果に終わるとは……なんか叫びたい気分になってきた。
「気持ちを切り替えましょう。今回の試験で、あの女性が何を言いたいのか、あなたは既にその一部を理解しています。私からすれば、【合格】に値しますよ」
ミラテル様が、優しく微笑んでくれた。
相変わらず、綺麗な女神様だよ。
ありがとうございます。
心が、少し軽くなりました。
「もう大丈夫そうね。シャーロット、あの子もガーランドの被害者よ。きちんと話し合いなさい」
白い暖かな光が、私を優しく包み込む。あの女性も、ガーランド様の被害者……それが何を意味するのか、心を落ち着かせて話を聞こう。
○○○
身体が、暖かい何かに覆われている。
薄らと目を開けると、目に飛び込んできたのは優しげに微笑むガーランド様と、彼と戯れる精霊様達だった。
《え?》と思い身を起こすと、私は天蓋付きのベッドにいて、さっき見たものは天蓋に描かれている絵であることをすぐに理解する。
「ここは……どこ?」
「どうやら、魂の磨耗も神により修復されたようだな」
聞き覚えのある声が聞こえるのだけど、姿が見えない。
「ここだ、視点をもう少し上にしろ」
視点を上?
言われた通り、少し上を向くと、直径30cmほどの水晶玉が悠然と空中に漂っている。
「あなたは?」
この声、転移される直前に聞いた音声と似ている。
「私はハーゴンズパレス遺跡のダンジョンコア、名はなかったが、シエラによって【コラムズ】と名付けられた」
ダンジョンコア!?
実物を見たことがなかったけど、水晶玉のような綺麗な球形なんだね。
ところで、シエラって誰?
あの女性のことかな?
「この度はすまなかった。12名を転移させたものの、シャーロットへのハンデだけが大きすぎた。シャーロットを塔2階の序盤で単独行動させたが、我々は急な計画変更もあって重要なことを見落としていたのだ」
コラムズというダンジョンコア、喋る時だけ小さく光が灯るのね。水晶玉のせいか、姿形からは誠意のある謝罪かわからないけど、声質から反省している…ような気もするけど、イマイチ信用できない。
「見落とし…ね。それは何ですか?」
「【魔物の習性】だ。弱くやや賢しいスカル動物系の魔物達はダンジョン内であっても、日々を生き残るべく、群れを形成している。そして、強者と弱者を見抜く眼力に長けており、弱者が強者から離れた瞬間、一気に襲撃する習性がある」
なるほど、オーキス達と行動していた時、唸り声だけが聞こえてきた。あれは、少し離れた位置から私達を様子見していたのか。私が単独で行動するのをじっと待っていたのね。
「3人で常に行動していれば、私も何とかできましたけど、単独でFランクの魔物達と立ち向かえるわけがないでしょう? そもそも、初めから塔を攻略させるのが目的なら、何故私だけが《最弱状態》からのスタートなのですか?」
「君の精神を試したのだ。地球の前世では研究者という立場上、頭のキレも素晴らしいと主人から聞いている。だから、3人でいる際の自分の立ち位置を逸早く理解し、3人で一致団結して攻略することを、我々は強く望んだ。また、君ならば単独行動に陥り、暗闇の中魔物に襲われたとしても、弱点を突くことで容易に撃退することも可能だと勝手に思い込んでいた。【魔物の集団行動】に関しては、完全に頭から抜けていた……すまない」
あのね、私の精神は大人かもしれないけど、身体は子供な!
地球の10歳児と同じレベルの状況下で、そんな芸当が容易に出来るわけないでしょうが!
「詳しくは、我が主人シエラに聞くといい。今通信を入れたから、君の仲間達と共にこちらへ来るだろう」
私だけ不合格なのだから、オーキス達に顔向けできないよ。
ええい、もうヤケだ!
シエラという女性に、とことん事情を追求してやる!
私を最弱にした事情も、他にあるはずだ!
洗いざらい吐いてもらおう!
暖かい。
身体がポカポカする。
「シャーロット…シャーロット」
誰かが、私を呼んでいる。
聞いたことのある声だ。
目を開けると、ミスラテル様が私の目の前にいた。
「ミスラテル様…ここは…」
全体が白い空間で覆われている。
いつも夢の中で呼ばれている場所だけど、何処か暖かい。
「よかった。ギリギリ、間に合ったようね」
間に合った?
どういう意味だろう?
「あなたは暗闇の中、多数の魔物に襲われ毒に侵された。魔物の追撃から逃れようと走り回ったことで、弱毒性の毒の浸潤速度が速くなり、身体全体を侵してしまったのよ。もう少し遅ければ、後遺症が残っていたでしょうね。【マックスヒール】の力でも、神経などの治療は術者次第で完全に治せない場合もあるのよ」
そうだ!
私が単独行動を起こした途端、魔物達が襲いかかってきたんだ。
そうか、私は毒に侵されていたんだ。
逃走するのに必死で、全く気づかなかった。
てっきり体力が尽きてしまい、倒れたとばかり思っていた。
「オーキスがあなたを助けたのよ」
オーキスが、死にかけている私を助けてくれたんだ!
あの状況下から、私を見つけ出せたんだね。
凄い…彼は頼もしい存在になりつつある。
「シャーロット、まずは心を落ち着かせましょう。順を追って説明します」
ミスラテル様に言われ、今の自分を再確認すると、まだ頭がボーッとしている。
ふ~、深呼吸、深呼吸だ。
「……大丈夫です。御説明をお願いします」
まずは、ミスラテル様が遺跡の主人と結託しているのかを問いたい。
「今回、私は一切関与していません。あなたが学園からハーゴンズパレスへ強制転移された瞬間、私はあなたを認識できなくなりました。正確に言えば、転移された12名を完全に見失ってしまったのです」
あの女は、神の目を欺けることも可能なの!?
「詳しくは、あなたを転移させた張本人に聞けばいいでしょう。私もついさっき聞いたばかりなので、非常に驚いています。一言で言うのなら、あのハーゴンズパレス遺跡のシステムや彼女自体が、ガーランドの残した【負の遺産】なのです」
遺跡のシステム自体や【あの女性】が負の遺産!?
あの人も、オトギさんと同じように何かされたのだろうか?
「今回、あなたは暗闇の中、最弱状態で複数の魔物に囲まれ襲われた。毒に侵された状態のまま必死に逃げ回ったことで、精神も限界以上に蝕まれたはず。もしかしたら、魂に歪みが生じているかもと思い、精神体をここへ呼び寄せました」
あの時、私は極限状態だった。暗闇、群がる魔物達、いつになったら解放されるのかわからない《不安》と《焦燥》、普段の私では絶対に体験できない出来事だ。
「幸い、オーキスの的確な判断のおかげもあり、魂も少し磨耗した程度で済みました。たとえ神であっても、魂の破損をすぐには治せません。破損していた場合、最低でも1年間、あなたは眠り続けることになる。身体を動かさない以上、ステータスも大幅に減衰します」
当然か、地球でも寝たきり状態が何年も続いてしまうと、子供の頃から鍛え続けてきた身体だって衰えてしまう。
目覚めたら、オーキスに御礼を言わないといけない。
彼が動かなければ、私は毒で死んでいたと思う。
彼は、私の【命の恩人】だ。
「シャーロット、《遺跡の主人》はあなたの味方です。私が保証しましょう。元々、彼女もあなたを死なせるつもりなどなかったのです」
保証すると言われても、私だけ散々な目に遭わされたのですが?
言い分次第では力を回復させた後、遺跡の主人だけでなく試験官達にもお仕置きを執行させたい。
「あなたの気持ちもわかりますが、彼女なりの理由があるのです。全ては、彼女から直接聞きなさい。聞いてもなお納得できないのなら、その時点で私があなたの力を解放させます」
ミスラテル様がそこまで言うとは……どんな理由が秘められているのだろうか?
「システム上、私が数秒程で世界最強になってしまったから、再び弱者にさせることで多くの経験を積ませようとしていた……という理由だけだったら、即座にお仕置きを執行しますからね」
私だって、これだけ酷い目に遭わせられたら、どうして弱体化させたのかくらいわかるよ。
でもね、これはやり過ぎだよ!
現に、オーキスがいなければ、私は確実に死んでいた!
ここまで酷い仕打ちを受けてきたのだから、そんな理由だけで私達を転移させたのなら、絶対に許せない。相手が神だろうがなんだろうが、絶対にお仕置きしてやる。
「………」
何故、黙るの!?
「一応、それも理由の1つです」
理由の1つ?
「今回の強制転移の件、発端はシャーロット、あなたです。アストレカ大陸へ帰還した後、国王達に話した内容、これこそが【発端】なのです」
国王陛下に話した内容の中に、原因があるの?
別段、おかしなことを言ってないけど?
「私が話せるのはここまで。残りは、本人に聞きなさい」
・私を弱体化させ、様々な経験を積ませること
・強制転移の発端は、2年前の私の発言にあること
明確な理由を知りたい。
ミスラテル様も納得しているのなら、それ相応の理由があるはずだ。
彼女の口から、全てを直接聞く。
「わかりました。目覚めた後、試験を再開して彼女との謁見を実現させてみせます!」
と言ったものの、正直言って………怖い。
私達の現在位置は塔2階、まだまだ序盤なんだよね。
今でも、あの時の光景が思い浮かんで、手足が震えてしまう。
きちんと冒険できるだろうか?
2人の足手まといにならないだろうか?
せめて、今のオーキスと同じくらいの力が欲しい。
このまま最弱状態で進むのは、またあの時のように……
「シャーロット、安心して。試験なら……もう終了しています」
え?
ミスラテル様は慈愛を込めた満面な笑みで、今なんと言った?
「魂が少し磨耗していたと言いましたよね?」
「はい、言いましたね」
何が言いたいのですか?
「あなたが倒れてから、丁度5日経過しています。既に試験も終了しており、結果も出ています」
は?
え…もう終わっているの?
嘘でしょ?
「あなた以外、全員合格です。ネルマ、フレヤ、オーキス、クロイス、トキワ、皆立派に目的を成し遂げ、強くなりましたよ」
え?
「私は?」
「《リタイヤ》ということで、不合格となりました」
えーーーー私だけが不合格!?
そんな~~~~こんな終わり方ってありなの~~~~!!!
「ただし、彼女との謁見は可能です。今回、あなたに課せられたハンデが、あまりにも厳しすぎました。仲間がいるとはいえ、地球の10歳児の力で塔の攻略は至難の技です。もっと言えば、あなたは全く悪くありません。あの女性があなたの精神を過大評価していたからこそ、今の事態に陥ったのだから」
過大評価って……
「そのお詫びとして、謁見は可能と?」
「はい」
……嬉しくない、嬉しくないよ。
私だけ不合格で謁見って、全然嬉しくないよ。
まさか、こんな不甲斐ない結果に終わるとは……なんか叫びたい気分になってきた。
「気持ちを切り替えましょう。今回の試験で、あの女性が何を言いたいのか、あなたは既にその一部を理解しています。私からすれば、【合格】に値しますよ」
ミラテル様が、優しく微笑んでくれた。
相変わらず、綺麗な女神様だよ。
ありがとうございます。
心が、少し軽くなりました。
「もう大丈夫そうね。シャーロット、あの子もガーランドの被害者よ。きちんと話し合いなさい」
白い暖かな光が、私を優しく包み込む。あの女性も、ガーランド様の被害者……それが何を意味するのか、心を落ち着かせて話を聞こう。
○○○
身体が、暖かい何かに覆われている。
薄らと目を開けると、目に飛び込んできたのは優しげに微笑むガーランド様と、彼と戯れる精霊様達だった。
《え?》と思い身を起こすと、私は天蓋付きのベッドにいて、さっき見たものは天蓋に描かれている絵であることをすぐに理解する。
「ここは……どこ?」
「どうやら、魂の磨耗も神により修復されたようだな」
聞き覚えのある声が聞こえるのだけど、姿が見えない。
「ここだ、視点をもう少し上にしろ」
視点を上?
言われた通り、少し上を向くと、直径30cmほどの水晶玉が悠然と空中に漂っている。
「あなたは?」
この声、転移される直前に聞いた音声と似ている。
「私はハーゴンズパレス遺跡のダンジョンコア、名はなかったが、シエラによって【コラムズ】と名付けられた」
ダンジョンコア!?
実物を見たことがなかったけど、水晶玉のような綺麗な球形なんだね。
ところで、シエラって誰?
あの女性のことかな?
「この度はすまなかった。12名を転移させたものの、シャーロットへのハンデだけが大きすぎた。シャーロットを塔2階の序盤で単独行動させたが、我々は急な計画変更もあって重要なことを見落としていたのだ」
コラムズというダンジョンコア、喋る時だけ小さく光が灯るのね。水晶玉のせいか、姿形からは誠意のある謝罪かわからないけど、声質から反省している…ような気もするけど、イマイチ信用できない。
「見落とし…ね。それは何ですか?」
「【魔物の習性】だ。弱くやや賢しいスカル動物系の魔物達はダンジョン内であっても、日々を生き残るべく、群れを形成している。そして、強者と弱者を見抜く眼力に長けており、弱者が強者から離れた瞬間、一気に襲撃する習性がある」
なるほど、オーキス達と行動していた時、唸り声だけが聞こえてきた。あれは、少し離れた位置から私達を様子見していたのか。私が単独で行動するのをじっと待っていたのね。
「3人で常に行動していれば、私も何とかできましたけど、単独でFランクの魔物達と立ち向かえるわけがないでしょう? そもそも、初めから塔を攻略させるのが目的なら、何故私だけが《最弱状態》からのスタートなのですか?」
「君の精神を試したのだ。地球の前世では研究者という立場上、頭のキレも素晴らしいと主人から聞いている。だから、3人でいる際の自分の立ち位置を逸早く理解し、3人で一致団結して攻略することを、我々は強く望んだ。また、君ならば単独行動に陥り、暗闇の中魔物に襲われたとしても、弱点を突くことで容易に撃退することも可能だと勝手に思い込んでいた。【魔物の集団行動】に関しては、完全に頭から抜けていた……すまない」
あのね、私の精神は大人かもしれないけど、身体は子供な!
地球の10歳児と同じレベルの状況下で、そんな芸当が容易に出来るわけないでしょうが!
「詳しくは、我が主人シエラに聞くといい。今通信を入れたから、君の仲間達と共にこちらへ来るだろう」
私だけ不合格なのだから、オーキス達に顔向けできないよ。
ええい、もうヤケだ!
シエラという女性に、とことん事情を追求してやる!
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