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22話 『忌む魔』との出会い
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私は、ギルドマスター・シンジェさんから紹介された『忌む魔』のお世話をやることに決めた。
ただ、お世話をするにあたって、ギルドではなく、私の住む家でやりたいと訴えたら、すぐに承諾してくれた。
このギルドには、2体の『忌む魔』がいる。
今回、私が直接2体に会って、どちらか相性の合う1体を引き受ける。緊張感が漂う中、私たちは敷地内にある別棟へと移動すると…。
「うわ! なんか、特有の臭いを感じる!」
急に、臭いが変化したせいで、つい思ったことを口にしてしまう。
「そうは言っても、嫌な表情をしないね?」
「そうですね。そこまで不快な臭いでもないので」
前世、動物が好きだったこともあり、猫や犬だけなく、色んな動物たちと触れ合っていたおかげで、この手の臭いには耐性がある。
「それは、好都合だよ」
中へと進むと、ここは小型用なのか、比較的小さな魔物たちがいっぱいいて、みんなが私を見て、興味津々になっている。みんな、大切に育てられているのか、野生味はなく、警戒心を少しだけ抱いているって感じかな。
てっきり牢屋に覆われているのかと思ったけど、100センチくらいの柵で区画されているだけで、基本開放状態のようだ。
「あいつは、一番奥にいるよ。もう1体と違って、いつまで経っても人や魔物に警戒心を緩めてくれないから、あの子には日々落ち着いてもらえるよう、ここと違い、完全な部屋として隔離しているのさ」
奥へと進むと、1枚の扉が見えてくる。
その扉のある区画へ案内されると、シンジェさんが動きを止めて、ノックをしてから、扉を開け入っていく。
私たちも中へと入ると、部屋の隅っこで震えている小型犬サイズの茶色い毛むくじゃらの何かが視界に入る。
形態から察するに、犬や猫といった四足歩行の魔物かな。
お風呂に入っていないからか、トリミングもされていないせいなのか、酷く汚れており、毛並みも悪く、毛も長くぼうぼうで、顔も見えにくい。あちこちに、毛の塊のようなものがあり、酷い有様だ。
「シンジェさん、あの子はスキルや魔法を使えるのに、どうして毛むくじゃらに?」
魔物にも、毛が伸びるタイプと伸びないタイプがいる。
この子は伸びるタイプのようだけど、伸びた分が絡まり、今では固まっているようだ。本来、こういった魔物は、自分のスキルや魔法で体毛を調節しているはずだ。
「この子は種族の特徴なのか、鑑定系スキルを受け付けない。軽く診察した上で言えるのは、魔力を殆ど持っていないことだね」
それって病気ってこと?
小さな魔物ちゃんが、こっちをじっと見ている。
「これは私の推測だけど、この子は生まれた時点で病気持ち、母親や仲間から力の扱い方を教わらないまま捨てられたんじゃないかね」
まだ小さいのに、この子は劣悪環境下で、誰の助けも借りることなく、身一つだけで生きてきたんだ。
「自分で体毛の調整が出来ないとなると、トリミングは?」
「やりたくても、小さなバリカンを見るだけで酷く怯えちゃって出来ないんだよ。以前、無理にやろうとしたら、相当ストレスを感じたのか、体が痙攣して、もう少しで殺すところだった」
前世では、トリマーがバリカンや鋏を使い、犬をトリミングするけど、その際、犬に怪我を与えないよう、トリミング中ずっと身体を安定的に保定させ、終始話しかけることで、犬に安心感を与える補助役のサポートが重要だとテレビで習った。
この子の場合、小さく毛むくじゃらのせいで、保定しにくいのかもしれない。
「とりあえず、あの子と話し合ってみます。名前は、何て言うのですか?」
「名前はないよ」
「え!?」
「こっちで付けても反応してくれないのさ」
名前がないとなると、コミュニケーションをとりにくい。
「なんとか、やってみます」
先行き不安な展開だ。
私自身、ある程度人に慣れた保護犬や保護猫と接したことはあるけど、ここまで怯えている子と話し合うのは初めてだ。
ルウリとフリードは、私から離れていく。
どうやら、何も言わず見守ってくれるようだ。
「こ…こんにちは。言葉、伝わっているかな?」
「……」
反応あるけど、伝わっているのかがわからない。
「私は、アヤナ」
『良い…匂い…』
早速、スキルの効果が現れたのか、怯え以外の感情が表に出始める。
「事情は、シンジェさんから聞いたよ。ねえ、貴方は何を望んでいるの? 私が何をすれば、貴方は私を信じてくれるかな?」
魔物はゆっくりと起き上がり、私のもとへ来て、クンクンと匂いを嗅いでくる。私が床へ座ると膝の上へ乗ってきて、何故かさっきとは異なる震えを見せて、私にしがみつく。
「え、どうしたの?」
『この匂い…懐かしい…君は僕の味方なの?』
懐かしい?
なんか、様子がおかしい。
急に身体を震わせたけど、どうしたのだろう?
とりあえず、まずは安心感を与えよう。
「そうだよ。私は貴方とお友達になりたいと思って、ここへ来たの」
『友達…うわああ~怖かった~~~』
ええ!?
いきなり泣き出して、離れてくれないんですけど!?
どう対応すれば正解?
とにかく、この子は1人でず~っと頑張ってきたのだから褒めてあげよう。
「ここまで1体だけで、よく頑張ったね。偉いよ」
『みんな、僕を《能無し魔物!》と言って虐めるんだ。魔物も精霊も人も、僕は生きてちゃいけない存在なんだ!』
能無しと聞いて、私の中に怒りが芽生える。
「そんな事ない! 私が協力して、貴方の特性を見つけてあげるから!」
『ほんと?』
不安そうな目で、私を見つめてくる。ずっと1人ぼっちだったから、頼れる仲間が欲しかったのかな。
そもそも、なんで私にだけ、こんな縋ってくるのか不思議だ。
私の知るアニマルセラピーと、何かが違う。
懐かしい匂いと言っていたけど、私の身体から出ている匂いって、一体何なの? 頭の中は大混乱だけど、それを外に出さないよう注意して会話しないと。
「うん。お姉ちゃんが、君の魅力を引き出してあげる。もう震えることはないの、安心して」
『うん…ありが…とう…zzz』
え…嘘でしょ?
私の膝の上で寝ちゃった。
ていうか、出会ったばかりの私の膝の上で、どうして寝られるの? シンジェさんを見ると、相当驚いているのか、口を開けっぱなしだ。
「驚いたね。まさか、いきなり懐くなんてさ。アヤナのスキルって何なのさ?」
「私も初めての現象なので、何故こうなったのかわかりません」
ルウリが、魔物の横へとやって来る。魔物の方は彼に気づくことなく、安らかな顔で眠っている。
いやいや、いきなり懐いて私の膝の上で眠るって、どう考えてもおかしい。
保護犬や保護猫でも、こうはならないよ。
「ふふふ、効果てき面だ」
「ルウリ、こうなった理由がわかるの?」
ルウリだけが、こうなった事情を知っているようだ。
これは聞き出さないとね!
ただ、お世話をするにあたって、ギルドではなく、私の住む家でやりたいと訴えたら、すぐに承諾してくれた。
このギルドには、2体の『忌む魔』がいる。
今回、私が直接2体に会って、どちらか相性の合う1体を引き受ける。緊張感が漂う中、私たちは敷地内にある別棟へと移動すると…。
「うわ! なんか、特有の臭いを感じる!」
急に、臭いが変化したせいで、つい思ったことを口にしてしまう。
「そうは言っても、嫌な表情をしないね?」
「そうですね。そこまで不快な臭いでもないので」
前世、動物が好きだったこともあり、猫や犬だけなく、色んな動物たちと触れ合っていたおかげで、この手の臭いには耐性がある。
「それは、好都合だよ」
中へと進むと、ここは小型用なのか、比較的小さな魔物たちがいっぱいいて、みんなが私を見て、興味津々になっている。みんな、大切に育てられているのか、野生味はなく、警戒心を少しだけ抱いているって感じかな。
てっきり牢屋に覆われているのかと思ったけど、100センチくらいの柵で区画されているだけで、基本開放状態のようだ。
「あいつは、一番奥にいるよ。もう1体と違って、いつまで経っても人や魔物に警戒心を緩めてくれないから、あの子には日々落ち着いてもらえるよう、ここと違い、完全な部屋として隔離しているのさ」
奥へと進むと、1枚の扉が見えてくる。
その扉のある区画へ案内されると、シンジェさんが動きを止めて、ノックをしてから、扉を開け入っていく。
私たちも中へと入ると、部屋の隅っこで震えている小型犬サイズの茶色い毛むくじゃらの何かが視界に入る。
形態から察するに、犬や猫といった四足歩行の魔物かな。
お風呂に入っていないからか、トリミングもされていないせいなのか、酷く汚れており、毛並みも悪く、毛も長くぼうぼうで、顔も見えにくい。あちこちに、毛の塊のようなものがあり、酷い有様だ。
「シンジェさん、あの子はスキルや魔法を使えるのに、どうして毛むくじゃらに?」
魔物にも、毛が伸びるタイプと伸びないタイプがいる。
この子は伸びるタイプのようだけど、伸びた分が絡まり、今では固まっているようだ。本来、こういった魔物は、自分のスキルや魔法で体毛を調節しているはずだ。
「この子は種族の特徴なのか、鑑定系スキルを受け付けない。軽く診察した上で言えるのは、魔力を殆ど持っていないことだね」
それって病気ってこと?
小さな魔物ちゃんが、こっちをじっと見ている。
「これは私の推測だけど、この子は生まれた時点で病気持ち、母親や仲間から力の扱い方を教わらないまま捨てられたんじゃないかね」
まだ小さいのに、この子は劣悪環境下で、誰の助けも借りることなく、身一つだけで生きてきたんだ。
「自分で体毛の調整が出来ないとなると、トリミングは?」
「やりたくても、小さなバリカンを見るだけで酷く怯えちゃって出来ないんだよ。以前、無理にやろうとしたら、相当ストレスを感じたのか、体が痙攣して、もう少しで殺すところだった」
前世では、トリマーがバリカンや鋏を使い、犬をトリミングするけど、その際、犬に怪我を与えないよう、トリミング中ずっと身体を安定的に保定させ、終始話しかけることで、犬に安心感を与える補助役のサポートが重要だとテレビで習った。
この子の場合、小さく毛むくじゃらのせいで、保定しにくいのかもしれない。
「とりあえず、あの子と話し合ってみます。名前は、何て言うのですか?」
「名前はないよ」
「え!?」
「こっちで付けても反応してくれないのさ」
名前がないとなると、コミュニケーションをとりにくい。
「なんとか、やってみます」
先行き不安な展開だ。
私自身、ある程度人に慣れた保護犬や保護猫と接したことはあるけど、ここまで怯えている子と話し合うのは初めてだ。
ルウリとフリードは、私から離れていく。
どうやら、何も言わず見守ってくれるようだ。
「こ…こんにちは。言葉、伝わっているかな?」
「……」
反応あるけど、伝わっているのかがわからない。
「私は、アヤナ」
『良い…匂い…』
早速、スキルの効果が現れたのか、怯え以外の感情が表に出始める。
「事情は、シンジェさんから聞いたよ。ねえ、貴方は何を望んでいるの? 私が何をすれば、貴方は私を信じてくれるかな?」
魔物はゆっくりと起き上がり、私のもとへ来て、クンクンと匂いを嗅いでくる。私が床へ座ると膝の上へ乗ってきて、何故かさっきとは異なる震えを見せて、私にしがみつく。
「え、どうしたの?」
『この匂い…懐かしい…君は僕の味方なの?』
懐かしい?
なんか、様子がおかしい。
急に身体を震わせたけど、どうしたのだろう?
とりあえず、まずは安心感を与えよう。
「そうだよ。私は貴方とお友達になりたいと思って、ここへ来たの」
『友達…うわああ~怖かった~~~』
ええ!?
いきなり泣き出して、離れてくれないんですけど!?
どう対応すれば正解?
とにかく、この子は1人でず~っと頑張ってきたのだから褒めてあげよう。
「ここまで1体だけで、よく頑張ったね。偉いよ」
『みんな、僕を《能無し魔物!》と言って虐めるんだ。魔物も精霊も人も、僕は生きてちゃいけない存在なんだ!』
能無しと聞いて、私の中に怒りが芽生える。
「そんな事ない! 私が協力して、貴方の特性を見つけてあげるから!」
『ほんと?』
不安そうな目で、私を見つめてくる。ずっと1人ぼっちだったから、頼れる仲間が欲しかったのかな。
そもそも、なんで私にだけ、こんな縋ってくるのか不思議だ。
私の知るアニマルセラピーと、何かが違う。
懐かしい匂いと言っていたけど、私の身体から出ている匂いって、一体何なの? 頭の中は大混乱だけど、それを外に出さないよう注意して会話しないと。
「うん。お姉ちゃんが、君の魅力を引き出してあげる。もう震えることはないの、安心して」
『うん…ありが…とう…zzz』
え…嘘でしょ?
私の膝の上で寝ちゃった。
ていうか、出会ったばかりの私の膝の上で、どうして寝られるの? シンジェさんを見ると、相当驚いているのか、口を開けっぱなしだ。
「驚いたね。まさか、いきなり懐くなんてさ。アヤナのスキルって何なのさ?」
「私も初めての現象なので、何故こうなったのかわかりません」
ルウリが、魔物の横へとやって来る。魔物の方は彼に気づくことなく、安らかな顔で眠っている。
いやいや、いきなり懐いて私の膝の上で眠るって、どう考えてもおかしい。
保護犬や保護猫でも、こうはならないよ。
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