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5章 猫の恩返し
50話 父から課せられた難題
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現世の家族の近況を知れたのは嬉しいのだけど、フェルデナンド伯爵の居所に関しては、アレスにも教えられない。ベイツさんによると、彼は全ての罪を告白し、現在領主様の邸にて監禁されている。全ての罪の調査に関しては、国王陛下を通じて、捜査も内密に進められているそうだし、全部明るみになるまでは絶対に悟られてはいけない。家族のことも聞けたし、次はアレス自身のことを聞いてみよう。
「アレス、あなたはリリアーナ……私に会うために、こんな遠い場所まで来たの?」
「当然さ。新聞で生きていることはわかったけど、やはり自分の目で君の姿を見ないと気がすまない。父には無理を言ってしまったせいで、この街でしかできない課題を出されてしまったけどね。リリアーナ……いや今の名前は、咲耶だったね。咲耶、改めて僕のお友達になってくれませんか?」
満面の笑みを浮かべ、右手を差し出すアレス。
この人は貴族だけど、フェルデナンド伯爵のような醜悪さがない。
この人となら、良い友人関係を築けそう。
「うん、いいよ。宜しくね」
私は、アレスと握手を交わす。それを見たベイツさんやルウリ、フリードも、優しげな笑みを浮かべ喜んでくれている。
「アレス、私はユウキと言う。君さえ良ければ、私の友達になってくれないか?」
そういえば、ユウキも子供に戻って以降、これまでの友人関係をリセットされたから、この街では私と一緒に友達作りに励んでいるわ。まだ、貴族のお友達は1人もいないけど、自分から言ってくるなんて……彼女もアレスのことを気に入ったのね。
「勿論、構わないさ。口調も、今のままでいいよ。よろしく、ユウキ」
「ああ、こちらこそ宜しく‼︎」
リリアーナの元婚約者で公爵令息、貴族なのに気さくで平民を見下すような仕草もない。こんな人も、いるのね。
○○○
私とユウキは、アレスと友人関係を築けた記念として、彼と護衛の男性ザフィルドさんに昼食をご馳走した。アレスだけは、私たちの…というより、私の作ったおかずに感動していたようで、口に入れると、始めはゆっくりと噛み締めながら味わっていき、途中からは涙目になりながら、パクパクと《美味い》《美味い》と言いながら食べていく。
公爵令息だから、もっと礼儀正しく食べるのかなと思ったけど、彼はその土地や食べる人々の身分に合わせて、食べ方を変えているようだ。今は、彼自身が平民と思うくらいの所作で、会話を楽しんでいる。全部食べ終え、片付けも終わったところで、私はアレスに問いかけてみる。
「さっき課題を出されたと言っていたけど、それってやっぱり貴族関係の難しい内容なの?」
アレスの顔色に、少しだけ影が走る。
「フォルナルト公爵家は、代々王の側近として、国の繁栄のために日々働いている。父は、王都内に点在する露店管理の責任者として任命されているのだけど、今大きな悩みを抱えているんだ」
「悩み?」
アレスが静かに頷く。
「飲食関係の露店で提供されているもの全てが、どれもありふれたものばかりで、いまいちパッとしない。その証拠に、ここ5年間の売上も横ばいで、今後発展する見込みもなさそうなんだ。父がその件で悩んでいる時に、僕が『リリアーナが生きていた‼︎ 今から会いに行ってくる‼︎』と言ったものだから、『許可を出す代わりに、一つ課題を与える。フードフェスタで、王都の民を刺激させ舞い上がらせるような美味なる食べ物を探してこい』と命令されたのさ」
うわあ~、アレスのお父さんにとって、《フードフェスタ》はうってつけの大イベントだよ。フェスタで出店されている露店の中から、王都の民を刺激させる美味なる食べ物を探し出さないといけないし、正解があるのかどうかも怪しい。アレスが、浮かない顔をするのもわかるわ。
「それって、かなりの難題だろ? どの露店も、美味いと思うぞ」
「ユウキの言う通りだね。だから、困っているのさ。とりあえず、フェスタが始まるまでは、あらゆる店に行って、この地で有名なものを食そうと思っているんだ」
「アレスの気にいる食べ物があったとしても、王都の民がそれを気にいるとは限らないわ。全ての世代に受け入れられるくらいのものじゃないと、多分あなたのお父さんも納得してくれないんじゃないかな?」
私の意見に、アレスは怒ることもなく、温かな微笑みを浮かべてくれた。
「そうだね。僕の父を納得させるとなると、まさに咲耶の言った通りの食べ物が必要となるね」
万人受けし、まだ世間に知れ渡っていないもの。
この世界には転生者もいるせいで、私の知る地球の食べ物が結構ある。アレスとお友達になれたのだから、課題の件で何か力になれることがあればいいけど。
『咲耶、これは念話だから声に出さないように』
あ、ルウリの声が突然聞こえてきた‼︎
『どうしたの?』
『アレスには、リリアーナの身に起きたことだけを伝えている。前世の咲耶関連の事は一切伝えていないから、《原点回帰》《異世界交流》《前世関係の経験談》を言ってはいけないよ』
『そうなの? わかったわ』
危なかった。
日本の食べ物のことを考えていたよ。
「アレスは、どんな食べ物に出会いたいの?」
「そうだな……一番の理想を言えば、比較的安価で気品があり、貴族にも認められるもの…かな?」
「そんな都合の良い料理があるか?」
「ユウキ、身も蓋もないことを言わないの。あくまで、アレスの理想なんだから」
この街に住み始めてから2ヶ月弱だけど、私も色々な料理を食してきた。それらの中で、貴族が気にいる平民の料理となると……今のところ一つもないわ。でも、前世で食べた物の中でなら、該当するものがいくつかあるけど、私はこの街でそれらを一度も見ていないわ。
「アレス、あなたの求める料理のジャンルは何なの?」
「ジャンルか……強いていうなら、デザート類かな。王都では、肉串などの焼き物やコロッケなどの揚げ物が定番になっているけど、それらの味を洗い流せるデザートが露店で販売されていない。僕としては、上品な佇まいの露店で、気品のあるデザートを食してみたい」
デザート類か、さっき思いついた料理なら、材料と調理器具さえ揃えば、自分で作れると思う。一度、光希に相談して、レシピを送ってもらおう。あとは、定食屋[ガブリ]に行って、アルドさんから許可をもらい、調理場で作ってみよう。ただ、たとえアレを調理できたとしても、アレスに披露するかは、皆と要相談だ。
「アレス、あなたはリリアーナ……私に会うために、こんな遠い場所まで来たの?」
「当然さ。新聞で生きていることはわかったけど、やはり自分の目で君の姿を見ないと気がすまない。父には無理を言ってしまったせいで、この街でしかできない課題を出されてしまったけどね。リリアーナ……いや今の名前は、咲耶だったね。咲耶、改めて僕のお友達になってくれませんか?」
満面の笑みを浮かべ、右手を差し出すアレス。
この人は貴族だけど、フェルデナンド伯爵のような醜悪さがない。
この人となら、良い友人関係を築けそう。
「うん、いいよ。宜しくね」
私は、アレスと握手を交わす。それを見たベイツさんやルウリ、フリードも、優しげな笑みを浮かべ喜んでくれている。
「アレス、私はユウキと言う。君さえ良ければ、私の友達になってくれないか?」
そういえば、ユウキも子供に戻って以降、これまでの友人関係をリセットされたから、この街では私と一緒に友達作りに励んでいるわ。まだ、貴族のお友達は1人もいないけど、自分から言ってくるなんて……彼女もアレスのことを気に入ったのね。
「勿論、構わないさ。口調も、今のままでいいよ。よろしく、ユウキ」
「ああ、こちらこそ宜しく‼︎」
リリアーナの元婚約者で公爵令息、貴族なのに気さくで平民を見下すような仕草もない。こんな人も、いるのね。
○○○
私とユウキは、アレスと友人関係を築けた記念として、彼と護衛の男性ザフィルドさんに昼食をご馳走した。アレスだけは、私たちの…というより、私の作ったおかずに感動していたようで、口に入れると、始めはゆっくりと噛み締めながら味わっていき、途中からは涙目になりながら、パクパクと《美味い》《美味い》と言いながら食べていく。
公爵令息だから、もっと礼儀正しく食べるのかなと思ったけど、彼はその土地や食べる人々の身分に合わせて、食べ方を変えているようだ。今は、彼自身が平民と思うくらいの所作で、会話を楽しんでいる。全部食べ終え、片付けも終わったところで、私はアレスに問いかけてみる。
「さっき課題を出されたと言っていたけど、それってやっぱり貴族関係の難しい内容なの?」
アレスの顔色に、少しだけ影が走る。
「フォルナルト公爵家は、代々王の側近として、国の繁栄のために日々働いている。父は、王都内に点在する露店管理の責任者として任命されているのだけど、今大きな悩みを抱えているんだ」
「悩み?」
アレスが静かに頷く。
「飲食関係の露店で提供されているもの全てが、どれもありふれたものばかりで、いまいちパッとしない。その証拠に、ここ5年間の売上も横ばいで、今後発展する見込みもなさそうなんだ。父がその件で悩んでいる時に、僕が『リリアーナが生きていた‼︎ 今から会いに行ってくる‼︎』と言ったものだから、『許可を出す代わりに、一つ課題を与える。フードフェスタで、王都の民を刺激させ舞い上がらせるような美味なる食べ物を探してこい』と命令されたのさ」
うわあ~、アレスのお父さんにとって、《フードフェスタ》はうってつけの大イベントだよ。フェスタで出店されている露店の中から、王都の民を刺激させる美味なる食べ物を探し出さないといけないし、正解があるのかどうかも怪しい。アレスが、浮かない顔をするのもわかるわ。
「それって、かなりの難題だろ? どの露店も、美味いと思うぞ」
「ユウキの言う通りだね。だから、困っているのさ。とりあえず、フェスタが始まるまでは、あらゆる店に行って、この地で有名なものを食そうと思っているんだ」
「アレスの気にいる食べ物があったとしても、王都の民がそれを気にいるとは限らないわ。全ての世代に受け入れられるくらいのものじゃないと、多分あなたのお父さんも納得してくれないんじゃないかな?」
私の意見に、アレスは怒ることもなく、温かな微笑みを浮かべてくれた。
「そうだね。僕の父を納得させるとなると、まさに咲耶の言った通りの食べ物が必要となるね」
万人受けし、まだ世間に知れ渡っていないもの。
この世界には転生者もいるせいで、私の知る地球の食べ物が結構ある。アレスとお友達になれたのだから、課題の件で何か力になれることがあればいいけど。
『咲耶、これは念話だから声に出さないように』
あ、ルウリの声が突然聞こえてきた‼︎
『どうしたの?』
『アレスには、リリアーナの身に起きたことだけを伝えている。前世の咲耶関連の事は一切伝えていないから、《原点回帰》《異世界交流》《前世関係の経験談》を言ってはいけないよ』
『そうなの? わかったわ』
危なかった。
日本の食べ物のことを考えていたよ。
「アレスは、どんな食べ物に出会いたいの?」
「そうだな……一番の理想を言えば、比較的安価で気品があり、貴族にも認められるもの…かな?」
「そんな都合の良い料理があるか?」
「ユウキ、身も蓋もないことを言わないの。あくまで、アレスの理想なんだから」
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「アレス、あなたの求める料理のジャンルは何なの?」
「ジャンルか……強いていうなら、デザート類かな。王都では、肉串などの焼き物やコロッケなどの揚げ物が定番になっているけど、それらの味を洗い流せるデザートが露店で販売されていない。僕としては、上品な佇まいの露店で、気品のあるデザートを食してみたい」
デザート類か、さっき思いついた料理なら、材料と調理器具さえ揃えば、自分で作れると思う。一度、光希に相談して、レシピを送ってもらおう。あとは、定食屋[ガブリ]に行って、アルドさんから許可をもらい、調理場で作ってみよう。ただ、たとえアレを調理できたとしても、アレスに披露するかは、皆と要相談だ。
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