10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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5章 猫の恩返し

49話 王都からのお客様

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アマンガムさんは私を経由して、猫カフェの選抜メンバーに立候補している猫たちの中から強いものだけを選出して、スパイをやらせる気のようだ。新規開発した餌類をご褒美にすれば飛びつくと思うけど大丈夫かな? アマンガムさん自身も大の猫好きだから、危ないことは避けてくれると思うけど、少し心配だな。あの後、私たちの訪れた目的を話すと、少しだけ難色を示した。

① 主催者となる商売ギルドへの出店申請
② 店の設置場所
③ 隣接する店への許可

そもそもお店の出店申請は1か月前に締め切られており、本来であれば、私たちは申請すらできない。でも、開催場所が大樹マナリオのいる公園で、私は巫女となっているため、その力を使えば申請できるとのこと。問題は、設置場所だ。私たちは猫と協力して動き回るので、隣接する飲食関係の場合、迷惑を掛けてしまう恐れがある。その許可さえ下りれば、私たちも出店可能となる。

アマンガムさん自身はかなり乗り気だったけど、実質4日前だから無理かもしれないとも言われたわ。

その時は諦めよう。

もう少しで家に到着するし、ベイツさんたちに、【スパイ】と【出店】の件を話しておこう。レストラン《クザン》の騒動もようやく終息して、建物も解体され、今は更地になっている。フェルデナンド家の方は、王都ではまだ騒がれているけど、リリアムの街では大樹の件もあって、完全に皆の頭から忘れ去られた。だから、ベイツさんも時間を作れるようになり、今日は終日オフと聞いている。

「咲耶……豪華な馬車が家に止まってるぞ」

本当だ。この辺りでは見かけないデザインの馬車が、ベイツさんの家の前に止まってる。

「貴族様が来ているのかな?」

貴族、私の現世の父のせいで、良いイメージが全くない。

「ベイツさん、ルウリ、フリードがいるから大丈夫だろうけど、用心して家に入ろう」

私はユウキの忠告に頷き、玄関の扉を開け中に入っていくと、リビングにはベイツさん、ルウリ、フリードだけでなく、見知らぬ2人のお客様がいた。

1人は私と同い年くらいの茶髪で気品のある男の子、かなり上質な服を着ているから、さっきの馬車から見ても、この子は絶対に貴族だ。

ガタッと椅子から急に立ち上がり、私と目が合った途端、王子様であるかのような慈愛の笑みを見せてくれたのだけど……彼が誰なのか全くもってわかりません。私が首をコテンと傾けると、この世の終わりであるかのような悲しい顔をして、床に崩れ落ちた。

もう1人は、20歳くらいの男性で、多分男の子の護衛騎士かな? 
あの子の隣にいるし、私たちへの警戒を緩めていないもの。

「あはは……その動作だけで、君が僕のことまで忘れているんだなと痛感したよ」

あ、この子はリリアーナの知り合いなんだ。
でも、悪い人じゃなさそう。

「あの…ごめんなさい。少しだけ記憶を思い出しているのだけど、家族のことしかわからないの。あなたは、どなたですか?」

この言い方でも、彼の心を傷つけているみたい。
顔を見るだけでわかる。

「僕は……君いや、リリアーナ・フェルデナンドの元婚約者、フォルナルト公爵家の長男、アレス・フォルナルトだよ」

「ええ!? リリアーナの婚約者~~~」

私の知り合いだと思ったけど、それは流石に想定していなかった。
リリアーナって、10歳で婚約者がいたんだ。
でも、そんな衝撃発言を受けても、心に全く響かない。
これって、記憶がないからだけなの?

「正確に言えば、《元》が付くね」

そういえば、リリアーナは除籍され追放されているから、今は平民になっているんだ。追放と同時に、彼との婚約も解消されたんだね。悪い人ではなさそうだけど、王都から遠く離れたこの地に何の用事で来たのだろう?


○○○


立ったままお話するのも失礼なので、私とユウキはソファーに座り、アレスはその対面に座った。護衛の男性はそのすぐ後ろに立ったままでいる。

「ユウキ、公爵って王族の次に偉いんだよね?」

「え…まあ、身分的にそうだな。基本は、王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順だ」

突然問いかけたせいで、ユウキを驚かせてしまったわ。

「それじゃあ、きちんと《アレス様》って……」
「やめてくれ」

話の途中で、アレスさんに拒絶されてしまった。

「僕とリリアーナは幼馴染の関係で、5歳の頃に知り合い、身分に関係なく、ずっと対等に話し合ってきた。頼むから、普段通りに話しかけてほしい」

相手は公爵令息なのに、タメ口でいいのかな?
本人の希望だし、普段通りの口調で話そう。

「わかったわ。アレスは、リリアーナの安否が気になったの?」

「当然さ。あの時、フェルデナンド伯爵は、私たちの邸に訪れ、こう告げた。『リリアーナは無能者だったので、こちらの都合で申し訳ないが除籍処分にした。既に、王都からも追放している。故に、婚約自体も無かったことにして頂きたい』」

公爵相手に、なんでそんな自分勝手な発言ができるの?
そもそも、自分の娘を悪く言えば、家の格だって下がると思う。
それだけフェルデナンド伯爵家の力が、強いってことなのかな?

「僕の父と伯爵は幼馴染で、8歳から関係が続いている。ただ、さすがに父もその発言に驚いて、怒気を露わにしていたよ。でもね、伯爵の容赦ない性格を熟知しているからこそ、最終的に婚約そのものが無かったことにされた。父も僕に対して、『リリアーナの存在自体を忘れろ。彼女は、もう死んでいる』とまで言われた」

フェルデナンド伯爵なら、自分の娘でも役立たずなら殺すと思われているんだ。実際、スムレット山に転移されて殺されそうになったもの。

「正直、その言葉で僕も諦めていたんだ。でも、リリアーナがいなくなって間もない時期に、フェルデナンド家の内乱によるお家騒動が起きて、トップの伯爵が行方不明になった。これは裏で何か起きていると踏み、その日以降、僕は毎日新聞を読み漁った。そうしたら、あんなデカデカと一面でここの大樹と君の写真が掲載されていたのだから驚いたよ」

あ~大樹の暴動騒動で、私もかなり注目されて写真もいっぱい撮られたから、その新聞が王都にも広まっていたのね。あれだけ騒がれたら、リリーアナ生存も知れ渡っちゃうよね。

「アレス、リリアーナが生存していたことで、騒いでいる人はいるのかな?」

「安心して。僕たちはまだデビュタントもしていないから、君の顔は貴族内でも広まっていない。だから、無能者で追放されたこと自体が、今の時点で広まっていない。伯爵家の人々も、身内の恥を自ら広めたりしないよ。ああ、僕は君が無能であることを気にしていない。無能者であっても、スキルが成人するまでに目覚めることを知っているからね」

デビュタントの意味が不明だけど、私の追放行為自体が知れ渡っていないのなら、一安心かな。

「爵位剥奪後、元フェルデナンド家の人々はどうなったの?」

「一言で言えば、罪として処罰される前に一家離散になった。君の母方の祖父母に関しては、伯爵家と無関係だから生存しているけど、父方の祖父母は、君の母親に殺された。その日のうちに、母親も使用人によって殺された。君の2人のお兄さんたちは生き残っている。幸い、あの2人は何の罪も犯していない。現在長男は騎士団の一兵卒として街の治安警備員として働いているし、次男は学園を自主退学して、冒険者になって生活しているよ」

伯爵の持つスキル《暗示》と《コントラクト》から解放されたことで、関係者たちの記憶が原因で、《怨恨》が生まれてしまい、何人かが人殺しに走ってしまったんだ。父方の祖父母と母は、多分私に暴力を振るっていた人たちだけど、そんな悲惨な最後を聞いてしまうと、気の毒に思えてしまう。兄2人は生存していて、スキルからも解放されているのなら、もう死ぬことはないよね。

「問題は騒動の張本人、フェルデナンド伯爵だけが行方不明なことさ。陛下は、何故か王家直属の治安騎士団を動かさない。にも関わらず、フェルデナン家の犯した罪が次々と明るみになり、関係者の捕縛は今でも続いている。王都に住む貴族の一部は、伯爵と内部告発者を躍起になって探している。この街を最後に、伯爵は姿を消しているから、《レストラン[クザン]の関係者に殺されているのでは?》というのが、世間の見解になっているんだよ」

内部告発者を探しているってことは、その人たちは何かしらの罪を犯しているんだ。だから、必死になって、内部告発者=伯爵を探している。その様子だと、ベイツさんたちからは何も聞いていないのね。

「内部告発者か、その人が見つからないことを祈っておくわ」

「僕も、君と同じ思いだ。おそらく、陛下は全てをご存じなんだ。だから、動かない」

アレスのおかげで、家族の近況を知れて良かった。
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