転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

31

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「遅かったな。」
「ごめんなさい。」
「いや、怒ってはないが。」

 私が頭を下げれば、メイカは困ったような顔をする。

「温泉に行かないと判断したのはお前だろう。」
「そうだが。」
「だったらとやかく言うな。」
「……。」

 アルファードの少しきつい物言いに、メイカは頬を引きつらせ、若干の怒りを滲ませる。

「アルファード。」
「……。」
「あんまりメイカを虐めないで。」
「……。」

 私が嗜めると、アルファードはそっぽを向く。

「もう。」
「……。」
「ごめんなさいね、メイカ。」
「このくらいは慣れています。」
「……慣れているって。」
「メイカっ!」

 メイカの言葉に私は思わずアルファードを見つめる。
 アルファードはメイカを怒鳴り、そして、慌てた様子で手を振る。

「してないからな。」
「本当に?」

 アルファードは私に関しては心が狭くなるので、その一点に関しては正直にいえば信用ならない。
 ジトリと睨んでいると彼は必死になる。

「ぷっ……くくく。」

 私と彼のやり取りの何が面白いのか、メイカが笑いをこらえきれなくなったのか笑い出す。

「メイカ、てめぇ…。」
「…もしかして私からかわれた?」
「違うっ!」
「違いますっ!」

 私の言葉に二人は噛みつくように否定の言葉を言う。

「なら、どういう事?」
「……。」
「……。」

 二人は顔を見合わせる。
 アルファードは余計な事を口にしたメイカを恨みがましく睨んでいる。
 一方メイカは涼しい顔でアルファードの視線は受けているが、私の質問に対しては苦い顔をしている。

「もう一人の自分だと分かっているから、多少言葉や態度が他人よりもきつくなってしまうんだ。」
「……。」
「つまり自分に甘えている?」
「「……。」」

 私は自分の言葉に確かに私もミナに甘えていたしな、と納得していたので、言われた彼らの反応に気づかなかった。

「それなら仕方ないわね。」
「「……。」」
「……?どうしたの?」
「いや…。」
「……なんでも、ありませんよ。」

 何かにショックを受けているような二人に私は何か変な事を言ったかと考えるが思いつくものはなかった。

「イザベラ様は気になさらないで下さい。」
「でも。」
「ああ、お前が心配するような事じゃないからな。」
「そう?」

 何となく私は釈然としなかったが、それでも、彼らが拒否するのならばこれ以上私が言う事はなかった。

「他の方々は?」
「一人以外は買い出しや鍛錬をしている。」
「……一人、誰と聞かなくても分かるな。」
「取り敢えず、支度をするように促してくるわね。」
「……そこまでしなくてもいいと思うが。」
「……。」
「でも、出発がこれ以上遅れるのはよくないわよね?」

 私の言葉に二人は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「ですが…。」
「そうかもしれないが…。」
「大丈夫よ、寝起きの悪かったマヒルに比べたら全然よ。」
「……あいつと比べる時点で全然安心できないんだがな。」

 額に手を当ててアルファードはため息を零す。

「ふふふ。」

 当時の事を思い出し、私は思わず声を出して笑ってしまう。
 寝坊するマヒルを起こす役目は私が二割、残りの八割が彼だった。
 だから、その苦労を知っている彼が心配するのは無理もない事だろう。

「それじゃ、私は彼女を起こしてくるわね。」

 私はそう言い残し、部屋に向かって歩き出す。
 扉を開けると、そこには布団の団子があった。

「起きているのですか?」
「……。」

 声をかけると無言だった。
 だけど、寝息は聞こえないので彼女は起きているだろう。
 何で起きないのか分からない。

「……。」

 彼女が何を考えているのか全然分からなかった。

「起きないのですか?」
「……起きたら、また……。」
「また?」
「…………………何でもない。」

 彼女が何を考えているのか本当に分からない。
 はじめのうちは嬉々としていたのに、最近はその表情は曇る事が多くなっていた。

 戸惑い。

 苦しむ姿はまるで、かつての自分のようで見ていられない。

 だけど、彼女は私と違い、手を貸すような人はいない。

 それは何処か哀れで。

 でも、私は彼女に手を貸す気がなかった。

 まだ、彼女は人の好意を受け入れる態勢を整えていないから。

 頑なに自分の殻にこもり、そして、耳をふさぐ彼女に私は手を貸す事はないだろう。

 無理やりはぎ取って真実を見せる事は救いになるのか、絶望の中に突き落とすのかは分からない。

 そして、それを背負うつもりはないのだ。

 だから、冷たいかもしれないけれど、私は彼女が自分から動かない限り何もする気はなかった。
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