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4話
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ロリエラ・マートル伯爵令嬢から言われたことがよく理解できなかったツィータードは、ロリエラの冷たい視線に負けず、その理由を訊くべきだった。
「失礼っ」
汚らわしいものでも見たようなロリエラに、話しかけることを躊躇ううちに帰られてしまい、その機会を逸してしまう。
「何か誤解があるようだな?」
それで済ませてしまったことをいつか後悔することになるとは思いもせずに。
ともあれマリエンザが帰ってしまったとわかると、帰りの馬車がないことに気づく。
「はあ、どうするかな」
同じ方向の友人に、乗せてもらえないか頼むかと車寄せに行ってみるが、ほとんど馬車が残っていない。
「ツィータード様!」
背後から呼ぶ声に振り向くとダーマが手を振っていた。
「どうされましたの?」
「うん、いつも乗せてもらっている馬車が出てしまったみたいで」
「まあ、では私の馬車でお送りいたしますわ」
ロリエラに言われたことの意味を誤解と過ごさず、受け止めていたらツィータードはこの馬車には乗らなかっただろう。
友人はもう誰もいなかったが、二人の噂を知るものが車寄せでエスカ家の馬車に乗り込むツィータードを見ていたのだ。
まことしやかに、ツィータードが婚約者を裏切ったという話が事実として広がり始めていた。
馬車の中ではダーマと楽しく歓談し、ドロレスト侯爵家でおろしてもらう。
「素敵な素晴らしいお屋敷ですわ、我が男爵家とは比べものになりません」
そこで礼を言ってダーマを帰すべきだったが。
ダーマのほめ言葉に
「そうかな?なんなら屋敷を案内しようか?」
ツィータードは余計な一言を漏らしてしまった。
「まあ!よろしいのですか?うれしいですわ」
ダーマは喜んで馬車からおりてきて、当たり前のように、ツィータードはエスコートの腕を差し出した。
深い思いはまったくなかったツィータードとは違い、ダーマは初めての侯爵家に目が眩んでいた。
ツィータードに婚約者がいることは知っているが、いつも楽しそうに自分の相手をしてくれる。今日はランチも自分を優先してくれ、今は屋敷をツィータードのエスコートで案内されているのだ。
─私を好いていらっしゃるのね!─
そう思ったダーマが悪いとは一概には言えないだろう。ツィータードが迂闊すぎた。
隅々まで素晴らしい屋敷と広大な庭園を案内され、ダーマの思いは募る。
やさしく美しいツィータードを自分のものにすれば、このすべても手に入るのだと。
思ってしまったのだ!
庭園の四阿で、送迎の礼にと茶と茶菓子を振る舞い、ダーマを馬車までエスコートして見送ったツィータードを、執事ロランが咎めた。
「ツィータード様、どういうおつもりですか?」
「ん?何がだ?」
「マリエンザ様という婚約者がいらっしゃるのに、他のご令嬢と二人きりで馬車に乗られ、さらにご自身自らエスコートして屋敷を案内されるなど」
「マリエンザに置いていかれたのを乗せてもらったのだ。礼くらいしてもおかしくないだろう?」
「おかしいから申し上げているのです!礼なら改めてお屋敷に礼状を出せば済みます。あれはダメです。もう二度とあのご令嬢をお屋敷に連れてきてはなりませんぞっ、絶対ですぞっ」
ツィータードは、ロランの考え過ぎだろうと軽く右から左に聞き流してしまったが。
のちに、自分の言動を思い起こし、あのときの自分を殴ってやりたいと思い出すいくつかの出来事の一つとなった。
「失礼っ」
汚らわしいものでも見たようなロリエラに、話しかけることを躊躇ううちに帰られてしまい、その機会を逸してしまう。
「何か誤解があるようだな?」
それで済ませてしまったことをいつか後悔することになるとは思いもせずに。
ともあれマリエンザが帰ってしまったとわかると、帰りの馬車がないことに気づく。
「はあ、どうするかな」
同じ方向の友人に、乗せてもらえないか頼むかと車寄せに行ってみるが、ほとんど馬車が残っていない。
「ツィータード様!」
背後から呼ぶ声に振り向くとダーマが手を振っていた。
「どうされましたの?」
「うん、いつも乗せてもらっている馬車が出てしまったみたいで」
「まあ、では私の馬車でお送りいたしますわ」
ロリエラに言われたことの意味を誤解と過ごさず、受け止めていたらツィータードはこの馬車には乗らなかっただろう。
友人はもう誰もいなかったが、二人の噂を知るものが車寄せでエスカ家の馬車に乗り込むツィータードを見ていたのだ。
まことしやかに、ツィータードが婚約者を裏切ったという話が事実として広がり始めていた。
馬車の中ではダーマと楽しく歓談し、ドロレスト侯爵家でおろしてもらう。
「素敵な素晴らしいお屋敷ですわ、我が男爵家とは比べものになりません」
そこで礼を言ってダーマを帰すべきだったが。
ダーマのほめ言葉に
「そうかな?なんなら屋敷を案内しようか?」
ツィータードは余計な一言を漏らしてしまった。
「まあ!よろしいのですか?うれしいですわ」
ダーマは喜んで馬車からおりてきて、当たり前のように、ツィータードはエスコートの腕を差し出した。
深い思いはまったくなかったツィータードとは違い、ダーマは初めての侯爵家に目が眩んでいた。
ツィータードに婚約者がいることは知っているが、いつも楽しそうに自分の相手をしてくれる。今日はランチも自分を優先してくれ、今は屋敷をツィータードのエスコートで案内されているのだ。
─私を好いていらっしゃるのね!─
そう思ったダーマが悪いとは一概には言えないだろう。ツィータードが迂闊すぎた。
隅々まで素晴らしい屋敷と広大な庭園を案内され、ダーマの思いは募る。
やさしく美しいツィータードを自分のものにすれば、このすべても手に入るのだと。
思ってしまったのだ!
庭園の四阿で、送迎の礼にと茶と茶菓子を振る舞い、ダーマを馬車までエスコートして見送ったツィータードを、執事ロランが咎めた。
「ツィータード様、どういうおつもりですか?」
「ん?何がだ?」
「マリエンザ様という婚約者がいらっしゃるのに、他のご令嬢と二人きりで馬車に乗られ、さらにご自身自らエスコートして屋敷を案内されるなど」
「マリエンザに置いていかれたのを乗せてもらったのだ。礼くらいしてもおかしくないだろう?」
「おかしいから申し上げているのです!礼なら改めてお屋敷に礼状を出せば済みます。あれはダメです。もう二度とあのご令嬢をお屋敷に連れてきてはなりませんぞっ、絶対ですぞっ」
ツィータードは、ロランの考え過ぎだろうと軽く右から左に聞き流してしまったが。
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