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10話
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朝、挨拶しながら続々と生徒たちが教室へやって来る。
「ツィータード様、おはようございます。昨日はお送りいただき、ありがとうございました。
我が家の庭園はお気に召していただけましたかしら?」
もちろん、まわりに聞こえるようにとダーマは大きな声でドヤったので、いつもなら些少なことはいちいち訂正しないツィータードも、さすがにイヤな顔を見せた。
「馬車の車輪が壊れて帰宅の足がないとなれば、私に限らず誰もが手を差し伸べるだろう。礼に見せていただいた庭園は素晴らしかったが、人として当たり前のことをしたまでだ」
誤解を晴らすよう、ツィータードもクラス中に聞こえるように朗々と話す。
教室にいた生徒たちは、肘を突きあい目配せをしている。誰の目にもわかりやすく、ダーマの顔が歪んでいたから。
(喧嘩でもした?それとも別れ話?)
クラスメイトたちの目が興味深く二人の様子を見守っている。
「いえ、母もツィータード様に改めてお礼を申し上げたいそうですの。まさか御来訪いただくわけには参りませんので、ぜひ私どもから御伺いしたいと言伝かって参りましたの」
「いや、それには及ばない」
さらりと断るツィータードの声に、ダーマの顔はさらに大きく歪んだ。
(ん?ダーマ嬢は・・・)
居合わせた生徒たちは。
ダーマとツィータードはその親も紹介するほどの仲だったのか!?という早とちりをした者。
侯爵家に男爵家の者が招かれてもいないのに「伺いたい」と言うなんてと違和感を感じた者。
はっきり2つに分かれた。
いままでは二人の恋の噂でもちきりだったが、新しく親を紹介したという噂が加わった。それを耳にしたダーマはほくそ笑んだが、もう一つ。
どうもツィータードは壊し屋ダーマにまとわりつかれているのでは?
という噂も流れ始めて、それがいずれツィータードを救うことになるとは、まだ誰も知らない。
ムリエルガ辺境伯家は、学院に在学する派閥貴族のこどもたちの協力を得てツィータードの噂の収集や事実の確認。
ドロレスト侯爵家は手の者を出してマリエンザが辺境伯領へ戻った理由を、それぞれに調査を開始した。
学生が勉強の片手間に調べるのとは違い、ドロレスト家の調査は素早く終わり、侯爵家へ戻った手勢からの報告を読んだメルマ夫人はわなわなと身を震わせて怒りを溜め込んでいる。
「ロラン!ロランっ!」
「はい、奥様こちらに控えております」
執事の腕に、バシッと音が立つほどの勢いで報告書を投げ渡し、
「このダーマ・エスカとは?ロランは知っていたの?」
そう詰問され、急いで目を通すと・・・
どうやらあのときにツィータードが連れてきた令嬢だと気がついた。
「は、はい。一度お屋敷に連れていらして、邸内や庭園を案内されていたので御注意を申し上げました」
心持ち青ざめた執事に、
「そう、そんなことがあったとは、この屋敷の女主人である私には報告がありませんでしたわね」
女主人の冷たい声にロランは深く項垂れる。
「も、申し訳ございません。ツィータード様は一度御注意申し上げればおわかりいただけると思ってしまいまして」
「ツィータードに迎えを出して。いえ、ロランが迎えに行ってちょうだい。早退させて構わないわ」
「はい」
メルマ夫人の見ただけで凍りつきそうな視線に耐えかね、小さな声でもう一度「はい」と答えると踵を返した。
ダーマに話しかけられることに嫌気が差してきたツィータードは、ひとりになりたくて昼も食べずに中庭の繁みに潜んで転がっていた。
「ツィータードさまぁ」
どこかでダーマが自分を呼ぶ声がする。
なぜ自分を探すのだろう?
食事をともにするためか?
なぜ婚約者でもないのに毎日ランチをともにするんだ?
今まで深く考えずにやっていたことのツケが回ってきただけだが、自分を呼ぶ声が近くなったり遠くなったりをくり返しながらいつまでも聞こえてくる、そのしつこさが彼女の母親を思い出させてイヤな気分にさせられた。
時計を見ると、そろそろ次の授業が始まる頃だ。しかたなく立ち上がり、声を避けながら教室に戻ろうとすると何故か廊下にロランが待っている。
「ツィータード様!お探ししておりました」
「なんだ?何かあったのか?」
「あ、あの、奥様がツィータード様にお帰り頂くようにとおっしゃられまして、お迎えにあがりました」
「母上が?まだ授業中だぞ?」
「は、はい。承知しておりますが、早退して帰宅されるよう」
話の途中でダーマが戻ってきた。
「ツィータードさまぁ!ここにいらしたのですね!お探ししたのにどちらにいらしたんですかあ?ランチご一緒できなかったじゃありませんかぁ」
執事服のロランに目もくれず、ツィータードの腕にその手を絡ませようとしたので、サッとロランが自分の身を滑り込ませてブロックする。
「ちょっと!あなた執事のくせに何様なの?」
ダーマはカッとしてロランを怒鳴りつける。
執事はツィータードにとって危険人物と認定したダーマに対しては不躾といわれようが引く気はない。
睨み合う二人にツィータードは戸惑いを隠せなかった。
「ツィータード様、おはようございます。昨日はお送りいただき、ありがとうございました。
我が家の庭園はお気に召していただけましたかしら?」
もちろん、まわりに聞こえるようにとダーマは大きな声でドヤったので、いつもなら些少なことはいちいち訂正しないツィータードも、さすがにイヤな顔を見せた。
「馬車の車輪が壊れて帰宅の足がないとなれば、私に限らず誰もが手を差し伸べるだろう。礼に見せていただいた庭園は素晴らしかったが、人として当たり前のことをしたまでだ」
誤解を晴らすよう、ツィータードもクラス中に聞こえるように朗々と話す。
教室にいた生徒たちは、肘を突きあい目配せをしている。誰の目にもわかりやすく、ダーマの顔が歪んでいたから。
(喧嘩でもした?それとも別れ話?)
クラスメイトたちの目が興味深く二人の様子を見守っている。
「いえ、母もツィータード様に改めてお礼を申し上げたいそうですの。まさか御来訪いただくわけには参りませんので、ぜひ私どもから御伺いしたいと言伝かって参りましたの」
「いや、それには及ばない」
さらりと断るツィータードの声に、ダーマの顔はさらに大きく歪んだ。
(ん?ダーマ嬢は・・・)
居合わせた生徒たちは。
ダーマとツィータードはその親も紹介するほどの仲だったのか!?という早とちりをした者。
侯爵家に男爵家の者が招かれてもいないのに「伺いたい」と言うなんてと違和感を感じた者。
はっきり2つに分かれた。
いままでは二人の恋の噂でもちきりだったが、新しく親を紹介したという噂が加わった。それを耳にしたダーマはほくそ笑んだが、もう一つ。
どうもツィータードは壊し屋ダーマにまとわりつかれているのでは?
という噂も流れ始めて、それがいずれツィータードを救うことになるとは、まだ誰も知らない。
ムリエルガ辺境伯家は、学院に在学する派閥貴族のこどもたちの協力を得てツィータードの噂の収集や事実の確認。
ドロレスト侯爵家は手の者を出してマリエンザが辺境伯領へ戻った理由を、それぞれに調査を開始した。
学生が勉強の片手間に調べるのとは違い、ドロレスト家の調査は素早く終わり、侯爵家へ戻った手勢からの報告を読んだメルマ夫人はわなわなと身を震わせて怒りを溜め込んでいる。
「ロラン!ロランっ!」
「はい、奥様こちらに控えております」
執事の腕に、バシッと音が立つほどの勢いで報告書を投げ渡し、
「このダーマ・エスカとは?ロランは知っていたの?」
そう詰問され、急いで目を通すと・・・
どうやらあのときにツィータードが連れてきた令嬢だと気がついた。
「は、はい。一度お屋敷に連れていらして、邸内や庭園を案内されていたので御注意を申し上げました」
心持ち青ざめた執事に、
「そう、そんなことがあったとは、この屋敷の女主人である私には報告がありませんでしたわね」
女主人の冷たい声にロランは深く項垂れる。
「も、申し訳ございません。ツィータード様は一度御注意申し上げればおわかりいただけると思ってしまいまして」
「ツィータードに迎えを出して。いえ、ロランが迎えに行ってちょうだい。早退させて構わないわ」
「はい」
メルマ夫人の見ただけで凍りつきそうな視線に耐えかね、小さな声でもう一度「はい」と答えると踵を返した。
ダーマに話しかけられることに嫌気が差してきたツィータードは、ひとりになりたくて昼も食べずに中庭の繁みに潜んで転がっていた。
「ツィータードさまぁ」
どこかでダーマが自分を呼ぶ声がする。
なぜ自分を探すのだろう?
食事をともにするためか?
なぜ婚約者でもないのに毎日ランチをともにするんだ?
今まで深く考えずにやっていたことのツケが回ってきただけだが、自分を呼ぶ声が近くなったり遠くなったりをくり返しながらいつまでも聞こえてくる、そのしつこさが彼女の母親を思い出させてイヤな気分にさせられた。
時計を見ると、そろそろ次の授業が始まる頃だ。しかたなく立ち上がり、声を避けながら教室に戻ろうとすると何故か廊下にロランが待っている。
「ツィータード様!お探ししておりました」
「なんだ?何かあったのか?」
「あ、あの、奥様がツィータード様にお帰り頂くようにとおっしゃられまして、お迎えにあがりました」
「母上が?まだ授業中だぞ?」
「は、はい。承知しておりますが、早退して帰宅されるよう」
話の途中でダーマが戻ってきた。
「ツィータードさまぁ!ここにいらしたのですね!お探ししたのにどちらにいらしたんですかあ?ランチご一緒できなかったじゃありませんかぁ」
執事服のロランに目もくれず、ツィータードの腕にその手を絡ませようとしたので、サッとロランが自分の身を滑り込ませてブロックする。
「ちょっと!あなた執事のくせに何様なの?」
ダーマはカッとしてロランを怒鳴りつける。
執事はツィータードにとって危険人物と認定したダーマに対しては不躾といわれようが引く気はない。
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