【完結】その令嬢は、鬼神と呼ばれて微笑んだ

やまぐちこはる

文字の大きさ
23 / 41

23話

しおりを挟む
「まあ、メルマ様の言うこと聞いたほうがいいと思う。ツィータード様が休んでいた間、エスカ嬢ヤバかったんだよホント」
「ヤバかったって?」
「なんか妄想すごいっていうかだな。僕やロズは事情知ってるから余計、あいつヤバいって思って近寄らないようにしてたくらいだ」

 もっと詳しく聞きたかったが、ノックの音が響いて。
 扉を開けるとマリエンザと、隣りに大きな包みを手にしたロズが立っていた。

「これはメルマ様が持たせてくださったお弁当です」

 ロズが包みを開くと、蓋のついた入れ物が四つ。

「購買や食堂に行くと、アレに絡まれるかもしれないからと、これから毎日持たせてくださるそうです」
「まあ!メルマ様にそこまでしていただくなんて悪いわ」
「いや、マリエンザ様。これくらいしてもまだ足りないくらいかもしれませんよ?注意しすぎて困ることはありませんから」

 ロズはよほどダーマを警戒しているようだ。

「なあ、あとでダーマ嬢が何をやらかしたのか教えてくれ」

 好奇心に負けたツィータードは、ニヤっと笑った。


 そのあとロズとオーリスの十数日間をまとめた話しは、めまいがしそうなものだった。

「とにかく、来る日も来る日もツィータード様が攫われた!自分との真実の愛を邪魔するムリエルガ様に!って言うわけだ」
「そうそう、かわいそうなツィータード様、私が助けて支えてあげなくてはぁぁっ!」
「本当に、背筋冷たくなるほど気持ち悪かったな」

 こんな話しを延々とし終えると、二人は一緒に肩をすくめた。

「うーん。そこまでいくと、もしかしたらマリが狙われるかもしれないな」
「私なら大丈夫よ。狙われても自分の身は自分で守れるわ」

 その言葉に驚いたように、ロズが

「甘く見てはダメダメ」

とマリエンザを諌めている。


 マリエンザはそのへんの令息より遥かに強い・・・というか、もしかしたら学院の武術の先生より強いかもしれないとツィータードは思っている、が、だからといってこんな妄想膨らませたイカれた者と対峙しても大丈夫だとは思わない。


「そうだよマリ。相手はちょっと常軌を逸しているんだ。警戒して足りないことはない。おとなしく私に守らせて」

 ─マリより弱いけど、気持ちだけはね─

 そう、言葉に秘めた思いを込めた。
 マリエンザも、私強いから大丈夫とはさすがに言わない。

 ─守られるって素敵─

 ありがたくツィータードの言葉に甘えることにした。
 学内には当たり前だが弓は持ち込めない。まあこんなに近い距離にいる相手にはそもそも弓では役に立たないので、護身用に投擲用のミニナイフを数本持ち歩いている。だがせっかくの気持ちなので、それも秘密にしておくことにした。

 その日以降、四人のランチは時々リリやツィータードの幼馴染コリドーなども交えて、楽しく過ごしている。

 その分ダーマの怒りは溜め込まれていった。

 午前の授業が終わり、すぐツィータードに声をかけようとするのにいつも誰かしらに声をかけられて、気づくとどこかに消えてしまうのだ。
 最近は朝も帰りも男子生徒たちと行動をともにしていて、話しかける隙もない。

「誰かが私の邪魔をしている!」

 誰か。
 そう、ダーマをよく思わないのはマリエンザしかいない。きっとあの伯爵令嬢が男子生徒に金でも掴ませてツィータードに近づけないようにしているんだ!

 まあまあ近い。
ダーマをよく思わず、ロズたちに金を掴ませたのは、ツィータードの母メルマだが。

 クラスが違うこともあり、メルマはマリエンザにまでは護衛を手配していなかった。さすがに学院内でそこまでいってしまうとは思わなかったからだ。
 しかしツィータードが危惧したように、一向に思うようにいかないダーマの怒りは、ある日からマリエンザへと向けられた。

 マリエンザが教室から出ると視線を感じる。
休み時間になるとすぐ、ダーマが見張りにいくからだ。
リリやロリエラが怖がるほど、強い視線で睨んでいるが、マリエンザは無視を決め込んでいる。

 そのうち、教師たちがダーマの行動を問題視するようになった。
 一度注意をしたが、ただそこに偶然立っていたと居直られてしまう。何事も起こしていないうちはそれ以上の注意が難しく、それでも、一種異様な様相に教師たちも監視を怠らないようにし、どうしたものかと頭を悩ませていた。


 マリエンザとツィータードはますます仲睦まじく、試験までは同じ家庭教師に教えてもらっていることもあり、常にともにいる。
 ダーマはマリエンザの隙を探し続けた。

 三日間の考課試験の最終日。

「マリ、試験はどうだった?」
「休んだ割にはできたほうだと思うわ」
「私もだな」

 ツィータードは、へらりと笑ったが。

「本当?」

 疑いの目を向けると、ハハっと笑って

「ちょっとヤバいのが無くはない」

 そう白状した。

 試験が終わると採点のために三日間休みになり、結果発表後に学内のパーティーが催されるのが慣例だ。

「休みはどうする?」
「一日は、リリたちとお茶会をする予定よ」
「じゃあ、二日間は遠乗りでも行かないか?」
「二日間?」
「あっ、ちゃんと夕方には帰ってくるやつだ」

 マリエンザは、二日もかかるところに行きたいのかと訊いたつもりだが、ツィータードは違う意味に気づいて焦って言い直した。

「いいわ、でも三日のうち二日私でいいの?コリドー様たちと過ごしたいなら」
「いや、マリと一緒がいいよ」

 二人で休みの予定を話しながら馬車に乗り込むのを、ダーマがじっと見つめていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...