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第2章
第40話 悪い種
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話は数ヶ月遡る。
ソイスト侯爵家の令嬢ミイヤは、招かれたターナル伯爵家の茶会に着いたところだった。
ターナル伯爵夫人は現国王第二夫人キャロラの妹で、その子どもらは第三王子トローザーの従兄弟に当たる。
初めてミイヤがターナル伯爵家の茶会に呼ばれたのは今から2年前13歳の頃だ。ミイヤだけが招かれたのではなく、元の招待はユートリーでミイヤはついでだった。
金髪に草色の瞳を持つ美しいユートリーは、華やかな金糸の刺繍が施されたアフタヌーンドレスを纏い、皆の注目を一心に集めて。
ミイヤはというと平凡な栗毛の髪に黒みがかった茶色い瞳で、顔立ちは整ってはいるが特別秀でた容貌ではない。しかしリラとユートリーがミイヤの良さを引き立てるよう心を配った最高級の薄桃色のシフォンワンピースを着て美しく装っていた。
美しい姉と可愛らしい妹だと居合わせた貴族たちを微笑ませたが、ミイヤはそれでは満足できなかった。どれほどソイスト一家がミイヤを大切に可愛がっても、高価な衣装を買い与えてもミイヤが満足することはなかったのだ。
ミイヤが両親を亡くし、ソイスト侯爵家に引き取られたのは七歳の頃。
亡くなった父カーチスが常々ミイヤに言い聞かせていたことがある。
「ミイヤ、良く聞きなさい。本当なら私がソイスト侯爵になるはずだったのだ!先代侯爵だった父上は兄を廃嫡して私を当主に据えるおつもりだった。だというのにマーカスが卑怯な手を使い、兄より優秀な私をチスト子爵家に婿に出して侯爵になった。本当ならあの屋敷も領地も資産もすべて私のものだった。おまえだってソイスト侯爵令嬢だったはずだ。私からすべてを奪ったあの家族を私は絶対に許さない。おまえも許してはならないぞ、いつか必ずすべてを取り返してやるからな」
カーチスは確かに優秀ではあった。
しかし独善的で、優秀故に傲慢だった。
マーカスとカーチスの父であった先代侯爵はその資質を見抜き、カーチスほどではなかったが、侯爵として、領主として、十分に優れた人格者の長男マーカスを順当に嫡子としただけだったが、何をどう誤解したのか、カーチスは兄を逆恨みし続けながら子爵となり、事故に遭って亡くなった。
ソイスト侯爵家に引き取られたとき、だからミイヤは父の願いを叶えるチャンスがやってきたのだと、齢七つにしてほくそ笑んだのだ。
しかし七歳のこどもには何もできることはなかった。
できたのはソイスト侯爵たちに当たり前のように高価なものを買わせるくらい。
気持ちを切り替えて、自らが侯爵家当主となるための方法を、屋敷の図書室に入り浸って虎視眈々と探し始める。
その姿をマーカスとリラは、勤勉で優秀な我が娘と諸手を挙げて褒め称えたが、カーチスの恨みや妬み嫉みを詰め込まれて育ったミイヤは、ソイスト家にとって悪意しかない。いつか侯爵一家の鼻をあかしてやると仄暗い思いを腹の中に隠していた。
来たる日のために知識と力を蓄えようと励んでいたミイヤを、徹底的に歪めることが起きた。
ユートリーとナイジェルス王子の婚約である。
美しい第二王子が幼い頃から想いを寄せていたユートリーの手を取り、臣籍降下して公爵になると発表したのは3年前のこと。
ナイジェルスに憧れていたミイヤは、またもユートリーに奪われたと恨みを募らせた。
ナイジェルスのそばに寄り、どれほど熱心に見つめ、話しかけてもユートリーの妹としてしか扱われない。ナイジェルスが姉を選んだことで淡い思慕は吹き飛び、ナイジェルスをも憎むようになった。
そして、そのナイジェルスと結婚したらユートリーが公爵夫人になることも許せなかった。
仮にソイスト侯爵家を奪い返したとしても、公爵より格下だ。ユートリーが自分より上位になることも幸せになることも、ミイヤは何もかもが許せなかった。
そんなミイヤの視線に気づいた者がただ一人。
「ねえご令嬢、貴女のお名前を教えてくれませんか?」
ソイスト侯爵家の令嬢ミイヤは、招かれたターナル伯爵家の茶会に着いたところだった。
ターナル伯爵夫人は現国王第二夫人キャロラの妹で、その子どもらは第三王子トローザーの従兄弟に当たる。
初めてミイヤがターナル伯爵家の茶会に呼ばれたのは今から2年前13歳の頃だ。ミイヤだけが招かれたのではなく、元の招待はユートリーでミイヤはついでだった。
金髪に草色の瞳を持つ美しいユートリーは、華やかな金糸の刺繍が施されたアフタヌーンドレスを纏い、皆の注目を一心に集めて。
ミイヤはというと平凡な栗毛の髪に黒みがかった茶色い瞳で、顔立ちは整ってはいるが特別秀でた容貌ではない。しかしリラとユートリーがミイヤの良さを引き立てるよう心を配った最高級の薄桃色のシフォンワンピースを着て美しく装っていた。
美しい姉と可愛らしい妹だと居合わせた貴族たちを微笑ませたが、ミイヤはそれでは満足できなかった。どれほどソイスト一家がミイヤを大切に可愛がっても、高価な衣装を買い与えてもミイヤが満足することはなかったのだ。
ミイヤが両親を亡くし、ソイスト侯爵家に引き取られたのは七歳の頃。
亡くなった父カーチスが常々ミイヤに言い聞かせていたことがある。
「ミイヤ、良く聞きなさい。本当なら私がソイスト侯爵になるはずだったのだ!先代侯爵だった父上は兄を廃嫡して私を当主に据えるおつもりだった。だというのにマーカスが卑怯な手を使い、兄より優秀な私をチスト子爵家に婿に出して侯爵になった。本当ならあの屋敷も領地も資産もすべて私のものだった。おまえだってソイスト侯爵令嬢だったはずだ。私からすべてを奪ったあの家族を私は絶対に許さない。おまえも許してはならないぞ、いつか必ずすべてを取り返してやるからな」
カーチスは確かに優秀ではあった。
しかし独善的で、優秀故に傲慢だった。
マーカスとカーチスの父であった先代侯爵はその資質を見抜き、カーチスほどではなかったが、侯爵として、領主として、十分に優れた人格者の長男マーカスを順当に嫡子としただけだったが、何をどう誤解したのか、カーチスは兄を逆恨みし続けながら子爵となり、事故に遭って亡くなった。
ソイスト侯爵家に引き取られたとき、だからミイヤは父の願いを叶えるチャンスがやってきたのだと、齢七つにしてほくそ笑んだのだ。
しかし七歳のこどもには何もできることはなかった。
できたのはソイスト侯爵たちに当たり前のように高価なものを買わせるくらい。
気持ちを切り替えて、自らが侯爵家当主となるための方法を、屋敷の図書室に入り浸って虎視眈々と探し始める。
その姿をマーカスとリラは、勤勉で優秀な我が娘と諸手を挙げて褒め称えたが、カーチスの恨みや妬み嫉みを詰め込まれて育ったミイヤは、ソイスト家にとって悪意しかない。いつか侯爵一家の鼻をあかしてやると仄暗い思いを腹の中に隠していた。
来たる日のために知識と力を蓄えようと励んでいたミイヤを、徹底的に歪めることが起きた。
ユートリーとナイジェルス王子の婚約である。
美しい第二王子が幼い頃から想いを寄せていたユートリーの手を取り、臣籍降下して公爵になると発表したのは3年前のこと。
ナイジェルスに憧れていたミイヤは、またもユートリーに奪われたと恨みを募らせた。
ナイジェルスのそばに寄り、どれほど熱心に見つめ、話しかけてもユートリーの妹としてしか扱われない。ナイジェルスが姉を選んだことで淡い思慕は吹き飛び、ナイジェルスをも憎むようになった。
そして、そのナイジェルスと結婚したらユートリーが公爵夫人になることも許せなかった。
仮にソイスト侯爵家を奪い返したとしても、公爵より格下だ。ユートリーが自分より上位になることも幸せになることも、ミイヤは何もかもが許せなかった。
そんなミイヤの視線に気づいた者がただ一人。
「ねえご令嬢、貴女のお名前を教えてくれませんか?」
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