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第1章
第39話 棺の中のお姉様
スチューに連れられたミイヤが、この数日どれほど頼んでもテコでも入れてもらえなかったユートリーの部屋へ足を踏み入れると、まだ消毒薬の鼻にツンとくる匂いが色濃く残っていて、病人がいた痕跡を感じることができた。
ベッドの手前に真っ白な棺が置かれている。
顔のところにガラスを嵌め込んだ小さな窓があるので覗き込むと、瞼を閉じた白過ぎる顔は、もう何日も食事を摂れなかったために頬がこけ窶れて、眉間に皺を寄せている。長い睫毛が窪んだ目の下にさらに深い影を落とし、苦しんで亡くなった様が見て取れた。
「お、おね・・・さま」
棺に手をついて俯くとミイヤは肩を小さく震わせる。
ぐすっぐすっと鼻を鳴らす音がして、ミイヤは泣いているふりをするが。
─女狐めが、もう二度と騙されんぞ─
蝋人形のユートリーを遺体だと思い込み、笑いを堪えているミイヤを憎々しく睨みつけるスチューを見て、タラがまわりのメイドたちに声をかけた。
「ミイヤ様とユートリー様を少しの間だけでもおふたりにして差し上げたいのですが」
皆で目配せのあと、続々と部屋を出る。
動こうとしないスチューをタラが部屋から押し出した。
棺の小窓をこじ開けることは道具がなければできない。既に蓋を打ち付けてあるので、開けてユートリーの遺体を確認することもできないのだから、ふたり・・・いやひとりと人形だけにしても大丈夫と考えた。
それに床下にはちゃんと監視の者が潜んでいる。
誰もいなくなった部屋で、ユートリーの顔をまじまじと見つめるミイヤは、ご機嫌でユートリーに話しかけた。
「ざまあないわね、おね・・ユートリー。
それにしてもマベルとかいう医者もほっんとヤブで笑っちゃったわ!何が感染するかもしれない!よ。毒で倒れたのに伝染るわけないじゃない。まあでもおかげで解毒薬飲ませるとか言われなかったからいいけど。
ああ、これでやっと!トローザー殿下と結婚できるわ。そうしたらお父様から侯爵の座を奪った忌々しいマーカスとリラ、サルジャンはそうねえ。殿下にお願いしてお姉様の、あ、ユートリーのところに送って差し上げるから寂しくないと思うわ。
ところで葬儀はいつと言っていたかしら、いっそやらなくてもいいくらいなのにね。こんな萎れて醜い顔、誰にも見せたくないでしょう?ふふふ。
そうだ、こうしてはいられないわ。殿下に早くお知らせしなくっちゃ!何しろ殿下に頂いた薬のおかげですもの。きっと喜んでくださるわね。
残りはお返し・・はしなくても、どこかにしまっておく?捨てるほうがいいかしら?」
そこまで機嫌よく一人語らっていたが、急に沈んだ声に変わる。
「・・・万一にもそんなことないと思うけど、もし殿下の気持ちが変わるようなことがあったら・・・。これはトローザー殿下からの指示という証拠なんだから、見つからないように隠しておかないと」
床下に隠れて様子を窺っていた者が思わず息を呑みこんだが、ミイヤは見下ろすようにユートリーを見つめてくふふと笑う。
誰かが床下でそば耳を立てて聞いているなどとはこれっぽっちも思わずに。
ベッドの手前に真っ白な棺が置かれている。
顔のところにガラスを嵌め込んだ小さな窓があるので覗き込むと、瞼を閉じた白過ぎる顔は、もう何日も食事を摂れなかったために頬がこけ窶れて、眉間に皺を寄せている。長い睫毛が窪んだ目の下にさらに深い影を落とし、苦しんで亡くなった様が見て取れた。
「お、おね・・・さま」
棺に手をついて俯くとミイヤは肩を小さく震わせる。
ぐすっぐすっと鼻を鳴らす音がして、ミイヤは泣いているふりをするが。
─女狐めが、もう二度と騙されんぞ─
蝋人形のユートリーを遺体だと思い込み、笑いを堪えているミイヤを憎々しく睨みつけるスチューを見て、タラがまわりのメイドたちに声をかけた。
「ミイヤ様とユートリー様を少しの間だけでもおふたりにして差し上げたいのですが」
皆で目配せのあと、続々と部屋を出る。
動こうとしないスチューをタラが部屋から押し出した。
棺の小窓をこじ開けることは道具がなければできない。既に蓋を打ち付けてあるので、開けてユートリーの遺体を確認することもできないのだから、ふたり・・・いやひとりと人形だけにしても大丈夫と考えた。
それに床下にはちゃんと監視の者が潜んでいる。
誰もいなくなった部屋で、ユートリーの顔をまじまじと見つめるミイヤは、ご機嫌でユートリーに話しかけた。
「ざまあないわね、おね・・ユートリー。
それにしてもマベルとかいう医者もほっんとヤブで笑っちゃったわ!何が感染するかもしれない!よ。毒で倒れたのに伝染るわけないじゃない。まあでもおかげで解毒薬飲ませるとか言われなかったからいいけど。
ああ、これでやっと!トローザー殿下と結婚できるわ。そうしたらお父様から侯爵の座を奪った忌々しいマーカスとリラ、サルジャンはそうねえ。殿下にお願いしてお姉様の、あ、ユートリーのところに送って差し上げるから寂しくないと思うわ。
ところで葬儀はいつと言っていたかしら、いっそやらなくてもいいくらいなのにね。こんな萎れて醜い顔、誰にも見せたくないでしょう?ふふふ。
そうだ、こうしてはいられないわ。殿下に早くお知らせしなくっちゃ!何しろ殿下に頂いた薬のおかげですもの。きっと喜んでくださるわね。
残りはお返し・・はしなくても、どこかにしまっておく?捨てるほうがいいかしら?」
そこまで機嫌よく一人語らっていたが、急に沈んだ声に変わる。
「・・・万一にもそんなことないと思うけど、もし殿下の気持ちが変わるようなことがあったら・・・。これはトローザー殿下からの指示という証拠なんだから、見つからないように隠しておかないと」
床下に隠れて様子を窺っていた者が思わず息を呑みこんだが、ミイヤは見下ろすようにユートリーを見つめてくふふと笑う。
誰かが床下でそば耳を立てて聞いているなどとはこれっぽっちも思わずに。
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