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第1章
第38話 執事は怒る
「奥様はどうなさったのですか?」
リラの専属侍女たちが執事スチューに訊ねている。
「悲しみのあまり、御心が不安定になられてしまったのだ。マベル様の助言で今屋敷を離れ、別邸にておやすみになられている。ここではつらすぎるだろう?落ち着かれたらお戻りになるし、別邸にも人がいるから君らもそれまでは休んでいるといい。葬儀の準備が始まったら慌ただしくなるぞ。そういえば、ミイヤ様はまだお戻りにならないのか?」
「ええ、遅くなられるとは仰っておいでのようでしたが、ことが事ですから使いを出しましょうか?」
スチューは少し考えるふりをして。
「いや、じきに戻られるだろう。行き違いになると厄介だからこのまま待とう」
そうして、マーカスとサルジャンの待つ屋敷にミイヤが戻ったのは、日も落ち、夕餉も下げた頃。
「ミイヤ様っ!こんなに遅くどちらまで」
「え?茶会に行くと言っておいたでしょ」
「お帰りをお待ちしていたのです!ユートリー様がっ」
スチューの切羽詰まった声に、ミイヤは足を止めた。
「お姉様がどうなさったの?ま、まさか」
「はい・・・、た、高みに上られて」
「え!そんなお姉様がっ・・」
その時スチューは見てしまった。
俯いたミイヤの口元が、僅かに上がったのを。
─公爵家に仇なす害虫めが─
スチューにとってもつい数日前までは可愛らしいお嬢様だったミイヤだが、今は駆除すべき害虫と成り果てている。
─必ず罪を暴いてやる─
この件で執事にできることは限られているが。
親を亡くしたこどもを引き取り、今まで育ててきた心優しき主一家を裏切っただけでなく、命まで奪おうとするミイヤを何としても地獄に突き落とす!強い決意を瞳に込めたが、しかしそんな素振りは少しも見せない。
「奥様はショックからお心を崩されて、今は別邸で休まれていらっしゃいますが、ミイヤ様は大丈夫ですか?」
「い、いえ。私も休んだほうがよさそうよ・・悲しくて、とても立っていられそうにないわ」
よろけてみせたミイヤを、いつもなら誰よりも早く支えるスチューだが、そんな気はこれっぽっちも起きなかった。
代わりに背後にいたメイドが慌てて支えたので、咎めるようにスチューを睨んだミイヤ。
「スチューっ!」
「は?あ、失礼致しました。私もショックを受けておるようです」
信じられないことにミイヤはフンと鼻を鳴らした、とても不満そうに。
「そう、じゃあさっさと下がりなさいよ。その前に葬儀の日程を教えなさい」
さっきまでの悲しそうな、弱々しい口ぶりの演技を忘れてしまったようだ。
ミイヤは計画がうまくいったと知り、警戒心が薄れていた。
「その前にユートリー様のお顔を」
「え?ええそうね。お別れも言わなくっちゃ!」
ミイヤの言葉は、まるで楽しみにしていた買い物にでも出かけるかのように弾んだ声で、事情を知らずにスチューと出迎えに並んだメイドたちがぎょっとしている。
もちろん誰も何も口にはしないが、明らかに使用人たちもミイヤの異変に気がつき始めていた。
リラの専属侍女たちが執事スチューに訊ねている。
「悲しみのあまり、御心が不安定になられてしまったのだ。マベル様の助言で今屋敷を離れ、別邸にておやすみになられている。ここではつらすぎるだろう?落ち着かれたらお戻りになるし、別邸にも人がいるから君らもそれまでは休んでいるといい。葬儀の準備が始まったら慌ただしくなるぞ。そういえば、ミイヤ様はまだお戻りにならないのか?」
「ええ、遅くなられるとは仰っておいでのようでしたが、ことが事ですから使いを出しましょうか?」
スチューは少し考えるふりをして。
「いや、じきに戻られるだろう。行き違いになると厄介だからこのまま待とう」
そうして、マーカスとサルジャンの待つ屋敷にミイヤが戻ったのは、日も落ち、夕餉も下げた頃。
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「え?茶会に行くと言っておいたでしょ」
「お帰りをお待ちしていたのです!ユートリー様がっ」
スチューの切羽詰まった声に、ミイヤは足を止めた。
「お姉様がどうなさったの?ま、まさか」
「はい・・・、た、高みに上られて」
「え!そんなお姉様がっ・・」
その時スチューは見てしまった。
俯いたミイヤの口元が、僅かに上がったのを。
─公爵家に仇なす害虫めが─
スチューにとってもつい数日前までは可愛らしいお嬢様だったミイヤだが、今は駆除すべき害虫と成り果てている。
─必ず罪を暴いてやる─
この件で執事にできることは限られているが。
親を亡くしたこどもを引き取り、今まで育ててきた心優しき主一家を裏切っただけでなく、命まで奪おうとするミイヤを何としても地獄に突き落とす!強い決意を瞳に込めたが、しかしそんな素振りは少しも見せない。
「奥様はショックからお心を崩されて、今は別邸で休まれていらっしゃいますが、ミイヤ様は大丈夫ですか?」
「い、いえ。私も休んだほうがよさそうよ・・悲しくて、とても立っていられそうにないわ」
よろけてみせたミイヤを、いつもなら誰よりも早く支えるスチューだが、そんな気はこれっぽっちも起きなかった。
代わりに背後にいたメイドが慌てて支えたので、咎めるようにスチューを睨んだミイヤ。
「スチューっ!」
「は?あ、失礼致しました。私もショックを受けておるようです」
信じられないことにミイヤはフンと鼻を鳴らした、とても不満そうに。
「そう、じゃあさっさと下がりなさいよ。その前に葬儀の日程を教えなさい」
さっきまでの悲しそうな、弱々しい口ぶりの演技を忘れてしまったようだ。
ミイヤは計画がうまくいったと知り、警戒心が薄れていた。
「その前にユートリー様のお顔を」
「え?ええそうね。お別れも言わなくっちゃ!」
ミイヤの言葉は、まるで楽しみにしていた買い物にでも出かけるかのように弾んだ声で、事情を知らずにスチューと出迎えに並んだメイドたちがぎょっとしている。
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