【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

文字の大きさ
25 / 80
第1章

第25話 ナイジェルスとサルジャン2

しおりを挟む
「ナイジェルス殿下を襲った者は、では身元などは?」
「一応川に捨てる前に剥いでおいた物があるんだ」

 ナイジェルスのそばに控える侍従メンデが巾着を持ってきて、テーブルに二つの装飾品を並べ始めた。

 貴族に仕える者は、必ずその証となる物を持ち歩く。紋章をネックレスにしたりベルト取付型にしたり、指輪であったりと家ごとに様々だが、身分を証明するためにそれを手放すことはなく、万一紛失したら大変な咎を負うこともある。

「あ、これは!」
「そうなのだよ、この紋章は」

 それはターナル伯爵家のもので、伯爵夫人はキャロラ妃の妹だ。

「ということはやはりキャロラ妃とトローザー王子が」
「まあ順当なところだな」

 呆れたようにナイジェルスは肩を竦める。

「しかし、王子の暗殺にこんな物を携帯して行くとはずいぶんと迂闊な者ですね」
「倒した者の中で、ふたりだけだったがな阿呆は。まさかあれだけの人数で返り討ちになるなど考えもしなかったのだろうな。
こちらは王国中の手練を集めた護衛だというのに、侮られたものだ。」

 ナイジェルス自身も剣術に優れているが、護衛たちはまさに精鋭と呼ばれるに相応しい者が揃っている。
今回は長期の視察に備えて特別に、ゴールダインが地方にいた騎士団分隊長なども呼び寄せた。それが集まったのが出発直前だったので、敵にその編隊を知られなかったことも勝利に繋がったのだろう。

「そういえば殿下の護衛に被害はなかったのですか?」
「ああ、私の手の者が斬られ、川に落ちてしまった。それ以外は手持ちの薬で応急処置を済ませることができたが」
「でははぐれたのはその者だけですか?」

ナイジェルスは悲しそうに眉尻を下げたが。

「その方は無事に救出されましたよ、彼のおかげで襲撃されたことが
わかったのです」

それを聞いたナイジェルスが喜んだのなんの。

「無事だったのか?生きていた!よかった!」

いつまでもくり返しているので、サルジャンが先を促す。

「まず怪我人は医師にみせましょう」

 ナイジェルス到着の際、サルジャンも一行を出迎えたのだが、後続の者も含め護衛たちは皆元気いっぱいで、怪我人がいるようには見えなかった。
 そう言ったサルジャンに、ナイジェルスがくすりと笑った。

「ビブがマーカスの書状を持ち帰るまでは疲労で瀕死のようだったが、気力というのは凄いものだよ。手が差し伸べられるとわかったら急に元気が出たんだ、私もな」

 思い出したようにまた少し微笑みを見せ、表情を引き締めて続けた。

「ミイヤ嬢と弟やキャロラ妃との繋がりは掴めているのか?」
「まだぼんやりしています。が、キャロラ妃の離宮での茶会とターナル伯爵家の茶会、これらにミイヤが頻繁に呼ばれていると外出記録から確認が取れておりますし。
あっ!そういえばかなり前・・・そうですね、ちょうど殿下とトリーが婚約した頃か、ミイヤがトローザー殿下に王宮の庭を案内されたと自慢していたことがありましたが」
「ほう、それは珍しいことだな」
「そうなのですか?ミイヤはそれっきりトローザー殿下のお名前を出すことはなかったので忘れておりましたが」

 ナイジェルスは暫し物思いに沈んでいたが、メンデに紙とペンを出させると手紙を書き始めた。

「サルジャン、これを兄上に届けてくれ。ミイヤ嬢の離宮の入宮記録と、離宮の茶会での言動を調べるように書いてある」

 もちろんソイスト侯爵が直接ゴールダイン王子に頼んでもよいが、この状況で城中で話をするのは危険極まりない。
 ナイジェルス捜索の報告書を定期的に提出しているので、書状を混ぜて渡すほうがより安全だ。

「それではすぐに父上に」
「あ、待ってくれ。トリーにも手紙を書きたい」

 その名を口にしたナイジェルスは、その時初めて緊張が解けたように、頬を赤らめ微笑んだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...