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第1章
第26話 光明
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ユートリーが倒れたふりを始めてから三日目。
ちなみにナイジェルスがソイスト侯爵家別邸に匿われた当日とも言うが。
今ユートリーの部屋にはマベル医師が定めた者以外は入ることができないし、扉も護衛で固めている。
しかし、万一ユートリーが室内を歩いている時に、誰かがうっかり扉を開けて中を覗かれたりしたら計画すべてがダメになってしまう。そのために極力ユートリーはベッドに横になって過ごしていた。
「タラぁ、ひまなの、どうしたらいいかしら」
倒れて動けないふりは、想像以上に暇だった。ベッドでいやいやをするこどものように、ゴロンゴロンと寝返りを打ち続け、時間を潰してみるが、それもすぐ飽きる。
「でもどうもしようがございません。そうだ!タラが本でも読んで差し上げましょうか?」
「ここにあるものはみんな読んじゃったじゃない。図書室で取ってきてくれる?」
忠実な侍女が困った顔をする。
タラも迂闊に部屋から出ることができない。ミイヤに捕まって聞かれても困るからだ。
「それじゃあ・・・」
今度は何を頼もうかとユートリーが考え始めたところだった。
コツコツ
床下から音とともにエルジェの声がする。
「サルジャン様がいらっしゃいました」
ユートリーの部屋に入れないことになっているサルジャンは、床下からやって来た。
そうだ!とユートリーはすぐベッドに仰向けに寝そべり、片目を閉じるとタラが濡れ布巾を額に乗せる。
「あれ?トリー寝ているのか?」
「ユートリー様はお目覚めにならないどころか、少し呼吸が浅くなり始めておいでです!」
横たわるユートリーを見て訊ねたサルジャンに、鬼気迫る声でそう言ったタラはエヘっと笑った。
「タラぁ、おまえ女優になれるのではないか?」
「それよりお兄様、お出かけされていらしたのでしょう?」
「ああ。ほら見ろ!」
サルジャンから渡されたのはナイジェルスの手紙だ。
「あっ!」
声を漏らしたかと思うと慌てて右手で口を塞ぎ、左手で握りしめた手紙の宛名をうれしそうに見つめ続けた。
ぽろりと涙が零れ落ちる。
「本当にご無事でしたのね、よかった!これでまだ、死にそうなふりを頑張れますわ!」
急いで封を切り読み進めていくと、ユートリーの顔は赤くなったり青くなったりと変化が激しく、感情がわかりやすい。
読み終えて視線を上げると表情を硬くしている。
「お兄様」
やさしい妹が背筋を伸ばして毅然と言い放った。
「私と殿下は、家族が・・・そうお母様が例え許してやれと仰られても、ミイヤたちを許すことは致しませんわ絶対。絶対に!」
「ああ、もちろん私も父上も右に同じだよ。少なくとも私の中では、あれは既に家族ではない」
そう言ってユートリーに頷いてみせた。
「お母様は・・・」
「うーん、たぶん大丈夫だろう。おまえが倒れて以来、体調が悪いようで部屋に籠もりがちだが、私たちよりミイヤのほうが大切なんて言う訳がないからな」
「そうね。お母様がお気の毒だけれど、でも本当のことを知ったら、お父様の仰るとおりにすぐミイヤに知られてしまうでしょうから」
「うーん。真実を知らずに悲しい思いをされていることは確かに気の毒だが、すべてを知ったら、可愛がっていた分怒りは凄まじいかもしれないな。
まああれだ。なるべく早く、一日でも、半刻でも早く解決して、また家族で笑いあいたいものだよ」
そう言ったサルジャンの頭に浮かんだ家族の中に、ミイヤはいなかった。
ちなみにナイジェルスがソイスト侯爵家別邸に匿われた当日とも言うが。
今ユートリーの部屋にはマベル医師が定めた者以外は入ることができないし、扉も護衛で固めている。
しかし、万一ユートリーが室内を歩いている時に、誰かがうっかり扉を開けて中を覗かれたりしたら計画すべてがダメになってしまう。そのために極力ユートリーはベッドに横になって過ごしていた。
「タラぁ、ひまなの、どうしたらいいかしら」
倒れて動けないふりは、想像以上に暇だった。ベッドでいやいやをするこどものように、ゴロンゴロンと寝返りを打ち続け、時間を潰してみるが、それもすぐ飽きる。
「でもどうもしようがございません。そうだ!タラが本でも読んで差し上げましょうか?」
「ここにあるものはみんな読んじゃったじゃない。図書室で取ってきてくれる?」
忠実な侍女が困った顔をする。
タラも迂闊に部屋から出ることができない。ミイヤに捕まって聞かれても困るからだ。
「それじゃあ・・・」
今度は何を頼もうかとユートリーが考え始めたところだった。
コツコツ
床下から音とともにエルジェの声がする。
「サルジャン様がいらっしゃいました」
ユートリーの部屋に入れないことになっているサルジャンは、床下からやって来た。
そうだ!とユートリーはすぐベッドに仰向けに寝そべり、片目を閉じるとタラが濡れ布巾を額に乗せる。
「あれ?トリー寝ているのか?」
「ユートリー様はお目覚めにならないどころか、少し呼吸が浅くなり始めておいでです!」
横たわるユートリーを見て訊ねたサルジャンに、鬼気迫る声でそう言ったタラはエヘっと笑った。
「タラぁ、おまえ女優になれるのではないか?」
「それよりお兄様、お出かけされていらしたのでしょう?」
「ああ。ほら見ろ!」
サルジャンから渡されたのはナイジェルスの手紙だ。
「あっ!」
声を漏らしたかと思うと慌てて右手で口を塞ぎ、左手で握りしめた手紙の宛名をうれしそうに見つめ続けた。
ぽろりと涙が零れ落ちる。
「本当にご無事でしたのね、よかった!これでまだ、死にそうなふりを頑張れますわ!」
急いで封を切り読み進めていくと、ユートリーの顔は赤くなったり青くなったりと変化が激しく、感情がわかりやすい。
読み終えて視線を上げると表情を硬くしている。
「お兄様」
やさしい妹が背筋を伸ばして毅然と言い放った。
「私と殿下は、家族が・・・そうお母様が例え許してやれと仰られても、ミイヤたちを許すことは致しませんわ絶対。絶対に!」
「ああ、もちろん私も父上も右に同じだよ。少なくとも私の中では、あれは既に家族ではない」
そう言ってユートリーに頷いてみせた。
「お母様は・・・」
「うーん、たぶん大丈夫だろう。おまえが倒れて以来、体調が悪いようで部屋に籠もりがちだが、私たちよりミイヤのほうが大切なんて言う訳がないからな」
「そうね。お母様がお気の毒だけれど、でも本当のことを知ったら、お父様の仰るとおりにすぐミイヤに知られてしまうでしょうから」
「うーん。真実を知らずに悲しい思いをされていることは確かに気の毒だが、すべてを知ったら、可愛がっていた分怒りは凄まじいかもしれないな。
まああれだ。なるべく早く、一日でも、半刻でも早く解決して、また家族で笑いあいたいものだよ」
そう言ったサルジャンの頭に浮かんだ家族の中に、ミイヤはいなかった。
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